守りたいもの   作:行方不明者X

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後日談
姉妹喧嘩 上


「…………さて、と。そろそろ始めるか。Lily、これから質問するが、嘘を吐かず全て正直に答えろ。いいな?」

 

 

「はーい」

 

 

「…………」

 

 

その日、親善大使の家にはそれまで嘗てない程重たい空気が流れていた。

 

 

親善大使の理解者達とも呼べるモンスター達も勢揃いで、それぞれソファに座ったり、仁王立ちして腕を組んでいたりしながら、床に正座する一人の少女を睨み、見つめている。

誰が何から話そうか分からず押し黙り、そうして生まれた空気の中で空気も読めず笑っているのは、睨み付けられている張本人。つい最近まで姿を消していた、親善大使姉妹の実の姉であるLilyと呼ばれた少女だけだった。

 

 

「………おい」

 

 

「ん? なぁに、Charaちゃん」

 

 

そんな空気を破り、まず一番最初に声を上げたのは、彼女の実の妹………ということになるであろう少女、Charaだった。ぽつりと呟かれたその呼び掛けに応え、LilyはCharaを見る。

 

 

「何で笑ってる? 一応これから尋問が始まるんだが……?」

 

 

「え、ああ。久々に私の知る皆の顔が見れたらどうしても顔が緩んじゃってねー」

 

 

「いや、空気が読めないにも程があるだろ。何だその理由。ふざけんな」

 

 

顔を顰めているCharaの質問にふざけているように聞こえる返事を返したLilyに、スケルトン兄弟の兄の方であるSansが冷たくそう言った。

 

 

「ふざけてないよ? 正直な感想。もう二度とこの世界の皆には会えないと思ってたからね」

 

 

からからと笑う彼女から放たれたその言葉に、空気がより一層重くなった。

つい、一昨日の話。帰って来た彼女は泣きじゃくる妹を宥めながらEbot山を下った。そして、Friskの案内で今の家にやってきた彼女は、Friskが帰って来たと考えて玄関まで出迎えにきたToriel達と出会したことによってもみくちゃにされた。Friskが思い出したと同時にLilyの存在を思い出し、パニックに陥り、無力さを感じていた彼らの前に姿を現せば、こうなることは想像に難くないだろう。

そこからAlphysらに連絡が行き、直ぐ様Frisk達の家に連絡があったモンスター達が集結したのは言うまでもない。

 

 

そうして散々揉みくちゃにされた後、こうして火照りが冷めた本日、Lilyに対する尋問が行われている訳である。ちなみに配置は万が一でもLilyが逃げ出すことがあれば即座に確保出来るようにしてある。いや、彼女に逃げ出す意思はないが。

 

 

「…………なぁ、Lily。お前は何処に行ってたんだ」

 

 

再び落ちた沈黙を、高く結った紅い髪と青い肌が特徴の女性、Undyneが口を開いて破る。

この質問はこの場に居る彼等が一番聞きたかった質問でもあった。

ここ数年、彼女の存在は自分達の記憶の中から無かったことになっていた。その間、彼女は一体何処にいて、何をしていたのか。それが、一番気になる所だった。

 

 

「ん? えっとね、異世界」

 

 

「……はっ? イセカイ?」

 

 

「うん。此処と同じで違う世界だったり、皆の性格が真逆になってたり、色んな世界に行ってたよ。その度に死ななきゃいけないのがちょっと堪えたけどね。もう何千回死んで産まれたのか数えらんないよ。あ、そうそう、その世界によって皆の性格が違くてね、知ってはいたけど吃驚したよね。知らないフリをするのがどれだけ大変だったか」

 

 

地球上の何処と答えるわけでもなく、予想斜め上の答えに驚くUndyneを他所に、Lilyは何でもないように話す。『何千回も死んだ』という言葉に絶句する皆を余所目に話すその様子に、訳を知っているSansは本当なのだろうということを察し、そして、不気味さを覚えた。

 

 

余りにも、空気が読めなさすぎる。

 

 

自分の知っている限りのLilyは、頭が回る方の人間の筈だ。この空気を察することぐらい、出来るはず。なのに何故、こんなにあっけらかんとしているのか。

 

 

度重なる転生で、辛うじて残ってた精神が擦りきれたか?

