守りたいもの   作:行方不明者X

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76.アルフィスとメタトンとの邂逅

【Lily】

 

「おぉ、涼しい……」

 

さっきまでクッソ暑い所にいた所為か、光がない暗いラボの中は涼しかった。冷房効いてるのかな?

 

「すみませーん、誰か居ませんかー?」

「……? あ、お姉ちゃん、あれ……」

「ん?」

 

声をかけながらラボの中を少し進むと、巨大なテレビがついていた。何かを映し出している事に気付いたらしいフリスクは、テレビに近付いていく。そして、テレビを見てから驚いたような顔で振り返った。

 

「ぼく達が映ってるよ!」

「はぁ!?」

 

思わず驚いて私もテレビに近付いてみる。すると、スクリーンを覗き込む私達の背中が映っていた。

 

「えぇ……マジかよ……何処にカメラがあるんだ……?」

 

そう言いながら振り向いて天井の方を見てみる。キラリとテレビの光に反射してカメラらしき物のレンズが見え、彼処かと見当をつける。

 

「ちょ、盗撮やん………」

「え?」

「いや、なんでもない……行こう。暗いから離れないでね」

「うん」

 

思わずそう呟けば、フリスクに不思議そうな顔をされた。……いや、うん、見られてたのは知ってたけどね……?

 

「……おーい、誰か居ませんかー?」

 

テレビから離れ、また呼び掛けながら進むと、シュッという何かが動く音が少し先で聞こえた。

 

「……ん?」

 

目を凝らして見ていると、小さめの影が動くのが見え、その瞬間、周りが明るくなった。

 

「うおっ、まぶしっ」

「………え?」

 

突然明るくなった事に目が着いて行けず、思わず目を覆いながら声を出す。すると、相手も此方に気付いたらしく、驚いたような声をあげた。

 

「うー……あ、どうも」

 

目を瞬かせて光に慣らしながら手を上げて挨拶すれば、白衣を着た恐竜のような眼鏡をかけたモンスターは、驚いたように目を丸くし、そして頭を抱えた。

 

「ああ、なんてこと。こんなに早く来るなんて思ってもいなかったわ!」

 

わたわたという効果音が付きそうなくらいに慌てながら、優しい声で目の前の彼女はそう言う。

 

「シャワーもまだだし、服も適当だし、部屋も掃除してないし、それから……」

「あのー、ちょっと……挨拶に応えてくれないとこの左腕が下ろせないんですけど……」

 

慌てる彼女にそろそろ上げている左腕が辛い事を言えば、はっとして彼女は此方を向いた。

 

「あ、ご、ごめんね! どうも! 私はアルフィス博士。アズゴア王直属の科学者です!」

「どうも」

 

自分で『博士』って言っちゃうのね、と思いながら挨拶を返し、左腕を下ろす。チャリ、腕輪の鎖が擦れる音がした。

 

「で、でも、あー、私はワルモノじゃないですよ!」

 

慌ててそう付け足す彼女――アルフィスを見ながら私は内心苦笑する。……私、全部知ってるからなんとも言えないんだよなぁ。

 

「実は、あなたたちがルインズを出てから、私は、ええと……」

 

若干吃りながら話すアルフィスの言葉に耳を傾ける。

 

「……ずっとあなたたちの冒険を画面越しに観察していたの。あなたたちの戦いも……あなたたちの友情も……全て!」

「………それ盗撮って言うんじゃ……まぁいいや。え、じゃあスノーディンとかにあったカメラとかで見てたってこと?」

 

思わず小声でツッコミを入れつつ、私はアルフィスに確認する。

 

「……!!! えぇ、そうよ!」

「? あー……やっぱりそうなんだ」

 

一瞬、私を見たアルフィスの顔がぱあっと輝いたような気がして、内心で疑問が生じる。ただ、次の瞬間にはもう微笑むような顔に戻っていたからか、気のせいなのか迷って判断が下せず少し困惑する。……なんだったんだ?

 

「最初はあなたたちを止めようとしていたんだけど、でも……スクリーンを見ている内に応援したくなったっていうか」

 

少し照れながらそう言葉を紡ぐアルフィス。

 

「だ、だから、えー、助けになりたくて! 私の知識があれば、ホットランドは簡単に抜けられるので!」

「!」

 

アルフィスのその言葉に、今度は横に居るフリスクがぱあっと顔を輝かせる。かわいい。

 

「アズゴア王のお城にも案内できるし、大丈夫!」

「おぉ、それは助かるね」

 

私が相槌を入れると、アルフィスは一瞬口を閉ざした。

 

「………えっと、でも実は、あー、ちょっとだけ問題があって」

 

問題?と言わんばかりに、フリスクは首を傾げた。

 

「随分前に、私はメタトンっていうロボを作ったんですけど」

 

『ロボ』と聞いて驚いたのか、フリスクは目を丸くした。

 

「元々のコンセプトは、エンターテイメント用のロボで。……あの、その、テレビスターロボって感じの」

「……アニメとかでよくあるような?」

「そうそう、そんな感じ!」

 

