守りたいもの   作:行方不明者X

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※長いです

※難産回でした。戦闘描写難しい……


16.トリエル戦

Toriel blocks the way!(Torielが行く手を阻んでいる)

 

戦闘が始まった。私はフリスクの前に立って玩具のナイフとカッターを両手に持って構える。ピクリとトリエルさんの眉がかすかに動く。……この玩具のナイフをみて思う所があったんだろうな。

 

*TORIEL-ATK 80 DEF 80

Knows best for you.(あなたにとって何が一番かを知っている)

 

調べるを押したのかアナウンスが流れた。……フリスクにとっての一番、ね。

 

トリエルさんの手から炎の弾幕が放たれる。一直線にこっちに飛んできたそれをナイフを振り回して消す。フリスクに一発でも被弾させるものか。

 

「あっつ!」

「お姉ちゃん!?」

「おー、大丈夫よ、かすっただけ」

 

じゅっ、と嫌な音を立てて服にかすった所が焦げた。……まぁ、そりゃ熱いだろうと覚悟してたけどね。

 

Toriel prepares a magical attack.(Torielは魔法攻撃の準備をしている)

 

…あくまでも冷徹に振る舞うつもりらしいと見当をつける。動くのに邪魔なリュックを降ろし、水入り瓶を取り出す。

 

You couldn't think of any conversation topics.(あなたは何の会話も思いつかなかった)

 

「フリスク、これ持ってて」

「え?分かった。」

 

……話すを押したのか。そう思いつつ両手の武器に水をかけ、水入り瓶をフリスクに預ける。そして、武器を構え直した。

 

交差する炎の弾幕が放たれる。フリスクを引き寄せて回避し、当たりそうになった炎をカッターでかき消した。……心なしか水かけとけばそこまで熱くないことに気がついた。

 

「あちっ」

 

消しきれなかった炎が頬を掠めていった。火傷したのか、少しピリピリする。

 

You tried to think of something to say again,but……(あなたはもう一度何か言おうと試みた、が…)

 

また『ACT』を押したらしい。ナイフをフリスクに預け、水入り瓶に持ち替える。

 

炎の弾幕が一直線に向かってくる。それを水をかけて消火した。……これやめよ、水がめっちゃ減る

そんなことを考えていたら、一発炎が私に向かって真っ直ぐ飛んでくる。咄嗟に左腕を盾にしてダメージを減らす。

 

ジュッ

 

「お姉ちゃん!!」

「あち……」

 

直ぐ様水をかけて服についた火を消す。すぐに水をかけたのが幸をなしたのか、火傷はそこまで酷くなかった。

 

Toriel looks through you.(Torielは目を反らしている)

 

さっきの一発がトリエルさんの心にダイレクトアタックをかましたのか、アナウンスがそう流れる。

 

*|Ironically,talking does not seem to be the solution to this situation.《皮肉なことに、この状況ではどんな言葉も意味を成さないようだ》

 

……さて、そろそろか。そう思って水が滴るカッターとナイフを構えた。

 

周りを逃げられないように囲まれ、そこから私達に向かって炎が飛んでくる。

 

守りきれないかもと一瞬弱気になるが直ぐに持ち直して両手を振るう。……今度は二発着弾した。水をかけて消火する。

 

*Toriel looks through you.

 

目を反らしていながらも、私達を守るために冷徹に振る舞おうとする彼女に尊敬の意を抱いた。

……でも、なら今までどうして背後にあるドアを壊してしまわなかったのだろうか。

ふと、そんな疑問が頭を掠めた。

そこまで落ちてくる人間達の事を考えているのなら、七人目の時に壊しておけばよかったんじゃないか、と思いながらトリエルさんを見据える。

 

アナウンスは考えているうちに流れたらしく、また炎が飛んでくる。……今度は私達に当たらないように。

あれ、と思いフリスクを見ても怪我はしていない。

ダメージそんなに受けてたか?と思って体を見る。…あ、これ重症だわ。

 

のんきに考えていると弾幕が止む。

 

Toriel is acting aloof.(Torielは冷徹に振る舞っている)

 

……当てないようにしてるの分かってるからいまいち説得力ないなと思いながらも警戒してナイフを構えた。

 

―――――――――――――――――――――

何回炎を見ただろうか。少しボーッとする頭で考えた。

 

『Player』はどうやら気がついていないらしい。どうするか……

 

フリスクを見ると、涙目になってもうどうしたらいいのか分からなくなっている様子だった。

 

もう自棄になったのか、フリスク(Player)は『MERCY』を押した。

 

『……?』

 

会話が進んだ。フリスクははっとしてトリエルさんと『MERCY』ボタンを交互に見た。………あぁ、本当に良かった。『Player』は正しい道を選んでくれた。

 

また炎が飛ぶ。私はそれを見ながら武器を床に落とした。からん、とナイフとカッターが床に落ちた音がした。

……トリエルさんと戦いたくないというせめてもの意思表示だ。

 

*Toriel looks through you.

 

ピッ、と背後でボタンを押す音がした。

 

『何をしているの?』

 

少し驚きを顔に滲ませながら、トリエルさんは威圧するような顔でそう言う。

 

炎が飛ぶ。私は両手を下ろし、トリエルさんをじっと見つめた。

 

*Toriel is acting aloof.

