守りたいもの   作:行方不明者X

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69.アンダイン戦

【Lily】

 

「お姉ちゃん!」

 

少し後ろの方から聞こえたフリスクの声にはっとしてその場所から飛び退き、槍を回避する。

 

ドゴォン

 

という派手に地面が割れる音を立て、アンダインは地に降り立った。その顔に、先程幻視した苦しそうな顔は何処にもなかった。

 

「……やぁっと同じフィールドに立ってくれたか」

 

そんな事を言って、フリスクの前に再び出ながらアンダインに笑顔を作る。

アンダインはそれを無視したのか、黙って槍を一本召喚し、此方に投げて寄越した。足元に投げ付けられたそれを拾い上げ、軽く振ってみる。……丈夫そうだけど重さは其処まででもないな。やっぱ魔法で出来てるからか?

 

『構え!』

 

アンダインが槍を振ってそう言った瞬間、地面に緑色のサークルが現れる。これが『グリーンアタック』の効果かと察し、このサークルの中から出れないようになっているんだろうかと推測する。

 

Undyne attacks(Undyneが襲いかかってきた)!

 

流れたアナウンスを聞き流しながらサークルの外に出てみようとすると、案の定見えない壁に弾かれ出れなかった。

 

「……んー、やっぱり出れないか。攻撃がくるかもしれないから出来るだけ私の傍に居てね」

「……うん」

 

振り返りながらそう言えば、フリスクは若干浮かない顔をしながら私の言葉に従い、サークルの中に入る。……これでフリスクに攻撃が当たる事はないだろう。

そんな事を思案しつつ、フリスクが『ACT』を押すのを見て槍を構える。

ピッ、という音がした。

 

*UNDYNE-ATK 50 DEF 20

The heroine that NEVER give up(決して諦めないヒーロー).

 

……ヒーローねぇ。

流れたアナウンスにそんな事を思いながら、槍を握り直した。

 

『いいか、グリーンの間は逃げ回る事は出来ない!』

 

フェアであろうとしているのかなんなのか、アンダインはグリーンアタックについての説明を始める。

 

『脅威に真っ向から立ち向かえないなら……貴様は一瞬の内に敗れることだろう!』

 

あぁ、そう。

アンダインの言葉を聞いて攻撃方法に違いはないようだと確信し、アンダインが空中に青白い波紋を召喚して飛ばした槍を払い落とす。……この調子ならいけそうか?

 

Undyne points heroically towards the sky. (Undyneはヒーローらしく天を指差した)

 

アナウンス通り、アンダインはこれがお前の天命だと言わん限りに天を指差す。……私の天命はもうちょっと先だっての。

背後からピッという音がした。

 

You told Undyne you didn't want to fight(あなたはUndyneに闘う意志が無いと説得した).

But nothing happened(しかし何も起こらなかった).

 

『なかなかやるな!これはどうだ!?』

 

まぁ、期待はしてなかったけどな。

槍を握り直して左右、そして前から飛来する槍を払い落とし、確実に攻撃をいなしていく。……これでも手加減されてる方なんだよなぁ。私とフリスク誰も殺してねぇし。

 

Undyne thinks of her friends(Undyneは友を想い、)and pounds the ground with her fists(拳で地面を砕いた).

 

友かぁ。

派手な音を立てて地面にヒビを入れるアンダインを見ながら、私が知っている限りのアンダインと関わりがある人物を思い出す。まず真っ先にパピルスの笑顔が思い浮かび、少し心苦しくなった。

 

*You told Undyne you didn't want to fight.

*But nothing happened.

 

アナウンス通り横に出て来たフリスクが懇願するようにアンダインに口を動かした。アンダインはそれを一瞥してから少し視線を逸らす。

 

『長い間、我々はハッピーエンドを夢見てきた……』

 

頭を振り、何かを振り払ってからアンダインは語り出す。それと同時にまた飛来する槍を弾き、落としていく。

 

Undyne towers threateningly(Undyneは威嚇するように見下ろしてきている).

 

槍を構え直しつつ、フリスクを見やる。そして今とっている体勢を見て、どうやらいつでも走り出せる準備は出来ているらしいと判断し、私はアンダインに向き直って口を開く。

 

「なぁ、弾幕が遅すぎやしないかい? どういうつもりなんだい?私達を殺すんじゃなかったの? それとも……これが君の全力なのかなぁ?」

「………なんだと?」

 

挑発するようにそう言えば、ギロリとアンダインが睨み付ける。

 

「わあ、怖い怖い」

 

内心竦み上がりながら、嘲笑を浮かべてそう言った。すると、アンダインの額に青筋が浮かび、私に向けられる殺意がより色濃くなる。……かかったか?

 

You tell Undyne her attacks are too easy(あなたはUndyneに攻撃が簡単すぎると言った).

The bullets get faster(弾幕がより速くなった).

 

どうやら私の行動がカウントされたらしく、ターンを進めるアナウンスが流れた。『弾幕が速くなった』という部分でかかったらしいと判断し、内心ほくそ笑む。

 

『そして今、遂に陽の光に手が届こうとしている!』

 

そう言ってアンダインは槍を振るい、空中に青白い波紋を出現させて槍を召喚する。飛来する速度が速くなった槍を払い落とし、余裕があるように見せる為に笑顔を作る。

 

Undyne bounces impatiently(Undyneは苛立ちながら歩を進めている).

