守りたいもの   作:行方不明者X

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※これで今年は最後です

※皆様、良いお年を


63.マッドダミー戦

【Lily】

 

Mad dummy brocks the way(Mad dummyが道を塞いだ)!

 

ふわふわと同じ目線くらいの高さに浮いたままのマッドダミー君を見据えながら、玩具のナイフをポケットから取り出して構える。……ちなみにマッドダミー君とナプスタ君の曲は私の中でも結構上位の曲だったりする。

フリスクが『ACT』に手を伸ばすのを見ながら、私は戦闘終了条件を思い出す。……あー、ナプスタ君が来るまで耐久か……うん、しまうか、これ。

 

*MAD DUMMY―ATK 30 DEF YES

Because they're a ghost, physical attacks will fail(ゴーストなので、物理的な攻撃は効かない).

 

『哀れだな。哀れだな!哀 れ だ な !』

「何が?」

 

何言ってんのコイツと一瞬思いながらナイフをしまい直し、周りに現れた小さいダミー君達から発射される綿っぽい物をフリスクを抱き上げて回避し続ける。ゲーム通りにマッドダミー君に当たるように立ち回ると、

 

ドスドスッ

 

という綿が出しちゃいけない音がして、マッドダミー君に上手く弾幕が当たる。……よっしゃ。

 

『うぐうううう、ダミーども!!その魔法攻撃はちゃんと狙え!』

 

マッドダミー君は苦しみながらちびダミー君達に大きな声で指示を出し、はっと気付いたように私を見る。

 

『……おい!お前!今言った魔法については忘れろよ!!!』

 

だが断る。

焦っているような顔をするマッドダミー君に心の中でそう返す。

 

Mad Dummy is looking nervous(Mad dummyは何かを心配しているようだ).

 

魔法攻撃は効く事がバレたんだしそりゃ心配するわな。……まぁそこを容赦なく突いていくんですけどネー。

内心悪どい笑みを浮かべながらフリスクが『ACT』を押すのを見る。……俗に言うお姫様抱っこってやつだから顔が近い。かわいい。

 

You talk to the DUMMY.(あなたはDUMMYに話しかけた).

 

アナウンスに合わせてフリスクがパクパクと口を動かす。

 

*…………

It doesn't seem much for conversation(ちぐはぐな会話だ).

No one is happy with this(これでは誰も幸せにならない).

 

会話は成立しなかった模様。……まぁ相手が興奮してたらそりゃあね……。

 

『お前を倒してソウルを奪ってやる!』

「………あぁ、そう」

 

マッドダミー君に向かって思った以上に冷たい声が出たのに自分でも驚きながら、ちびダミー達から飛んできた綿を避け、また当たるように立ち回る。

 

*Mad Dummy glares into a mirror, then turns to you with the same expression《Mad dummyは鏡を食い入って見つめていたが、そのままこっちを振り向いた》.

 

アナウンス通り、ゴミの山の中腹辺りを見つめていたマッドダミー君がギロリと此方を睨んでくる。……元々が可愛い顔だからかそんなに怖くねーな。

そんな風に思いつつ、フリスクがマッドダミー君を見逃そうと『MERCY』を押そうとするのを見て、再び動けるようにしっかり抱き直す。

 

『お前のソウルで結界を通り抜けるぞ!』

「………へぇ」

 

私の中で一瞬殺意が膨らみかける。それをなんとか抑え込みながらまたマッドダミー君に当たるように立ち回り、着実にダメージを与えていく。……あ、一発外した。

 

*|Mad Dummy is doing an armless ska dance《Mad dummyは腕が無いのにスカダンスを踊っている》.

 

……スカダンスってなんぞ。

そう思いながらアナウンス通りダンスを躍りながら飛び回るマッドダミー君の動きを出来る限り予測する。……軌道はゲームと大体一緒らしいな。なら見ながら避ければ当たるか?

腕の中でピッと音がした。

 

『そして高級店のショーウインドウに並ぶのだ!!』

 

一瞬近くのブランドの店のショーウインドウにマッドダミー君が混じっている風景が浮かんで笑いそうになるのを堪え、動き回るマッドダミー君に当たるようにまた立ち回る。やはり見ながら避けるというのは難しく、上手く当たらない。……あ、当たった。よっしゃ。

 

Smells like a clothing store(洋服店の匂いがする).

 

するか……?

