守りたいもの   作:行方不明者X

58 / 158
51.逃走

【Lily】

 

次のエリアに出て、いきなり張り詰めた空気になった事に気付き、私は気を引き締める。

…………このエリアでは、崖の上からアンダインが槍を投げてくるはず。しかも、被弾したらほとんど避けられずにゴッソリHP持ってかれるという鬼畜仕様である。

 

「………お姉ちゃん……」

「ん?」

「なんか……怖い……」

 

空気が変わった事に気付いたらしいフリスクが不安そうな顔をする。………私はフリスクの手を繋ぎ、笑いかける。

 

「大丈夫だよ、私が守るから。ね?」

「………うん」

 

私がそう言えば、フリスクは小さく頷き、私の手を握り返す。………その行動に、私はこの子を守る決意を抱いた。

そのまま手を繋いで橋を渡っていく。しばらく進んでいくと、

 

ヒュンッ

 

頭上で、何かが飛来してくる音がした。

 

「ッ!! フリスク!!」

「え!?」

 

槍が飛んでくる音だと判断し、咄嗟にフリスクの手を引いて後ろに下がる。すると、

 

ドンッ

 

大きな音を立てて、淡く発光する水色の槍がさっきまで居た場所の少し先に突き刺さった。……あと少しでも進んでいたら串刺しになっていたのかと想像して、ぞっとした。

そして、槍が投げられた崖の上を見ると、鎧姿の騎士が此方を見下ろし、槍を召喚していた。

 

「逃げるぞ!!!」

「うん!!」

 

フリスクに声をかけ、フリスクを先頭にして走り出す。その間にも、槍は飛来し続ける。

 

ヒュンッ ヒュンッ

 

雨のように飛来する槍を避け、長い桟橋を走る。走る。走る。息が切れる事を気にしている時間はない。ただ、逃げる為に走る。

 

「……あっ!!」

 

その途中、桟橋の板が古くなって欠けている所があったらしく、窪みに躓いたフリスクが転倒する。

 

「フリスク!!」

「いった……」

 

私がフリスクに駆け寄ると周りが白黒に切り替わった。フリスクが転んだ事を好機と見たのか、アンダインは大量の槍を召喚し、飛ばす。

私はフリスクを背に庇い、カッターとナイフを取り出して飛んできた槍を受け流す。

 

シュッ

 

「………!!!!」

 

一本、受け流しきれずに槍が左肩を掠めていった。やはり先端が鋭利なせいか、掠めただけでもかなり痛い。歯を食い縛り、痛みを耐える。血が、掠めた箇所を起点にパーカーに広がっていく。充満する血の匂いに思わず顔をしかめた。………いってぇ。直撃しなかっただけマシだけどさ。

 

「お姉ちゃん!!!」

 

背後から悲鳴のようなフリスクの声が聞こえた。

 

「……大丈夫だよ。だから、立って」

 

振り向いて笑いながらそう言えば、フリスクは顔を強張らせて、立ち上がった。

 

「走るぞ」

「…………うん」

 

フリスクと一緒に、また槍の雨を避けながら走り出す。走る毎に肩に衝撃がきて呻き声をあげそうになるのを堪えて、私達は走った。

――――――――――――――――――――

しばらく走ると、ようやく背の高い草原が見えてくる。……あぁ、ようやくか。

 

「フリスク、隠れるぞ!!!」

 

そう言ってフリスクと一緒に草原の中に身を潜め、息を殺す。………しばらくそのままじっとしていると、

 

 

ガチャリ ガチャリ

 

 

金属の擦れる音が

 

 

ガサ ガサ ガサ

 

 

草を掻き分けて近付いてくる。

 

「……!!」

 

私は震えるフリスクを右手で抱き締める。………こんな所で、この子を死なせてたまるか。

 

 

ガサリ

 

 

音が、すぐ近くで止まった。そして、

 

 

ガサッ

 

 

銀の籠手がついた腕が、すぐ横に降り下ろされた。そして、ゆっくり引き上げられ………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………その手の中にはなかなか変な顔をしたモンスターキッド君がぶら下がっていた。……いつから居たんだ、君………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

妙な沈黙が流れ、アンダインはしばらくモンスターキッド君と見つめ合った後、そっと地面に彼を降ろし、去っていった。………どうやら危機は去ったみたいだと判断し、殺していた息を深くついた。

 

「………大丈夫そうだよ、フリスク。出ようか」

「………うん」

 

フリスクに声をかけ、草原から出る。すると、後に続くように興奮した様子のモンスターキッド君が草原から出てきた。

 

「よっ……今の見た!?アンダインがおいらを……触ってくれた!」

 

どっちかって言ったら『間違えて捕まった』の方が正しいけどな………

モンスターキッド君の発言に心の中でツッコミを入れておく。

 

「もう二度とぜったい顔を洗えないね……!」

「ウォシュアに嫌われんぞお前」

 

思わず口が滑ってツッコミを入れてしまう。流石にそれは汚ぇよ。………というか、普段どうやって顔洗ってんだ君……

 

「なぁ、オマエたちは運が悪かったな。もうちょっと左に立ってれば良かったのにな……!」

 

そんな事になってたら私死ぬんですけど……

思わず遠い目になりながら心の中でツッコミを入れる。……いや、真面目な話、本当に助かってよかったよ、うん。

 

「よっ、くよくよすんな、また会えるって!」

 

まぁそりゃ狙われてる訳だしな………とモンスターキッド君の元気付けるような言葉に心の中で同意しておく。

それだけ言うと、モンスターキッド君は走りだし、また顔から派手にすっ転ぶ。そして立ち上がり、ダッシュで奥へと進んでいった。……これで顔洗わなかったら結構汚いと思うんだけど……

 

「………お姉ちゃん、大丈夫…?」

 

モンスターキッド君を見送っていると、フリスクが心配そうに声をかけてくる。

 

「大丈夫だよ。掠り傷だしね」

「でも……」

 

顔を伏せて言い淀むフリスクの顔を見て、私はふと気付く。……この子、もしかして自分のせいだとか思ってないか?

 

「……フリスクの所為じゃないよ?」

 

そう言ってみれば、フリスクはピクリと反応する。……あぁ、やっぱりか。

 

「この怪我はフリスクの所為じゃないからね?受け流しきれなかった私の責任だから、気にしないこと」

「え、で、でも……」

 

まだ言い淀むフリスクに、私は内心頭を抱えながら、リュックを降ろしてフリスクに渡す。

 

「……じゃあさ、左肩痛いから飴の包み剥いてよ」

 

笑ってそう言えば、フリスクは驚いたような顔をして私を見上げ、それから、リュックを受け取って飴を引っ張り出す。

 

ピリピリ

 

「……はい、どうぞ」

「ありがとう」

 

包みを剥いて、フリスクが私に飴を差し出す。私はそれを右手で受け取り、口の中に放り込んで噛み砕く。甘い味が口の中に広がると共に、左肩の痛みが引いていった。左肩を回し、痛みがないか確認してみる。………うん、大丈夫そうだ。

 

「………もう、大丈夫?」

「うん、もう痛くないよ。だからフリスクも気にしないこと。いいね?」

「……うん」

 

念を押すように言えば、安心したような顔でフリスクは頷く。フリスクの頭を撫で、私は渡されたリュックを背負い直す。

 

「いこっか」

 

フリスクの手を握り、私達は歩き出した。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。