自分を愛し、自分が愛する恋人。
心の底から楽しいと思える日々。
ずっと背負っていたものから解放され、彼女は焦がれていた全てをその手に入れた。
幸せだった。
―――――――彼女の後ろ髪を引く、『それ』さえが無ければ。
【Alphys】
「―――――Alphys、Alphys!」
「へっ!?」
自分の名前を呼ばれる声に、ハッと我に返る。声がした隣を見ると、皆のヒーローであり、私の恋人であるUndyneが此方を見ていた。
「次はどれを見るんだ!?」
「え………次……?」
彼女の言葉に思わずそう返すと、Undyneは小首を傾げた。
「え? だってもう終わったしな」
「えっ」
テレビの方を見れば、先程まで見ていたアニメ映画のスタッフロールが流れている。どうやら、私がぼうっとしている間に終わってしまったみたいだった。
「いやー、Alphysの言ってたとおり、本当に泣ける映画だったな! 特に、あの最後に主人公の飼い犬が………」
感情豊かな彼女はやっぱりこれを見て泣いてしまったのか、少し目元を赤くしながら、それでもいつものように笑顔で映画の感想を話し出す。所々共感できる所に「わかる」と返したりしていると、ふと、Undyneがこう言った。
「………FriskとCharaもくれば良かったのになぁ」
ぽつり、と、何気無く呟かれたこの場には居ない我らが親善大使の名前に、思わず肩が跳ねた。
………実を言えば、今日は本来、地上にあるUndyneの家に集まって四人でぐだぐだとお菓子を食べたり、映画をみたりしようと約束していた日だった。だけど、突然二人に親善大使としての仕事が入ってしまった、と今朝電話があって、Undyneと二人っきりになってしまった。どうしても抜けられない大事な仕事らしく、ごめん、と何回も謝るFriskの、電話越しの疲労感が滲む声はとても申し訳なさそうだった。
「そうね………。でも、二人が親善大使として私達モンスターと人間を繋いでいてくれたからこそ、私達はこんな風に人間の映画を見たり、働いたりできるんだから、我が儘は言えないわよ」
一度傍にあったリモコンでテレビの電源を落として、Undyneと会話する。
「そうなんだけどなー……あいつら、ちょっとぐらい休んだっていいんじゃないのか? 私はあれはどう見ても働き過ぎだと思うんだが。なんだっけ、あの、わー……わー……」
「……
「あぁ、それそれ」
単語を思い出せず、言葉に詰まったUndyneに、話の流れからしてこれかな、と思った単語を投げ掛ける。どうやら口に出したそれで合っていたらしく、彼女は勢い良く頷いた。
「それになってるような気がするんだよなー。Charaも勿論だが、特にFriskの方が。何か……こう………上手く言葉にできないんだが、自分を追い詰め過ぎというか……いや違うな、仕事に逃げてるというか………」
うーん、と自分が言いたいことに相当する上手い言葉が見付からないのか、首を捻って考え込むUndyneを他所に、私は自己嫌悪で彼女から視線を逸らし、床を見る。
――――『会えなくて良かった』と思っているだなんて、純粋に二人を案じる彼女に言える訳が無かった。
……いや、厳密に言えば私も会いたいし、二人を労ったり、お菓子を食べてゴロゴロしながらアニメを見たかった。
でも、それ以上に……二月前のMettatonとの話が、私の中に残り続けて消えてくれなかった。
結局あの後、私はMettatonの問いには答えられずに、黙り込んでしまった。付き合いの長いMettatonは私が一旦黙ってしまったらもう切っ掛けがない限り答えられない事を分かっていて。少しした後、『もういいよ』と言って手を離して話を切り上げ、眠りについてしまった。
それ以来、もうその話自体していなかったかのように話していないのに……どうしても、私の中に残っていた。
「…………―――Alphys」
ふと、優しい声に現実に引き戻される。ハッとして顔を上げ、Undyneの方を見ようとした時、いつの間にか握り締めていた手に、水掻きのついた美しい青い手が優しく乗せられた。