疑問に思いながら嗅いでみる。……あー、うん、独特な匂いがするわ。

ピッと音がして、会話が進む。

 

『オレは欲しいものを全部手に入れる!』

 

……はは、やれるもんならやってみろよ。

心の中でそんな事を思いながら綿を避けてマッドダミー君に当たるようにする。……お、よし、当たった。

 

*|Mad dummy is getting cotton all over the dialogue box《テキストボックスはコットンまみれになっている》.

 

いや何処だよテキストボックス……

アナウンスに思わずツッコミを入れ、さらに動き回るマッドダミー君を見据える。

ふと、『MERCY』を押しながらフリスクが口をパクパクと動かした。

 

『ん? あーそうそう、ついでにいとこの仇もとるぞ』

 

………『ついで』?おい、コイツまさか、ソウル狙う口実にいとこ利用したのか?……うわ。

一瞬にしてマッドダミー君の評価が下がる。………うわダミーズが飛んできた。あぶね。

当たらないように立ち回り、マッドダミー君に当たるように仕向ける。

 

*Mad dummy is getting cotton all over the dialogue box.

 

ピッと、また腕の中で音がする。

 

『なんて名前だっけな……?』

 

名前さえ覚えてないんかい。

 

「………うわぁ、どんだけだよ。ソウルを狙う口実にいとこを利用した挙げ句、名前まで忘れるとか……ないわー」

「うぐっ、う、うるせえ!!」

「あ、口に出てた?めんごめんご」

「お、お姉ちゃん……?」

 

煽るつもりで思っていた事を言いつつ、飛んで来るちびダミーを避け、綿の弾幕をマッドダミー君に当たるように立ち回る。………正直言って、腹が立つ。

 

*Smells like a clothing store.

 

驚いたように私を見るフリスクに笑みを返すと、安心したかようにフリスクはマッドダミー君に視線を戻し、『MERCY』に触れる。

 

『とにかく。とにかく!と に か く !』

 

話を逸らすかのようにそう叫ぶマッドダミー君に冷たい視線を送りつつ、また避けてマッドダミー君に当たるように仕向ける。………うし、上手く当たった。

 

*Mad dummy is getting cotton all over the dialogue box.

 

だから何処だよ、テキストボックス……

ピッと音がして、ターンが進む。

 

『無駄だ。無駄だ!無 駄 だ !』

 

おい、奇妙な冒険を思い出して笑いそうになるじゃないか。どうしてくれる。

一瞬頭の中でラッシュが再生されて笑いそうになるのを堪え、飛んできたちびダミーを避け、また当たるようにする。……あと何ターンだ?

 

『おいお前達!!』

 

マッドダミー君がちびダミー達に怒鳴り声で呼び掛けると、ちびダミー達がひょっこりと顔を出す。……正直言って可愛い。撫でたい。

 

『バカ。間抜け!木偶の坊!オレに撃つなって言っただろ?』

 

ちびダミー達に荒んだ心をちょっと癒されていると、マッドダミーがちびダミー達に怒鳴り出す。

 

『うぬぬ……失敗作どもが!全員クビだ!選手交代!!』

 

そうマッドダミー君が怒鳴ると、しょんぼりした様子でちびダミー達は下がっていった。……失敗作は言い過ぎだと思うぜ……?

 

『ハハハ。ハハハ!ハ ハ ハ !オレの本当の力を見せてやろう!クズどもとは格が違うぞ!!』

 

勝利を確信したかのように笑うマッドダミー君を見ながら、私は次の弾幕の対処を思案する。……次は確かミサイル(ロケットっぽかったけど)型の追尾弾幕だったはず。だったらその対処は……

 

Mechanical whirrs fill the room(機械の音が聞こえる).

 

そうアナウンスが流れた通り、機械の作動音が聞こえてくる。

ピッ、と腕の中で音がした。

 

『ダミーロボ!!マジックミサイル!!!』

 

マッドダミー君がそう呼び掛けると、今度は機械で出来たダミーが現れ、腹の辺りを開いてミサイルを発射してくる。

 

「おぉっと!?追尾か!」

 

予測通り、追尾弾幕だったミサイルを連れてぐるりと円を描くように大きく走り回り、マッドダミー君の前で突然しゃがんで、偶然当たったかのように立ち回る。ボンッ、という何かが破裂する音が背後で聞こえ、弾幕が上手く当たった事を確信し内心ガッツポーズをする。……よし。

 

Mad Dummy is bossing around its bullets(Mad dummyは弾幕に指示を出している).

