守りたいもの   作:行方不明者X

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※お待たせいたしました


73.アンダインとデート

【Lily】

 

「ほらよ、お待ちどうさま」

「あ、運ぶの手伝おうか?」

「いや、大丈夫だ」

 

席に着いてしばらく待つと、アンダインが紅茶をお茶請けのクッキーと一緒に運んできてくれた。紅茶が魚の形をしたティーカップに注がれると、ふんわりと花の良い香りが辺りに広がった。

 

「良い匂いだね」

「だろう?なんせあたしのとっておきだからな!」

「マジか」

 

自慢気に笑いながらアンダインはティーカップソーサーに乗った魚の形のティーカップを目の前に置く。……そう言えば、ゲームでも魚の形のティーカップが置いてあるって書いてあったな。

 

「あ、すまんが砂糖は自分で頼むぞ。好みが良くわからんからな」

「オッケー」

 

ティーカップの取っ手を掴み、一緒に置かれた砂糖の瓶から角砂糖を二つ取り出して入れる。

 

「はいよ、入れすぎないでね」

「うん!」

 

フリスクに砂糖の瓶を回してから、スプーンで紅茶をかき混ぜる。砂糖が溶けきったかなと判断した所でスプーンを出し、ソーサーに乗せる。ティーカップを持ち、息を吐いて少し冷ます。そして口をつけ、一口飲んでみる。

 

「…………おいっし」

「だろう!?」

 

紅茶の風味がふんわりと口の中に広がり、思わずそう言ってしまった。その言葉に反応し、アンダインは誇らしそうに笑う。

 

「……あちっ!でもおいしい!」

「ねー。……舌は大丈夫?」

「うん、大丈夫」

 

フリスクも一口飲んだらしく、隣からそんな声が聞こえた。真ん中辺りに置かれたクッキーに手を伸ばし、一枚取って口に運ぶ。………うん、紅茶との相性バッチリだな。

 

「これも美味しいね。相性抜群だ」

「それ、とある人と一緒に作ったんだぞ」

「…………君が!?」

「なんだその意外そうな顔は」

 

失礼な、と言いながら自分の紅茶に口をつけるアンダインを凝視してしまう。……いや、ゲームでの彼女の料理の作り方がね、印象的過ぎてね………

 

「………ん?『とある人』って誰?」

「アズゴアだ!」

 

アンダインの言葉に違和感を覚え、気になった所を突っ込んでみる。すると、アンダインはそう言った。

 

「え、アズゴアさんって確か、モンスターの王様じゃなかったっけ?」

「そうだ。だが、あの人は本当は争いなんて大嫌いな心がでっかいやつなんだ!あたしに稽古をつけてくれたのもアズゴアなんだぞ!!」

「へぇ。……そっか」

 

また誇らしそうに笑ったアンダインを見ながら、私は胸の中に広がった苦い気持ちを甘い紅茶を飲んで押し流す。その人を何れ傷付けなくちゃいけないんだよなぁ。

そんな事を思いながら紅茶を飲んでいると、アンダインがまた口を開いた。

 

「………あぁ、そうか」

「?」

「お前ら、アズゴアに似てるのか」

「!!!? ゴホッ、ゲホッ」

「お姉ちゃん大丈夫!?」

 

笑顔から一転、腑に落ちた顔でアンダインが言った一言に驚き、飲んでいた紅茶で噎せてしまう。背中をフリスクに擦られながら息を整える。

 

「ゲホッ…………この子はともかくとしても。え、私が?君たちの王様に?」

「とは言っても一部分だけだけどな。なんか既視感があるなと思ったらそういうことか」

「何処が似てるのさ………?」

 

自分の行動を思い返し、アズゴア王に何処か似ている所があったかと疑問に思い、アンダインに訊いてみる。………いや、マジでアンダインがそんなこと言ったのか分かんないんだけど。どういうこと?フリスクはゲームでも心がでっかいって言われてたし分かるけど……

