【Lily】
来た道を戻ってきた私達は、そのまま奥の道へと進む。……確か次はグレータードッグ戦か。
「うわ、なんだろうこれ?」
フリスクが点々とある雪まんじゅうに興味を示し、一番近くにあったやつに近づいていく。
……確かどれか一個お金が入ってなかったっけ。
「……雪まんじゅうだって。食べれるのかな?」
「流石に無理があると思うよ。……雪だよ?」
「あー、そっか…」
しゅんとするフリスク。……ちょっと言い過ぎちゃったかな?
「……まんじゅうが食べたいなら地上に戻ったら作ってあげるから我慢なさいな」
「! 本当!?」
「おー。私がフリスクとの約束破ったことあるか?」
「ない!」
マジである。私はフリスクとした約束は絶対に破ってない。あの日した指切りもだ。……ちなみになんでまんじゅうの作り方知ってるかというと、父さんから教わったからだ。父さん和菓子とか作るの好きだったんだよな。
「よーし、じゃあ早く帰らなきゃね!」
「あはは、そこまで急がなくても……」
急いで怪我したらやだし。
そう思いながら雪まんじゅうを片っ端から調べるフリスクについていく。
あっという間にフリスクは奥まで進んでいき、奥にある雪まんじゅうを調べて、ぼすっと中に手を突っ込むという奇行に走った。
「……何やってんの……?」
「この中なんかあるっぽくて……」
若干驚きながら聞けば、そう返事が返ってくる。……あぁ、これだったか、お金入ってたやつ。
「お姉ちゃん、この中お金入ってたー」
「マジか、いいことあったな。……つか冷たくない?大丈夫?」
「大丈夫、一瞬だったからそこまで冷たくなかったよ」
フリスクが手をまんじゅうの中から抜き出すと、案の定手には金貨が握られていた。
フリスクは金貨をポケットにしまうと、最後になった道にある雪まんじゅうに近づいていく。それを見て私はズボンのポケットにしまっておいたカッターと玩具のナイフを気づかれないようにそっと取り出す。
「わんっ!」
「あ、わんちゃんだ!」
フリスクが嬉しそうな顔を浮かべた次の瞬間、その顔は驚愕に染まった。
ゲーム通り、雪の中からゴツい鎧が出てきたからだ。……これどうやって埋まってたんだよ……
呑気にそんなことを思っていると、世界が白黒に切り替わる。
*
…うお、籠手っぽい所についてる犬の顔と目があった。顔はかわいいのに鎧についてるから若干こえぇよ。
若干慄きつつカッターとナイフを構え、フリスクの前に立つ。
*GREATER DOG-ATK 15 DEF 8
*|It's so excited that it thinks fighting is just play.《戦いを遊びだと思いとても興奮しているようだ》
「感性捻曲がってませんかねぇ」
戦いを遊びだと思ってるってどんな教育してんの。
ツッコミを入れていると、彼が槍を横凪ぎに振るってくる。
ブォンッ
「うおっ!?」
青と白に変わりながら振るわれたその槍を青に切り替わった瞬間を狙って体を滑り込ませる。……フリスクに怪我なかったからいいけど、あれ当たったら絶対痣残るだろ……
*
……じろじろ見られんの嫌だからやめてほしいんだが。
そう思いながらフリスクを見ると、手を空中に伸ばしていた。
*
*
まぁそりゃそうだ。この距離じゃ届かないわな。
そう考えていると、今度は『BARK』という文字の弾幕が飛んでくる。
飛んで来たそれをナイフを使って弾き、グレータードッグを見ると、立ちながら眠っていた。……器用だなおい。
*
パチ、と目を開けたグレータードッグは尻尾を振りながらかわいい顔でこちらを見つめている。……槍とも目が合う。こっちみんな。
槍から目を反らし、そのままフリスクを見ると、グレータードッグを手招きしながら口をパクパクと動かしていた。
*
*|It bounds towards you,flecking slobber into your face.《あなたに向かって飛びつき、顔をよだれでベトベトにした》
それに反応してグレータードッグがダッシュで近づいてきてフリスクに飛び付いて顔を舐める。……あーあ、ベトベトになってやがんの。パーカーもちょっと汚れたなー…
グレータードッグがそのまま目を閉じ、弾幕を打つ体勢に入る。手が出せずにどうなるかひやひやしたが、何も起きなかった。……あれ?