 

聞こえてくるアナウンスを聞き流しつつ、私はフリスクを抱え直す。……落としたりしたくないし。

ピッという音がした。

 

『ダミーロボ!!もう一度だ!!!』

 

マッドダミー君がそう指示すると、またダミーロボが現れ、ミサイルを発射する。それをまた走って避け、当たるように立ち回る。……よし、当たった!

 

Mad dummy is hopping mad(Mad dummyは狂ったように跳ねている).

 

アナウンス通り、マッドダミー君は狂っているかのように跳ねながら少し焦っている様な顔をしていた。……ここまでくればもう少しだった筈。頑張らなきゃな

ピッという音がした。

 

『ダミーロボ!お前らまで???』

 

マッドダミー君は焦ったような声でそう言うのを聞き流しながら飛んできたミサイルを避け、走り回り、当たるように仕向ける。ボン、とミサイルが破裂する音が響いた。

 

*Mad Dummy glares into a mirror, then turns to you with the same expression.

 

これで何ターン目かと思案しつつ、周囲に目を光らせる。

ピッ、と音が聞こえた。

 

『ダミーロボ!これが最後だ!!』

 

やっとかと思いながら飛んできたちびダミー達を避ける。

 

「!! お姉ちゃん後ろ!!」

「えっ」

 

切羽詰まったフリスクの声で後ろを振り返ると、ミサイルが直ぐそこまで飛んできていた。これは不味いと咄嗟に身を捻り、フリスクに当たらないように背中を向けてミサイルを受ける。ボン、という破裂音が聞こえ、腰から背中に激痛が走った。………いってぇ。忘れてたな、これ。

痛みをぐっと堪え、尚も飛んで来るちびダミーを避け、ダミーロボから発射された無数のミサイルを大きく立ち回って避け、マッドダミー君に当たるようにまたしゃがんだ。ボン、という破裂音が幾つも聞こえ、何発か当たった事に安堵する。

ゆっくりと立ち上がってマッドダミー君を見上げると、焦ったような顔をしていた。……まずいとでも思っているんだろうか。

心配そうな、泣きそうな顔で私を見るフリスクを水の上に降ろし、心配かけてごめんねという意味を込めて頭を撫でてあげる。すると、

 

『知ったことか。知ったことか!知 っ た こ と か !!』

 

マッドダミー君の声が聞こえ、私はマッドダミー君を見ながらポケットから玩具のナイフを取り出して、出来るだけ刃に近い部分を持つ。

 

『友達なんていらない!!!』

 

強がりを言いながらマッドダミー君は何処からともなく本物のナイフを取り出した。……錆び付いていない。当たったら絶対痛いな、あれ。

 

『このナイフさえあれば!!!』

 

そう叫ぶ声と共に、ナイフが飛んで来る。私はフリスクを後ろに庇い、玩具のナイフの柄でナイフを足元に叩き落とした。

 

『あー………ナイフ無くなった。』

 

焦ったような顔をするマッドダミー君を、私達はじっと見つめた。

 

『でもそれが何だって言うんだ!!!』

 

もう殆ど自棄になっているマッドダミー君が叫ぶ。

 

『お前はオレを倒せないしオレはお前を倒せない!』

 

まぁ物理攻撃無効だもんなお前……と思いながらすげぇ動きをしているマッドダミー君を見つめる。

 

『お前はここでオレと共に大ハマリとなるのだ!!! 』

 

今後の展開を知っている私からすれば、それは違うよと論破したくなる発言だがスルーする。

 

『永遠に。』

 

……違うよ。

 

『永遠に!』

 

違うよ。

 

『永 遠 に !!!』

 

ふと、フリスクを見てみると、出られないという事に顔を真っ青にしていた。……大丈夫だという意味を込めて撫でてやると、フリスクは私に抱き付いてくる。……うぐ、背中いてぇ。

 

『アハハハハハハハハハ!!!!』

 

自暴自棄になって狂ったように笑い続けるマッドダミー君の声を聞きながら、フリスクの頭を撫でる。あの子程じゃないな、と呑気にそんな事を思っていると、マッドダミー君の上から雫がぽたりぽたりと落ちてきた。……来てくれたか。

 

『な……なんだこれ!?』

 