 

私が全ての槍を払い落とした事に苛ついているのか、アンダインはもう一つ青筋を浮かべながら一歩此方に踏み出した。……うん、かかってきてるな。

 

「なーんだ、こんなもんかい? 騎士団長サマの弾幕は想定より遅いんだね?」

 

*You tell Undyne her attacks are too easy.

*The bullets get faster.

 

期待外れだと言わんばかりの私の言葉にアンダインはまたもう一つ青筋を浮かべ、槍を振り上げた。

 

『貴様に奪わせはしない!』

 

……何を言ってんだか。

アンダインが槍を振り降ろすと同時に飛んできた槍を全て払い落とし、笑顔を保つ。

 

*Undyne thinks of her friends and pounds the ground with her fists.

 

苛立ちと友を想って地面を砕くアンダインを見ながら槍を握り直し、私はまた言葉を紡ぐ。

 

「……これで全力かい? はは、簡単すぎるなぁ」

 

『簡単だ』と直接言葉に出すと、またアンダインは青筋を浮かべた。

 

You tell Undyne her attacks are too easy(あなたはUndyneに攻撃が簡単すぎると言った).

The bullets get unfair(弾幕がより理不尽になった).

 

『ンガアアア!! 準備運動はここまでだ!!!』

 

どうやら本気で怒らせたらしく、本来まだ流れない筈のアナウンスが流れた。完全に術中に嵌まったと確信し、思わず笑みを溢す。……これで完全に私しか見えなくなった筈だ。

召喚され発射された槍を払い落とし、アンダインが槍を横薙ぎに振った瞬間に足元のサークルが消えたのを見て、フリスクを連れて不意討ち狙いで放たれたのであろう横から飛来した槍を一歩下がって避ける。

 

「おっと、危ない危ない」

 

からからと笑いながらそう言えば、アンダインから滲み出す殺気が思わず震え出しそうになる物になる。……まぁ、そこまで怖くはないけどな。

 

Undyne suplexes a large boulder(Undyneは無闇に),just because she can(岩にスープレックスをかけている).

 

……今だ。

アンダインが岩にスープレックスをかまして岩を砕き、立ち上がろうとした所に飛び込んで振り上げた槍を思いっきり振り降ろす。

 

「くっ」

 

此方が攻撃に出るのは予測済みだったようで、アンダインは手に持っていた槍で私の槍を受け止める。

 

ガキィン

 

という音が響き、手に槍が固いものとぶつかった感触が伝わってくる。

 

「どうした? 不意討ちでもしたのか?」

「んー、まぁ不意討ちと言えば不意討ちだね」

 

ニヤリと私を嘲笑うかのような笑みを浮かべながらアンダインはそう言った。私はそれに笑顔を崩さずに返し、合図を出した。

 

走れ(・・)!!!」

「なっ?!」

 

私が一言合図を出した瞬間、鍔ぜり合う私とアンダインの横をすり抜けて、フリスクが走り抜けていく。

 

「くそっ」

 

私に集中していた所為で反応が遅れたアンダインは、鍔ぜり合いを強制的に終えてフリスクを追おうとする。

 

「おぉっと、させるかよ」

 

素早くアンダインの前に回り込み、追跡を阻止する為に槍を横に薙ぐ。アンダインはバックステップで避け、私から距離を取った。

 

「あははは、作戦大成功だ!!」

「作戦だと……!?」

 

私が笑いながらそう言えば、アンダインははっとして何かに気付いた。

 

「まさか、先程の貴様の挑発は全て……!?」

「ご明察! このタイミングを作り出す為の陽動だよ」

 

ゲームではホットランドまで行けば彼女を殺さずに戦闘を終える事が出来た。そして、今この世界にいる人間は私とフリスクの二人。なら、彼女から逃げる役は私だけで充分なはずだと考えて、フリスクを先に逃がす事にしたのがこの作戦。私も逃げ切って百点の囮作戦である。

 

 

「…………それにさぁ、君にはちょっと私用があってね」

 

 

今、此処に愛しい妹は居ない。私とアンダイン、二人だけだ。

 

 

その状況が、私の中に渦巻き、ドロドロと流れる『ナニカ』を増幅させていく。

 

 

蓋をしてしまいこんでいた『ナニカ』が、脈動して溢れだしていく。

 

 

「………よくも、私の妹を傷付けてくれようとしやがったな、おい?」

 

 

槍を向けられ、恐怖に怯えるあの子の顔が鮮明に思い浮かぶ。

 

 

槍を握る手の力が自ずと強くなる。

 

 

自然と俯いていた顔をあげ、天井を見上げる。

 

 

「………ごめんなさい、名も知らない少年。私は君の憧れを侮辱する」

 

 

先程別れたモンスターキッド君の顔を思い出し、ほんの一瞬、罪悪感が湧いた。………それも、直ぐに薄れていった。

 

 

だって…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

堪えるのはもう、疲れた


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