【Lily】
人間が捨てたゴミが山になっているのを横目で見ながら通りすぎ、薄く見える決意の光があるエリアまで辿り着く。……こんな山になるレベルであるって、どんだけ不法投棄してんだよ。
「……ゴミがいっぱいだね」
ふと、着いて来ているフリスクがそう言った。
「そうだね。……多分、これ全部人間が捨てたやつだよ」
「………やっぱり?」
ざば、という音を立てながら水からあがる。………うわ、また気持ち悪い感触が……
「見たことがあるブランド物がいくつかあったし、そうじゃないかとは思ってたけど……こんなにあるんだね」
フリスクは水からあがりながら辺りを見渡し、少しショックを受けているような声音でそう言った。
「……そうだね」
フリスクにそう返答しつつ、私は目の前に広がる穴を見つめる。ここから落ちたら絶対に死ぬよな、とか思いながら、目を逸らして決意の光に手を当ててセーブを行うフリスクを見つめる。
「……終わったよ、行こう」
フリスクが私にそう言って水に入り、前を進んでいく。その後を私は追っていった。
――――――――――――――――――
………次は、マッドダミー戦か。
そう思いながらポケットの玩具のナイフを触る。……攻撃手段確か綿だったはずだけど……これで防ぎきれるか?
不安を感じつつ、ゴミの山を避け、川の中を進んでいく。
「………あれ、自転車だ」
そう呟いたフリスクの声に顔をあげると、確かに少し先にゲーム通りの錆びた自転車があった。……うわ、めっちゃ錆びてやがる。
自転車に興味を持ったのか、フリスクは自転車に近付いていく。私も近付いていって、よく観察してみる。……うん、遠目で見て分かるレベルだから酷いんだろうなとは思ってたけど、やっぱり凄い錆びてんな……形も結構変形しちゃってるし……
キィ~……
フリスクがハンドルの部分を押すと、結構掠れた音がする。……うん、これは確かに悲痛な音だわ。
触ったら変な音がなった事に驚いたのか、フリスクは一瞬ビクッとして手を離す。
「………びっくりしたか、フリスク」
「…………うん」
恐々とした様子で自転車の横を通り抜けるフリスクを怯えた猫みたいだなとか一瞬思ったのはナイショ。
「……お姉ちゃん、あれ何?」
「ん?」
ゴミの山の先にあるデスクトップ・コンピューターの部品に興味を示したのか、フリスクは指しながら訊いてくる。……うわ、ぼこぼこになってんな。
「あー……これも一応コンピューターだよ。結構古い型だけどね」
「ふーん……」
近付いてコンピューターを観察して、フリスクにそう言う。………うん、大分古い型だな。ゲームだと中身はないってなってたけど……博士かアルフィスが使ったのか?
そんな風に思いながらコンピューターから離れ、次はクーラーボックスに近付いていく。確か宇宙食が入ってんだっけ。……そういえば宇宙食ってバーみたいなやつしか見たことないんだけどどんななんだ?
「………? クーラーボックスだ」
そう疑問に思っていると、フリスクが近付いていってクーラーボックスをペタペタと触る。開けられると分かったのか、ボックスの蓋に手をかけて開けると、ギィ、と軋む音が響いた。
「なんかあったー?」
「……うん、バーみたいなのが二個あるー!」
あ、やっぱりバーみたいなやつなんだなとか思いつつ、ボックスの中に手を突っ込むフリスクの傍に行く。
「……これ、なんだろ?」
「あー………宇宙食じゃない?」
「え?そうなの?」
「ほら、前テレビでやってたじゃん、宇宙特集。あれでこんなの出てなかった?」
「あ!確かに!」
興味深々といった様子で宇宙食を見るフリスクに答えてやり、私もよく見てみる。……味とかどっかに書いてないかな?
「どうするよ、持ってく?」
「うん、一つだけ」
「分かった。じゃあ入れとくから貸して」
フリスクから宇宙食を受け取り、リュックを前に持ってくる。……あ、良かった、中身のアイテム潰れてねぇ。
これで潰れてたらヤバかったな、と思いつつ、宇宙食をしまい、リュックを背負い直す。
それを見てフリスクは今度は浮いているDVDケースへと近付いていく。……確かアニメのDVDケースだったはずだけど、なんのアニメだろ?
