【????】
―――――……聞こえてるよね
何処からか聞こえる声に頷く。頷こうとする。意思は示せただろうか。
―――――……伝わってるから大丈夫だよ
……驚いた。心が読めるのだろうか。
―――――……うん、そうだよ
まるでエスパーだと思う。一体何者なのだろう。
―――――……エスパー?あははっ、面白いね
笑い声が響く。…そうだろうか。自分はつまらない者だと思うのだが。
………自分?
―――――……ああ、やっぱり混乱するよね
……知っているような口振りだ。何か知っているなら、よければ教えてくれないだろうか。
―――――……いいよ、落ち着いて聞いてね。君は――…
―――――――――――――――――――――
【Lily】
揺さぶられる感覚で目が覚める。……つかまたなんか変な夢みたな。なんだあれ。めっちゃ気になる所で終わったな。
「お姉ちゃん?」
「……ん、おはようフリスク。よく眠れた?」
「うん」
頷いたフリスクの顔色を確認する。……暗い、よくわからん。
立ち上がって電気をつけ、今度こそ確認する。……うん、健康的な色だ。
「ねぇ、パイが置いてあったんだけど、これって……」
「ん?……あぁ、カタツムリパイじゃないよ」
シナモンのいい匂いがするし、と付け足せば、ほっと安心したような顔をするフリスク。……バタースコッチシナモンパイか。そう言えば水入り瓶回収に行ったとき、切られてないパイがあったな。これか。
「二切れあったから多分お姉ちゃんのじゃないかな?」
私の分もあるのか。ちょっと目を丸くする。……まぁトリエルさん優しいし、差別するような事はしないわな。つかカタツムリパイで思い出したけどどうやって作っているのか疑問な件について。エスカルゴの要領で作ってるのか……?だとしたら美味しそうではあるけど結構ゲテモノだよな、それ。
そんな余計なことを考えながら台所から失敬してきた袋にパイを入れる。取り敢えず紙見つけてくるんだチーズは……一緒にこの中突っ込んどくか。
「あれ、このチョコどうしたの?」
「………あぁ、トリエルさんにもらったんだ」
「そうなの?」
嘘です。失敬してきました。……なんか必要な気がしたんだよ。
食料をしまってリュックを背負う。……あ、ちょっと重くなった。
「行く?」
「うん、行こう」
フリスクはドアを開けていった。多分、トリエルさんのところだろうか。
廊下を歩いて居間に顔を出す。フリスクがトリエルさんを質問攻めにしていた。……あー、これあれか、トリエルさんに地上に行きたいって言うやつか。
最後まで問答をしたのだろう、トリエルさんが怖い顔をして立ち上がり、そのまま無言で私の横を通りすぎていった。
「……ママどこ行っちゃったの?」
「さぁ…?」
知ってるけどすっとぼけておく。フリスクは私が探索したトリエルさんの部屋を見に行った。
しばらくすると、フリスクがドアを開けて戻ってきた。
「居た?」
「ううん…」
「じゃあ、ここしかないね」
地下に続く階段をみる。……ここから先はトリエルさんはきっと容赦をしない。『Player』は正しい道を選んでくれるだろうか。
「……行こう」
フリスクは覚悟を決めたのか、階段を降り始めた。私も後を追って階段を降りた。
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階段を降りた先にはトリエルさんが居た。
「……お家へ帰る方法が知りたいのね、我が子達よ?」
こくり、とフリスクは頷いた。
「この先に遺跡の出口があるの。外の地下世界に繋がる一方通行の出口」
静かに語るトリエルさん。
「私はそれを取り壊そうと思うの」
ぎょっと驚いたような顔をしたフリスク。……実際に聞くと絶望するなこれ。結構心にくる。
「ここからまた誰かがいなくなってしまう事のないように。だからいい子にして上の階に戻ってちょうだい」
先へと進んでしまったトリエルさんを追いかける。
「………ここに落ちた人間はみんな同じ運命を辿っていくわ。私はそれを何度も何度も見てきたの」
追い付いた先でトリエルさんは私達に背を向けたまま冷たい声でそう言った。
「やってきて。去っていって。死ぬ」
冷たい声のままそう吐き捨てたトリエルさん。…こえぇな、さっきまで優しかったから尚更だ。フリスクは顔を強張らせた。
「何も知らないのね……もしルインズから出たりしたら……」
憐れむような声でトリエルさんは続ける。
「あいつが……アズゴアが……あなたを殺すわ」
アズゴア王の名前を言った瞬間、これ以上なく憎々しげだった。……彼に対する情はちょっと残っているようだけど。
「私はあなたを守っているだけなの、わかってちょうだい?……部屋に戻りなさい」
最後はまた冷たい声でトリエルさんはそう言った。フリスクはちょっと戸惑ってから、またトリエルさんを追いかける。私も後を追った。
「私を止めないで。これが最後の警告よ」
曲がり角で追い付いたトリエルさんはそう言って早歩きで奥へと進む。
「……フリスク、ここから先はきっとこれ以上なく辛い戦いになる。でも、
「……え?」
廊下を進むフリスクにそう言っておく。
「…ここまで誰も殺さずに来れたのはトリエルさんのおかげでしょう?だったら、トリエルさんを殺さず『見逃す』のは当たり前じゃない?」
振り向いたフリスクは少し考えてから、そうだねと頷き、また歩きだす。
……さて、ヒントはあげた。あとは『Player』にこれが伝わっていればいいんだけど。伝わるかわからんが。……まぁ最悪私が身を呈してでも止めるけどね。
……遺跡の最深部。トリエルさんはこちらに背を向けたまま言葉を紡ぐ。
「そんなにここから出たいの?……まったく。あなた達も他の人間と変わらないのね」
呆れたようにトリエルさんは言う。
「一つだけ方法があるわ。私に証明してみなさい……生き残れるだけの強さがあると」
ふと、
『お願い、もう誰も喪いたくないの!』
そう言いながら泣き叫ぶトリエルさんを幻視したような気がした。
世界が、白黒に切り替わった。