【Lily】
「お姉ちゃん、怪我はもう大丈夫?」
デートを終えた後、パピルスの電話番号を手に持ったままフリスクが尋ねてくる。
「おー、大丈夫だよ。念のため飴二個食べたしな」
そう言ってすっかり痛みの引いた体を動かし、パピルスのベッドから降りる。……うん、違和感とかはないな。
「………そう言えば、私のパーカーは?」
ふと、いつも着ている私のパーカーが何処にもないことに今更気付いた。
「あぁ、それなら……」
フリスクが何かを言いかけたところで、バンッと勢いよく扉が開く。
「パーカーならここだぞ!!」
入ってきたのは、私のパーカーを持ったパピルスだった。……あ、服元に戻った。
「切れていたりしたところがあったからな、縫っておいたぞ!」
「え、ごめん、わざわざありがとう……」
パピルスが掲げたパーカーは、私が気絶している間に縫ってくれたらしく、殆どの所の切り口が縫われてあった。
パピルスからパーカーを受け取り、袖に腕を通す。……おぉ、綺麗に縫われてら。ホント器用だな……
チャリ、と袖に手を通す時にずっと着けていた腕輪が擦れて音を立てる。
「あー……これ無くすと嫌だし外しとくか……」
腕輪を外し、パーカーのジッパーをあげる。
「……その腕輪、どうしたのだ?」
「ん、これ?」
パピルスが腕輪に興味を持ったらしく、声をかけてくる。
「自分で作ったんだよ。……ちょっとしたお守り代わりにつけてるのさ」
「そうなのか……」
水色、橙色、紫色、赤色、青色、緑色、黄色のそれぞれのハートが揺れる。……これは、私が作ったものだ。私の決意を示すためと、フリスクが幸せであるようにという祈りを込めただけの、ただの腕輪。……私の、決意。
リュックに腕輪をしまい、リュックを背負う。
「よいしょっと」
……あ、ちょっと軽くなった。
「……あ、フリスク、携帯とメモちょっと貸して」
「? はい」
フリスクから電話とメモを借り、パピルスの電話番号を登録する。……あ、これこうすれば登録できるやつだ。
ピッ
「!」
携帯を好き勝手に弄っていると、トリエルさんの携帯番号が表示された。
「………よし、登録出来たよ!」
「ありがとうお姉ちゃん」
何事もなかったかのように表示を消し、さっさと番号を登録してフリスクに携帯を返す。……そう言えば、トリエルさんの電話イベ、どうなったんだろう。
「……取り敢えず、間違ってないか確認の電話してみて」
「うん」
「パピルス、電話出しといて」
「分かったぞ!」
パピルスは返事をして電話を取り出す。……今どっから出した……?
プルルルル………
フリスクが電話をかけると、
プルルルル………
パピルスの手の中にあった携帯が振動する。
『「繋がったぞ!」』
パピルスが出て、電話が繋がる。……電話からと真正面からの声がハモって変な感じに聞こえんな。
「うし、大丈夫そうだな。しまっときな」
フリスクは私の言葉に頷くと、電話を切ってポケットの中に突っ込む。
「さて。……じゃあ、そろそろお暇しましょうかね」
私がそう言うと、パピルスは少し顔を曇らせる。それを気付かなかったフリをして、私は部屋のドアを開けようとする。
「………待て」
ノブに手をかけた瞬間、パピルスが声をかけてきた。
「………途中まで、送るぞ」
――――――――――――――――――――
【Papyrus】
「これでしばらく雪ともお別れかー」
ざくざくと、感触を楽しむかのように雪を踏みながら笑う人間。……もう少しで、この人間達は王様の所までいくのだろう。
「………待ってくれ」
Waterfallに続く一本道で、俺様は声をかける。
「ん、どうしたのPapyrus?」
俺様の声に応えて、人間は振り返る。
「……地上への道を教えてやろう!」
「え、ホントに?」
俺様がなんとかそう告げると、人間は驚いたように目を瞬かせる。
「洞窟の終わりにたどり着くまで進み続けるのだ。そして……首都に到着したら、結界を通るのだ。」
「結界……?」
