守りたいもの   作:行方不明者X

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89.Hotland探索⑨

【Lily】

 

暫しの休憩を挟み、充分休んだところでまたコアを目指して歩き出す。部屋を出るとまたマグマの熱気に当てられ、顔をしかめてしまう。

 

「あっつ…本当に嫌だわこの暑さ……」

「あはは、まぁ『ホットランド』っていうぐらいだしね……」

 

そんな事を話しながら進んでいくと、先程も見たコアが見えてくる。先程よりも近付いたからか、マグマの光に照らされてぼんやりと浮かび上がる影が先程とは比べ物にならないくらい大きく見えた。

 

プルルル………

 

右手にコアを見ながら進んでいくと、横に並ぶフリスクのポケットから着信音が響く。フリスクはまた携帯を引っ張り出し、電話に出た。

 

「………?」

 

アルフィスの言葉に引っ掛かることがあったのか、フリスクは首を傾げ、その後、緊張したように顔を強張らせた。

 

「………」

 

そして、アルフィスの言葉が嬉しかったのか、少し頬を緩ませて頷き、電話を切った。

 

「……ねぇ、お姉ちゃん。ぼく、そこまで物静か……?」

 

そして、フリスクは神妙な顔で私に問いかけてくる。

 

「えぇ? ……いや、そこまででもないと思うよ。強いて言えば普通じゃない?」

「うん……そうだよねぇ……」

 

少し考えてから自分の思った事を言えば、フリスクはそれに賛同し、頻りに首を傾げながら携帯をしまった。

 

「アルフィスに言われたの?」

「うん」

「へぇ。まぁ、人から見た自分のイメージが自分から見た自分のイメージと食い違ってるのはよくあることだし、気にしなくていいんじゃないかな」

「そうだねー」

 

そう話しながら進み、エレベーターの前まで辿り着く。『開』ボタンを押して扉を開け、二人で乗り込む。そして中に入り込み、次のフロアへのボタンを押そうとする。そこでふと考えが浮かび、フリスクに提案する。

 

「……フリスク、一回さ、あのガーソンさんのお店の所にまで戻っていい?」

「え? ……いいけど、どうしたの?」

「あぁ、いやね。ちょっと考えが浮かんでね……」

「ふーん……大丈夫だよ」

 

私の提案に訝しげに顔を顰めるフリスクに答えれば、了承の返事が返ってくる。それにありがとうと返し、直ぐ様ボタンを押す。ドアが閉まり、エレベーターが下降していった。

 

―――――――――――――――――――――

 

ゲームだった時のようにリバーパーソンさんにガーソンさんの店の前まで送ってもらい、挨拶もそこそこに、私はアイテムボックスに向かう。

 

「あ、用があったのはそっち?」

「うん、こっち。いやさ、アイテム補充とかしとこうと思って」

 

成る程、と納得がいったように頷いたフリスクを横目に、私はリュックを降ろして中身を探り、ふと気付く。……あ、もしかして空きがないかこれ……?

 

「………あ、そう言えば、ボックスみて思い出したんだけどね。なんか携帯から何処かのボックスにアイテムを送れるみたいなんだよ?」

「……え、そうなの?」

 

どうしよう、と考えていた矢先、フリスクが思い出したように携帯を引っ張り出し、少し弄ってから私に画面を見せてくる。画面には『アイテムボックスA』と書いてあり、その下には幾つかの空欄があった。そう言えばそんな機能があったな、と思い出す。

 

「あー、じゃあさ、この中に今までの装備とか入れといていい?」

「うん、いいよ」

 

フリスクが私の横に並び、アイテムボックスからしまっておいた今まで集めた装備を出す。そして携帯を弄り、ポケットにしまった。

 

「これでちょっと待ってれば……」

 

そう言い終わると、フリスクはぼーっと天井の方を見上げる。……これ今、装備をアイテムボックスに預けたんだよな。どうやって運ぶんだ……?

疑問に思いつつも黙って待っていると、体感二分ぐらいでブロロロというプロペラの回る音が聞こえてくる。音が聞こえた辺りを見れば、中型ぐらいのラジコンヘリコプターがコンテナを提げて飛んでいた。……え、まさかのヘリ?