 

 

「というか、Lily、話し方変わったわね……? もう少し丁寧な話し方じゃなかったかしら……?」

 

 

「うん? こっちが素だよ?」

 

 

「そ、そう……」

 

 

空気を変えようと自分が感じた素朴な疑問を小柄な黄色い恐竜のモンスター、Alphysが追求すると、たった一言でそう返された。

 

 

「それにしてもさ、皆本当に地下世界から解放されたようで何よりだよ」

 

 

よいしょ、と言いながら正座を崩して、フローリングにLilyは胡座で座り込み、そう言った。

 

 

「どう? 地上は。日光アレルギーのモンスターとかいなかった? それよりも、楽しい? 見たことがないものとか一杯あるだろうし、飽きたりしないんじゃない? FriskやCharaが大きくなってることから察するに数年経ってるみたいだけど、皆疲れたりしてない?」

 

 

誰がどう話そうか迷って、何も言えなくなっている重苦しい雰囲気の中、Lilyはペラペラと喋りだした。

 

 

「あ、そうだPapyrus。結局世界に何ヵ国あるのかとか

分かった? そういえば料理はあれからどうなったの?」

 

 

「………」

 

 

「無視? 対応がしょっぱいなー」

 

 

在りし日の会話を思い出し、LilyはPapyrusに話を振るが、話を振られた骨兄弟の弟の方、Papyrusはというと、肩をビクリと跳ねさせて黙り込んでしまう。普段は温厚であり、友達に話しかけられたら無視をするなんて事は絶対に無い筈のPapyrusに無視されたことも気にせず、Lilyは部屋を見渡し、ドアに寄り掛かっている彼に話し出す。

 

 

「Asriel、自分の本当の身体で地上を歩く気分はどう? Floweyの時じゃ絶対に出来ないことだったでしょ? あ、そうだ、Charaちゃんとは仲良くしてる? 昔も今も親友だったんだし、兄弟みたいな関係なのかな?」

 

 

「………そんなの、今はどうでもいいだろ」

 

 

「え、どうでも良くないよ。自分が助けた誰かのその後を聞きたいのは当然じゃん」

 

 

白いふわふわの毛が生えた皮膚の眉を寄せ、呼び掛けられた山羊のようなモンスター、Asrielはそう返したが、Lilyの『何を言っているのか』と言いたげなその言葉に更に眉の皺が増えた。そのまま睨み付けるように黙った彼に、また無視か、と一言呟いて、

 

 

「……というかさ。皆なんでそんなに暗い雰囲気なの。正直こっちが聞きたいぐらいなんだけど。特に泣きそうなTorielさんとかAsgore王の視線が痛いったらないんだけど」

 

 

と、大柄な割には小心者で優しい山羊のモンスター、Asgoreと、普段はニコニコと笑っている山羊のモンスター、Torielの方を見ながら言った。

その言葉に、黙っていた箱形ロボット、Mettatonが声を上げた。

 

 

「ねぇ。自分が何てこと言ってるのか分かってるのかい、Lily」

 

 

「? 何が?」

 

 

「……………駄目だね、これ」

 

 

自分の問いかけに不思議そうに首を傾げるLilyを見て、はぁ、と溜め息を一つ吐き、Mettatonは腹立たしそうに手を自身のパネル部分の上辺りに手を置く。そして、自分の背面にあるスイッチを切り替えた。

 

 

ぼん

 

 

という音を立て、小さな煙と共にMettatonの身体が作り変わる。人間形態になった彼は、つかつかとLilyの傍に歩み寄り、人差し指を突き付けた。

 

 

「いい、ダーリン? 僕たちがこんなになってるのはね、正真正銘、君の所為なんだよ?」

 

 

「……………え、何言ってんの?」

 

 

