守りたいもの   作:行方不明者X

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39.仲直り

【Papyrus】

 

「お姉ちゃん!!お姉ちゃん!!!」

 

雪の上に倒れた人間を揺さぶる小さい人間。その光景に俺様はただ呆然とするだけだった。

 

 

……今、倒れている人間はさっきなんて言った?

 

 

『倒すつもりも、傷つけるつもりもないよ』

 

『この子の友達に……なってほしかっただけなんだ』

 

 

何回も俺様の攻撃を受けて。

 

 

血を流してでも、攻撃を弾いて。

 

 

…………俺様を、真っ直ぐに見つめて、

 

 

優しい笑顔でそう言った。

 

 

「いやだよお姉ちゃん!!しんじゃやだぁ!!!」

 

泣き叫ぶ人間の言葉にはっとした。

 

 

………死ぬのか?俺様を傷つける気もなかった人間が?

 

 

 

死、ぬ?

 

 

 

そう理解した瞬間俺様は大きな人間を小さい人間ごと抱き上げて家に走り出していた。

 

―――――――――――――――――――――

【???】

 

契約、という言葉に私は疑問を抱く。……随分急な話だ。死んでいる私に何が出来ると言うのだろう?

 

――――……ちゃんと理由はあるよ

 

声が聞こえる。……どんな理由なんだろうか、想像がつかない。

 

――――……単純な話だよ。とにかく、契約の内容を説明するね

 

聞くだけならただだと判断して耳を傾ける。

 

――――……君は、『×××××××』って知ってるよね

 

……あの大人気ゲームのことだろうか。その名前にはそのゲームしか思い浮かばない。私が、大好きだったゲームだ。

 

――――……君にその世界に行って、『彼女』を救ってほしいんだ

 

その言葉に驚愕する。……私が、救う…?

そんな都合のいいおとぎ話の主人公のような存在に、私になれというのか?

貴方が何を考えているのかさっぱりわからない、と伝えようとする。……そもそも、ここから出られないはずなのではないのか。

 

――――……此処から出るために契約を結んで欲しいんだよ

 

此処から出るため?

私は彼(?)の言葉を反芻する。

 

――――……契約を結んで、その契約を達成させるために転生させるという手段を使えば、此処から出れるんだ。僕だって曲がりなりにも××だからね

 

そうなのか、と何処かで納得した。……だが

 

――――……理由、知りたいよね

 

思考を読んだらしく、彼が続ける。……話してくれるなら、どうか教えて欲しい。何故、出会ったばかりの私に契約を持ちかけるのか

 

――――……いいよ、それはね―――

 

――――――――――――――――――――

【Lily】

 

ふと、身体の至る所に冷たい物が当たっている感覚で目が覚めた。見上げているのは見慣れない天井。もやがかかったかのようにぼんやりする頭で考える。……此処何処だ?

 

「……い"っづ!!!!」

 

身体を起こそうとして走った激痛に思わず声をあげた。その痛みで頭のもやが晴れる。………あぁ、体が限界向かえちゃって倒れたんだっけか。

痛みを何とか堪えて身体を起こし、身体をペタペタと触ったりしてみる。きちっと包帯が巻かれているところと少し緩いところがあった。……二人で巻いてくれたのだろうか。痣を発見して一瞬顔が渋くなったのはナイショ。

次に部屋を見回す。見回して目についた物は本棚、パソコン、そして男の子が好きそうなフィギュアに海賊旗。……あ、この部屋って……

 

バンッ

 

この部屋の主が誰か分かったその瞬間、大きな音を立てて扉が開いた。

 

「………お姉ちゃん?」

 

部屋に入ってきたのは、エプロンをしたフリスクだった。

 

「……おはよ、フリスク。怪我ない?」

 

そう笑って言ってみれば、フリスクは直ぐに目に涙を溜めて駆け寄ってきて、私に抱きついた。

 

「おねぇちゃん……よかったぁ……」

「あはは、心配かけてごめんね」

 

痛みを我慢して腕を動かし、フリスクの頭を撫でる。……結構いてぇ。

回復アイテム食べればいいかと思案した所ではたと気付く。……そういえばリュック投げっぱなしじゃなかったっけ?

 

「お姉ちゃん?どうしたの?」

 

私が固まったことに疑問を持ったフリスクが見上げてくる。かわいいけどそれどころじゃない。

 

「……フリスク、私のリュックってどうした?」

「? ……あ」

 

フリスクも気付いたらしく、忘れてたと言わんばかりに口を小さく開ける。

 

「ぼく、取ってくるよ!」

「あー、じゃあお願い」

「うん、行ってくるね!」

 

少々不安だがフリスクに任せると、フリスクは私から離れ、部屋から出て行った。

しばらくどうしていようか思案していると、

 

コンコンコン

 

ノックが三つ、フリスクが閉めていった扉から聞こえた。……フリスクはついさっき出ていったはずだし、サンズは多分私に必要以上近付こうとしないだろうしな。ということは……

誰だか見当をつけ、入るぞ、といって部屋に入ってきた彼に私は笑顔を作る。

 

「おはよう、パピルス。ごめんね、ベッド借りちゃって」

「気にしなくていい!」

 

入ってきたのは、案の定パピルスだった。

 

「起きたならこれを食べるといいぞ!!人間と一緒に作ったのだ!!」

 