確認の為にそう訊き返すと、アルフィスは頷いた。

 

「で、そのロボをもっと便利にできないかなと思って。あの、ちょっとした実用的な機能っていうか」

「あー、あると便利だもんね。それで?」

 

相槌を打ちながら、話の先を促す。

 

「た、例えば……対……対人戦機能とかそういうアレみたいな?」

「…………へぇ、そっか」

 

その言葉を聞いて、自分でも驚くほどの低い声が出た。私の雰囲気が急変したのを感じ取ったのか、一瞬、アルフィスが顔を青褪めて固まった。……まぁ、アンダインにキレてるのもどうせ見てたんだろうしなぁ。そりゃ怖がるわな。

 

「も、もちろん、あなたたちが来てすぐに、解除しようとしたんですけど! ……ちょっとした手違いがあって……」

「ふーん。それで?」

「あー、えっと……」

 

吃りながら話すアルフィスに、次を急かす。

 

「………人間の生き血を求めて暴走する殺人兵器になっちゃった、みたいな? エヘヘヘ………ハァ」

「そう」

 

冷たく見えるであろう反応を返しながら、内心でアルフィスに若干の罪悪感と怒りを覚える。……ごめん、君が考えてること全部知ってるんだよなぁ。

 

「でも、まぁ、出会わなければ大丈夫なので!」

「それフラグでは……?」

 

思わずツッコミを入れたその時、小さく、何かが転がってくるような音が耳に聞こえた。

 

「あれ?」

 

フリスクもその音に気付いたらしく、キョロキョロと辺りを見渡す。

 

「……? 何か聞こえたかしら?」

 

私達の行動を不思議に思ったらしいアルフィスがそう言った瞬間、

 

 

ドォンッ!!!

 

 

「うおっ!?」

「わっ!?」

 

固いものが何かを突き破ろうとしている音が聞こえた。衝撃のあまりに地面が揺れ、一瞬ふらついてしまう。

 

「離れないで!!」

「うん!」

 

フリスクを抱き寄せ、振動に耐える。

 

 

ドォンッ!!!

 

 

ドォンッ!!!!

 

 

だんだんと近付いてくるその音に、お出座しかと覚悟を決める。リュックからナイフを急いで取り出し、もしもの時の為にポケットに突っ込む。

 

 

ドォンッ!!!!!

 

 

「オーノー」

 

アルフィスが顔を青褪めさせ、音が聞こえた壁を見る。

 

 

ドォンッ!!!!!!

 

 

壁が衝撃に耐えられなかったらしく、一際大きな音を立てて倒壊する。フリスクに瓦礫が当たらないように庇いながら、もうもうと立ち上る煙の向こうに揺らめく影の動きを見つめる。………来たか。

その次の瞬間、照明が落ちて、暗闇が訪れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーウ イエス!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

キンキンとした機械っぽい男性の声が聞こえた。

 

「ようこそ、みなさん……」

 

次の瞬間、壁をぶち抜いて登場した影にパッとスポットライトが当たり、姿を照らし出す。………そこにいたのは、とても覚えのある箱型のロボットだった。

 

「本日のクイズショーへ!!!」

 

電子音の所為で耳が若干痛い、と思いながら、上から降りてきたミラーボールと紙吹雪、そして『ゲームショー』と書かれたネオンサインの看板を見て、顔をしかめる。目がいてぇ。

 

「今回も素晴らしいショーになることでしょう! さあみなさん、今日の挑戦者に盛大な拍手を!」

「……あー、えっと、君がメタトンかな?」

 

何故か聞こえてきた拍手と私達の上から落ちてきた紙吹雪の中、取り敢えず私はマイクでショー(?)を始めようとするロボットに確認をする。

 

「わお! これは嬉しいサプライズです!私のことを知ってていただけるとは!!」

「まぁ、さっきまでアルフィスに説明されてたしね……」

 

すると、ロボットは此方を向いて、嬉しいそうな声で目の前のロボット―――メタトンはそう言った。その姿に私の記憶の中の彼と一寸の狂いはなく、やはり彼なのだと確信する。

 

「クイズショーは、初めてかな?」

「参加した事があるかってこと?」

「そういうこと!」

「………それなら、私達二人ともないよ」

 

若干困惑していると、メタトンからそんな問いが投げ掛けられる。意味を確認して答えると、メタトンは顔らしき場所を黄色とオレンジに点滅させる。

 

「心配ご無用! とっても簡単ですよ!」

 

いつの間にか横に出てきていたフリスクが、それを聞いて安心したように息を吐いた。

 

「ルールは、たったの一つだけ。クイズに正解しないと……」

 

メタトンが次の言葉を紡ごうとしたその時、『1』と表示されていたパネルが、赤と黄に点滅する。

 

「アナタたちは死んじゃいます!!!」

「…………は?」

 

メタトンがそう大声で言い放ち、フリスクが顔を青褪めさせて固まったその瞬間、世界が白黒に切り替わった。




※2/17 加筆修正

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