守りたいもの   作:行方不明者X

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※大変お待たせしました

※中途半端なところで終わってます。申し訳ありません。


57.Waterfall探索⑨

【Lily】

 

来た道を戻って石像の前まで来ると、フリスクは赤い傘を開いて石像に駆け寄っていく。

 

「はい、どーぞ!」

 

フリスクは笑顔でそう言いながら、石像の肩に傘をかけた。すると、石像に当たっていた水滴が跳ねる音が消え、石像から聞き覚えのある音楽が流れ出す。……ゲーム以来だな、これ聴くの。

 

「……お姉ちゃん」

「ん?」

 

そのまま音楽を聞いていると、ふと気付いたようにフリスクが虚空を見上げながら私に呼び掛ける。フリスクが見上げている辺りを私も見てみるが、何もない。………あの辺りにゲーム通りの記号があるんだろうか。

 

「……さっきの部屋のヒントってこれかなぁ?」

「多分そうだと思うよ」

「そっか……」

 

そう言ってフリスクはしばらくぼーっと空を見上げ、それから視線を私に合わせた。

 

「八個、全部覚えたからいこう」

「……おぉ」

 

……今、『個』って言ったな。やっぱり見えてんのか……?

そんなことを思いつつ、私は歩き出したフリスクの後を追った。

――――――――――――――――――――

さっきのピアノの部屋まで戻ってくると、フリスクは真っ先にピアノの前に立ち、先程覚えた音を迷わず打ち込んでいく。

 

ポーン ポーン ポーン ポーン

 

 

ポーン ポーン ポーン ポーン

 

八つ、ピアノの音が部屋に響くと、ガコンと大きな音がして、目の前の壁に人が通れる程の大きな穴が開いた。

 

「やった、開いた!」

「おぉ、やったね、フリスク」

「えへへぇ」

 

やだ、うちの妹超かわいい。

嬉しそうに頬を緩めるフリスクの頭をなでて、穴の中を覗き込んでみる。すると、そのまま部屋に直結していたらしく、割りとすぐ近くに台座とその上にある赤い玉が見えた。……あれか、アーティファクト。

 

「フリスク、あれが宝物じゃない?」

「! そうかも!」

 

私が奥を指差しながら言うと、フリスクはぐいっと私を引っ張って部屋へと入り、赤い玉へと近付いた。それに伴って、私も近付いていく。……あ、すげぇ。めっちゃ綺麗だなこれ。

そんな事を思いながら上の看板を見上げる。ゲーム補正がかかっているのか、黒のクレヨンでぐちゃぐちゃに塗り潰されたかのように文字が見えなくなっていた。……これ、フリスクには見えてるんだろうか。

 

「フリス、ク……?」

 

呼び掛けようとしてフリスクを見て、私はぎょっとした。

 

「……? どうしたの、お姉ちゃん」

「………いや、フリスク、その犬はどうした…?何処から拾ってきた……?」

「え?」

 

フリスクの腕の中には、いつの間にか白い毛並みの犬が丸くなって収まっていた。……え、いつから居たん?

 

「わん!」

「!?」

 

自身の腕の中にいた犬の存在に気付き、フリスクもぎょっとしたような顔をする。そして犬を少し撫でると、そっと地面の上に降ろした。

 

「わんわん!」

 

元気よく犬はフリスクの周りを駆け回ると、アーティファクトに体当たりした。すると、アーティファクトと犬は元からそこに何もなかったかのように消滅した。……もう一度言おう、消滅した。どういうことなの……

あまりの出来事にしばらく唖然としてしまう。

 

「………なんだったんだろう、今の……」

「……さぁ……?」

 

私より先にフリーズから戻ってきたフリスクがぽつりと呟き、私はそれに首を傾げておいた。

 

「………うん、まぁ……行こうか」

「うん……」

 

一連の出来事に微妙な気持ちになりつつ、私達は部屋を後にした。

――――――――――――――――――――

 

次の部屋は………あぁ、雨の部屋か。

そう考えていると、鼻の頭に水滴がぽつりと当たった。さっきの部屋にあった傘を開き、差す。横にいるフリスクを見ると、先程の傘と似たような赤色の傘を差していた。……ちなみに私の傘は黄色にしてみた。

 

「すごい、地下なのに雨だ!」

「そうだねー」

 

いや、ガチでどうなってんだろうね、これ。

水溜まりをぱしゃぱしゃと足で踏みながら言うフリスクに癒されつつ、手を伸ばして水滴を何粒か受け止めてみる。……うーん、川の水でも落ちてきてるのか……?

