【Lily】
電話のすぐ後に出てきたアーロンは手早く『ACT』と『MERCY』して追っ払い、橋を渡ってエコーフラワーの前に立つ。そして、耳を澄ませた。
『そんなこと言うなよー!ねえねえ、絶対に笑わないって約束するからさ』
エコーフラワーから、子供の無邪気な声が聞こえた。……何でだろう、どっかで聞いたことがあるような気がするんだけどな、この声……
「お姉ちゃん? どうしたの?」
「………ん、なんでもないよ、行こうか」
思わず首を捻って思い出そうとしていると、先に進もうとしたフリスクが、不思議そうに首を傾げる。なんでもないと伝え、私もフリスクのあとについて歩く。……あ、チビカビだ。
「待てフリスク」
「わっ! どうしたの?」
「足元、ほら」
「え?……あ、ごめんね?」
フリスクを引っ張って止め、足元にチビカビがいることを教えれば、フリスクはチビカビに謝罪し、チビカビを避けて通る。………よっしゃ、戦闘回避した。
「……あ、石板だ」
そのまま歩いていくと、壁にあった石板に気付いたらしいフリスクが、石板に近付いていく。私もフリスクの横に立って石板を読む。……さっきのに比べればそこまで風化してないな。これさっきの歴史の続きだったっけ?
『人間のソウルを奪う力。それこそが人間が恐れた力だ』
……さっきの石板の続きで間違いないなこれは。
目の前の石板を見ながらそう思う。……さっきの石板の疑問の究明かな?
「……モンスターにそんな力があるんだ……」
フリスクが何でもないようにそう呟く。
「そうだね」
「……お姉ちゃんのソウル、取られちゃったりしないよね……?」
心配になったのか、涙ぐんだ瞳で私を見上げながらフリスクが言う。
「あはは、ここから出るまでそんな簡単に取られたりしないよ。大丈夫」
「…本当に……?」
「うん、約束」
笑いながら頭を撫で、フリスクに約束をする。………『Player』からフリスクを奪い返すまでは、絶対に、ね。
「ほら、行こう?」
「………うん」
フリスクの手を握り、先に進みだした。
―――――――――――――――――――――
次のエリア、は………あー……オニオンサン遭遇イベか……
次のエリアが何か思い出そうとした矢先に水面から現れた黄色っぽい触手らしきもので、私は全てを察した。
「……なんだろうあれ……」
「さぁ……」
さっきの泣きそうな顔が真顔になるレベルで驚いたらしいフリスクが触手を見ながら呟いた。……私もゲームだった時は思いっきり警戒したな、この腕……
進むごとに次々現れる腕を横目で見ながら、一本道を歩いていく。……しばらく歩いていると、
ザバッ
という大きな音がして、水面からまるで玉葱のような形をした顔のモンスターが現れた。………うおっ、でけぇな。
「やぁ………どうも……いらっしゃい……」
「あぁ、どうも……」
ゲーム通りなんか煮え切らない挨拶だったが、挨拶されたのでフリスクの手を離し、一応挨拶を返しておく。……フリスクの手前、礼儀を怠る訳にもいかないしな。
「そう……わたしオニオンサン!オニオンサン、っていいます!」
「あぁ、これはどうもご丁寧に……私はリリーです」
リリーさん、とオニオンサンは私の名前を復唱する。………つか、オニオンサンに敬称つけたら『オニオンサンさん』になって玉葱が空からさんさんと降り注いでいるような感じになるんだけど……どうやって呼んだらいいんだろう。普通に呼び捨てか?
割りとどうでもいいことで頭を悩ませていると、なんか気まずい雰囲気を察したらしいフリスクが先に進みだしたのを見て、私も先に進み出す。しばらく歩くと、着いてきていたオニオンサンが話しかけてきた。
「ウォーターフォール、どうですか!よくない、ですか!わたし、大好き!そう!わたしも!とってもお気に入り!」
「良いところだと思うよ?」
オニオンサンの質問に素直に答えれば、オニオンサンは嬉しそうに頬を綻ばせた。……あ、かわいいな。
また会話が途切れたのを見計らって、フリスクと一緒に歩き出す。またしばらく歩くと、オニオンサンが話しかけてくる。
「でもこの辺り、水が浅くなってきた……」
「あ、そうなの?」
私が相槌を打てば、オニオンサンは頷く。
「わたし、ずっと座ってなきゃ、いけない……」
「うわ、それは辛いな……」
椅子とかに座りっぱなしだときつくなってくるもんな……気持ちは分かる。
「で、でも!いいんです!都会よりはマシです!ぎゅうぎゅうの水族館に住むよりもいいんです!」
まぁ、だろうな……と思いながら頷いておく。………この子の体の大きさがよく分かんないけど、水槽を用意するとしたら、現実的に考えて滅茶苦茶デカイのが必要になるよな……
「友達はそうしちゃいましたが……」
ちょっとしょげたような顔でオニオンサンはそう言った。会話が途切れ、またフリスクと一緒に歩く。
「まぁ、水族館、満員だそうで、どのみち、引っ越すの、ムリ……」
「人気者なんだ」
しばらくすると、またオニオンサンが話しかけてきた。
「ま、いっか!アンダインが、なんとかしてくれます!」
………ここでアンダインの名前が出てくるんだっけか。
思わずさっき槍が掠った場所を撫でる。
「オニオンサンここを出たら海に住む!そうする!」
「そうしな、きっと海は広いだろうから」
「はい!」
オニオンサンの決意表明に笑って頷いておく。またそこで会話が途切れ、しばらく歩く。………出口が近くなってきたな。
「あの……もう……部屋の出口です」
「そうだね」
「お達者で!楽しんでいってください!ウォーターフォールををををををを」
「うん、じゃあね!」
ブクブクと沈んでいくオニオンサンに手を振る。すると、手を振り返してくれた。……いい子だなぁ。
「………さてと、いこっか」
「……うん」
オニオンサンが沈んでいくのを見送り、フリスクに声をかけると、フリスクはそっぽを向きながら返事をする。
「……。どうした?」
「………お姉ちゃんがあの子とばっかお話ししてたからやきもちやいてるの!」
思わず聞けば、フリスクはそっぽを向きながらそう返答する。………かわいいなぁもう!!
可愛さのあまりぎゅーっとフリスクを抱き締めると、フリスクもぎゅーっと抱き締め返してくれる。かわいすぎか。知ってた。
フリスクから離れ、もう一度手を繋ぐ。
「……じゃ、いこっか」
「うん!」
機嫌を直したらしいフリスクが笑顔で頷いてくれる。………さてと、次のエリアも頑張らないとな。
私たちはまた先に進みだした。