Mettatonの主張にきょとんとしていたLilyは、少し間を空けてそう言った。

 

 

「やっぱり分かってないのか……」

 

 

「……成る程、どうもさっきから空気の読めない発言ばっかりすると思ったら、そういうことか」

 

 

「え、何その反応。私そんなに空気読めてない発言はしてないつもりなんだけど。酷くない?」

 

 

呆れたように溜め息を吐いたMettatonと、漸く違和感に納得がいったSansは頷いた。その反応を見て、Lilyは心外だと言わんばかりに不満を溢した。そんなLilyに向かって、SansはLilyに向かって口を開く。

 

 

「お前、俺達にしたことに対して何の感情も持ってないんじゃないか?」

 

 

「? うん、そうだけど」

 

 

Sansの問い掛けに対し、Lilyは何でもないように笑顔で頷いた。

 

 

「というかSans、まさかだけど私が皆の記憶から消えてた事を言ってる?」

 

 

会話しながらも頭を回していたらしく、LilyはSansが言いたい事を汲み取り、聞き返した。

 

 

「そうだ」

 

 

「えっ、尚更何で? 何でそこで感じない感じるって話になるの? 皆私の事今日まで忘れてたんだし、別に関係なくない?」

 

 

Sansが頷けば、何故そんな事を聞くのか、理解していない彼女はそう言った。そんな彼女の胸ぐらを、Charaの女性にしては痩せた手が掴んだ。

 

 

「…………ふざけんなお前。お前のその身勝手で、どんだけFriskや皆が苦しんだと……!!」

 

 

「待て、chara。気持ちは分かるが、今のそいつはまだ居ない間の俺達を知らんみたいだ。どうするかはその後でもいいだろ」

 

 

「………何、何かあったの?」

 

 

Charaが顔を歪めて詰め寄るのを窘めるSansを見、そこまでして漸く話の擦れに気付いたのか、Lilyは胸ぐらを掴まれたまま首を傾げた。その様子を見て、Sansの言う通り何も知らないらしいと察したCharaは、舌打ちを一つして渋々胸ぐらから手を離して距離を取った。

 

 

「Lily、お前はどうやら知らないみたいだがな、俺達にはお前との記憶が微かにあったんだ。……いや、正確に言えば、記憶は擦り変わってたんだが、違和感があった」

 

 

「えっ、本当に?」

 

 

こればかりは本当に知らなかったのか、LilyはSansの説明に対してそう聞き返した。

 

 

「あぁ、そうだ。本当にそこに居たのはCharaだったのか、それを一度疑ったら記憶の中のCharaの顔がどんどん思い出せなくなっていった」

 

 

「えぇ……可笑しいな、ちゃんと消したって言ってたのに……」

 

 

続くSansの説明に、何でだ、と首を傾げていたLilyはふと顔をあげる。

 

 

「それで、この話がどうして『何も感じてない』と繋がるの?」

 

 

「…………さっき、Charaが『皆がどれだけ苦しんだと』って言っただろ? その中途半端な記憶改竄のお陰で、俺達はこの世界に居もしなかったお前の影に囚われたんだ」

 

 

「は?」

 

 

Sansから告げられたその説明に、Lilyは理解出来ないとばかりに怪訝そうな顔をする。それを見て、Sansはまた溜め息を吐いた。

 

 

「昔の事を振り返って他人との話で食い違う、矛盾する気がする……誰も失っていないのに、誰かを失ったという喪失感がある。それがどれだけ怖いことか、お前は知らないだろう。

全員の記憶が戻った後、此処に集まったんだがな。そのとき、皆自分が記憶を失っている間どう感じていたのか話したが、壮絶だったぜ?

