守りたいもの   作:行方不明者X

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79.Hotland探索③

【Lily】

 

唸るような暑さの中をベルトコンベアに乗ったりなんだりして進んでいくと、光が見えてくる。セーブポイントか、と見当をつけ、真っ直ぐ歩いていく。

 

「………フリスク、あれって……」

「? ……あ」

 

携帯を見ていたフリスクに声をかけると、光に気付いたらしく私の手を離して近付いていく。そして迷わずに光に触れて、セーブを行った。

 

「……終わったよ!」

「そっか、行こうか」

 

手を引いて進もうとすると、ピロンという音が聞こえた。……更新されたのかな?

 

「『電話使うのほんとに嫌いだわ、やりたくない』……このダブリューってなんの為にあるんだろ?」

「ん? どれ?」

「これ」

 

携帯の画面を覗き込めば、確かに『w』が三つ並んでいた。……あー、これは……

 

「あー、これはね、んー……笑ってる表現みたいなものかな?」

「そうなの?」

「でもあんまりやらない方がいいよ。特定の人にしか伝わらないから、これ」

「そうなんだ……」

 

ふーん、と言いながらフリスクは携帯をもう一度見てからポケットにしまう。そして、目の前にある何かの機械に近付いた。

 

「なんだろ、これ……?」

「なんだろうね。対岸に渡る為の装置かな?」

 

プシュー、とたまに板の間から蒸気が漏れ出す装置を見ながら、そんな会話をする。……これ、多分ジャンプ台かなんかだよな?

 

「………ちょっと乗ってみるよ。離れててね」

「うん、分かった」

 

フリスクに離れてもらい、板の上に両足を揃えて乗ってみる。ぐっ、と私の体重で板が少し沈んだその瞬間、

 

「うぉっ!?」

「えっ!!?」

 

蒸気の力が作用したのか、勢いよく板が飛び上がり、対岸に向かって吹き飛ばされる。

 

「ぐっ……」

 

落下する感覚の中で無事に着地出来るように体勢を整え、なんとか対岸の地面に着地する。

 

「……あぶねー」

「大丈夫!!?」

「大丈夫ー!」

 

対岸で心配そうに叫ぶフリスクに手を振り返すと、安心したように一笑した。かわ。

 

「受け止めてあげるからおいでー」

「……うん」

 

飛ぶ事に抵抗を覚えたのか、若干渋い顔をしてからフリスクは頷き、恐る恐る板の上に乗った。

 

バシュンッ

 

「わぁっ!!」

 

フリスクの体がちゃんと乗った瞬間、装置が作動して吹き飛ばされる。

 

「わっ………ととっ!! いてっ」

 

先程私が着地した辺りに丁度落下してきたフリスクを無事に受け止めると、ぶつかった衝撃は受け止め切れず、思わず尻餅をついてしまう。

 

「フリスク、無事?」

「うん、ぼくは大丈夫」

「ならいいや。立てる?」

「うん」

 

フリスクに怪我が無いか確認し、立ち上がる。フリスクの腕を引っ張って立たせ、先に進もうとする。

 

「!」

 

その瞬間、周りが白黒に切り替わり、また戦闘になった事を察する。

 

Tsunderplane gets in the way(Tsunderplaneが行く手を阻んできた)!

Not on purpose or anything(ワザとじゃないんだからね)!

 

ツンデレプレーンキターーー!!

前世で個人的に結構好きだったモンスターが来て、思わず内心でそう叫ぶ。そう言えばエンカウントってここだったな。

フリスクがコマンドを押した時のピッという音がして、ハッと意識を現実に引き戻す。そしていつでも回避が出来るように身構える。……彼女の弾幕は確か落下型のミサイルみたいなやつだった筈。ナイフで弾いたら爆発する可能性がある。

 

*TSUNDERPLANE-ATK 25 DEF 26

*|Seems mean, but does it secretly like you《イジワルするけど、秘めた気持ちがあるのかも》?

 

『バカね! なんであんたの事なんか!』

 

………本当にツンデレだ……

リアルで初めて見たツンデレに内心驚いていると、上空にゲームだった時の弾幕通り彼女が通り、弾幕を落としていく。

 

「あぶねっ」

 

フリスクを抱き上げ、地面に着弾した瞬間に爆発する弾幕を冷静に見極めて避ける。……いくら好きだといっても、態々被弾しにいくつもりは無いからね。それに今の私の最愛の人はこの子だしね。

 

*|Tsunderplane gives you a condescending barrel roll《Tsunderplaneは気の強いバレルロールを見せつけた》.

 

弾幕が止んでそうアナウンスが流れた瞬間、アナウンス通りにツンデレプレーンは飛行術を披露した。……うおっ、すげっ。

そんな風に感心していると、腕の中でピッという音がした。

 

*|You tell Tsunderplane you like its taste in movies and books《あなたはTsunderplaneに本と映画の趣味が良いねと言った》.