 

「……お前が水くれたとき、お前、最後笑ったろ?」

「え、あぁ……うん」

 

紅茶を一口飲んでからそう言ったアンダインに頷く。

 

「その笑顔がな、雰囲気がアズゴアに似てたんだよ。優しい雰囲気がさ」

「えぇ…気のせいじゃない……?」

 

いや、確かに君を殺したくはないなとは思ってたけどね……?そんな風に見られてたとは………私、そんなに良い奴じゃないよ。

紅茶を啜りながらそんな事を思う。

事実、私はしたい事をしてるだけだしね。アンダインに言った偽善者については本当にブーメランだし。

 

「……あ、なぁ、そう言えば」

「今度はどしたよ」

「………お前ら、なんで地下に落ちて来たんだ?」

 

話を変えるように、クッキーに手を伸ばしながらそう言ったアンダイン。そう言われて、私もフリスクが落ちた理由を知らない事に気付く。

 

「特に小さい人間、お前が分からないんだが。大きい方の人間に大分愛されてるみたいだし、地上で不満とか無さそうなんだが……」

「一応言っとくけど、私はこの子を追ってきたからだよ。……そう言えば、なんで?」

 

突然自分に話が振られて驚いたのか、フリスクはクッキーを咀嚼しながら目をパチパチと瞬かせる。……帰ろうと思えば、道を辿って帰ってこれたはず。それなのに、何でだろう?やっぱり『Player』の影響か……?

頭の中で色々考えていると、クッキーを飲み込んだフリスクが口を開く。

 

「うーんとね……『助けて』って声が聞こえた気がしたんだ」

 

……………え?

 

「帰ろうとした時にね、声が聞こえたような気がしたんだ。そしたら、なんか、ほっとけなくて……」

 

フリスクの口から出た言葉に、私は唖然とする。……マジかぁ。そういう理由だったかぁ。

 

「………そうか。やっぱり、お前は心がでっかいんだな」

 

理由を聞いてアンダインがそう言うとフリスクはぶんぶんと首を横に振る。……全力で否定してるのが伝わってくるな。

その様子を見ながら、私は少なくなった紅茶を飲みきってしまう。……うん、美味しい。

 

「……ごちそうさま。美味しかったよ」

「おぉ、そうか」

 

そう言えば、アンダインは嬉しそうに笑った。

 

「……」

「チビッ子も飲み終わったか?」

 

なら持っていくぞ、と言いながら立ち上がり、ティーカップを回収してシンクへと向かうアンダイン。その背中と揺れる赤い髪を見ながら、私はこんなにアンダインとのデートがこんなに穏やかに進むなんてなぁと思っていた。………もっとカオスになるかと思ってたんだけど。

 

「さてと、じゃあ「次は料理だな!!」……えっ」

 

お暇しようかな、と言おうとすると、ティーカップを洗い終わったらしいアンダインが振り返ってそう言った。

 

「パピルスと親しくなったのもそれなんだ!!それに本来ならアイツがレッスンを受けている筈だったんだぞ」

「あぁ、確かに」

 

それもそうだと納得して頷きながら隣のフリスクを見ると、苦い顔をしていた。……あぁ、そう言えばフリスクはパピルスとパスタ作りしてくれたんだっけな。その時料理方法見てる筈だし、この顔してもなんら不思議ではないわな。心情を推測するなら『お前かよ……』だろうな。

 

「という訳で………やるぞ!!」

「ちょっ、まっ」

 

先の展開が読めて逃げようと足を動かすが、シンクの前から跳躍して此方に飛び掛かるアンダイン(現役騎士団長)の腕から逃れられる筈もなく、ガシッと強く頭を掴まれる。

 

「あがあああぁぁぁ痛い痛い痛い痛い!!!ってうぉぉぉ!!?」

 

結構強く掴まれて思わず悲鳴を上げると、床が遠退き、一瞬の浮遊感の後、地面に下ろされる。足が床に付く感触に安堵し、この流れはもう無理だと諦めて流れに身を任せる事にする。もういいや。ど う に で も な ー れ 。

 

「まずはソース作り!!」

 

そう言ってアンダインは足を振り上げ、床にヒビが入るんじゃないかってぐらいに思いっきり踏み込む。すると、上からトマトやらなんやらが降ってくる。……なんで上からトマトが降ってくるんだよ!?