Torielはお前を忘れていた自分が許せないと泣いていた。王は死ぬのは赦されないことを何故忘れていたのかと言っていた。Mettatonはお前に礼と謝罪を告げたかったと後悔してた。Alphysは気が狂いそうになった。Undyneはお前を助けられなかったと無力感に苛まれた。Papyrusはお前の笑顔をCharaに求めるようになった。Charaはそれを切っ掛けにお前に助けられたことに気付いて、錯乱して病気になってやがった。そして、お前の最愛の妹のFriskは、お前を失った喪失感を誤魔化すためにワーカホリックになって、後は知っての通りだ」

 

 

Sansは一昨日集まった際に誰からともなく心に燻るそれらの感情を吐き出し知ったそれを告げ、Lilyを見る。

 

 

「……お前が望んだ未来はこんなものだったのか? 違うだろ? 少なくともお前が望んだ未来は、Friskが明るく笑っている世界だった筈だろ?

 

………こんな現状を知っても尚、お前は何も感じないのか?」

 

 

一縷の望みをかけて、SansはLilyにそう問いかける。まだLilyがそこまで狂っていないことを祈って。

 

 

自分の言いたいことが、察せられる彼女であることを祈って。

 

 

「……なんで、そうなるの?」

 

 

だが、Sansの想像を遥かに越えて、彼女は狂いきっていた。

LilyはSansの言いたいことが理解出来ずに不思議そうに首を傾げ、言葉を続ける。

 

 

「何でたかが私一人居ないだけで皆そんな事になるの? ()()()()()、気にしなければ良かったのに」

 

 

皆が愕然とする中、いけしゃあしゃあと、Lilyはそう言ってのけた。

 

 

「………『そんなもの』、だって……?」

 

 

それに真っ先に反応したのは、言わずものがなCharaだった。

CharaはまたLilyに掴みかかり、至近距離で憎悪を込めて睨み付ける。

 

 

「ふざけるなお前!!!! 地上に出てから今までどんだけFriskが苦しんだと思ってるんだよ!!? 休めって言っても皆の為だって言って休まないし、無理矢理休ませることでしか休憩取ってくれないぐらい追い詰められてたんだぞ!!? 他でもないお前の所為で!!! それをお前、『そんなもの』!!? ふざけるな!!! 僕の事はまだ自業自得だから仕方無いにしても、何で血の繋がった実の姉のお前がそんな事を言えるんだよ!!? ふざけるな、ふざけるなよ!!!」

 

 

鬼のような形相で詰め寄るCharaの剣幕は凄まじいものだが、それさえも意味が分からないのかLilyの顔はきょとんとしている。

 

 

「Chara、落ち着きなさい」

 

 

「でもっ、父さん……!!」

 

 

「そんなに責め立てていたら通じる話も通じないだろう?」

 

 

一方は激情に顔を歪め一方は何とも無さげな顔をしている異様な光景を諌めたのは、意外なことに、今まで悲痛な顔で静観していたAsgoreだった。

Asgoreは大きな白い毛に覆われた手でCharaの掴み上げる手をそっと包み込んで悲しそうに微笑み、離すように促す。それを見て、仕方なくCharaはその手を離した。それに満足そうに頷くと、AsgoreはLilyに向き直る。

 

 

「Lily。少し思ったんだが、もしかして君は、皆の中では自分の存在がそこまで大切ではないと思っているのかな?」

 

 

「はい」

 

 

「そうか……それは、どうしてだい?」

 

 

Asgoreの質問に対してLilyは即答を返す。それを聞いてAsgoreが更に質問を重ねると、Lilyは少し考えてから口を開く。

 

 

「だって、私なんてただの部外者(エキストラ)で、身代わりで、元ですけど貴方達に憎まれる絶対悪(Player)ですもん。そもそも、貴方達に本気で大切にされたりする筈がないじゃないですか」

 

 

何を言っているんだ、と言いたげな顔で、Asgoreの目を見てLilyはそう言った。Lilyを見るAsgoreの顔が、悲しそうに歪む。そんな風に見つめられる理由が、Lilyには分からなかった。

LilyがAsgoreの感情を計り倦ねている中、AsgoreはまさかLilyがこんな悲しい考え方をしているとは思っておらず、どうしてこんな考え方をするようになってしまったのか、と、とても悲しく感じていた。

 

 

「…………じゃあ、君は、もし私を含めた皆やFriskが『愛している』と言ったら、どう感じるのかな?」

 