伸ばした手を引っ込め、足下の水溜まりを見つめる。……確かどっちかのバージョンでデバッグモードに切り替えると映る姿がCharaちゃんになるんだよな、と遠い記憶を思い出し、水溜まりの中の自分と目を合わせる。

 

「………うん、私だ」

「? お姉ちゃん、どうかしたの?」

「何でもない。今行くよ」

 

少し先のフリスクが不思議そうな顔をしながら振り返る。私は水溜まりから目を離し、フリスクの傍に駆け寄った。

 

「おっ、傘持ってるのか?」

 

しばらく歩いていくと、壁の方から知っている声がした。首を回して見てみると、ゲーム通りモンスターキッド君が壁の穴の中で雨宿りをしていた。それを見て、一緒に入らないかと言わんばかりにフリスクが少し傘を傾げて手招きした。

 

「やりぃ!」

 

その誘いに乗って、モンスターキッド君はフリスクの傘に入る。

 

「行こうぜ!」

 

モンスターキッド君の呼び掛けに頷き、フリスクは歩を進め始めた。二つに増えたぱしゃぱしゃと水溜まりを踏む音が部屋に響く。

 

「……なぁ、アンダインってすっげーーーカッケーんだぜ」

 

しばらく歩いた所で、ふとフリスクにモンスターキッド君は話題を振った。

 

「悪者をやっつけるムテキのセンシなんだ。おいらが人間なら、怖すぎて夜も眠れないね……いつアンダインがやっつけに来るかってな!」

「そうなんだ…」

 

いや、目の前の人間そこまで怯えてませんけど……と微妙な気持ちになりながら笑うモンスターキッド君に相槌を打っておく。……どっちかって言えば警戒だしな、これは。……それにしても、

 

「悪者、ねぇ……」

「? なんだ?」

「あぁ、何でもないよ、気にしないで。行こうか」

 

思わず苦笑したのが聞こえたらしく、モンスターキッド君が不思議そうに私を見上げてくる。それを誤魔化して、先に進むように促す。……それにしても、悪者かぁ……

悪者の定義って何なんだろうな、と哲学っぽい事を思いながら二人の後を歩いていく。しばらく歩いていくと、エコーフラワーが見える場所に差し掛かったところでモンスターキッド君が歩きながらまた口を開いた。

 

「じつは、昔な。学校で花の世話をすることになったんだよ」

 

徐に口を開いたモンスターキッド君の話に相槌を打つようにフリスクは頷く。

 

「王様の、『ドリーマー先生』が自分の花を贈ってくれて」

「へぇ、王様って花育てるの好きなんだね」

「そうだぜ!」

 

……アズゴア王の花と言えばバターカップの花しか思い浮かばないがそれだろうか。

 

「ついでに授業でセキニンの大事さとかを教えてくれたんだ」

 

ついでじゃなくてそっちが目的だと思うけどナーと思いながら相槌を打つ。………責任、ねぇ。

 

「で、思ったんだ……ほら!アンダインが来たらどんだけすげーかなって!?先生みんなやっつけてくれるかなとか!!……なーんて、そんなことしないだろうけど……悪者を倒してこそアンダインはカッケーんだしな!!」

 

まぁ、そうだろうね。心の中でモンスターキッド君に同意しておく。……悪を倒す事が本当に正しいのかは別として。

 

そんなことを思っていると、ふと、視界が拓けた。

 

「……おぉ」

 

傘を少し傾げて天井を見上げて、思わず口から言葉が溢れた。

視界に広がるのは地上の星空と変わらぬ満天の星空。願いの間とはスケールの違うその空は、本当に綺麗だった。

視線を元の位地に戻し、前を歩く二人と開いてしまった距離を戻すためにまた歩き出す。しばらくそうして歩いていくと、ふとフリスクが立ち止まって、遠くに見える大きな影を見つめた。

 

「………あれが……お城……」

 

フリスクがそう呟くのを聞きながら、私も向こうに見える城の影を見つめる。

 

 

……彼処が、『この物語(Undertale)』の終着点。私達が、目指す場所。

 

 

また歩き出したフリスクとモンスターキッド君の後を追いかける。その背中を見ながら、私は絶対にフリスクを守りきるという決意を抱いた。




※12/15 加筆修正

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