 

「この野菜を貴様の宿敵だとみなすんだ!!さあ!!お前の拳で消し炭にしてしまえ!!」

「あの消し炭になったら食べれないんですけど!!?」

「いいからやれ!!」

「えぇぇぇぇ……」

 

思わずツッコミを入れると、やることを強要される。

困ったように私を見るフリスクにやるしかないという意味を込めて頷けば、もっと困ったような顔をしながら、トマトを手に取った。それを見ながら、私はトマトを取り敢えず全力で殴る。フリスクも戸惑ったような顔をしながら、トマトを殴り付けた。

 

「そうだ!!そうだ!!」

 

私達の行動に気を良くしたのか、アンダインは上機嫌そうに笑った。

 

「このヘルシーな食材に立ち向かおうとあたしらの心は一つになった!次はあたしの番だ!!」

 

そう言ってアンダインは私達の横に立ち、

 

「ンガアアアアア!!」

「うるせっ」

 

気合いを入れる為にか大声を出しながら、アンダインは大きく腕を振りかぶり、思いっきりトマトを叩き潰した。

 

「あっと」

 

勢いよく潰されたせいで飛び散ったトマト汁がフリスクにかからないように引き寄せ、前に出る。すると、顔に思いっきりかかった。……まぁ、パーカーにかからなかったからいいか。

 

「………。」

「………あー、後でボウルにこそぎ入れよう。だが今は!!」

 

それでも思わず非難の目で見れば、アンダインは大胆に目を逸らした。そして、そのまままた足を振り上げ、また思いっきり踏み込む。床が一瞬揺れ、少しふらついてしまう。

すると、今度はキッチンの上に鍋やらなんやらが落ちてくる。だからなんで上から落ちてくるんだよ。

 

「……麺を入れるのだ!ンガアアアアアアアアア!!!」

 

フリスクが思わずと言ったようにアンダインを見上げると、アンダインは少し慌てたように訂正を入れた。

 

「あぁ、鍋に麺を入れるだけだ」

「その前にお湯沸かさないとじゃないの……?」

「さぁやれ!!」

「スルー!?」

 

故意なのかなんなのか私のツッコミはスルーされ、フリスクはまた戸惑ったような顔をしながら、アンダインの指示通りに豪快にパスタを入れる。ガコン、という音がした。

 

「いいぞ!!!その調子だ!!!」

 

アンダインは上機嫌そうに笑い、フリスクの頭を撫でる。フリスクはきょとんとした顔でアンダインを見上げ、そして嬉しそうに笑った。

 

「よし!今度はパスタをかき混ぜるんだ!」

「え、待って、お湯は!?」

「一般的には、かき混ぜればかき混ぜる程……美味くなる!」

「なわけねーだろ!!?バッキバキになるだけだわ!!」

 

これ私が間違ってるの…?と思いながらツッコミを入れる。私のツッコミもお構い無しに、そのまま料理は続いていく。

 

「いいか?やってみせろ!」

 

アンダインの言葉にノリに乗ったフリスクは笑顔で頷き、フリスクの全力でかき混ぜる。

 

「もっとかき混ぜろ!」

 

アンダインがそう言うと、フリスクは頷いてもっと早くかき混ぜる。バキバキとパスタの折れる音がもっと早くなった。

 

「もっと激しく!」

 

指示するアンダインの声にも熱が入っていく。

 

「もっとだ!!!!」

 

パピルスこれやってたの……?と思いながら成り行きをはらはらしながら見届ける。

 

「ええい、あたしにやらせろ!」

 

フリスクがやっているのを見て、アンダインもやりたくなったのか、フリスクを優しく退かす。先が読めた私は、せめてフリスクにパスタが飛ばないように後ろに隠す。

 

ガンガンガンガンガンガン!!!