 

また背後で音がなった。

 

『攻撃するか逃げなさい!』

「嫌ですよ」

 

私はそこで口を開いた。

 

「一番最初に貴方が教えてくれたんでしょう、仲良くお話すればいいのよ、って。私達はそれを守っているだけですよ」

 

そう言ってまたじっとトリエルさんを見つめる。……言葉に詰まったのか、トリエルさんは驚いたような顔をしてからそっと目を反らした。

 

*Toriel i―――『ピッ』

 

アナウンスが流れきらないうちにフリスクが『MERCY』を押したらしく、アナウンスがぶったぎられた。

 

『そんなことをして何になるの?』

「貴女を傷つけないですみますし、あとそうですね、貴女との約束を破らないですみます」

「……!」

 

即言い返すと、トリエルさんは驚いたような顔をし、辛そうに顔を歪めた。……心が動いてきてるな、ここらで畳み掛けるか?

 

*Toriel lo―――『ピッ』

 

またアナウンスが切られる。フリスクを見ると、確信した顔で『MERCY』のところに手を置いていた。

 

『私と戦うか去りなさい!』

「だから嫌だって言ってるじゃないですか!」

 

私は声を張り上げる。

 

「確かに外には出たいですよ。でも、貴女はここに落ちてきて一番最初に私達に優しくしてくれた。危ないと判断して手を引いてくれたり、美味しそうなパイを焼いてくれたり。……そんな貴女を、傷つけることなんて、出来ませんよ…」

 

……あ、言っててちょっと恥ずかしくなってきた。というか臭いなこの台詞。映画かっつーの。

トリエルさんは動揺を顔に表し始める。

 

*………Toriel is―――『ピッ』

 

また遮られる。……なんか今のアナウンス、妙な間が出来なかったか?気のせいか?

 

『やめなさい』

 

炎が飛んでくる。でも、最初に比べると大分数が少ない。……確かモンスターは心情によって攻撃力と防御力が下がるんだっけ。それかな?

 

*Toriel is――『ピッ』

 

また間髪いれず『MERCY』が押される。もう体の緊張は解けていた。

 

『そんな目で私を見ないで』

 

トリエルさんの顔がどんどん悲しそうに歪んでいく。……彼女の気持ちを考えると目をそらしたくなるが、その気持ちを振り払ってトリエルさんの目を見つめ続ける。

 

*Torie―――『ピッ』

 

ついに名前まで最後まで言わせてもらえなくなったぞ。余計な事を考えて笑いそうになるのを噛み殺し、私はトリエルさんを見つめた。

 

『あっちへ行って!』

 

トリエルさんの突き放すような言葉を無視し、私は炎の中を一歩づつゆっくりと近づいていった。

 

*Tori―――『ピッ』

 

歩きながら頭の中で流れたアナウンスを聞き流し、また一歩進む。

 

『……』

 

トリエルさんは私から目を反らす。また一歩。

 

*Tori―――『ピッ』

 

『………』

 

顔がまた悲しそうに歪む。止まりそうになる足を無理やり動かしてまた一歩近づいた。

 

*Tor―――『ピッ』

 

あと、数歩。

 

『あなた達がお家に帰りたいのはわかるわ、でも……』

 

トリエルさんが目を反らさずに話し始める。

 

*………

 

ピッ、とまたボタンを押す音がした。

 

『でもお願い……上に戻ってちょうだい』

 

冷徹に振る舞おうという雰囲気はもうなく、彼女は悲しそうにそう言った。

 

*………

 

ボタンを押す音がする。

 

『ちゃんとお世話するって約束するわ』

 

炎の雨ももう降る様子はない。ただ、悲しそうに微笑みながらトリエルさんは言う。

 

*………

 

ボタンを押す音がした。

 

『あまり豊かな場所ではないけれど、それでも……』

 

あと、もうちょっと。

 

*………

 

ピッ、という音がした。

 

『ここでならきっといい暮らしが出来るのよ』

 

……トリエルさんは、本当に私達の事を考えて言ってくれている。でも……

 

*………

 

また音がした。

 

『どうしてそう話を難しくするの?』

 

本当に悲しそうに顔を歪めるトリエルさん。

 

*………

 

ピッ

 

『お願いだから、上に戻って』

 

トリエルさんの前に立った。

 

*………

 

ピッ

 

『……』

 

悲しそうに彼女は俯いた。私はそれを覗き混む。

 

お母さん(・・・・)

「……!」

「お願い、行かせて」

 

私がお母さんと呼ぶと、彼女は驚いたようにしてから、また顔を伏せる。

 

ピッ、と音がした。

 

『はは……』

 

彼女の口から乾いた笑みがこぼれた。

 

ピッ

 

『情けないわ……子供のふたりも守れないなんて』

「ううん、お母さん。あなたはちゃんと守ってくれてたよ」

 

貴女の約束がなかったら多分、フリスクは今頃……そう考えるとゾッとする。

 

ピッ

 

『……』

「ねぇ、お母さん」

 

また目を反らしてしまったトリエルさんに笑いかけ、

 

「ありがとう」

 

そう言った。

 

ピッ

 

『………いいえ、もう分かったわ』

 

俯いていたトリエルさんが声を出した。

 

『ここに囚われていても、あなたは不幸なだけかもしれない。ルインズはあなたにとってはあまりにも小さいもの。こんな場所で育つのは間違っているのかもしれない』

 

トリエルさんは覚悟した顔でこっちを見る。……いつの間にいたのか、フリスクが私の横に立っていた。

 

『私の期待……私の孤独……私の不安……』

 

そこで、トリエルさんの目から涙が落ちる。

 

『あなたのために全て忘れるわ、我が子よ……』

 

にっこりと彼女が笑った瞬間、彼女が私達を思って溢した涙が地面に落ちる。

 

 

世界に、色が戻ってきた。


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