守りたいもの   作:行方不明者X

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91.虚構だらけのミュージカル

【Lily】

 

薄暗かった部屋を抜けると、照明が点いて少し明るくなった廊下に出る。……あー、そっか、そう言えばここは連続だったな……

 

「ん、なんだろうあれ……ポスター?」

 

内心ちょっとげんなりしつつ、ポスターを見つけて歩いていくフリスクの後を追う。

 

「……うわお」

 

フリスクの後ろからポスターを見ると、メタトンがスポットライトを浴びているドラマチックなポスターだった。………こんな風になってたのか………

『恋人達を襲う運命の悲劇(イタズラ)――――――二人の愛が今試される』というキャッチコピーが書いてあるのに思わず苦笑する。中々客引き出来そうだなと思ってしまった私は可笑しい。

 

「………ねぇお姉ちゃん、ぼく嫌な予感がするんだけど」

「奇遇だねフリスク、私もだよ。開始時間もそろそろだし絶対巻き込まれるだろこれ」

「だよねぇ……」

 

二人で微妙な顔のまま顔を見合わせ、小さく溜め息を吐く。静かな廊下に、はぁ、という溜め息の音が響いた。

 

「まぁ、此処に留まっても仕方ないし、行こうか」

「うん」

 

そう言ってフリスクを連れ、次のエリアに進んでいく。

………次は確かさっき見たミュージカルだった筈。かったるいなぁなどとさらりと自然と思ってしまう私に嫌気が差しながら、私は舞台の上へとあがっていく。

 

「……ここ、は……」

 

舞台に入場しながら辺りを見渡せば、夜景のような背景に、ハリボテの城のセットである事が伺えた。上から降り注ぐ舞台照明の光を受けながら、私はよく城を観察しておく。あ、結構完成度高いなこれ。気合い入ってんなぁ。

 

「ああ、そこにいるのは……」

 

ズレた感心を抱きながらセットをしげしげと眺めていると、ふと、聞き慣れて……はいない機械音のような男性の裏声が聴こえた。え、待って、ゲームだった時は分からなかったけど裏声で話してんの? 今から裏声でミュージカル進行してくの?

気怠さが吹っ飛んで困惑したまま声がした方に顔を向ければ、城のセットのバルコニーから声の主がちらりと姿を覗かせる。

 

「もしかして……?」

 

そして、手を胸で組んだ状態で、声の主は姿を現した。

 

「……私の運命の恋人?」

 

「ふっ……!?」

「………!!?」

 

そこには水色のこれまた品の良い綺麗なドレスを着た状態のメタトンが佇んでいた。まさかの裏声だけで結構腹筋にダメージが入ってたのに追い打ちでダメージが入って笑いそうになるのを堪える。ちらりとフリスクを見れば、マジで?とでも言いたげな顔をしていた。

そんな私達の心情も露知らず、穏やかなBGMが掛かる中、メタトンはドレスの裾を持ち上げてさながら全世界に愛された名作童話のプリンセス・シンデレラのようにしずしずと階段……いや坂を降りてくる。その仕草の洗練された感じを見て、もしかして練習していたのかと思うと同時に、彼の徹底したエンタメ魂に感心する。つか、うん。よく結構急な坂をゆっくり降りてくれたよね。

 

【………オーマイラヴ】

 

そしてメタトンは私達の傍に立つと、うっとりするような動作をしてから、BGMに合わせて唄い出す。さながらオペラのような歌声に驚きつつ、警戒を一応しておく。

 

「!?」

 

唐突にミュージカルらしきものが始まった事に面食らったのか、フリスクは目を丸くしてメタトンの行動を見る。

 

【逃げなさい】

 

くるくると私達の周りを回るようにしながら演技を行うメタトンに合わせ、私は視線を身体ごと移動させていく。……今まで散々滅茶苦茶にしてきちゃったけど、これは彼の誠意を込めて行ってる事でもあるんだから、せめてこれぐらいは協力してあげなきゃね。

 

【王が 許さない】

 

ここでいう『王』とは、この先で戦わないといけない彼のことかと思いながら、ミュージカルを見守る。

 

【別れ 生きましょう こころ 裂けても】

 

そこで、メタトンは顔の部分を手で覆い、悲しそうな声で唄いあげる。……おぉ、中々だな。

 

【地下に 落ちるの】

 

ふと、私がメタトンから目を逸らして観客席の方を見たところで、花吹雪が降り始める。今更ながら月のセットが見えているし此処は地上だっていう設定なのかと察しながら、一番前にあった観客席と並べられていたカメラからそっと目を逸らした。

 

【サイテーで すごく死ぬの】

 

それは歌詞として台無しだろ、と心の中で突っ込んでおく。……というか、なんだ、『最低で凄く死ぬの』って。文脈可笑しくね?

 

【かなしー 死ぬからー】

 

段々と歌詞が雑になってきたなと思いながら、邪魔をすることなくメタトンを見守る。

 

【泣くわー 悲劇だから】

 

ふと、フリスクの頭にメタトンの手が乗る。そして少し撫でたあと、隣にいた私を見つめてくる。あれ、こんなんあったっけ。

ゲームだった時はなかった演出に驚きながら、私は取り敢えず見つめ返しておく。少しすると、BGMが止み、彼はカメラに体を向けて直語り出す。

 

「悲劇だわ。あなたがダンジョンに行かなきゃいけないなんて」

「んっ……」

 

待ってマジで裏声でやんの!?

メタトンから聞こえた声に思わず笑いそうになるのを堪え、顔を引き締める。静まれ私の表情筋! 笑ってる場合ちゃうねんぞ!