 

「えっ? 突然それを聞きます? ……そうですね、『嬉しい』とは感じますが、『きっと本気ではないだろう』とも感じますね」

 

 

子供を持つ親としての心で『この考え方は放っておいてはいけない』と感じたAsgoreは、この目の前の哀れな子供が何故こんな考え方をし出したのか探るべきだと考え、Lilyに問いを重ねる。突然脈絡のない質問をされたLilyは一瞬怪訝そうな顔をしたが、直ぐにそう答えた。

 

 

「それは、何故かな?」

 

 

「いや、さっきも言ったじゃないですか。私はただの部外者だからです」

 

 

「………何処のどの部分を見て、そんな考えに至ったのかな?」

 

 

どうにもLilyが自分の事を部外者だと考えていることが引っ掛かったAsgoreは、そう尋ね返す。そうするとLilyは、

 

 

「全部ですよ。私がこの世界で生きてきた人生全部を総合してそう判断したんです。だって、私は本来居ない存在ですから。いや、もしかしたら何処かのタイムラインでは『Friskの姉』という存在は居たのかもしれませんが……特に居たって関係は無いですよ」

 

 

ただ平然と、そう答えてみせた。

 

 

「………何を言っているんだい、君は。あの日、君が居なければ、私達は救われなかったんだよ?」

 

 

一瞬、何て事を言っているんだと絶句したAsgoreだったが、気を持ち直してそうLilyに語る。それでも、Lilyは無慈悲に首を横に振った。

 

 

「いいえ、居ても居なくても、FriskはEbot山に登って、貴方達モンスターを地下世界から解放したでしょう。そこは絶対に変わりませんし。そういう『運命』ですから」

 

 

「…………じゃあ、僕達は? 僕達はどう説明するのさ?」

 

 

Lilyの答えに口を挟んだのは、Lilyを睨み付けていたAsrielだった。

 

 

「僕とCharaは本来、この世界でこんな風に存在できたりはしなかった。僕はFloweyになっていた筈だし、Charaは死んだままの筈だった。それは僕もCharaも分かってる。君はさっきから『自分が居なくてもどうにでもなった』みたいな口振りで話してるけど、それは何なの? 矛盾しない?」

 

 

Asrielのその理屈に、Lilyは一瞬押し黙る。そして、少し間を開けてから口を開いた。

 

 

「それは例外だよ、Asriel君。あの時は君達を救うには絶好のタイミングだったけど、本来の世界ではそんな事は起きなかったから、私があの時F()r()i()s()k()()()()()に君達を助けなくちゃいけなかっただけで、多分Friskがやろうと思えば何とかなったと思うよ」

 

 

「は………? 何だよ、その理屈……?」

 

 

屁理屈と言えるそんな意味不明な理屈を淡々と述べるLilyに、Asrielは思わずゾッとした。

何故、そんな考え方が出来るのか、理解できなかった。

 

 

「………いや、それじゃあ理由にならないぞ、Lily」

 

 

Lilyが語った理屈に、今度はCharaが異を唱える。

 

 

「Sansから聞いたがな、お前、僕とFriskのPlayerを繋ぐ《決意》を奪って、自分のモノにしたんだろう? それでこの世界の主導権を奪って、Playerに二度と干渉できないようにした。だがな、それは悪いがFriskや僕には絶対に出来ない事だ。そう定められてるからな。それはどう説明する?」

 

 

「………それも、例外だよ。それは本当にどうしようも無かったから、私がCharaちゃんとFriskの身代わりになることでどうにかするしかなかった」

 

 

Charaの理屈にまた一瞬押し黙ったLilyは、そう言い返して、でも、と続ける。

 

 

「それだって私が愛される理由にはならないよ。だって、いつか捧げられる事が産まれた時から決まってる生け贄が愛されるなんて事、ある? 同情は貰いはするだろうけども、そんな事は有り得ないでしょ?」

 

 

「…………意味が、分からない………お前、自分が何言ってるのか、分かってるのか?」

 

