【Lily】
しゅー、しゅーという蒸気の音が聞こえ、次は結構面倒くさいものだった事を思い出す。あー……どうやれば最短ルートでいけるんだったかな……?
ピロン、という着信音を聞きながら、私はフリスクを追い越し、パズルを眺めて最短ルートを計算する。………ここを、こうして、こうすれば……んー? ……あぁ、こうすればいいか。ゲームだった時はどうやったっけ?
「お姉ちゃん……?」
「ん? あ、ごめん、何?」
「いや、なんでもないけど、ぼーっとしてたから……」
「そっか。パズルの解き方考えてただけだよ。心配かけてごめんね」
「そうなの…?」
自分の記憶の中のルートと先程考えたルートを比べていると、電話が終わって近付いてきたフリスクが心配そうに私を見上げた。心配することは無いと伝えてフリスクの頭を撫で、安心させる。それでもまだ心配そうに見上げるフリスクから目を逸らし、もう一度パズルを見る。……うん、これで大丈夫かな?
「……よし、解き方分かったよ、フリスク。もし怪我したら嫌だから抱っこさせて?」
「うん」
私の言葉に頷いたフリスクを抱え上げ、しっかりと首に腕を回してもらう。
「ちゃんと掴んだ?」
「ん!」
「よし、じゃあ行くよ!」
フリスクが頷いたのを確認し、スイッチを踏んでから装置に乗る。バシュンッ、という音と共に勢い良く飛ばされ、対岸に着地する。
カチッ
着地地点にあったスイッチを踏むと、矢印が切り替わる。そのまま左に曲がって装置に乗って飛び、次の地点に進む。
カチッ
前に進み、次の地点に進む。
カチッ
そして一度前の地点に戻ってスイッチを切り替え、そしてまたすぐに戻る。
カチッ
バシュンッ
そしたら右に曲がって装置に乗り、次の地点に進む。
バシュンッ
また右に曲がり、次の地点に進む。
カチッ
スイッチを踏んだらすぐに前に進み、装置に乗って次の地点に進む。
カチッ
着地点のスイッチを踏み、そして左に曲がる。
「終わりっ!」
最後にフリスクに衝撃を与えないように着地し、そっと地面に降ろす。
「……お姉ちゃん、足、大丈夫?」
連続で飛び続けてダメージは無かったのか気になったらしく、フリスクが私の足首辺りを見つめながらそう言った。
「ん? 大丈夫だよ。ダメージは無かったからさ」
「そう?」
フリスクにそう答えると、フリスクは小さく首を傾げた。
……多分、足にダメージがいかないのは『この世界がゲームだから』っていう補正だろうな、と思いながら、今だけはそのゲーム補正に感謝した。こんなところで怪我するわけにはいかないし。
「行こうか」
―――――――――――――――――――――
まだ心配そうに私の足を見つめるフリスクの手を引きながら進むと、光が見えてきた。その光で次はセーブエリアかと思い出し、そのまま歩いていく。その途中、ピロン、という音が後ろのフリスクから聞こえた。
「『えっ? みんなミューミュー1より2の方がいいって? それガチで言ってんの』……えっと、最後にさっきの笑う表現がついてるよ」
携帯を出して書き込みを読み上げたらしく、フリスクがそう言った。わざわざ補足してくれるとかぎゃんかわ。
「そっか、ありがとうフリスク。取り敢えずやっちゃったら?」
「うん」
携帯を片手に持ったまま光に近付いていくフリスクを見ながら、私はリュックを漁り、チーズを取り出す。……あ、良かった、溶けてない。
「これで最後だな」
穴を見かけるたびに切っていったため、もうひと欠片分しかないチーズを、穴の前に置いて少し距離を取る。暫くすると、チーズの匂いに気が付いたのか、ネズミが穴から顔を出す。そして私とフリスクを交互に見て、頭を下げるような動作をしてからチーズを持って中に引っ込んでいった。
「あ、溶けてる……」
セーブが終わったらしいフリスクは金庫の中を見てそう言った。……あー、レーザーがチーズを溶かしちゃってるんだっけ。
「どんだけ長い間ここにあったんだろうねこれは……」
「さぁ……?」
そんな事を言いつつ、先に進もうとするとまた携帯の着信音が鳴った。
「『マジで……はっきり言って2はミューミューワールドを』………お姉ちゃん、これ何て読むの?」
「これ?」
不意にフリスクが言葉を切り、そう訊ねてくる。指差したところの画面を見てみると、『冒涜』と書いてあった。……あー、まぁ確かに読みがわからないよな、この年じゃ。
「『ぼうとく』って読むんだよ」
「『ぼーとく』? ……どういう意味?」
「え、うーん………なんて言ったらいいか……」
不思議そうなフリスクの質問に少し考え、フリスクにも分かりやすいようにしようとする。……昔興味本位で辞書で調べた時に見たやつでは確か、『尊厳なものや清らかなものを侵し、汚すこと』って意味だったっけ。どう説明しよう……?
私は暫く悩んでから、フリスクにも分かるだろう説明をする。
「………神様みたいに清らかで綺麗なものを傷付けたりすること、かな?」
「へー……そうなんだ」
自分の説明を微妙に意味が違うかもしれないなと内心苦笑しながら、この説明で一応納得したらしいフリスクの頭を撫でる。
「まぁ、昔に調べた事だし、意味が間違ってるかもしれないからあんまり参考にしない方がいいよ」
「そうなの? じゃああとで自分で調べてみるね」
「そうしな」
会話をしながらまた進もうとすると、ピロンという音がした。
「『私のミューミュー2レビュー:2はもはや全くキューティーでもキッシーでもない。ゴミ。星ゼロ』……そんなに酷かったの……?」
酷評に思わずといった様子でフリスクがそう呟いた。
「さぁねぇ……そもそもの話、ミューミュー知らんし……」
「そうだねー」
そう話しながら、今度こそ進み始めた。
※告知するのを完全に忘れていましたが、活動報告に『守りたいもの』の今後の執筆予定を掲載しました。一度目を通していただけると幸いです。
※重要な事を忘れてしまい本当に申し訳ありません。
※これからも本作品をよろしくお願いいたします。