【Lily】
……次のエリアは、花の橋のところだっけ?
記憶を探り、予想する。確か四つ並べると花が開いて通れるようになるんだったかな。
そう考えながら歩いていると、開けた場所に出る。次のエリアに着いたらしい。
「………四つの橋の種が水の中で一列に並ぶと、一斉に芽吹くだろう……?」
「種?」
私の手を離し、壁にあったヒントをフリスクが読み上げる。
私はそれを横目で見て花が置いてある窪みに入り込む。中には、四つ蕾が固く閉じられている花が咲いて……いや、自生して(?)いた。これか。……結構デカいな、ギリギリ持てるか?
一つ持ち上げて、フリスクの元へと戻る。
「………それが種なのかな?」
「多分ね。まだ中に三つあったし。……これ、種っつーか蕾のほうが正しいような気がするけど」
興味を持ったらしいフリスクにそう返し、私は川に花を浮かべ、対岸に流す。花はすーっと水の上を滑っていき、無事対岸に流れ着く。……あと三つか。
「はい、お姉ちゃん」
「ん、ありがと。……かわいい持ち運び方してるね」
「流石に大きくて持てなくて」
「あー、成る程」
私が流している間に持ってきてくれたらしく、フリスクが頭に乗せた花を下ろし、私に手渡す。素直に可愛いといえば、少し嬉しそうにしながらフリスクは私にそう返答した。
受け取った花を流し、持ってきてくれた花をまた受け取って流しを繰り返し、最後の花を浮かべると、固く閉じられていた蕾が開き、花の橋が出来上がる。………うお、綺麗だな。
「わー……綺麗だね……」
「そうだね……行こうか」
「えー…なんか踏むのもったいない……」
「気持ちは分かる」
私は花を踏むのを渋るフリスクに同意する。………うん、凄く気持ちは分かるんだけど踏まないと先に進めないんだよな……
「……うん、行こう」
自分の中で妥協したらしく、フリスクは花を傷付けないようにそっと花の橋を渡っていく。かわいい。私も後に続いて橋を渡る。………うん、沈まないか心配だったけど大丈夫そうだ。
私は内心安堵しながら、次のエリアに移動した。
――――――――――――――――――――
えっと次のエリアは……あー、確か先に進もうとするとパピルスから電話がかかってくるところだっけ。
そう考えながら橋を渡って奥へと行こうとする。すると、
ザバッ
「!?」
突如前にあった川から水飛沫があがり、周りが白黒に変わる。私は顔をあげ、水中から現れた敵を見る。そして、
*
うわぁ、ネキの次に会いたくなかった奴が来たよ……と思いながら私は顔をしかめる。なんか個人的に苦手なのである。……あ、嫌いではないよ?ただ汗臭いのがちょっとな……
「やぁ、可愛らしいお嬢さんたち?」
「お、おう……よぉ……」
バチーンとウインクをしながらボディービルダーのようなポーズを決めるアーロン。……いや、フリスクが可愛いのは分かるけど、私を『可愛い』で括らないでほしい。恥ずかしいしどうせなら『かっこいい』の方が個人的には嬉しいです。
内心に抗議の思いを抱きつつ、私はフリスクの前に出てカッターと玩具のナイフを構える。
*AARON-ATK 24 DEF 12
*|This seahorse has a lot of HP(Horsepower).《このシー・ホースはHP(ホース・パワー)が高い》
*|All of his attacks are harder to dodge at the bottom of the box.《彼の攻撃は箱の底へ行くほど避けにくくなる》
「ホース・パワーってなにさ」
「知りたいのかい?」
「いえ結構です」
『ACT』が押されて流れたアナウンスに思わずツッコミを入れると、アーロンが反応してにっこりと笑った。私は直ぐ様断りを入れ、カッターを構え直す。
『いくらでも調べてくれよ』
「だが断る」
水に尻尾を打ち付け、水の弾幕が飛んでくる。それをフリスクの腕を引いて避ける。………汗も混じってるからかくせぇ。
思わず顔をしかめ、アナウンスを聞き流して思考を別のものに切り替えようとする。ふと、フリスクが私の影から出て、アーロンに筋肉を見せるように腕を曲げたのを見て、私は玩具のナイフを構える。………くせぇ。
*
*
*
汗の匂いにむせそうになっていると、アナウンスが流れた。……フリスクは攻撃力上がっても意味ないんちゃう…?
『筋肉対決?よし、もっと来い』
アーロンは腕の弾幕を召喚し、発射する。私はまたフリスクを引き寄せて回避する。………なんで弾幕も汗臭いんだ……
*
フィールドに充満する汗臭さそろそろ頭痛がし始めると、アナウンスが流れる。………あ、ホントだ。超見てる。こっち見んな。
『ACT』を押し、フリスクはまた力こぶを作る。
*
*
*
『イイね!負けてられないよ』
私はまだしもフリスクは攻撃力上がっても意味ないよね、と疑問に思いながら、私はフリスクを抱えて飛んできた汗と水の弾幕を避ける。……なんでナイフ使わないのかって?汗の匂いがつくからだよ。
*
………あぁ、やっと終わりかと安堵しながら、私はカッターとナイフをしまう。
ピッと音がして、フリスクはまた力こぶを作る。
*
*
アナウンス通り、アーロンが思いっきり腕に力を込めると………
*
すいーっとアーロンは上昇していった。………もう突っ込まないぞ。
*
*
そのアナウンスが流れると、周りに色が戻ってくる。………あー、なんかどっと疲れた………
「フリスク、怪我ない?」
「大丈夫だよ。お姉ちゃんも大丈夫そうだね」
一応フリスクに怪我の有無を確認しておく。………うん、大丈夫そうだ。
前に向き直り、今度こそ橋を渡る。渡り切ったタイミングで、私は水辺の向こうに桟橋がある事に気付いた。………そういえば、サンズのキッシュが手に入るのって此処だったか。忘れてた。
「フリスク、あそこ、橋があるよ」
「え?どこ?」
桟橋を指差して教えれば、フリスクは小さくほんとだ、と呟く。
「行ってみる?」
そう聞けば、フリスクは少し考えてから頷いた。それを見て、私は橋の花を回収して水の上に浮かべて流す。……えっと、ここから並べれば良かったんだっけ。
フリスクの助けを借りながら花を一列に並べると、花が開いて橋が出来上がった。その上をまた傷付けないように渡り、桟橋の上に降り立つ。そして、空いていた空間を覗き込んだ。
「………? あれ、ベンチとエコーフラワーだ……」
フリスクはエコーフラワーを先に調べにいく。その間に、私はベンチの下を覗き込んでみる。すると、そこには皿の上にパイのようなものが一切れ置いてあった。……やっぱりあったよ、キッシュ……
「……なんでこんな所にキッシュがあんだよ……」
「え……?」
皿ごとキッシュをベンチの下から引っ張り出し、腐っていないか匂いを嗅いでみる。……別段変わった匂いはしないけど……これフリスクに食わせて大丈夫か……?