「えっ……!? ど、どうしたのUndyne……?」
触れあうひんやりとした体温に思わず声が裏返った。その手の持ち主であるUndyneの方を見れば、真剣な瞳で此方を射抜かれ、どきんとソウルが跳ねる。
「どうしたの、じゃないだろう。………また、何か考え込んでるな」
疑問系ではなく確信を持った言い方で、Undyneはすっと目を細め、そう言った。
「えっ、あ………」
思わずその目から目を逸らしてしまうと、はぁ、という息を吐く音がする。そして、
「わっ、ひゃっ!?」
突然手が引かれ、つられて体が倒れる。ぽす、という音ともに、体が少し低い温度に包まれる。背中に回されたものと、魚のような匂いが鼻を擽って、そこでやっと、Undyneに抱き締められているのだと気が付いた。
「え、えっえっ!? 何を……」
抱き締められているのを自覚した瞬間、顔に熱が集まっていく。慌ててどうしようかと思考を巡らせていると、背中に回っていたひんやりとしたものが、頭に乗った。そのままそれが、スライドするように動く。……つまりは、彼女は私を撫で始めた。
「あ、ああああ、Undyne!?」
「Alphys」
キャパオーバーしかかっている頭の上から、彼女の低い声が降ってくる。
「………なぁ、Alphys……話してくれないのか……?」
その声が、何処か悲し気な色を含んでいるのに気がついて、ずき、とソウルが痛んだ。
「あたし、そんなに頼りないかな……?」
「! い、いいえ! そんなことはないわ!」
思ってもいない事を言い出したUndyneの言葉を、咄嗟に否定する。
「じゃあ、なんでなんだ?」
「………そ、それは………」
続けて追求してくるUndyneの言葉に、思わず吃ってしまう。
「………だ、だって……話したら、きっと……幻滅しちゃうわ」
私が何とかそう言うと、はぁ、とまた空気を吐き出す音がした。
「あのなぁ、Alphys。あたし達は恋人なんだぞ? あたしはな、例えどんなAlphysでも好きだし……あ、愛してるんだぞ」
『愛してる』
耳を刺激したその言葉に、また顔が熱くなるのを感じた。
「………だからさ、Alphys……お願いだから話してくれ。もう二度と……お前に何かを抱え込んでほしくないんだ」
その言葉に、Undyneに自分の罪を打ち明けた時の事を思い出した。
そんな事を隠してたのかって驚かれて、それでも好きでいてくれると約束してくれた、あの日。
―――――信じて、いいんだろうか。
本当に、嫌いにならないでいてくれるのか。
私の中に未だに渦巻くその考えを……まず、口に出してみることにする。
あの日、Papyrusに言われた『不安はまず素直に口にする』ということを、実行してみる。
「……本当に……本当に、嫌いにならない?」
「あぁ、勿論だ」
どうするべきか分からなかった両腕をUndyneの背中に回し、抱き付いてそう問うと、Undyneは迷わず即答してくれた。
その返答一つで安心してしまう私は、とんでもなくチョロいんだと思う。
「…………あのね、Undyne………私、悩んでいることがあるの……」
息を一つ吸って、私はUndyneに心の内を口にする。
「うん、どうしたんだ、Alphys?」
Undyneは私のペースに合わせて急かさずに、抱き締めたまま優しくそう聞き返してくれる。
「私ね………今、FriskとCharaの二人に会いたくないの」
「それはまた、どうしてだ?」
正直な気持ちを言うと、Undyneは直ぐに聞き返してくる。
一瞬、今更ながら言うのを戸惑ったけど……それでも話すべきだと思い直して、続きを口にする。
「ええっとまず………Undyne、あなたは……今まで生活してきて、違和感を感じたことはない……?」
「は。……違和感……?」
「えぇ」
私の話の切り口が予想外だったのか、Undyneの声が訝しげな色を含む。
「違和感って、例えばどんなだ?」
