【Sans】
「Grillby's、いいとこだったねー」
「ねー!」
そう話しながらアイツらはGrillby'sから出てくる。そのまま住人達に話しかけ、話し終わるとすぐに歩き出す。俺は気付かれないように林の中を移動し、アイツらの後を追う。
「……――」
ふと、何かに気付いたらしいアイツがこちらを見る。まずい、気づかれたか…?
少しこちらを見た後、アイツは目線を逸らしてクソガキの後を追う。……なんだったんだ?
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しばらくアイツらは町を探索すると(途中で間違い電話がかかってきて驚いていた)、宿に入っていく。……休むつもりか?
しばらく様子を伺っていると、また宿の扉が開く。 出て来たのは紛れもないアイツだった。その傍にあのクソガキは居ない。
「………」
アイツはキョロキョロと周りを見渡した後、歩いて移動していく。……一人で何処へ行く?
俺はアイツに気付かれないようにまた追跡する。ぐるりとアイツは町を一周すると、Grillby'sの角を曲がって真っ直ぐに進んでいく。……あの先は崖しかない。どういうつもりだ……?
―――――――――――――――――――
俺がアイツを追って町外れの崖についた時、アイツは電話をじっと見ていた。
「………んー、やっぱ違うよなぁ」
「何がだ?」
ぽつりと独り言のように呟かれた言葉を追及すれば、ソイツは振り返った。
「……Sansか。何してんだいこんなとこで」
「それはこっちの台詞だな?」
振り返ったソイツに疑問を返す。
「私はちょっと試したかった事があっただけさね。……で、君はなんでここに?」
「俺もちょっと試したい事があってな」
にっこりと笑ったソイツに渡されたノートを投げ返す。
「ちょっ、大事なノートなんだから粗末に扱わないでくんない!?」
「黙れよ」
いつもはこんな町中で呼ぶことのないGaster Blasterを呼び出し、その発射口を向けると、ソイツは警戒するようにぴたりと動きを止めた。そして、じっと此方を見つめ、ふっと笑う。
「……そっか、私を試しに来たのか、君は。……何をするつもりなんだい?ここで戦ったりしたら騒ぎになるよ?」
「あぁ、だから問答だけさ」
「問答?」
……俺がコイツに近づいた理由。それはコイツが何者なのか知る為だ。コイツが怪しい返答をした瞬間、ここでコイツを焼き殺す。
「……そっか。じゃあさ、問答には答えるからさ、私も一つ質問いい?」
「は?」
「じゃなきゃ答えてやらん」
にやり、と笑いながらコイツは言った。……こっちが質問した時に答えないのはまずい。答えないわけにもいかないと判断し、俺は許可をする。
「………いいぜ」
「じゃあさっそく質問ね。これ返すって事は、読み終わったって事でいいんだよね?いつ読み終わったの?」
「…………お前らが雪フライを買おうとしてた辺りにはもう読み終わってたさ」
「そう………」
投げ返されたノートを指差して問うコイツの質問に返答すると、
「ありがとう、妹の前では知らないフリしててくれて」
と俺の目を見て優しく笑い、そう言った。……俺の知ってるその顔の奴は、そんな風には言わない。
「……次はこっちが質問するが、いいな?」
俺がそう言えば、アイツは素直に首を縦に振る。
「いいよ、何?」
……言質は取った。なら、容赦なく質問させてもらう。
「お前は一体何を知ってる?……そのノートには、とてもじゃあないが信じられない事が書いてあった。『私の妹は第三者に操られているだけ』?『その第三者と繋がる糸』?『決意の光』?何だそれは」
その質問に、少し顔をしかめてからアイツは答える。
「何を知ってる、か……うん、大体の事は一応知ってるよ。例えるならばLOVEの意味とかね」
「ほう、それじゃ意味はなんだ?」
「えっと確か……『Level Of ViolencE』だったっけ」
……合ってるな。
「正解だ」
「あ、良かった」
少しほっとしたように肩の力を抜くアイツ。……『良かった』ってなんだ?