無数の雫がマッドダミー君の上に降り注ぎ、着実にダメージを与えていく。それに気付いたマッドダミー君は慌てだし、やがてそれの正体に気付いた。

 

『ゲェッ!? 酸性雨だ!?!』

 

慌ててマッドダミー君は酸性雨を避けようとする。……まぁ、体が溶けたら不味いもんな。強酸性だし……

 

『うっわ、もういい、撤収だ!!』

 

流石に体が溶ける事より野望を優先出来なかったのか、マッドダミー君は逃げていった。よっしゃ。

 

『………ごめんなさい、邪魔しちゃった、かな?』

 

マッドダミー君が逃げていくと、すぅーっと上からナプスタ君が現れた。

 

『ぼくがやってきた途端、お友達が行っちゃったね……あぁ……三人とも楽しそうにしてたのに……あぁ……ただ挨拶したかっただけなのに……』

 

どこがだと思いつつ、少し不安そうにそう訊いてくる彼に、私は笑顔で首を横に振る。

 

「ううん、迷惑じゃないよ。寧ろ助かったよ。ありがとうね」

「そう……?なら、良かった…………あぁ…………」

 

すぅーっと彼が消えていくと同時に、背景が白黒から切り替わり、色が着いていく。……戦闘が終わったんだな、と思うと、力が抜けたのか背中の痛みが急に強くなった。……いってぇ……

 

「えぇっと………ぼくは家に帰るけど……」

 

ふよふよも浮かびながら、ナプスタ君は私達にしどろもどろに呼び掛ける。

 

「あの………んーと………来たかったら一緒に来てもいいよ……」

 

無理強いはしないから、と、忙しいなら来なくてもいいよ、ともだんだん小さくなる声で付け加えながら、ナプスタ君はそう言った。……可愛い。

 

「気にしなくていいよ……ただ誘ってみただけだから……」

 

そう言ってふよふよとナプスタ君は廊下の奥へと進んで行った。それを見送りながら、私はリュックを前に持ってくる。……良かった、リュックには被弾してなかったみたいだ。まぁ痛むの腰辺りだしな、心配はしてなかったけど……

中からナイスクリームを引っ張りだし、袋を破って退け、ナイスクリームにかじりつく。……甘い。美味しい。

アイスを夢中になって食べていくと、腰のジンジンとした痛みがすっと消えていった。恐る恐る怪我したであろう部分を触ってみて、痛みが無い事を確認する。……うん、大丈夫そうだ。

 

「大丈夫……?」

「うん、もう平気。心配しなくて大丈夫だよ」

 

心配そうに私を見るフリスクに笑いかけ、くるくると回ってみせる。すると、ようやく安心したのか、フリスクはほっと息をついた。

 

「……で、どうするよ。ナプスタ君の家、行く?」

 

話を逸らす意味も兼ねて、どうするかをフリスクに訊く。フリスクは少し考えて、笑顔で頷いた。

 

「うん!!せっかく誘ってくれたんだもん、行かなきゃ損だよね!」

「あはは、そうだね」

 

うん、まぁそう言うだろうとは思ってたけどな。……あ、そうだ。

 

「じゃあ、行こうお姉ちゃん!」

「あー、ちょっと待って」

「?」

 

意気込むフリスクに待ったをかけ、パーカーの袖を捲って水の中に手を突っ込む。

 

「……何してるの………?」

 

私の行動に疑問を持ったのか、フリスクが不思議そうな顔で訊いてくる。それを一旦聞き流し、水の中を探る。………あれ、ここら辺だったはず……有った有った。

叩き落とした辺りを探り、掴んだ物を水の中から引っ張り出す。ざぱ、という音を立てて現れたそれを、私は振るって水気を払った。

 

「これ探してたんだよ」

「それって、さっきの……?」

 

フリスクは驚いたように私の手の中にある物を見る。……まぁ、そりゃ驚くよね。

 

「持ってきたカッターなくしちゃったからさ。何時までもこれ使ってる訳にもいかないし、代わりになりそうじゃない?」

「そうだけど……」

 

言い訳のようにそう理由をフリスクに並べ立て、ハンカチを取り出し、刃の部分をくるんでポケットにしまう。……うん、サイズも軽さも大丈夫そうだ。

 

「さてと、行こうか」

「……うん」

 

フリスクに笑いかけ、手を繋いで先に進む。……これで、いざというときは大丈夫だな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私はナイフを手に入れた。




*She got a knife.

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