「例えば………そうね、自分の記憶が、何処か矛盾しているとか……誰かの記憶と食い違ってる、とか……」
「………ええと、つまり……どういう事を言いたいんだ?」
顔を見上げると、先程の話からどこがどう繋がるのか図りかねたのか、困惑した様子のUndyneがそう聞き返した。
「あのねUndyne、まず前提として、Mettatonとこんな事があったの」
――――――そこから私は、二ヶ月前にあったMettatonとの会話の詳細を話した。
Mettatonと親善大使二人の間で、有り得る筈の無い記憶の食い違いが起こっていたこと。
そして……忘れてしまっている『誰か』が居るかもしれないこと。
全部全部、白状した。
話していく毎に、Undyneの青い皮膚の顔が少しずつ、蒼白くなっていった。
「………おい、それってつまり……私達の記憶がどっか可笑しくなってるかもしれない、ってことか?」
「………そういうことに、なるのかしらね」
話しているうちに、Undyneと目線が合わなくなってしまった。
「それでね、Undyne……ここからが本題なんだけどね。私が二人に会いたくないのは……怖い、からなのよ」
「……怖い?」
投げ掛けられた言葉に、私は頷いた。
「研究者としては、その事象に興味がない……こともない、けどね………私、Alphysというモンスターとしては………恐くて、しょうがないの。
だ、だって、その『誰か』がいない記憶こそが、貴女や二人、皆との大切な親愛の証だった。ついでだからぶっちゃけちゃうけど、今私が此処で生きて居られる、揺るぎない希望だったのよ。それなのに……それが間違っているかもしれない、なんて………」
私の心情を聞くUndyneからの返答はない。
過去に縋りついて、生きていく糧にしていた私を、軽蔑しているのかもしれない。
そう思うと、顔が上げられなかった。
「今だってその人の事が、思い出せないのに……でも確かにね、Mettatonのあの感情のままに叫んでいた支離滅裂な言葉で、記憶の中の何かがぐらついてきているの。
何処からか湧き出してきたどうしようもない違和感が、泥のようについてしまって、いくら拭っても落ちないのよ……」
Mettatonが眠りについてしまった後、私は一生懸命記憶を思い出して、思い出して思い出して、その日の日記につけた出来事と照らし合わせて、何度も間違いがないか確認した。
矛盾点なんて、一つも無かった。
―――――なのに。
何故か。
あの日、Chara様にかけていただいた言葉と共に聞いた筈の声が、笑顔が。
思い、出せなかった。
「それに気付いた瞬間、アニメでよくある展開だ、なんて、最初は現実逃避して……そんな不明瞭な違和感何時しか消えてくれると考えないようにしていたけれど……消えてくれなんてしなかった。それどころか、意識しすぎて自分の記憶と気持ちが矛盾して、頭がこんがらがって、更におかしくなりそうなの……っ」
最後は、こんな事をぐだぐだと考えている自分が情けなくて、涙が出て来てしまう。
「………Charaだけ、か? Friskは? 何ともないのか?」
やっと反応を返してくれたUndyneに、私は頷いた。
「えぇ………Friskは、何ともないの。どんな顔だったか、どんな調子だったか、直ぐに思い出せるの。Chara様だけ、Chara様だけなのよ……。靄に塗り潰されて、見えないの。そこに居るのは間違いなくChara様のはずなのに、霞んじゃって見えないの……声も、どんな調子で話していたのか分からないの………」
なのに、当たり前のように私の
そんな矛盾を突き付けられて、私は………どうすることも出来なかった。
「でも、こんなことを皆に話そうものなら、確証もないから悪戯に皆を混乱させるだけでどうにも出来ないし………もし初代王国直属研究者のあのモンスターがいたら、話は別だったかもだけど………どうしようも、無くて………」
狼狽えて、どうするべきなのかも分からなくて。
ただそこにある記憶と『違う』と叫び出したくなる矛盾した気持ちは大きくなるばかりで。
