守りたいもの   作:行方不明者X

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45.妹への愛と気付かれていた恐れ

【Sans】

 

Shortcutを使い、いつも通り騒がしいGrillby'sの中に移動する。

 

「すごい近道だったろ、な?」

 

俺がそう言いながら振り向けば、人間は驚いた顔をして頷いた。

 

「よう、みんな」

 

前に向き直って進みながら、いつも通りの面々に挨拶をする。

 

「おう、Sans」

「ハァイ、Sans」

「こんにちは、Sans」

「やぁ、Sansy~」

 

いつも通りの面々が、いつも通りの挨拶を返してくれる。

 

「なあSans、ついさっき朝ごはん食べに来てなかったか?」

 

空いていた席に座ろうとすると、一人が話しかけてくる。

 

「いや、朝ごはんはついさっきじゃないぜ。お前さんが言ってるのはブランチのことだな」

 

俺がジョークを言うと、ドッと店内で笑い声があがった。人間も、少し笑っていた。

 

「さ、くつろいでくれ」

「じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

俺が席を薦めると、人間は疑いもせずに椅子の上に座る。

 

ブォォォォー

 

人間が座った瞬間、椅子に仕掛けたブーブークッションの音が盛大に響く。

 

「おっと、座る場所には気を付けな。いつ誰がブーブークッションを仕掛けてるかわからないだろ」

 

唖然としていた人間からの責めるような視線を無視し、俺は飄々とした態度を装って人間に言う。

 

「よし、何か注文するとしよう。何を頼む……?」

 

俺がそう言えば、人間は俺を睨み付けるのをやめ、少し考えるような素振りをして俺に、

 

「………ポテトってある?」

 

と訊ねてくる。

 

「あぁ、あるぜ。それにするか?」

「うん、あとはいいや」

 

人間は俺の問いに頷き、それ以上はいらないと告げる。

 

「grillby、ポテト二つだ。」

 

俺が注文を入れると、Grillbyは拭いていたグラスを置き、奥の厨房へと引っ込んでいく。その間に俺は櫛を取りだし、無い髪を整える。

 

「……なにしてるの?」

 

その行動を疑問に思ったのか、人間は俺を不思議そうに見る。

 

「なにって、髪を整えているんだが……それがどうした?」

「Sans髪無いよね…?」

「まぁ、スケルトンだからな」

 

俺がすっとぼければ、人間は鋭いツッコミを入れた。……この掛け合いは初めてだな。

 

「で、俺の兄弟のこと……お前さんはどう思う?」

「え?それ前にも聞かれたよ?」

「そうだったか?じゃあ改めてお前さんの意見を教えてくれ」

 

櫛をしまい、Papyrusの事を訊ねれば、人間は怪訝そうな顔をした。質問を少し変えてまた訊ねれば、人間は少し考えるように目を伏せ、そして、笑顔で俺にこう言った。

 

「誰よりもクールで、誰よりも優しい友達想いなモンスターだと思う」

 

一瞬、目を見開く。………今までの人間は、こんな顔で、こんなまともな返答をしただろうか。

 

「……そうだな、その通りあいつはクールだ」

「ふふ、SansはPapyrusが大好きなんだね」

 

そう言って人間は微笑む。

 

「お前さんもあの格好をすればクールになれるぜ」

「作れないから無理」

 

俺がそう言えば、人間は真顔で首を横に振った。

 

「あいつは余程のことがないとアレを脱がないんだ。前にも言ったが、洗濯する時だけは別だけどな。シャワーに行く時も着たままだからな」

「どんだけ気に入ってるの?」

 

思わずといった様子で人間がツッコミを入れると、頼んだポテトをGrillbyが持って来る。

 

「きたきた。ケチャップは使うか?」

 

マイケチャップを取り出して人間に差し出す。

 

「うん、借りていい?」

「もちろんだ。さ、使いな」

 

人間は俺の質問に頷いて俺の手からケチャップを受け取り、ポテトにケチャップをかけようとしてケチャップをひっくり返す。すると、

 

ドバッ

 

「!?」

「おっと」

 

蓋が取れて中身が全部ポテトにかかってしまった。

 

「……ごめん、Sans……中身が全部…」

 

直ぐに本当に申し訳なさそうな顔をして、人間は俺に謝る。

 

「あー……気にするな。俺のを食えよ。たいして腹は減ってないからさ」

「ありがとう……でも、作ってくれたGrillbyに申し訳ないし、勿体無いからちゃんと食べるよ」

 

俺の分のポテトには手を出さず、人間は真っ赤になったポテトに手を伸ばす。その行動に思わず俺は目を見開いた。

 

「………」

「流石にそのままは手が汚れるから使え、って言ってるぜ」

 

状況を見て、心意気には感心したが流石に見かねたらしいGrillbyがフォークを人間に差し出す。

 

「ありがとう」

 

人間は笑顔でフォークを受け取り、フォークを使ってポテトを口まで運び、咀嚼する。

 

「………うん、美味しい」

 

………今までで、こんな事はなかったはずだ。混乱しそうになる頭でそう考える。

コイツは、俺の分のポテトを受け取って、そのままこのケチャップのかかったポテトは放置する筈だ。なのに、何故……?

