守りたいもの   作:行方不明者X

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※大変お待たせしました

※いつもより長いです


55.Let's singing!

【Lily】

 

次のエリアに来て、私ははっとする。……ここシャイレーンちゃんの部屋や。

そう気付いて、私は隣のフリスクを見やる。………何歌うんだろう?

 

「? なぁに?」

「何でもないよ、気にしないで」

 

私の視線に気付いたらしいフリスクが私を見上げる。かわいい。……まぁ、あんまり気にしなくて大丈夫か。結構何でも歌えるしな、この子。

 

「……あれ、お姉ちゃん、あれ……」

「?」

 

フリスクが指差した先を見ると、曲がり角から、水色の尾びれのようなものが見えていた。………あれ、もしかしてシャイレーンちゃんの尾びれか……?……頭隠してひれ隠さずってか?やかましいわ。

 

「なんだろう……」

 

超くだらないことを考えていると、フリスクは私から離れて曲がり角に近付いていき、手を伸ばす。指が尾びれに触れた瞬間、背景が白黒に切り替わった。

 

*|Shyren hides in the corner but somehow encounters you anyway.《Shyrenは隅に隠れていたがばったりあなたと鉢合わせてしまった》

 

その言い方だとあれだよな、少女漫画でよくある転校生と曲がり角でばったりみたいな感じだよな……

アナウンスに対してそんなことを思いながら、隅からおずおずと出てきたシャイレーンちゃんを見る。……顔がみえねぇ……

 

*SHYREN- ATK 19 DEF 0

Tone deaf(音痴).

She's too ashamed to sing her deadly songs.(恥ずかしくて歌声を披露できずにいる)

 

調べるを押したらしく、解説のアナウンスが流れる。……恥ずかしい、か……

そんなことを思っていると、小さな歌声が聞こえ、そちらに意識を向ける。

 

『………フンフン』

 

シャイレーンちゃんの声だったらしく、髪らしきものの隙間から出てきた透けている音符の弾幕をフリスクの手を引いて避ける。……聞いた感じ、そこまで悪くないと思うんだけどな……うーん、恥ずかしくて力みすぎちゃってるのか……?

 

Shyren taps a little beat with her fins.(Shyrenはヒレで小さくビートを刻んでいる)

 

シャイレーンちゃんがヒレを揺らし始めると、それに合わせてアナウンスが流れる。……うーん……

 

「フリスク」

「なぁに?」

 

私はフリスクに呼び掛け、耳元に口を寄せる。

 

「しばらく一緒に歌の練習してあげない?」

「! そうだね!」

 

フリスクに『MERCY』条件でもあるハミングを選ぶように薦める。……これで大丈夫かな?

そう思いつつ、フリスクが『ACT』を選ぶのを横目で見ながら、私はシャイレーンちゃんに近付いて声をかける。

 

「ねぇ!これから歌の練習するんだけど、よければ一緒に練習しない?」

 

私が声をかけると、シャイレーンちゃんはピクリと一瞬震えてから、小さいヒレで髪らしきものを掻き分け、私の目をじっと見る。……ようやく目線が合った。

 

「………わたし?」

「うん、君」

 

かわいい声だなと思いながら頷くと、シャイレーンちゃんは恥ずかしそうにもじもじとする。

 

「……いいの?わたし、あんまり上手じゃないよ……?」

「大丈夫だよ!こういうのは楽しんだもの勝ちだからさ!」

 

そう言い切った瞬間、背後で音がする。

 

You hum a jazz ballad .(あなたはジャズ・バラードを口ずさんだ)

 

アナウンスが流れると、シャイレーンちゃんが掻き分けていた髪らしきものを後ろにかけ、息を深く吸い、歌いだした。

 

Shyren follows your melody.(Shyrenも一緒にハモった)

 

シャイレーンちゃんの声が洞窟に響くなか、頭の中でそうアナウンスが流れた。

 

『シ レ シ レ、シ ミ シ ミ』

 

シャイレーンちゃんの歌に合わせて口から飛び出る音符を当たりそうになったらナイフで弾き飛ばし、フリスクの隣に立つ。

 

