【Lily】
フリスクと一緒に次のエリアに進む。……ここセーブ部屋だったっけ。
此処が何の部屋か思いだし、左に曲がって机の上に置いてあるクリスタルと化したチーズ、壁に空いた小さな穴、そしてエコーフラワーを見る。………ネズミの穴、此処だったかと思うとともに、やっぱり、この地下世界の食べ物って魔法で出来ているのかと疑問を抱いた。
「……凄い、チーズからクリスタルが出てる………」
驚いたような声でフリスクは言いながらクリスタルをつつく。
「本来チーズからクリスタルなんて出来るはずないんだけどナー」
そうフリスクに返しながら、私はリュックからチーズを取りだし、カッターで今まであげて来た分と同じぐらいの大きさにカットする。そして、それを穴の前にそっと置き、カッターとチーズをしまう。
『チュー』
フリスクがエコーフラワーを調べたと同時に、エコーフラワーに録音された声の主であろうネズミが穴から顔を出し、チーズの匂いを嗅ぐ。………そして、危険がないと判断したのか、こちらを見て一礼すると、チーズを持って穴の中に引っ込んだ。
「ネズミさん、受け取ってくれたね」
「そうだね」
フリスクは嬉しそうにそう言いながら、光に手を伸ばして、触れる。そして空中に手を彷徨わせると、セーブが終わったらしく、私に向かって振り向いた。
「行こう、お姉ちゃん」
「うん」
フリスクの呼び掛けに頷き、私達はまた進みだした。
―――――――――――――――――――――
次のエリアは……あぁ、道か。
道の先にボックスとモンスターの影が見えたのを切っ掛けに、私は此処が何の部屋だったか思い出した。………サンズの望遠鏡って確か……
「望遠鏡の商売を始めようかと考えてる」
なんだったかと思考を巡らせていると、フリスクがサンズに話しかけたらしく、サンズの声が聞こえた。それに顔をあげ、私もサンズを見て、それから望遠鏡を見る。……うお、結構古い型の望遠鏡だな。アンティークマニアとかに高く売れそう。
「この特別高価な望遠鏡はいつもなら使用料50000ゴールド……」
「待て待て高すぎんだろ」
サンズが言った値段に思わずツッコミを入れる。いくら歴史的に価値がありそうな物だとしても誰が使うんだそんなもの。
「なんだが……お前たちとは『知り合い』だからタダでいいぜ」
…………友達とは言ってくれないのな。
サンズが言った一言に少し悲しくなる。まぁ、人間不信そうだし、言ってくれないのは分かってたけど、せめてフリスクとは友達になってほしかったな。
「お姉ちゃん、見てみてもいい?」
「うん、サンズもいいって言ってるし、タダより高いものはないしね」
望遠鏡に興味を持ったらしいフリスクが私に聞く。それに頷くと、フリスクは嬉しそうにしながら望遠鏡を覗く。私はそれを見ながら、リュックを降ろしてボックスを開ける。……あ、リボンあった。
リボンがあるのを確認し、それからリュックにあったアイテムを移していく。………うーん、どうしようか。取り敢えず飴はポケットに入ってすぐ取り出せるし除外か……あ、バタースコッチシナモンパイは置いといた方がいい……でも回復量がなぁ……
「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
ボックスとリュックをにらめっこしていると、フリスクから声がかかる。
「ん?どうした……ふっ」
振り返って思わず吹き出した。ゲームの時と同じように、目の辺りに丸い印がついていたからだ。
「………どうしたよ、目のそれ」
「? なんかついてる?」
どうやら気がついていなかったらしく、フリスクは不思議そうに目の周りを触る。そして指に塗料がついたのを見て、サンズに向かって振り返った。
「お前か」
「そうだ俺だ」
一応追及すると、サンズは頷いた。潔いなおい。
「はぁ………フリスク、目、閉じてて。動かないでね」
「うん」
ハンカチを取りだし、フリスクの目元の塗料を拭いながらサンズに聞く。
「目に接する辺りには塗ってないよね?」
「安心しろ、塗ってないさ」
「良かった」
ゲームだった時はなんとも思わなかったけど、現実で考えたら下手したら失明だからな、それ。
「よし、取れたよ」
「ありがとう」
目元の塗料を綺麗に拭い去り、ハンカチを畳む。……うお、もうちょっと赤黒かったら血に見えるぞこれ。
余計な事を考えつつ、ハンカチをしまい、いくつかボックスの中にアイテムを移して軽くなったリュックを背負い直す。……あ、軽い。
「ここお店らしいんだ、行ってみようよ」
サンズにでも聞いたのか、フリスクがガーソンさんの店がある部屋を指差す。………あ、違う、ここガーソンさんじゃないわ。ナイスクリームさんや。
ふと、思い違いをしていた事に気付いた。……ヤベエ、五番目の子の装備のことしか考えてなかった。お金足りるか……?
「あー、そうだね、行ってみようか」
………まぁ、フリスクがいきたいって思ってるなら、いっか。
そう思って私は頷いた。そして、サンズに手を振る。
「じゃあね、サンズ」
「………あぁ、じゃあな」
一瞬眼孔が消えた気がするが、サンズは手を振り返してくれた。