本当に、頭が可笑しくなりそうだった。
「……この状態のまま、もし、二人と顔を合わせでもしたら。それこそ本当に、どうにかなってしまうような気がするの。感情のまま叫んで、あの二人を傷付けてしまうような気がするの………私が今まで信じてきた、二人の後押しでUndyneと結ばれて、罪から目を逸らさず向き合ったという私の記憶が、決意が全て揺らいで、消えてしまうような気がするの……。
だから……『二人に会いたくない』、だなんて思ってしまうの。
結局私は、あの日からずっと変わってないのよ……!」
………そうだ。
私は、変わってない。
――――――『「他人」に許されたからといって、「自分」に赦される訳じゃないんだよ』
脳裏に浮かんだその言葉に、思わずその通りだと言いたくなる。
結局私は、『自分』を好きになれそうには無いから。
逃げてしまうのをやめられない。
知らず知らずの内に、溜まっていた涙が零れ落ちて止まらなかった。
「………Alphys。Alphys。……顔を、上げてくれないか」
沈黙が流れる中、Undyneの冷たい手が私の涙を拭い、上からそんな言葉が聞こえる。言葉の通り上を向いて、
「……そっか………
「…………え……?」
Undyneがそう言って安堵したような顔をしたのに、驚いてしまった。
「………取り敢えず、今の話を聞いてあたしが言いたいことは三つある。一つ、過去を希望にして生きていくのは別に恥ずかしいことじゃないと思うぞ。それどころか、そんなに大切にしててもらえてあたしは嬉しい。二つ、お前は変わってない、なんて言ったがそんなことはない。あれ以来お前は確実に明るく、自分の気持ちに正直になった。以前なら、きっとこの話も話してなんてくれなかっただろうしな」
「え、そ、それは……確かに………」
「だろ?」
前置きしてから告げられた言葉に、確かに以前の私だったらそもそもこの話をしていなかったかもしれない可能性を否定しきれず、思わず頷いてしまう。それにUndyneは微笑み、顔を近付けてきた。私の額に彼女の額をこつん、と宛てられ、至近距離で黄色の瞳と見つめ合うことになる。
「三つ目。……実はなAlphys。私にも、その矛盾があるんだよ」
「えっ、Undyneにも!?」
「あぁ。とは言ってもつい最近気付いたんだけどな」
その状態のまま口にされた言葉に、至近距離で見つめ合っていることによる羞恥より先に驚愕が来た。驚いている間に、Undyneはまた私の背中に手を回した。
「………私さ、Charaに怒鳴られた事があるって話は、前にしたよな」
「えっ? えぇ、聞いたわ」
突然の質問に驚いたけれど、肯定する。確か……そう、何時しかこんな風に二人でデートした時。内緒話をするように、小声で教えてくれた。
「驚いたわ、いつも冷静沈着なChara様が怒鳴ったって聞いて」
「………そこなんだよ」
「へ?」
そこ、とはどういうことだろう。一瞬話が繋がらず、間抜けな思考が過った。
「違和感を感じるのがそこ、ってこと?」
「そうだ」
私なりに考えて辿り着いた予想を訊くと、肯定が返ってきた。
「正直、あたしはCharaがあの場面で怒鳴るような人間には思えないんだよ」
ぽつり、と。
Undyneは彼女が感じていたのだろう『違和感』を話し出す。
「
上手い言葉が見つからないのか、Undyneはあー、とか、うー、と唸る。
「何というか、な………確証は無いんだが。お前が感じているものと同じく、記憶の中のあいつとは、決定的に何かが
だから、と彼女はまた私と目を合わせて、私の大好きな笑顔を浮かべる。
「怖がらなくていいんだぞ! あたしだってかなり気味悪く感じてるし怖いんだ、その反応が当たり前だ!!」
背中に回っていた腕がまた頭に乗る。今度は先程の優しい撫で方ではなく、豪快に掻き回すような、わしゃわしゃという擬音が似合う撫で方で、撫でてくれる。
「わっ、ちょっと、Undyne、でも……」
「NGAAAAAA!!! あーもう焦れったいな!!!」