Shyren seems much more comfortable singing along. (Shyrenは一緒に歌うほうが気が楽なようだ)

 

そうアナウンスが流れると、フリスクは迷わずまた『ACT』を押した。

 

You hum some more.(あなたはさらに口ずさんだ)

Monsters are drawn to the music.(モンスターたちは曲に惹かれている)

 

アナウンスが流れると、その通りに私達の周りにモンスター達が集まりだした。………うお、結構いるな……

 

Suddenly, it's a concert(突然、コンサートが始まった)……

 

『シ ファ シ ファ ソ ファ ソ ミ レ レ』

 

集まりだしたモンスターを見て一瞬驚いたように目を見開いた後、シャイレーンちゃんは嬉しそうに口元を一瞬緩め、それからまた歌い出す。飛んできた音符を、当たりそうになったものだけ弾き、またナイフをしまった。

 

*|Sans is selling tickets made of toilet paper.《Sansがトイレットペーパーで作ったチケットを捌いている》

 

「いやサンズ何やってんの……?」

 

思わずツッコミを入れる。つかあったんだねトイレットペーパー……

気を取り直して、私はモンスター達を見て、それからシャイレーンちゃんを見る。………よし、盛り上げるか。

 

「レディースアンドジェントルメーン!!!皆様、ようこそお越しいただきました!!!今宵行われるのは美しさと愛らしさを兼ね備えた歌姫達によるコンサート!!どうか楽しんでいってくださいませ!!」

 

そう言って大袈裟にお辞儀をすれば、狙い通り群衆からワッと歓声が上がった。

 

「お姉ちゃん!?」

「……あ、ごめん、ついノリで……」

「もう!」

 

フリスクから追及に言い訳すると、群衆から笑い声が聞こえた。

フリスクは改めてシャイレーンちゃんに向き直ると、また『ACT』を選択する。

 

You hum some more.(あなたはもっと口ずさんだ)

The seats are sold out. (客席は売り切れてしまった)

You feel like a rock star.(気分はロックスターだ)

 

『ミ ソ ミ ソ ミ シ ミ ラ シ ソ』

 

アナウンスを聞いて、サンズ大儲けやなという感想を抱きながら、シャイレーンちゃんから飛んできた音符を叩き落とした。……なんでツケを払わないのかが謎だな、うん。

 

The crowd tosses clothing.(観客が着ているものを放り投げている)

It's a storm of socks. (靴下の嵐だ)

 

アナウンスが流れるとともに靴下がコンサートの邪魔にならない程度に飛び始める。大盛り上がりだなー

そんなことを思いながら、フリスクが『ACT』を押すのを見届ける。

 

「……お姉ちゃん!」

「ん?どうした?」

 

ふと、フリスクが私に呼び掛ける。

 

「お姉ちゃんも歌ってよ!」

「………え、私も?」

 

予期せぬ誘いに思わず聞き返せば、フリスクは深く頷いた。

 

「お姉ちゃん全然歌わないんだもん。歌ってよ!」

「えーっと……シャイレーンちゃん、いい?」

 

取り敢えず主演歌手であるシャイレーンちゃんに確認を取ると、シャイレーンちゃんは笑顔で頷いた。

 

「………じゃあ、フリスク、一緒に歌ってくれる?」

「! もちろん!」

 

流石に一人で歌うのは気が引けて、フリスクを誘う。

 

「……じゃあ、あの歌にしよっか。お願いね、フリスク」

「うん、まっかせて!」

 

フリスクが頷いたのを見て、私は息を深く吸い込んだ。………人前で歌うとか高校以来やな、上手く歌える自信ないわ……

 

「………~~、~~」

「~~~~、~」

 

私が歌い出すと、昔練習した通りにフリスクが合いの手を入れてくれる。

 

「~~、~~」

 

You hum some more.(あなたはもっと口ずさんだ)

 

二番のサビに入ったぐらいで、アナウンスが流れ出す。

 

But the constant attention(だが浴びるほどの注目も)……

The tours(ツアーも)……

The groupies(親衛隊も)……

It's all(全て)……

 