「で、『糸』の事なんだけど」
回り始めた思考を切り替え、答えを一字一句聞き逃すかと集中する。
「……君たちには見えてないだろうけど、あの子には糸が巻き付いてるんだ」
少し目を伏せながらアイツは語る。
「例えるならマリオネット人形かな?……数年前から、日に日に増えていって、今じゃ何本もの糸があの子に巻き付いてる。……ふざけんなって思って切ってみたりしたんだけどね、直ぐに直っちゃうんだよ。……で、私はその糸があの子を操る『誰かさん』に繋がってるって確信してる」
「何故だ?」
「それは……秘密」
キレそうになるが、ぐっと抑える。言った本人は空なんて見えやしないのに空を仰ぐ。
「……この話あんまりしたくないから次の質問に移るね。『決意の光』の事だけど、これは君が知っているであろう『セーブ』、『ロード』を行う為の言わば中間地点のようなものだ」
「……何故俺が『セーブ』と『ロード』について知ってるような口振りなんだ?」
俺が問うと、返答者は余裕の顔を崩さずに答える。
「……言っただろう、大体は知ってるよって。……ん?」
そこまで言って返答者はふと気がついた様な顔をして俺を見た。
「……君、セーブとロードとリセットについて何処まで知ってる?知識量によっちゃ説明が要るんだけど……」
「…………あのクソガキがゲームみたいにこの世界をセーブしたり、ロードしたり、全部0にリセット出来るって事ぐらいだが?」
「あー、その認識ならまぁ間違いはないな」
納得したようにアイツは頷き、あと、と続ける。
「………私の妹を、『クソガキ』呼ばわりは、辞めて欲しいかなぁ」
何処までも悲しそうな、寂しそうな顔をしながら、そう言った。
「……話を戻すよ。聞かれてないけど、『セーブ』と『ロード』についてもついでに話させてもらうね。その認識に、まぁさっきも言ったけど、間違いはない。でも少し誤解がある」
返答者はそう指摘する。
「それは何だ?」
俺が問う。
「君が『セーブ』と『ロード』と『リセット』をあの子の力だと思っている所だね」
返答者は迷いもなく即答する。
「………あの子が産まれて10年間、あの子の傍にずっといたけれど、あの子が
何処か忌々しげに、憎むような声で返答者は答える。
「……さっきの『糸』の話にも繋がるけど、その『決意の光』が見えているのはあの子が世界に『
最後は遠くからでも分かるほど燃え上がるような強い憎悪を目に籠らせながら、返答者は吐き捨てた。
「質問はそれだけ?それともまだある?あるならあんまし込み入った質問はしない方がいいと思うんだけど……」
目に籠った憎悪を消散させ、少し周囲を気にしながら返答者は言う。
「何故だ?」
「だって、ここにもし誰か来たらどうすんの?君みたいに世界の真理に気付いてしまうかもしれないじゃん?」
……それもそうだ。コイツの言うことも一理ある。
「そうだな」
「でしょ?……で、質問ある?」
「……あぁ、あと一つだけな」
「そっか。何?」
少し首を傾げて俺の問いを待つ返答者。それに俺はこう問いかけた。
「………お前さんは、一体何者だ?」
その問いに、返答者は
「…………私はLily、あの子の姉さ。世界の真理を知って、それでもただ大切なものを守りたいだけの、ただのシスコンだよ」
にっこりと笑いながら、返答者はそう答えた。
「……heh、そうかよ」
俺はいつでも光線を発射出来るようにしていたBrasterを消し、左手をポケットに突っ込み、通れるように道を譲る。
「…また込み入った話は今度二人でしよう。……それじゃあね、Sans」
ソイツは俺が譲った道を通り、帰って行こうとする。
「………あ、そうだ」
ふとソイツの足が止まり、振り返って俺に優しい、誰よりもアイツを愛している姉の笑顔で言った。
「ありがとうね、このタイムラインの××××と友達になってくれて!」
その笑顔と言葉に、今度こそ俺はただ言葉をなくして、帰っていくLilyの背を見つめることしか出来なかった。
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【Lily】
サンズがブチギレてた怖い。
今頃になってどっと出て来た冷や汗を拭い、問答中ずっと早鐘を打っていた心臓を深呼吸してなんとか落ち着かせる。
いやまさかfunイベとかのこと考察しようと思って崖まで行ったらサンズと遭遇するとか思わないじゃん?気付いたらもう後ろいたしさぁ……あれか瞬間移動使ったんか!?……もう後半から取り調べみたいになってて怖くて殆んど何喋ったか覚えてねぇよ……いや、サンズから見たら私超不審人物だしね?尚且つ弟の命かかってる訳だしね?気持ちは分かるけど勘弁してよ……
生まれたての子鹿のように足をぶるぶるさせながらなんとか宿まで着き、扉を開く。
「おかえりなさい……ってどうしたのおねえさん!?」
「お客様!?」
「あはは……ちょっと冷えちゃってね…すぐ休むから大丈夫だよ。ありがとう、心配してくれて」
兎のモンスターとカウンターで隠れるようにしていた兎の女の子(結構持ってきたキャンディーお裾分けしたら仲良くなった)が心配そうに声をかけてくれる。荒ぶってた心が一気に落ち着いた。
「そう?……ならはやくやすんでね!」
「ゆっくり休んで下さい」
兎さん達がほっと安心したような顔をしたのを見届け、私は階段を上って割り当てられた部屋に入る。二人だから160Gかなーと思ってたけど、80Gですんで良かったよ。
音を立てないように注意を払って静かに扉を開閉する。……フリスクはまだ寝てたか。良かった。
「あー、疲れた……」
返されたノートをリュックにしまう前に、サンズについてノートに記入しておく。
極度の人間不信になっていると考察。タイムラインを何度も繰り返した結果か?セーブ、ロードについては原作通り…と。
ペンを置いてノートを最初まで遡ると、手紙を書いておいた部分が乱暴に千切られていた。……あの野郎……その裏に何も書いてなかったから良かったけど、書いてあったらどうするつもりだったんだおい。
腹が立ったが、此処に居ない人物に言っても仕方ないと結論付け、ノートをしまい、靴を脱いでベッドに寝転がる。割りとすぐに睡魔が襲ってきて、そのまま私は布団を被って眠りについた。
※2023/1/26 加筆訂正