そう言ってパピルスは持ってきたトレーをベッドの傍に出してあった机の上に置き、置いてあった包帯の残りを片付ける。……テキパキ動いてんな、と何処かズレた感心をする。

 

「そっか、ちょうどお腹空いてたし、いただこうかな」

「! 召し上がれ!!」

 

食べると言えば、ぱあっとパピルスは笑顔を見せた。

パピルスはパソコンの前にあった椅子を持ってきて傍に座る。……じーっと見られてるからちょっとはずい。

痛む腕を使ってなんとかフォークを持ち、パスタを絡めとる。……匂いと見た目は美味しそうだけど、どうなんだろうか。

パスタを口に運んで咀嚼する。……フリスクが一緒に手伝ったからだろうか、そこまで味は酷くなかった(少なくとも思わず渋い顔をするレベルではない)。ちょっとまずいけど、でも……

 

「………うん、美味しいよ」

「!!! そうか!!!」

 

確かに籠っている『愛情』に、自然と頬が緩んだ。

私のだらしないであろう顔を見て安心したように笑うパピルス。……かわいいなぁ。

フォークでパスタを絡めとっては食べ、絡めとっては食べを繰り返す。その間もパピルスはにこにこしながら私を見つめていた。

 

カラン

 

パスタを完食し、フォークを皿の上に置いて手を合わせる。

 

「ごちそうさまでした、美味しかったよ」

「それは良かった!!」

 

お礼を言えばパピルスはまた笑った。……そしてそのまま、気まずい沈黙が流れ始める。

 

「………」

「………」

 

……何を言い出そうか迷っているんだろうな、とパピルスの心情をなんとなく察する。優しい彼のことだから、きっとこの怪我のこと気にしてるんだろうし。

 

「……なぁ」

「うん?」

 

最初に沈黙を破ったのはパピルスだった。パピルスの呼び掛けに私は答える。パピルスの顔を見ると、迷っているような顔をしていた。

 

「……『ごちそうさま』って、なんだ?」

 

少し間を開けてから彼は疑問を口にする。

 

「あぁ、それね。私と妹の父さんは日本って国の出身でね。その国では食事をする前に『いただきます』、した後に『ごちそうさま』って言うんだ。確か、その食事を作ってくれたり、その料理に使われてる野菜とかを作ってくれた人達に対する感謝の気持ちと、野菜とかの命をもらうから……じゃなかったかな?」

「オーホー!!そうなのか!!」

 

彼の疑問に自分が知っている限りの事を答える。……これで大丈夫だったっけ。戻ったら調べないと……

そう考えていると、また会話が途切れて沈黙が流れる。……気まずい。どうしよう、超気まずい。

 

「………地上には、色んな国があるのか?」

 

またパピルスが質問を投げ掛けてくる。

 

「うん、そうだよ。いくつあったっけな……結構あったと思ったんだけど。で、その国とかによって話す言葉が違うことがあったりするんだ」

「そうなのか……」

 

質問に答えると、また沈黙が流れてしまった。……仕方ない、私から行くか。

 

「……ねぇ、パピルス」

 

声をかけるとビクッとパピルスは肩を揺らし、俯いていた顔をあげて私を見る。

 

「………そんなにさ、気にしなくて大丈夫だよ?」

 

きっと彼が気にしているであろう問題に触れる。

 

「というかあれは、避けきれなかったりした私が悪いし。ごめんね、急に倒れてビックリしちゃったよね」

「………ちが、う……」

 

私が頭をかきながらそう言えば、パピルスは小さく否定の言葉を口にする。

 

「……俺様は………傷つけるつもりもなかった…お前を傷つけた……友達になれるはずだった……お前を、傷つけ、た……!!」

 

………あぁ、やっぱそう思ってたのか、と目に涙を溜め始めたパピルスの顔を見て冷静に思った。

 

「…………おれさまは……!おまえより……おれさま自身の夢を優先した……!」

 

ぼろぼろとパピルスの目から大粒の涙が流れては落ちる。………あぁ、やめて、そんな顔しないで。

 

「おれさまは……おれさまは……!!」

「パピルス」

 

布団をどけ、泣きじゃくるパピルスに近付いて彼の涙を拭う。

 

「………仲直りの、ハグをしよう」

「……なかなおり……?」

 

私が笑って提案すると、パピルスは目に涙を溜めながら首を傾げる。

 

「うん。……私と妹はね、喧嘩しても、どんなに傷つけてしまっても、最後はハグして仲直りしてるんだ。だからさ、ハグして仲直りしようよ」

「………でも……おれさまは……おまえの友達じゃない……」

 

私の言葉にパピルスは戸惑いを見せる。私は彼の目から溢れてしまって流れた涙をまた拭って彼に笑いかける。

 

「友達だよ、とっくのとうにさ。傷だって大丈夫、直ぐ治るよ。……私はね、君とこのままの関係でいる方が、もっと辛いの。だからさ、私と仲直り、してくれないかなぁ?」

 

そう言えば、パピルスはまた涙をこぼして、それから私を抱きしめる。私も彼を抱き締め返し、ゆっくりと彼の頭を撫でる。

 

「……ごめんなさい……ごめんなさい……!!」

「……いいよ、パピルス。だからもう泣かないで、ね?」

「うん……!!!」

 

Tシャツの肩辺りが彼の涙で濡れる。それを気にせず、私は彼が泣き止むまで彼を抱き締めつづけた。


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