 

「あ、きたきた!」

 

フリスクは下降してきたヘリからそのコンテナを外すと、コンテナの中に今までの装備を詰める。そして、コンテナをフックに引っ掛ける。

 

「これでお願いします!」

 

フリスクがそう言うと、コンテナを提げたヘリは何処か遠くへと飛んでいった。こうやってアイテム預けてたのか……

 

「………こんな機能があったんだ……何処で知ったの、これ」

「ん? あのね、アルフィスの書き込み見てるときにちょっと弄ってたら出てきたの。それでこんなのあるんだなー、便利だなーって思って覚えてたんだ!」

 

満面の笑顔でそう言い切ったフリスクに癒されつつ、私はちょっと自分に不甲斐なさを感じる。……フリスクから携帯を受け取った時に調べとけば良かったな。

 

「そっかぁ……凄い発見だったね」

 

偉いぞ、と言って頭を撫でてやれば、ふにゃりと笑うフリスク。

 

「えへ、お姉ちゃんの役に立てて嬉しいよ」

 

おおっとぎゃんかわか。

フリスクの可愛さにノックアウトされつつ、私はリュックの中にアイテムを幾つか入れてから背負い直す。

 

「じゃあ、戻ろうか」

 

――――――――――――――――――――

 

「あちー……」

 

場所は変わってリバーパーソンさんの船の上、ホットランドに近付くにつれて上がっていく気温に倦怠感を抱き、船の縁に凭れながらそう言うと、クスクスと前のフリスクとリバーパーソンさんに笑われてしまう。何かを言い返す気力もなく、船にしては速い速度で進む船に揺られる。乗り物酔いとか持ってなくって良かったな、と呑気に思った。

 

「トゥララ……手で話す男に気をつけて……」

「……」

 

………『手で話す男』ねぇ。

ポツリと、背中を向けたまま警告するように呟かれた言葉を留めておく。……博士か、それとも……

そんな風に考えていると、船の速度が下がり、停止する。どうやら着いたらしい。

 

「ありがとうございました、次、また来ます」

「トゥララ、いつでもおいで」

 

手を振るリバーパーソンさんに手を振り返し、さっさとエレベーターに乗る。フリスクも乗り込んできたところでエレベーターのボタンを押すと、ドアが閉まり、エレベーターが上昇を始めた。

 

ポーン

 

という音と共にドアが開き、少しぬるくなった空気が入り込んでくる。

 

「お、ちょっと気温が下がった」

 

エレベーターから降り、此処はまだコアの中じゃなかったよな、と思いながら、よく周りを見渡す。沢山の機械の中、所々に大小様々な大きさの蜘蛛の巣の影が見え、中ボス的存在である彼女を思い出す。……あー、そっか、彼女が近いのか。

 

「あ、蜘蛛の巣だ。おっきい」

 

私に続いて出てきたフリスクも同じように辺りを見回し、そんな感想を一言言ってから先に進みだす。

 

「フリスクは蜘蛛大丈夫だったよね?」

「うん、怖くないよー。それにルインズで会ったクモさん優しかったから、ここのクモさんは悪いクモさんじゃないと思うし」

「そっか」

 

知ってはいるけど一応確認として前を行くフリスクに訊いてみれば、そんな返事が返ってくる。そして、自分のリュックの中にあるドーナツの存在を思い出した。……あ、これは勝ったな。

若干フラグめいた事を考えながら、フリスクについていくと、紫色っぽい肌の女の子がいるカウンターと、両膝を床につけ、片手にドーナツらしきものを手に持った人型のモンスターが見える。

 

「……え、リアルであんな格好してる人……じゃないなモンスター初めてみた……」

 

思わず衝撃でそんな事を言いつつ、私は女の子が立つカウンターに近付いていったフリスクに続く。

 

「アフフフ、いらっしゃい~」

「どうも、こんにちは」

 

女の子は近付いてきた私に気付いたらしく、興味深々といった様子でクロワッサンとドーナツを見つめるフリスクから目を離し、にっこりと五つほどある目を細め、ヒトよりも二組ほど多い手の一本を振った。