小さな人間が不思議そうに俺様の言葉を繰り返す。
「そうだ。それが俺様たちを地下に封じ込めている魔法のカベだ。」
「壁か……」
少し考えこむように腕を組む大きい方の人間。
「結界に入るのは簡単だが、決して出ることはできない……ただし、強いソウルを持つ者だけは例外だ。……そう、お前たちのような!!!」
そこで大きな人間が顔を少し下に向けて雪を見つめる。
「だから王様は人間のソウルを欲しがっているのだ。」
「そうなんだ……」
顔をあげた大きな人間と、小さな人間が揃って納得したような顔をする。
「彼はソウルの力で結界を破ろうとしている。そうすれば俺様たちモンスターも地上に帰ることができる!」
俺様は思わず大きな声で言って、いい忘れたことがあったことに気付いた。
「……そうだ、言い忘れるところだったが……出口に辿り着くには、お前たち、は……」
ふと、そこまで言いかけて、目を逸らして忘れようとしていた恐ろしい事も思い出し、俺様は言葉を続けられなくなった。
「……どうしたの?」
大きな人間が、俺様が言葉に詰まったのに気付いて心配そうな顔をする。その顔から、俺様は目を逸らしてしまう。
……この人間たちが、また、傷付いてしまわないか、俺様は気付いてしまっていたのだ。
さっき、大きな人間を抱えた時、思わず無い背筋が寒くなるほど、冷たかった。
顔は青ざめて、目は硬く閉じられて。
………また、あんな風に、人間たちがならないのかと、俺様は
「Papyrus」
ふと、大きな人間の声が近くで聞こえる。そして、俺様の顔を下から見上げるようにして、傍に居た人間が、
「………大丈夫だよ」
俺様を元気付けるかのように、にっこりと笑った。
その笑顔に、俺様はとても安心した。……人間は凄いな、モンスターの気持ちが分かっちゃうなんて。
「……ゴホンッ、話の続きをするぞ人間!」
俺様は気を取り直し、人間たちに説明する。
「出口に辿り着くには、お前たちは王様の城を通り抜けなきゃならない。全てのモンスターを統べる王……彼は……その………」
人間たちが真面目な顔になり、俺様を見つめる。
「彼はデカくてぼんやりしたお人好しだ!!!」
俺様の言葉に何故かガクッと躓いた人間たち。……石でもあったのか?
「そ、そう……」
「そうだぞ!!みんな彼のことが大好きなんだ。」
俺様は王様のことを想って誇らしい気持ちになる。……そうだ、あの王様が人間たちを傷つける訳ないのだ。
「お前たちはこう言うだけでいい。『すみません、DREEMURRさん……おうちに帰ってもいいですか?』
そうすればすぐに彼は自らお前を結界に案内してくれるだろう!」
「そう……」
相槌を打つかのように頷く人間。
「とにかく!!!話は以上だ!!!」
「そっか、ありがとうPapyrus、教えてくれて」
にっこりと、そっくりの笑顔で笑う人間たち。その顔に、俺様も思わず笑顔になる。
「俺様はいつでもクールなお前たちの友達だからな!!!いつでも戻ってきていいぞ!!!」
「あはは、ありがとう」
ボソッと小さく、大きな人間が笑った後に何か言ったような気がした。……きっと気のせいだな!!!
「じゃあね、Papyrus」
「またねー!」
「ああ、またな!!!」
俺様に手を振って、人間たちはWaterfallへと歩いていった。……途中、小さな人間が一度振り向いて、また俺様に手を振った。
「…………さて。」
…人間たちが見えなくなったところで俺様は振っていた手を降ろし、スカーフを巻き直す。
大きな人間の笑顔を思い出しながら、俺様は決意を抱く。
「Undyneに、
……この先にはUndyneが待っている。彼女はきっと、人間を捕まえようとするだろう。だから、俺様は……
弱気になりそうになるのを頭を振って振り払い、俺様も歩きだす。
…………ニェッヘッヘ、俺様は、クールな友を守るのだ。
※彼って、一度体験したことがトラウマになりそうな性格だなと思って。ファンの方本当にごめんなさい