ざぱ、という音を立てながらフリスクがケースを自分の目線の高さへと持っていく。
「………なんのアニメだろう、これ」
「んー?ちょっと見せてみ?」
フリスクからケースを借り、タイトルを見てみる。大分掠れてしまっているタイトルから辛うじて『ミューミューキャット』と読む事が出来た。……あ、じゃあこの引っ掻き傷はまさかアルフィスの……?
なんとなくそう察しながら開けてみようとする。……あ、駄目だ、開かないわ。
どうやら固く閉じられているらしく、全く開かなかった。
「『ミューミューキャット』だってさ」
「ふーん……開かないっぽい?」
「うん、ビクともしない」
私がそう答えると、フリスクはちょっと残念そうな顔をしながらそっか、と言って頷いた。
ケースを水面に戻し、視線を元に戻して右斜め前に持っていく。すると、ルインズで相手になってくれたダミーがあった。……居たよ、やっぱり可愛い顔してんな。
「あれ?ダミーだ」
フリスクもマッドダミー君に気付いたらしく、マッドダミー君に近付いていく。私もマッドダミー君に近付いて、少ししゃがんでマッドダミー君に目線を合わせて微笑み、ルインズでしたように頭をそっと撫でておく。
「こんにちは、ダミー君」
「こんにちは!」
フリスクもにっこりと笑って私に続いて挨拶をする。その間、私はマッドダミー君の足元を見てみる。……よく見たら若干浮いてんじゃねーか。
そんな風に思いながら五秒ほど撫でたあと、頭から手を外してマッドダミー君にさよならの意味を込めて手を振る。
「行こうか」
「うん!」
マッドダミー君の前を通り抜け、フリスクと一緒にゴミ捨て場から去ろうとする。すると背後で、
ざばり
と、水の音がした。
「……お姉ちゃん、今の音聞こえた?」
「…聞こえたよ」
フリスクにも聞こえたらしく、私に確認してくる。それに是の返事を返し、フリスクと一緒に後ろを振り返ってみる。すると、先程まで肌色のような色だったマッドダミー君の色が橙色へと変わり、水面へと潜り、水中を移動しざばっと大きな音を立てて私達の前に再び姿を現した。
「馬鹿め!このオレを傷つけられるとでも思ったか???」
先程までの静かだったマッドダミー君は個人的には結構好みな声でそう言った。……一瞬どっかの聖剣の妖精思い出したやつは挙手な。
ヴァカめ!という幻聴が一瞬聞こえて笑いそうになるのを圧し殺し、マッドダミー君を見上げる。
「……これは驚いた。生きてたんだね、君」
……というか、この台詞ってことはマッドダミー君を殴った事になるんだけど、あれは傷付けた判定に入るのか?
と思い、マッドダミー君を見上げながら思案する。……『Player』が『ぶちのめす?』で『はい』を選んだのか?そのせいで私のなでるが攻撃だって認識されたのか?
そんな事を思案していると、マッドダミー君は律儀に私と目をあわせてくれる。
「……まぁ、生きてるとは言い難いんだがな……オレはダミーに取り憑いてるゴーストだ」
……あ、いい子だ、この子。
律儀に答えてくれたマッドダミー君にそんな事を思う。
「オレのいとこもこれに取り憑いてたんだ。お前達が……」
ゴーストいとこ関係多すぎない?
そんな事をのんきに思いつつ、マッドダミー君の言葉を待つ。
「お前達がやってくるまではな!」
やっぱりルインズの彼のことかと思いながら話を聞く。
「いとこは楽しいお喋りを期待していたのに……お前達が言ったことと言えば……!恐ろしく。ショッキング!とんでもないものだった!いとこが怯えてダミーの体を捨てて逃げる程にな!」
「え、そんなこと言ったっけ私。ただ普通に挨拶しただけなんだけど………」
「ぼくも……」
マッドダミー君の言葉にフリスクと揃って困ったように言ってみれば、マッドダミー君は驚いた顔をした。
「は?そうなのか?」
「うん。さっきやったように撫でながら挨拶しただけなんだけど……」
「それだよ!!!」
「えぇ!!?」
理不尽な理由に思わず声をあげてしまう。うっそだろおい。
「人間!お前達のソウルも恐怖で引きずり出してやる!」
マッドダミー君がそう言った瞬間白黒に切り替わった世界をを見ながら、私は切実に思った。
テラ理不尽である、と。