【Gaster】
……………――――コン、コン、コン
間の空いたノックが空間に響く。音が聞こえた方を見れば、あるはずのない灰色の扉が現れていた。
ギィ
扉が軋む音を立てて、扉が開く。そして、近付いてくるこの空間に入り込んだ人物は、よく見覚えのある顔の少女だった。
『………Chara王女?』
「ちげぇよ」
溢した疑問に即答されて思わず目を見開く。呆れたようにこちらを見る少女は、一瞬見間違う程に似ていたが、確かにChara王女ではなかった。
そして彼女は、私の言葉がどうやら理解する事が出来るらしいと遅れて気付き、再度目を見開いた。
『君は私の言葉が解るのかい?』
「まぁな。……この空間のせいか雑音みたいなのが混じって聞こえにくいけど」
理解出来ない訳ではないよ、と彼女は付け足す。………彼女は誰だろうか。今更ながら、そんな疑問が湧く。
「………あぁ、そう言えば自己紹介がまだだったね。私はLilyだよ」
私の心の中を読んだかのように、彼女……Lilyは名を名乗った。
『そうか、私の名は……』
「
Lilyの口から私の名が出た事に驚愕する。……
「………何で私が貴方の名前を知ってるか不思議?」
思案しようとした私の事を見透かしたかのように彼女は言う。
『ああ、不思議だとも。君とは初対面のはずだし、何故私の言葉が理解出来るのかも分からない。それに、君は本来此処に来れないはずだろう?それも分からない。』
質問を肯定し、つらつらと次々沸いてくる疑問を並べる私を、彼女は只真っ直ぐに見つめる。
『………君は一体何者なんだ?』
私は土のような色をした瞳を見つめ返す。すると、彼女は少し目を伏せ、
「………さぁね、何者なんだろうね、私は」
と、私の質問に答えた。
『………ふむ、自分でも分からない、か。実に興味深いな。』
「はは、やっぱりアンタはそういう奴かよ」
私が純粋に興味を示せば、彼女は頬を引き吊らせながら乾いた笑い声をあげる。そして、真剣な顔をして私を見る。
「そんなアンタだからこそ、協力してほしいことがあるんだけど」
『………ほう。』
彼女は私に取引を持ち掛けてくる。
「協力してくれたら……そうだな、私が知ってる範囲であれば何でも教える」
『例えば?』
「例えば?……そうだな、この世界についてとかどう?」
………この世界について?
私はその言葉に興味を抱く。
「………あはは、気になる?」
『ああ、とてもね。』
「そう。じゃあ、取引する?」
私はニヤリと笑って手を差し出してきた彼女を暫し見つめ、思案する。
………彼女と取引を結んだとして。彼女が話す情報はどれぐらいだ?そのメリットは?デメリットは?
そうしばらく悩み、私は………
『………よろしく頼むよ、協力者君』
彼女の手を取った。
「あはは、こちらこそよろしく、博士」
手を握り返した彼女が言った『博士』という言葉に思わず目を丸くする。………あぁ、博士なんて呼ばれたのはいつ以来だっただろうか。ふと、遺してきてしまった二人を思い出す。彼らは元気にしているだろうか。
「さて、まずは情報交換しようか。じゃあまず最初に……」
彼女は胡座をかいて座り込み、私に情報を与え始めた。
彼が言う二人とは、とある兄弟の事です。