【Lily】
通路を抜けると、桟橋のかかった部屋に出る。……あぁ、ここは歴史が書いてあるところか。記憶を探ってそう思い出した。
「……? お姉ちゃん、壁になんか書いてあるよ?」
フリスクが何かが書かれている事に気付き、近付いていく。私も後についてフリスクの後ろから覗き込む。……うっわ、予想以上に風化しちゃって掠れてんな。なんとか読めるレベルだぞこれ。
「大分古いやつだなこの石板……」
「でも、所々は読めそうだよ?」
そう言ってフリスクが、読める所を探してキョロキョロ視線を動かし、そして
「……『人間と、モンスターの戦争』……?」
一部、風化せずに残っていた文字を読み上げる。……その顔は、驚愕に染まっていた。
「………どうも明るい内容じゃなさそうだね。大丈夫か、フリスク。読める?」
フリスクに確認を取る。私の問いにフリスクは……ちゃんと、頷いた。
「……大丈夫、読めるよ」
「そっか。……じゃあ、続き読もうか」
二人で次の石板の前まで移動して、石板に目を通す。……あ、今度は割りと綺麗に残ってる。
『なぜ人間は戦いをしかけて来たか?恐れるものなど、何もないはずなのに。
人間は恐ろしく強い。モンスターのほとんどが殺されてしまった……』
………やっぱりゲーム通り、先に仕掛けて来たのは人間側だったか。石板を読みながら、思案する。
モンスター側から仕掛けて、石板には人間側がやったって書いたという可能性もなきにしもあらずだ。けど、オープニングで出てきたモンスター側の王の影……あれは十中八九アズゴア王の筈。例えアズゴア王の父親かどちらかだったとしても、彼の性格を交えて考えると、人間との戦いは極力避けるようにしているはずだろう。よってこの可能性は低い。
そう考えながら、私は次の文に目を通す。
『犠牲になったソウルの総計に等しいくらい人間のソウルは強い……』
……。
その文字を記憶に再び刻み込みながら、次の石板の前に移動する。……また綺麗に残ってるな。
『しかし人間にも弱点がある。皮肉なことに、そのソウルの強さだ。人間のソウルはあまりにも強く、肉体が死んでも消滅しないのだ。』
ソウルの残留……人間で言う所謂『死後の念』、もしくは『残留思念』という物だろうか、と検討をつける。………そういえば何故、この石板にはソウルが強い事を知っているのだろう。ふと、疑問が浮かんだ。
……もしかして、博士か?
とある推測が思い浮かんだ。………モンスターの一人が人間のソウルを持って帰り、博士が研究したのだとしたら……一応合点がいく。
そう推測しながら、次の石板の前に移動する。
『もしモンスターが人間を倒せたら、そのソウルを奪うことができる。
人間のソウルを得たモンスター……それは想像を絶する力を得るだろう。』
その次の石板には、奇妙なモンスターの絵が描かれていた。……どこか、
………アズリエル君のように、だろうか。
石板に書かれていた内容で、ゲームだった時の彼を思い出す。……やっぱり、Charaちゃんと彼は此処に来た事があるのだろうか。
もしCharaちゃんとアズリエル君がニューホームの方で暮らしていたとしたら、此処にも来れるはず。そして、この石板を見て、
「………人間が、モンスターを地下に閉じ込めたんだね」
そんな推測をしていると、フリスクがふと、ぽつりと呟く。
「……そうだね」
「………納得したよ。ぼく達を狙ってくるのは、そういう理由もあったんだね」
罪悪感を感じているような口ぶりで、フリスクは言う。
「……でも、おかしいと思うけどね、その理由は」
「………どうして?」
私がそう返答すれば、フリスクは驚いたように私を見る。私はフリスクに、持論を話す。
「確かに私達は『人間』だ。だけどね、『その時戦った人間』ではないでしょ?私達がモンスターを殺したわけでも、傷付けたわけでもない。だから、おかしいな、って私は思うのよ」
「…………」
「ま、だからと言ってモンスターを傷付けちゃダメだけどね」
「え?」
「何でだと思う?」
付け加えれば、フリスクはまた驚いたような声をあげる。それに重ねて問えば、考えるように腕を組んだ。
「…………生きている、から?」
「うーん、まぁそれも間違いないとは思うけどね!」
しばらくした後に、フリスクがそう答えた。流石大天使フリスク様である。まぁ、私の考えとはちっと違うけど。
「……私は、『会話が出来るから』だと思うよ」
「……会話?」
フリスクが不思議そうに首を傾げる。
「だって、『モンスター』は『モンスター』でも、ちゃんと会話が出来るでしょ?だったら、解り合うことも出来るはずじゃないか。だから傷付ける理由にはならないよ」
そう言えば、フリスクはまた黙り込む。
「……結局は、この戦争が起きてしまったのは、『会話不足』か、『解り合おうとする意志がなかったから』だったんじゃないかな。………だからね、フリスク。解り合おうとする事を諦めちゃ駄目だよ。……どうしても戦わないといけない、もしくは逃げないといけないって時は、最後に
私が考えている結論を言った後に、そう念を押すように言えば、フリスクは私の目を見て力強く頷いた。
「よし、じゃ、行こうか」
フリスクが頷いたのを見て、私は先に進む。……あー、この板か……
「フリスク、先に乗って?」
「うん」
私が先に乗るよう促すと、フリスクは頷いて板に乗る。
すると、すーっと水の上を滑ってあっという間に対岸についた。………はえぇな。
フリスクが対岸に降りて、戻って来た板に乗る。
「うぉっ……」
すいーっと、板に乗って水の上を滑る。動き出した板に驚いて水に落ちそうになるのをなんとか耐え、バランスを保つ。………立ってるのに結構バランスいるなこれ。
なんとかバランスを保って対岸にまで辿り着き、板から降りる。すると、フリスクが駆け寄ってきた。
「お姉ちゃん板から落ちそうになってなかった?大丈夫?」
「大丈夫」
心配して駆け寄ってきてくれた妹の優しさに感動しながら、私は先に進んだ。