 

『はぁ!? ど、どうかしてるわ!』

 

アナウンスと彼女の反応でナンパしたらしいと察しながら、私は此方に向かって突っ込んでくる攻撃を避ける。羽が掠り、少し傷を負った。

 

*Tsunderplane gives you a condescending barrel roll.

 

照れ隠しからかまた飛行術を披露した彼女を横目に、私は腕の中でまたフリスクが『ACT』を押すのを待つ。ピッという音がして、ターンが進む。

 

You get close to Tsunderplane.But not too close(Tsunderplaneに近づきすぎない程度に歩み寄った).

 

『えええ? な、何してるのよ……?』

 

また弾幕として突っ込んでくる彼女にアナウンス通りに当たらない程度に近付く。それをあと三回繰り返すと、彼女はだんだん顔を真っ赤にしてもじもじとし出す。……終わったか。

 

*|Tsunderplane "accidentally" bumps you with its wing《Tsunderplaneの翼が「偶然」あなたにぶつかった》.

 

『ACT』を押して名前が黄色になっていることに気づいたらしいフリスクは、安心したような顔で『MERCY』に手を伸ばした。

 

YOU WON(あなたは勝利した)!

You earned 0XP and 60gold(0XPと60goldを得た).

 

恥ずかしさからか逃げるように遠くに飛んでいった彼女を見送りながら、私は戦闘が終わった事に安堵して、フリスクを地面に降ろす。

 

「お姉ちゃん、さっき、腕……」

「ん? ……あぁ、掠り傷だから別に大したことないよ。大丈夫」

「………本当?」

 

地面に降りたフリスクが、私のパーカーの裾を掴んで心配そうに私を見上げる。

 

「大丈夫だよ、本当に。それよりも早くこんな暑い所通っちゃおうよ。ね?」

「……うん」

 

まだ若干納得のいかなそうなフリスクを急かし、探索を再開する。

 

「さてと……どっちいく?」

「え? あー、じゃあ、あっちから行こうよ」

「ん、分かった。……回り道しないといけないみたいだね、これは」

 

正規ルートから一旦外れた対岸に向かう事に決め、私は左にあった板の上に乗る。バシュンッ、という音を立てながらまた吹き飛ばされ、着地する。……これ、下手したら足首挫きそうだな……

 

「いいよー、おいでー」

 

待っていたフリスクに呼び掛けると、フリスクも飛ばされ、此方に向かって飛んでくる。それをまた受け止め、地面に降ろす。

 

「よっ」

 

右に曲がり、もう一度板で飛び、着地する。またフリスクに合図を出して飛んできてもらい、受け止める。

 

「おっとと、怪我はないね?」

「うん」

 

ぼすっという音を立てながら私の腕の中に収まったフリスクを降ろし、また手を繋ぐ。

 

「行こうか」

 

そうして、また歩き始めた。

 

――――――――――――――――――――

 

次は……確か、フライパンが手に入るところだった筈。

真っ直ぐに一本道を進んでいくと、板の矢印の方向が左右に切り替わる装置がある事に気付く。フリスクがその装置に近付いていくのを見ながら、合っていたことに息を吐く。

 

「……なんだろ、あれ……」

「ん?」

「ほら、あれ」

 

ふと装置から目を逸らして右を見たフリスクがそう呟き、私に指を差して教えようとする。フリスクの指先を見れば、確かに黒っぽいものが置いてあった。形状から見てフライパンのようだと判断し、ゲーム通りに進んでいる事に安堵する。

 

「………フライパン、かな?」

「え、なんであんな所に……?」

 

私が黒っぽい物の正体を言えば、フリスクは怪訝そうな顔をする。……うん、ゲームだった時それ私も思った。トリエルさんの所から持ち出したのか?

板の表示が右に切り替わった瞬間に装置に乗り、飛んで対岸に渡る。そして続いて飛んできたフリスクを受け止めて降ろし、置いてあったフライパンを拾う。

 

「………うん、若干焦げ付いてるけどやっぱりフライパンだわ、これ」

 

コン、とフライパンを手で叩いてみて、感触を確かめる。………うん、敵を殴るには申し分ない。怖いわ。

 

「どうする? 持ってく?」

「うーん………重くない?」

「そんなに重くないから持ち運ぶ分には問題ないよ」

「そっか、じゃあ持ってく」

 

フリスクに訊けば、一度私に確認してくる。それに大丈夫だと返せば、持っていく事を選んだ。

 

「……ごめんね、借りるよ」

「? 何か言った?」

 

出来るだけ小さい声で六人目の子に謝ると、ベルトコンベアの作動音の中で私の声が聞こえたらしく、進もうとしていたフリスクが振り返った。

 

「いや、何でもないよ。行こうか」

 

それを誤魔化し、私はベルトコンベアに乗った。


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