「……それ、パピルスが言ってたサンズが作ってたキッシュかなぁ?」
「そんな話してたのか。うーん、どうだろう?」
デートイベ中の会話を思い出したらしいフリスクが疑問を呟いた。それに私は首を傾げておいた。……まだ『Player』側の人間だった時は、
私はリュックをベンチに置いて、パーカーのポケットからカッターを出し、刃を押し出す。
「何するの?」
「ちょっと試食」
「え!?」
カッターでキッシュの先に切れ目を入れ、味見してみる。……普通に美味しい。味とかには問題はなさそう。腐ってないみたいで安心した。……やっぱり、食べ物にも魔法がかかっているんだろうか。……それとも使っているものが魔法で出来てるから腐ってないのか……?
考察を頭の中でしていると、心配そうにフリスクが見上げてくる。
「………大丈夫…?」
「うん、問題なさそう。普通に美味しいけど、セーフかどうかわからないからフリスクは食べないでね」
「分かった」
一応フリスクにストップをかけておく。……いや、ゲームだった時は結構回復するアイテムだったし、いざって時は食べさせるけど。
リュックから大きなビニール袋を取りだし、余分な部分を切る。小さくしたビニール袋にキッシュを入れて口をさっきの切り離したビニールで縛り、リュックの中に入れる。………結構アイテムがたまってきたな、今度ボックス見かけたらなんか置いていくか。
リュックを背負い直し(またちょっと重くなった)、桟橋と花の橋を渡ってエリアを移動する。すると、フリスクは壁にあるベルに近づいていく。
「……これ、何だろう?」
「さぁ……何だろうねこれ」
フリスクがベルに触れると、ちりん、という軽やかな音がする。………確かこの花を復活させるためのベルだったっけ?
ベルから離れて対岸に渡るためにまた橋をかけ、次のエリアに移動しようとすると、
プルルルル………
着信音が流れた。……来たか、電話。
フリスクは直ぐに携帯をポケットから引っ張り出し、電話に出る。
『もしもし!こちらパピルス!!!』
電話の向こうから突如として大きな声がして驚いたのか、フリスクが携帯を耳から離す。………パピルス、私にも聞こえてんぞ。どんだけデカい声で話してんだ。
フリスクが電話を耳に近付け、口を動かす。
『俺様がどうやってこの番号を知ったか……?そりゃ簡単だ!!お前の番号に繋がるまで総当たりしたまでだ!!!ニェーッヘッヘッヘッ!!』
根気良すぎだろお前と言いかけてふと思う。………なんでさっき電話した番号をメモらなかったのかと。あとあの間違い電話の歌歌ったの……?
『……その……今お前たち、どんな服を着てるんだ?』
心の中で突っ込みを入れていると、先程の明るい声から一転して、とても辛そうな声でパピルスはフリスクに本題を振る。質問の意図が分からなかったのか、フリスクは首を傾げて口を動かす。
『えっと……友達に聞かれたんだ』
パピルスの返答に、フリスクは納得したように頷いた。
『それで……なんでも、お前が身につけているとか、バンダナを。本当に身につけているのか?バンダナを?』
彼らしくないしどろもどろな喋り方で、パピルスはフリスクにそう聞いた。………何故パピルスがそんな質問をしたのか察したらしく、フリスクは少し目を見開いた。そして、少し考えてから、フリスクは頷いた。
『着けてるんだな、バンダナを………大きい人間は、黒いリュックを背負っているんだよな?』
フリスクの容姿について聞き終わると、私のことに話が移る。フリスクが心配そうに私を見上げる。………その質問に私は、迷わず首を縦に振った。それを見てフリスクは少し悲しそうな顔をしてから、電話に戻って、また頷いた。
『……そうか……わかった!!!じゃあまたな!』
ガチャリ、と電話が切れ、フリスクは携帯をポケットにしまい込む。そして、そのまま歩き出そうとする。
「……言って、よかったの?バンダナのこと」
疑問に思った私は、フリスクにそう聞いた。すると、フリスクは頷いた。
「だって、友達に嘘ついちゃいけないでしょ?」
まるで至極当たり前の事を言うかのように言われたその言葉に、私は一瞬目が丸くなる。……それと同時に、フリスクがいい子に育ってくれて、凄く安心した。
「……そうだね」
「うん。………行こう、お姉ちゃん!」
私が同意すると、フリスクは嬉しそうに笑って私の手を取り、先へと歩き始めた。