【Lily】
「あっっっっつ!!」
ぼこぼこと橋の直ぐ下で音を立てるマグマの所為か、ホットランドは本当に暑かった。うん、さっきまでのウォーターフォールの涼しさが嘘のようだな!!(錯乱)
「……マグマって、こんな風になってるんだね」
「あんまり身を乗り出さないで、怖いから。……そうだね。私も初めて現物みたよ」
ウォーターサーバーのある場所で身を乗り出して目下のマグマを見つめるフリスクに落ちないかハラハラしながら同意する。……ガチで初めて見たぞ。マグマがあるって事は、大分地下深い所に居るってことになるけど……どこら辺なんだ、ここ。
そんな事を思いながらパーカーを捲ってリュックから水入り瓶を取りだし、中身を補充する。……この暑さだ、絶対に汗が出る。それでアンダインみたいに脱水症状になったりでもしたら笑えない。
そんな事を思いながら後ろでデカイ貝のモンスターとフリスクの間で展開される会話を聞き流しつつ、水を大体八分目ぐらいにまで入れる。……うん、これぐらいでいいかな。
「よし、これで大丈夫。行こう」
「うん」
話を切り上げて待っていてくれたフリスクに声をかけ、水入り瓶をリュックにしまい、その代わりに腕輪を引っ張り出して手首に付け、背負い直す。……あ、重い。
「喉渇いたりしたら直ぐに言うこと、いいね?」
「はーい」
「つかお兄さんはいらんの?」
「いらないから心配すんな」
「そう」
一応貝のモンスターに訊けば、そう返される。いらないならいいや。
「じゃあ、あの建物目指して進もっか」
「うん」
目の前に見える白い壁の建物を目印に私達はまた歩き出す。……遂に来ちゃったなあ。
―――――――――――――――――――――
「なんだろうねあの建物……」
「うーん……『ラボ』って書いてあるから十中八九研究所だと思うよ?」
「研究所かぁ」
『ラボ』という看板が書いてあるのが見えるぐらいにまで近付いてそんな会話をする。……またしても自動翻訳が効いているらしい。
「先どっち行く?」
「うーん……じゃあ、まずこっち!」
「オッケー」
フリスクが選んだ階段の道を下っていく。川の上に見覚えのある青っぽいフードの人物と船が見え、そう言えばここだったかと思い出す。
見知らぬ人物に興味を持ったのか、フリスクは階段を駆け降りて、その人物に近付いていく。
「トゥララ。私はリバーマン。それともリバーウーマンだったかな……? まあ大して重要なコトじゃない」
いや重要だろ、と何処か中性的な声で喋ったリバーパーソンさんに心の中でツッコミを入れる。
「あー、どうも、初めまして。リリーです」
「初めまして。良い名前だね」
「ははは、ありがとうございます。えーっと、リバーパーソンさんって呼べばいいですか?」
「そうだね、そう呼んでくれれば嬉しいかな」
名乗り返せば、リバーパーソンさんはゆっくりと此方を向いて、私の名前を褒めてくれた。それに少し気恥ずかしくなりながらまた返せば、これまた中性的な穏やかな話し方で返してくれる。……うん、どっちかわかんねぇ!
「舟に乗るのが好きなんだ。君たちも一緒にどうだい?」
「……だってよ。どうする?」
どうやらゲーム通り乗せていってくれるらしく、リバーパーソンさんはそう問いかけてくる。フリスクにどうするか訊いてみると、フリスクは少し考え込むような素振りをして、首を横に振った。その仕草で、私は『Player』は先に進む事を優先したらしいと判断する。
「そうかい、またいつでもおいで」
リバーパーソンさんの言葉にフリスクは頷き、先程来た階段を駆け上っていく。
「ふふ、子供って元気だね」
「そうですね」
「……君も、あまり無茶をしちゃいけないよ?」
何気ない会話をすると、ふと、リバーパーソンさんからそんな言葉を贈られる。
「あー、えっと……善処します」
「約束はしてくれないんだね」
「まぁ、そりゃあ……あはは」
思いっきり無茶する予定ですし、とは言えず、私は笑って言葉の先を誤魔化した。
「お姉ちゃーん、早くー!」
「はーい。……それでは、失礼しますね」
「またいつでもおいで」
ゆったりと穏やかな声でそう言ってくれたリバーパーソンさんに会釈をし、私も階段を昇る。
「お待たせ」
「何かお話してたの?」
「うん、まぁね」
そんな事を話しながら、次は道を塞いでいる二人の鎧騎士に話しかける。
「すみませーん、そこ通して貰えませんか?」
「……」
「あー、すまんな、無理だ」
「えっ、どうしてです?」
角のある鎧騎士さんには予想通り反応してもらえなかったが、兎の耳のような飾りのある鎧騎士さんには反応してもらえた。自然な感じを装って理由を訊いてみる。
「アンダイン様から、人間に警戒しろって言われててな。ああ、で、オレたち王国騎士がエレベーターを封鎖してるってワケ」
「あー、成る程……人間が最短ルートでお城に乗り込んだらマズイですもんね……」
「そういうこと。ンガア!どっちにしろエレベーターは動いてないが、善処します、アンダイン様!」
「動いてないんですか!?」
その言葉を聞いて、どうしようと困ったような振りをする。そこで、フリスクが手を引っ張ってきた。
「ん? どうした?」
「電話してみる?」
「……その手があったな…」
フリスクに手をひかれるままに一度騎士さん達から離れる。そして、フリスクが電話を引っ張り出し、ボタンを押してコーリングするのを見守る。
プルルル…………プルルル…………
何回かコールがなって、切れた。どうやらアンダインが出たらしく、彼女の声が途切れ途切れに聞こえてくる。
「……!」
そして、フリスクは驚いたように目を丸くした後、しょんぼりとした顔をした。……どうやら無理だった模様。
電話を切り、フリスクは困ったように私を見上げた。
「無理だって……なんか、自分が人間を通してやれって言ったら洗脳されてるって言っちゃったらしいよ」
「なんという事をしでかしてくれたのでしょう」
ゲームだった時通りそう断られたらしく、フリスクはそう言った。
「えー……マジでどうしようか。お城に行けないと不味いんだよなぁ」
「……おーい、そこのお二人?」
「はい?」
困った振りを続行すると、さっきの騎士さんが見かねたらしく、話しかけてくる。……うん、これを待ってた。
「どうしてもって言うなら、そこのラボから行けるぞー」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
なんということはないぞと言わんばかりに小さく手を振ってくれた鎧騎士さんにお辞儀をし、感謝の意を伝える。
「じゃあ、彼処に行かなきゃだね。行こうか」
「そうだね。……あ、ちょっと待って」
フリスクが決意の光に触れ、セーブを行う。ぼんやりとしか見えないそれが、私にはとても邪魔に感じた。
「終わったよ、行こう」
「……おー」
フリスクに笑みを向けながら、私達はラボに足を踏み入れた。