【Lily】
滝の裏の部屋から戻り、反対側の陸地にあがる。
……さて、次は彼女との初邂逅か。
そう思って、自然と肩に力が入るのを感じた。……思ったよりも私は彼女を警戒しているらしい。
彼女―――アンダインは、とても素敵な人、もといモンスターだ。
シャーレンちゃんに歌を教えてあげたり、パピルスに料理を教えてあげたり。友達になれば、豪快な笑顔で笑ってくれる。
………でも、それは
パピルスの仲介で友達になるまでは、彼女は私たちのソウルを必ず狙いにくるだろう。つまり……本気で殺しに来る。
そこで、水から上がったフリスクの手を握る。
………正直に言えば、守りきれる自信がない。けど……守らなきゃ。
いざという時は私のソウル差し出せばいいしね、と結論付け、私はフリスクに笑顔を向ける。
「行こう」
―――――――――――――――――――
洞窟の中を歩いていくと、急に空気が張りつめる。………あぁ、エリア移動したのか。
「………フリスク、隠れるぞ。音を立てないようにこっそりな」
「……うん」
そう思いながら、空気が変わったのを感じていたらしいフリスクを急かし、目の前の私の身長より少し高い草の中に、音を立てないように隠れて息を潜める。
ザッ、ザッ、ザッ
しばらく息を潜めていると、崖の上から音がした。………パピルスの足音だろうかと私は見当をつけた。
「や……やぁ、アンダイン!今日の報告をしにきたぞ……」
どうやら合っていたらしく、少し震えているパピルスの声が聞こえた。
「えっと……例の人間達についてだが……」
そこで、ボソボソと少しハスキーな女性の声が聞こえる。アンダインの声だろうか。……ゲーム補正がかかってんのか、あまり聞こえない。……いや、パピルスの声がデカいから聞こえるだけか。結構崖の高さあったしな。
「………えっ?戦ったのかだって?……あ、ああ!もちろんだとも!!」
結論:物理的距離の問題とか内心どうでもいいことを考えていると、言い淀んでいたパピルスが口を開き、話が進む。
「それはもう果敢に……」
そこでまた、女性らしい声がした。
「……えっ?捕まえたのかだって……?え、ええっと……」
またパピルスが言い淀む。………嘘は、吐かないでほしいと、身勝手な願いを思った。
「………いや」
しばらく黙っていたパピルスが、否定の言葉を口にする。
「頑張ったけど、アンダイン、結局……失敗、しちゃって……」
最後は、小さい声になりながらパピルスが言うと、痺れを切らしたかのように、女性らしい声が何かを言う。
「………えっ?……ソウルを自ら取りに行くだって……」
絶望が滲んだ声で、パピルスが言った。
「でもアンダイン、そこまでしなくても!何も………だって………」
そこで、ガチャンという金属音がする。……アンダインがパピルスに向き直ったんだろうか。
「………わかった。俺様もできる限り協力する。」
パピルスの苦しそうな声がした後、足音が遠ざかっていく。……庇おうとしてくれた彼の優しさに、少しだけ緊張が解けた。
ガサリ
「!!!!」
隣で草の擦れる音がして、思わず隣を見ると、顔を青ざめさせたフリスクが尻餅をついていた。
ガチャン、ガチャン
崖の上から射抜くような殺気が飛んでくる。それを、私はフリスクを抱き締めて睨み返した。
…………ガチャン、ガチャン
しばらくして、金属音が遠ざかっていった。……もう、行っただろうか。
そう判断してフリスクを立ち上がらせ、草むらの中から出て、息をつく。すると、がさがさと草が揺れ、
「よっ……アンダインのあの目みたか……?」
凄く興奮した様子のモンスターキッド君が現れた。………いや待って、居たの?マジで気配を感じなかったんだけど。隠密スキルでも持ってるのか君……
ゲーム通りの行動に思わず心の中でツッコミながら、口を開くモンスターキッド君を見つめる。
「あれって……サイッコーだよな!おまえらすっっっっごくうらやましいぜ!どうやったらそんなに気に入ってもらえるんだ……?ハハ」
お前あの射抜くような目線をどうやったら熱視線だと勘違い出来るんだと思わず言いかけるのを飲み込み、口を真一文字にする。……今の私ゲームのフリスクみたいな顔してんだろうな……
「来いよ!彼女がワルモノをやっつけるのを見に行こうぜ!」
そう言って彼は興奮冷めきれぬまま走り出して、顔からスッ転んだ。………おう待て、痛くないのか。思いっきり顔からいったぞ。
直ぐ様立ち上がり、転んだのを気にせずに元気に走り去っていったモンスターキッド君を見送り、私は顔を青ざめさせたままのフリスクの目を覗き込む。
「……大丈夫?フリスク。顔、真っ青だよ?」
そう声をかけると、フリスクはふるふると力なく首を横に振った。……大丈夫じゃないらしいな。
「………何がそんなに心配なの?そこまで心配することはないと思うよ?」
「………だって」
私が疑問をぶつければ、フリスクは小さい声で返答し、私を見た。
「………また、お姉ちゃんが……」
…………そこで、私は自分の失態に気付いた。
パピルス戦の最後倒れたのが、フリスク的にはトラウマ案件だったらしいという事に気付き、私は内心頭を抱えた。
「……大丈夫だよ、フリスク。今度は上手くやるさ」
「………本当に?」
「あぁ、二度と君の前で倒れたりしないよ。飴とか持っとく」
そう言えば、やっと安心したのか、フリスクの顔色が良くなってくる。………心配かけちゃったなと、少し後悔した。
「さて、じゃ、行こっか」
「………あ、ちょっと待って」
そう言ってフリスクはセーブポイントに近寄り、手を伸ばす。しばらくすると、私に手を振って大丈夫だということを知らせる。
………私は、密かにこの子を守る決意を抱き、フリスクの手をとった。