 

「? うん」

 

 

何故自分を生け贄となど考えているのか、などと言いたいことはあったが、CharaはLilyの言う理屈が理解出来ずにいた。

どんな考え方をすれば、そんな考えに行き着くのか。どうしてそんなに狂った考え方をしているのか、理解出来なかった。

 

 

「じゃあ、あの日Friskの傷を全部背負うような真似をしたのは何故なんだい……?」

 

 

「え? あぁ、あれは普通に自分の自己満足です。何でFriskが仲良くしたいだけなのに傷を負わなきゃいけなかったのか理解できなかったので。それに、私一人が傷を負って、それを『気にしていない』と言えばFriskは私の事なんて気にしないでいてくれるだろう、皆と友達になれるだろうと考えてました」

 

 

また問いを投げ掛けてきたAsgoreに、Lilyはそう返した。その平然とした態度に、Asgoreの思考回路に嫌な思考が掠める。

 

 

「………じゃあ、君は。私達のことは、愛していると?」

 

 

「えっ、何でそんな当たり前の事を聞くんです? 愛してなかったらそんな事はしませんよ」

 

 

またもや即答で、LilyはAsgoreの問いに答えた。ただ、何でもないように、平然と。Asgoreは、今度こそ言葉を失った。Lilyと自分達との擦れが、ここまで大きなものだったとやっと気付いて。

 

 

………これこそ、彼女が認識できない周りとの致命的な擦れ。

 

 

彼女の狂った(エゴ)の真髄。

 

 

自分が与えるものは『真実の愛だ』と信じているくせに、愛する人から受けるものは『本心からのものではない』と断じる、一方通行な、もはや人間不信にも近いもの。

 

 

『愛されている自覚』はあっても、『愛されている実感がない』という、とんでもない擦れだった。

 

 

「………じゃあ、あなたは、」

 

 

「ん?」

 

 

そこで、今まで黙って悲痛な面持ちでLilyを見つめていたTorielが口を開く。

 

 

「あのまま私達が思い出さなかったら、私達を置いて、何処に行くつもりだったの?」

 

 

「えっ、そのまま死ぬつもりでしたけど」

 

 

Torielの震える声で紡がれたその問いに、Lilyは何ともないように、『死ぬつもりだった』と告げた。そして、その続きを、笑って紡ぐ。

 

 

「いや、だって、Friskの大切なものは全て守ったんだもの。用済みの部外者はもういらないでしょ」

 

 

優しい笑顔で、ただ、当たり前のような事を口にするような口調で紡がれたその発言に、今度こそ空間が凍りつき、皆が絶句した。

 

 

『大切なものは全て守った』。

 

 

『用済みの部外者はいらない』。

 

 

その言葉から嫌でも察することができるのは、彼女が言う『Friskの大切なもの』の中には、彼女自身が含まれていないということ。

 

 

彼女の中で、彼女自身の存在が、どれだけ低いのか思い知らされる台詞だった。

 

 

皆が凍り付き、沈黙が流れる。しんと静まり返ったその空気を打ち破ったのは、

 

 

「えっ、うわっ」

 

 

Asgoreの気の抜けた声の後の、

 

 

バチンッ

 

 

一つの、渇いた音だった。

 

 

「………え? 何してんの、Frisk」

 

 

その音と同時に左頬に走った衝撃を受け、その衝撃で咄嗟に右手を床についたLilyは、今まで黙っていたのに突然距離を詰めてきて手を振り下ろした少女………Friskに向かって、きょとんとしながらそう言った。

 

 

先程の音は、Asgoreを強引に後ろに押し退けたFriskが、Lilyに平手打ちした音だったのだ。

 

 

「…………るな」

 

 

「えっ」

 

 

顔を伏せたまま、何かを呟く。思わずLilyが聞き返すと、Friskは顔を上げてキッと彼女を睨み付け、胸ぐらを掴み上げた。

 

 

「ふざけるな!!!!」

 

 

そうして、Lilyに向かって大声で叫んだ。

 


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