 

「見かけない顔ね~、観光なのかしら~?」

「あ、はい、そんなものです」

 

アフフフ、という特徴的な笑い声を整った小さめの唇から零れさせながら彼女が首を傾げると、可愛らしく結ばれた二つ結びが揺れる。……もうここまで詳しく言えばわかると思うが、ホットランド及びコアの中ボスである彼女―――――『Undertale』の中でも人気のあるキャラクターの一人であるマフェットがそこにいた。因みに前世の私も彼女が大好きだった。つか現物を見ると確かに目とか手とか多いけどそれを差し引いても可愛いんだけど。どうなっとるん?

 

「……? どうかしたの~? 私の顔に何かついてるかしら~?」

「あ、いえ……貴女が可愛かったので、つい……」

「アフフフ、ありがとう~」

 

思わず彼女を凝視してしまっていたらしく、マフェ嬢は不思議そうに訊かれてしまう。それにしまったと思いながら、正直な感想を言えば、彼女にクスクスと笑われながら流される。いやだ、フリスクには及ばないけどめっちゃ可愛い。なんで語尾を伸ばす口調がこんなにも似合うんだ……?

 

「ねぇ、観光ついでにスパイダースイーツはいかが? 売上は全部クモの為に使われるの~」

「あ、ごめんなさ………」

 

私がマフェ嬢からのステマを回避しようとすると、徐にフリスクがくっついてくる。

 

「わ、と、どうしたよ」

「全部調べ終わったからいこーよ」

 

私達が話している間にいつの間にか探索を終えていたらしく、フリスクがそう言って手を引っ張ってくる。

 

「あぁ、そうだね。……すみませんが、お菓子は遠慮しておきますね」

「あら~、残念……また来てね~」

 

残念そうな顔をするマフェ嬢に会釈し、フリスクの手を引いて次のエリアに移動する。

 

プルルル………

 

次のエリアに移動し、直ぐに周りを見渡してみる。自分の記憶の中の部屋の配置であることに安堵しつつ、床にある装置を見てまた飛ぶのかと若干げんなりしていると、フリスクから携帯の着信音が聞こえる。フリスクは直ぐに携帯を引っ張り出し、電話に出た。

 

「………」

『……!……』

 

フリスクが電話に出ると、携帯からアルフィスの声が流れ出してくる。それを見てから、その間、私は左のパズルに行く最短ルートと右のパズルに行く最短ルートを思い出しておく。……えっと、どう行くんだっけ?

配置を加味して暫く考えていると、パーカーの裾を引っ張られる。

 

「ん?」

「終わったよ」

 

振り返れば、電話を終えたフリスクが私を見上げていた。

 

「何だって?」

「北と南にパズルがあるってことと、アンダーネット?っていうので友達になろうって言われたよ」

「え、アンダーネットってさっきからアルフィスの通知が着てたやつ?」

「多分そうじゃないかな」

 

フリスクの曖昧な肯定で、アンダーネットを先程から通知が着てたSNSと結びつける。

 

「……あれ、でも通知が着てたってことはもう登録してあるんじゃない?」

「うん、ぼくもそう思ってね、もう登録してあると思うよって言ったら、急いで切られちゃった……」

 

まだもうちょっとお喋りしたかったんだけどな、と少ししょんぼりとした様子のフリスクの頭を撫でながら、私は今頃滅茶苦茶焦ってるんだろうなと内心彼女の顔を思い浮かべる。………少し傑作だと思ってしまった私は本当に性格が悪いと思う。やだなぁ……

 

「……おねーちゃーん?」

「ん? あ、ごめん、ちょっと考え込んでた。どうした?」

「いや、ボーッとしてたから……そういうことならいいんだけど……」

 

内心自己嫌悪に陥っていると、私がボーッとしていることに気付いたらしいフリスクに心配そうに顔を覗き込まれる。それを大丈夫だと誤魔化し、私はフリスクを抱え上げる。

 

「まぁとにかく、先に進もうか。どっちがいい?」

「んー、じゃあこっち!」

「オッケー左ね」

 

しっかりと首に廻された腕を若干くすぐったく思いながら、私は装置に乗った。


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