……あぁ、もうすぐ終わるんだな、と歌いきりながら思う。なんとなく寂しいような、もっと続けていたいような気分になった。……つかこの短時間で親衛隊出来るとかシャイレーンちゃんとフリスクすげぇな。

 

『(激しい歌声)』

 

私達が歌いきると、それに応えるかのようにシャイレーンちゃんは激しく歌い出す。数が増えた音符を弾き、ナイフをしまう。

 

Shyren thinks about her future.(Shyrenは彼女の将来について考えている)

 

そのアナウンスが流れたところで、私はシャイレーンちゃんに話しかける。

 

「シャイレーンちゃん」

「なぁに?…あれ、そう言えば、名前……」

 

私が話しかけると、シャイレーンちゃんは私の名前を呼ぼうとして、聞いていないことに気付いたらしく、困ったような顔をした。

 

「あはは、そう言えば名前教えてなかったね。私はリリーだよ。改めてよろしくね」

「リリー……うん、よろしく……」

 

改めて自己紹介をして、本題に入る。

 

「……シャイレーンちゃん、独立して歌手かアイドル目指したら?」

 

私がそういうと、シャイレーンちゃんはピクリと体を揺らす。

 

「………でも、せっかく二人に会えたのに…」

「大丈夫だよ!」

 

不安そうな顔をするシャイレーンちゃんの瞳を覗き込み、私は笑った。

 

「私達は仲間なんだぞ?どんな遠い所にいても、ソウルは繋がってるさ!ね、フリスク?」

 

………なんか青春漫画みたいな台詞だなと思いながら背後のフリスクに確認すると、フリスクも頷く。それを見て感極まったのか、シャイレーンちゃんは目を潤ませた。

 

「………ふたりとも……ありがとう……」

 

シャイレーンちゃんが泣きながら笑顔で言うと、背後で音がした。

 

You and Shyren have come so far, (あなたとShyrenはとうとうここまで来た)but it's time(だがこれからは)……

You both have your own journeys to embark on.(それぞれ別の旅路を歩むことになるだろう)

 

シャイレーンちゃんから離れ、フリスクの隣に立つ。そして、私は観客に向かって振り返った。

 

「お集まりになった皆様、これにてラストナンバーとなります。どうぞ彼女達の別れを、そして旅立ちを、お見送り下さい……」

 

そう言ってまた大袈裟にお辞儀すると、アナウンスの続きが流れた。

 

You hum a farewell song.(あなたは別れの歌を歌った)

 

アナウンス通りにフリスクが動かしていた口を閉ざすと、シャイレーンちゃんが目から大粒の涙を溢し、それでも笑顔を浮かべながら、優しいメロディーの歌を歌い出す。

 

『(最後の歌声)』

 

優しい歌とともに飛んできた音符を避け、シャイレーンちゃんを見る。

 

「~~~、~~……~~」

 

観客の前で堂々と歌うその美しい姿は、まさに歌姫と呼ぶに相応しい姿だった。

彼女が歌い終わると、盛大な拍手が彼女を包んだ。私が見ている事に気付いた彼女は、涙を拭って此方に微笑みかけ、丁寧にお辞儀をして去っていった。

 

YOU WON(あなたは勝利した)!

You earned 0XP and 30gold.(0XPと30goldを得た)

 

彼女が去るとともに背景に色が戻ってくる。ふと周りを見渡すと、あれだけ大勢いたモンスター達も居なくなっていた。……うん、まぁ、大成功で終わって良かったけどな。

 

「久しぶりにお姉ちゃんが歌ってるところみたなー」

「そうだね、孤児院では迷惑になるかと思って歌ってなかったし」

 

フリスクがぽつりと溢した言葉に返す。……というか頭が冷えてる今だから言えるけど、青春漫画みたいな空気に呑まれて変な行動してたな……

 

「………さてと、次、どっち行こうか?」

 

まぁいいかと気を取り直し、フリスクに訊くと、フリスクは二つの道を見比べて悩み始めた。




※彼女達が歌うシーンではお好きな歌を歌わせて下さい。

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