「わひゃっ!?」
それでも私が意見を述べようとすると、Undyneは口癖を吐き、抱き付いた体勢から一転、私の肩を強く掴み、私の目を真っ直ぐ見る。
「この際だから言わせてもらうけどな、前から思ってたけどお前ちょっと良いヤツであろうとし過ぎだな!! どんなモンスターや人間だって悪いところなんてあっても当然なんだし、今は会いたくないなって思う時ぐらい誰にだってあるんだから、ちょっとそう考えただけでそんなに落ち込むな!! そんな所も好きだが、ただでさえ事情が事情なんだし、そんなに自分を追い詰めるんじゃない!! いいな!?」
「は、はいぃっ!!」
Undyneの言葉の勢いに圧されて、思わず反射で返事をしてしまう。その返事に満足したのか、Undyneは笑む。
「よっし、じゃあ一旦この湿っぽい話は後に回そう!! 今はせっかく二人きりのデートなんだ、楽しいことをしよう!! ダメか!?」
「だ、ダメじゃないです!!」
がくがくと体を揺さぶられながらも何とかUndyneの言葉を否定すると、彼女はより一層笑みを深め、私の肩から手を離した。
「それじゃあAlphys、見たいものを選べ!!」
私が家から持ってきた積んである厳選ビデオ達を指し、Undyneは私にそう言って、背中をばん、と強く押した。叩かれた勢いで座っていたソファーから転げ落ち、ビデオの山の前まで転がる。勢いで肺に入っていた空気が抜け、一瞬呼吸が乱れた。
「げほっ、えほっ、あいたたたた……う、うーん、どれがいいかしら」
――――それでも、彼女なりに私を慰めて、元気付けようとしてくれているのだと思うと、この痛みさえ嬉しかった。
嬉しさと幸福にニヤけそうになるのを堪え、私はビデオの中から見たいものを選び出す。
………そうだ、これにしよう。魚人のモンスターであるUndyneも、これを気に入る筈。
「あぁ、これなんかがいいんじゃないかしら」
そのビデオを手に取り、レコーダーにセットする。そしてUndyneの隣に座って、リモコンでテレビの電源をつけ、再生ボタンを押した。
「……………う、わぁ………」
本編が流れ出した瞬間、Undyneの目はテレビに釘付けになっていた。
――――優しい音楽とともにテレビに移るのは、美しく、青く澄んだ海の中。
以前Friskが、見たいと言っていた作品だった。
魚人であるUndyneは舞台の美しい海に思うところがあるようで、画面をじぃっと、息を飲んで見つめている。
キラキラと黄色い瞳を宝石のように輝かせながらアニメを見るUndyneの可愛さに、思わず悶えそうになるのを堪える。
「………ねえ、Undyne。今度、休みが取れたら……近場でいいから、海に行きましょうよ」
「えっ!?」
そして、気付けば、そんな事を口走っていた。
「これはCGだからこその美しさだから、本物の海はこれより綺麗じゃないかもしれないけど……でも、貴女と一緒ならきっと何をしても楽しいわ」
だめかしら、と勢い良く此方を向いた彼女に訊けば、Undyneは目をぱちくりと瞬いてから、にっと笑い、がばっと抱き付いてくる。
「わぁっ」
「ダメなんかじゃない、いいに決まってるだろ! 絶対、絶対に海に行こうな! 約束だからな!!」
「………ふふふ、えぇ、約束よ」
嬉しさのあまりか念押ししてくるUndyneの紅い髪が揺れるのを見ながら、私も抱き締め返して、頷く。
そんな事をしている内に、気付けば、私の中で溜まっていた淀みのようなものが、すっかり消え失せてしまっていた。
――――やっぱり、Undyneは私の一番のヒーローね。
ありがとう、Undyne。私、また貴女に救われちゃったわ。
――――――『いつか君が、その罪を乗り越えて、受け入れて生きていけるようになるのを、祈ってるよ』
…………誰かの安心したような笑顔が、一瞬だけ、鮮明に脳裏を駆けていったような気がした。
どんな言葉をかけられたって、その笑顔だけは書き消せないまま
Epilogue of Alphys 『消えない感情』