「フリスク、無事か!?」
「大丈夫!」
アナウンスを無視してフリスクに聞くと、間髪入れず返事が返ってきた。そのことに安堵しながら、フリスクがグレータードッグの頭に手を伸ばすのを見届ける。
*|Greater Dog curls up in your lap as it is pet by you.《Greater Dogはあなたがなでると膝の上で丸くなった》
*
アナウンスとは異なり、フリスクの膝に頭を乗せ、膝枕状態でグレータードッグは目を閉じる。フリスクが優しい顔で彼をなでる。
……そこかわれ。
Zzzzz……
……
*
*
目を開き、グレータードッグはばっとフリスクから距離を取る。その隙に私はフリスクの前に立った。
その瞬間、槍が突き出され、不意をつかれ避けきれなかった私の肩を掠めていく。Tシャツの袖と肌を槍の先が切り、血が流れる。
「いてっ」
「!!」
「……あー、大丈夫だからそんな顔すんな」
一気に心配そうな顔になったフリスクを嗜め、アナウンスを無視して傷を改めて確認する。……そこまで深くない傷だと判断し、放置してグレータードッグを見据える。
フリスクは息をつき、雪を集めてボールにすると、思いっきり投げた。
*|You make snowball and throw it for the dog fetch.《あなたは雪玉を投げて犬に取ってこさせようとした》
*
はじけた瞬間フリスクが「あっ」って言ったのは聞き逃さなかった。
*|Greater Dog picks up all the snow in the area and bring it toyou. 《Greater Dogはそのあたり全ての雪をかき集めて持ってきた》
予想の遥かナナメ上をいく量をかき集めて持ってきたグレータードッグ。ドサッという音を立てて目の前に落とされたそれは、小さく山を作っていた。……いや多過ぎだろ。
*
*
フリスクがまた膝枕をしてやると、グレータードッグは静かに目を閉じる。……あ、そういやこの寝る弾幕動かなければいいんだっけ。忘れてた。
「フリスク、この攻撃の時は動かないで!そうすれば攻撃されないっぽい!」
「そうなの!?わかった!」
フリスクにそう伝えると、フリスクは小さく頷いた。
*
……この言葉は結構考えさせられる。ただ甘えたいだけなのか、それとも何か暗い過去があってそれを癒してほしいのか。
まぁ、ただなでてほしいんだろうけどなと結論づけ、行き先を見守る。
*|As you pet the dog, it sinks its entire weight into you《あなたがなでると、犬はあなたに体重を預けてくる》……
……これゲームでも思ったけど、フリスク潰れない?大丈夫?
*
*
またグレータードッグが目を閉じて文字弾幕の攻撃をする。フリスクと私が微動だにせずにいると、弾幕は発射されることなく過ぎた。
*
なでなで度ってなんやねん。
苦笑しながら心の中でツッコミをいれ、グレータードッグとフリスクを見る。フリスクは目を閉じたままのグレータードッグに手を伸ばし、なでていく。
*
*
*|The dog flops over with its legs handing in the air.《犬は高く飛び上がりあなたの上に覆い被さった》
ばっと飛び上がったグレータードッグに反応が遅れ、フリスクは地面に縫い付けられてしまう。……ぐりぐりと頭を擦りつけているだけでよかったよ。
そのまままた動かないでいると、弾幕は来ないままターンが過ぎる。
*
……これで大丈夫か。
安心してカッターとナイフをしまい、フリスクが『MERCY』を押すのを見届けた。
*
*
そうアナウンスが流れ、世界に色が戻ってくる。
「わんわんっ」
鎧から抜け出てきた一匹が、フリスクの鼻の頭を舐める。
そして、鎧に逆向きで入ると、そのまま歩いていった。……もう一度言う、逆向きでだ。
「……あれ一匹で動かしてたの…?」
「………さぁなぁ……」
フリスクがぎょっとしたながらもらした呟きに返答する。……魔法ッテスゴイナー。
「ん、あ、そう言えば……ほら、これで顔拭きな?」
「あ、ありがとう」
顔をよだれでベトベトにされていたことを思い出し、ハンカチを渡す。顔を拭いた後、フリスクはハンカチをポケットにしまい、パーカーを脱いで返してくる。
「もう暖まったから大丈夫」
「そう?じゃあ返してもらうわ」
パーカーに袖を通し、ジッパーを上げる。……あ、あったかいわ。子供体温凄すぎか。
「……さて、行こうか」
「うん」
頷いたフリスクの手を握り、奥へと進んだ。