 

「…Sans?どうしたの?」

 

固まった俺の事を不思議に思ったらしく、人間は俺を見て首を傾げる。

 

「……なんでもない。で、クールかどうかはおいといて、papyrusは本当によくやってるぜ」

 

俺は自分の分のポテトに手を伸ばしながら語る。

 

「王国騎士団に入ろうと必死でな。ある日、あいつは騎士団長の家に行ったんだ…」

 

フォークでポテトを刺して口に運びながら、人間は俺の話に相槌を打つ。

 

「で、入団させてくれと頼み込んだ。しかし団長はドアを開けなかった」

「……何で?」

「真夜中だったからな」

「……Papyrusってちょっと天然だよね」

 

真顔でポテトを咀嚼しながら人間は言う。

 

「ところが翌朝、まだ粘っているあいつを見て。その情熱に免じて、稽古をつけてやることにしたのさ。……まぁ、まだ、それも発展途上ってとこだけどな」

「団長さんも情に熱い人、もとい情に熱いモンスターなの?」

「まぁな」

 

Undyneに興味を持ったのか、人間が訊ねてくる。俺ははぐらかしながら肯定しておく。

 

「……そうだ、聞いときたいことがあってな」

「? なに?」

 

俺がそう言えば、人間は首を傾げた。

 

「………言葉を話す花って、知ってるか?」

 

俺の問いに、人間は、咀嚼していたポテトを飲み込み、

 

「………うん、知ってるよ」

 

俺の目を真っ直ぐ見てそう答える。

 

「……そうか、知ってるんだな。」

「うん。……なんの花のこと?」

エコーフラワーだ」

「……あぁ………やっぱりそっちか……」

 

『そっち』という言葉を聞き流し、俺は続ける。

 

「沼地の至るところに生えてるんだが。その花はかけられた言葉を、こだまみたいに繰り返すんだ……」

「あぁ、だからエコーフラワーなんだ……」

 

俺の話に納得したように頷く人間。

 

「で、それがどうかしたの?」

「ん?まぁ、先日papyrusが興味深い会話をしててな。時々、誰もいないところで……花が現れて何か言うんだと。お世辞に……アドバイス……応援、それに……予言。妙な話だろ?」

「………へぇ……」

 

一瞬人間が遠い目になる。……アイツ(・・・)になんかトラウマでもあんのか?

 

「誰かがエコーフラワーでいたずらしたんだろうなぁ」

 

俺がそう言えば、人間は苦笑いを浮かべる。

 

「気を付けろよ?」

「うん、ありがとう」

 

心配するフリをすれば、人間は微笑んで頷いた。

 

「………なあ、もう一ついいか?」

「?」

 

俺は、従来のTimelineじゃ打ち切っていた会話を続ける。

 

「お前さんの姉のlilyのことなんだが……」

「お姉ちゃん?お姉ちゃんがどうかしたの?」

 

俺の口からLilyのことが出たのが不思議だったのか、人間は首を傾げる。

 

「………お前さんのこと、随分溺愛してないか?」

 

俺の心の中の何処かで引っ掛かっていた疑問を投げかける。すると、

 

「………そうだね、してるね」

 

人間は俺の疑問を肯定し、ポテトを咀嚼して、飲み込む。

 

「……お姉ちゃんはね、ぼくが産まれた時からなんだかんだでずっと一緒に居てくれてるんだ。………お父さんとお母さんが、死んじゃってからも、ずっと」

 

人間はそう言いながらフォークをカウンターに置き、頬杖をつく。

 

「正直ぼくも、なんでこんなに愛してくれるのか、よく分かんない。理由を聞こうとしても、誤魔化して教えてくれないし」

「そうか」

「うん。……でも、ちょっとだけ、分かることがあってね」

「なんだ?」

 

俺が訊ねれば、人間は一呼吸置いてから答える。

 

「……『何か』を、怖がってるみたいなんだ」

「…………怖がってる?」

「うん」

 

思わぬ解答に思わず聞き返すと、人間は頷いた。

 

「その『何か』が何なのか、ぼくにはわかんないけど、そんな気がする」

「………そうか」

 

……『怖がってる』、か。

Lilyが問答の際に一瞬見せた強い憎悪の籠もった目を思い出し、思案する。

 

『私はそれが物凄く腹立たしい』

 

………『恐れている』、という意味では、案外人間は正しいのかもしれないと、ふと思った。

 

「………おっと、長居しすぎたな」

 

そう言って話を切り上げ、椅子から降りる。

 

「まさかこんなに長いことお前さんに引き留められちまうとはな」

「最後の質問は君でしょ?」

 

苦笑いしながら人間は言う。

 

「ところで、今持ち合わせがなくってな。払っといてくれないか。お代は10000Gだ」

「えっ!?」

「冗談だ」

 

冗談だと言えば、人間はほっと息をついて胸をなで下ろす。

 

「grillby、つけといてくれ」

 

いつも通りそう言って俺は、Grillby'sをあとにした。


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