 

上から槍が飛来し、激しい音を立てて鍋ごとパスタを粉砕していく。そう簡単に変形しないはずの鍋が変形していくのを見て、戦慄した。

 

「フフフフ!これでいいのだ!!」

「よくねーよ……」

 

私のツッコミも虚しく、デートが進んでいく。

 

「よし、これで最後の仕上げだ!」

 

そう言って、アンダインはビシッとコンロのつまみを指差す。

 

「火にかけろ!お前の情熱をコンロにぶつけろ!お前の夢と希望を炎へと昇華させるのだ!」

 

アンダインの言葉に『熱くなれよォー!!』という言葉を思い出し、笑いそうになるのを堪える。

 

「いいか?手加減するんじゃない!!!」

「そもそもの話火を着けるのに手加減ってあったか……?つかお湯は?」

「やるんだ!!」

「おい、そろそろ泣くぞ」

 

またもスルーされ、デートは進んでいく。フリスクも全力で頷き、つまみを『強』の表示にして、そのままにする。

 

「!!」

 

そして、折れてこぼれたパスタに引火したのを見て、嫌な予感がした私は、先の展開を思い出そうとする。なんでこういう事を覚えてないんだ私の頭は!

 

「もっと熱く!」

 

焦りながら思い出そうとしているうちに、火が大きくなっていく。

 

「もっと熱くだ、畜生!」

 

またもう一回り火が大きくなったらしく、アンダインが声をあげる。それと同時に嫌な予感が大きくなる。

 

「熱くなれ!!!!!!!」

「〇造かよ!!?」

 

ツッコミをいれるついでに見た鍋が完全に火に包まれる光景で、このままだと家が炎上することを思いだし、フリスクとアンダインの腕を取る。

 

「待った、やりすぎ――」

「ヤバッ」

 

鍋が光ったその瞬間、思わず二人の腕を引っ張り、コンロから離れさせた。

 

 

ドゴォン

 

 

辺りが一瞬白くなり、鍋から派手な音がした。爆発が起きたのだと察し、思わず庇った二人から離れる。

 

「……あちゃー」

 

あちこちで炎をあげる部屋を見て、呆然とした顔で一言そう言ったアンダインに、私は思わず怒鳴り付ける。

 

「呆けてる場合か!!!とっとと出るぞ!!」

 

アンダインとフリスクの背中を押し、扉の前まで移動させ、家から脱出しようとする。幸い機能していたらしい扉の閉開ボタンを押すと、シュッという音を立てて扉が開き、なんとか脱出出来た。

 

「こんのアホ!!火傷するとこだったわ!!」

「………ご、ごめん……」

 

アンダインに怒鳴れば、しゅんとした顔になる。その顔にはっとして言い過ぎたと後悔する。……やっぱ一回ブチギレるとしばらくキレやすくなるな……ホントにやだ。

 

「まぁ、止めなかった私にも非はあるし………仲良くなろうと頑張ってくれて本当にありがとう、アンダイン。でも、そんなに頑張らなくても、私らもう親友だぞ?」

「……そう、なのか?」

 

私の言葉に、アンダインは目を丸くしながら顔を上げた。

 

「うん。君が親友になると宣言して、そして私が受けた時からもう私達は親友だ。少なくとも私はそう思ってるんだけどね」

「………本当か?」

「あぁ、本当だとも」

 

アンダインの言葉に肯定の返事をすれば、アンダインはもじもじとする。

 

「………………そっか、そっかぁ……」

 

そして、嬉しそうに、はにかみながら笑った。


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