私は笑いを誤魔化す為にカメラ目線のメタトンの前に移動して片膝を付いて跪き、笑顔を作る。

 

「……いいえ、姫。あなたがそう言って涙を流してくれるだけで、(わたくし)は勇気が出るのです」

 

会場に声が響くようにそう言いながらメタトンの手を取れば、一瞬ピクリと手が跳ねる。唐突に始まった筈のミュージカルに対応して合わせてくることに驚いたのだろうと見当をつけ、人間形態だったら絶対に驚いた顔をしているのだろうなと思いながら、私は演技を続ける。

 

「それに、私が貴女のお父上の嫌がらせ(試練)を何度受けたと思っているんですか? これぐらいならば、貴女の為を思えば、どうって事はありませんよ」

「あ、あぁ……王子……なんて頼もしいのでしょう!」

 

暫く混乱したようにパネルを赤と黄色に明滅させていたメタトンがハッとしたように私の手を振り払い、離れていく。私も笑顔を浮かべたままフリスクの傍に戻る。

……なんでこんな事したのかというと、メタトンの動揺させるための意趣返しだ。散々今までメタトンのターンだったんだし、こっちが好き勝手やっても文句はないだろうと考えたからね。そして、メタトンに理不尽にキレてしまって番組を台無しにしてしまったお詫びでもある。普通に何も知らずに見れば私の怒りは正統であるように見えるけど、裏の事情を知ってればメタトンに怒りをぶつけるのはお門違いと言える。まぁ、あとでちゃんと謝るけど、許してもらえるとは思っていないし、少しでも償えれば、と思った次第だ。

そんな事を思いながら私は然り気無くフリスクの肩を抱いておく。

 

「じゃあね!」

 

そしてメタトンが何処からか取り出したリモコンのボタンを押すと、ガタンという音を立てて、足場が抜ける。一瞬の浮遊感の後、直ぐに重力に引っ張られ、私達は落下を始めた。

 

「わぁぁぁぁぁ!!?」

 

叫ぶフリスクを直ぐに抱き締め、着地に備える。暫く落ち続けると、地面が見えてきた。着地する体勢を整え、衝撃に備える。

 

ぼすっ

 

「わっ、おっと」

 

地面に着地した瞬間、想像していたよりずっと柔らかい感触に受け止められ、思わず体勢を崩し、座り込む。驚きながらフリスクをそっと離し、手で下にあるものは何なのかを確かめる。

……布っぽい感触……クッションか、これ。ゲームだった時は地面に直に着地して大丈夫だったのか不安だったけど、クッションが敷いてあったのか。

 

「お姉ちゃん大丈夫!?」

「ん、平気だよ。落下地点にクッションが敷いてあって助かった」

 

まぁこんな所で死なれてもメタトンも困るか、と結論付け、少し震えているフリスクの肩を撫でながら笑顔を返す。そして手を引っ張って立ち上がらせ、クッションの上から降りる。

 

「なんてこと! どうしたらいいの!」

 

クッションから降りるや否や、メタトンが飛んで追い付いてくる。そしてそのまままた裏声で話す所為で笑いそうになるのを何とか堪え、見上げておく。

 

「わたしの愛しのお方がダンジョンにぶち込まれてしまったわ」

「まぁ、『ぶち込まれる』なんてお言葉が汚いですわよメタトンさん」

「ぶふっ」

 

ボソッとメタトンには聞こえないくらいの声のお嬢様言葉で呟くと、フリスクが唐突に吹き出す。どうやらばっちり聞こえてたらしいなと思いながら、メタトンの言葉を待つ。

 

「非道い仕掛けのダンジョンの中で、きっとあの方は惨たらしく死んでしまうのね!」

「いや四、五割くらい仕組んだのお前だけどね」

 

これまた小さい声でツッコミを入れながら、私は周りを見渡す。さっきまでぬるめの温度だったのに急に体感温度が上がった気がする。結構な高度落ちたのかな、これは。

どうしようか、と思いながら額に噴き出した汗を拭い、ベルトコンベアの先に見覚えのあるパネルが敷き詰められた物がある事に気付く。あ、あれって……

 

「あぁ神様! 見るも恐ろしいカラータイルの迷路だわ!」

「見りゃあわかる」

 

思わず某奇妙な冒険のレロレロの人みたいな返しをメタトンにしながら、私はどれが最短ルートだったか思い出していく。色が変わる所為で原作通りのルートで行けるかバタフライエフェクトで全然違うルートになってるか分からないから厄介だけど、参考ぐらいにはなる筈だ。

 

「どのカラータイルにも意地悪な機能が備わっているのよ」

 

悲劇の姫君(という設定の)メタ姫が自分だけ安全地帯の空中で解説するって中々シュールだなと思いながら、説明に耳を傾ける。

 

「例えば、緑のタイルはモンスターと戦闘しなくちゃいけない警報を出して。赤いタイル……あら、すこしお待ちになって。だいぶ前にこのパズルを見たことありません?」

「え? ………あっ!」

 

説明を中断して放たれたメタトンの一言に、思い当たる場所を思い出したのか、フリスクは目を丸くして声をあげる。

 

「お姉ちゃん、これ、パピルスの……!」

「うん、そうだね」

 

驚いたように私に言うフリスクに頷き、フリスクを直ぐに抱えられるよう少し後ろに下がったおく。

 

「そうだったわ。それならもうルールはご存知ですよね?」

「あぁ、知ってるよ」

「ステキ……説明する手間が省けましたわ!」

 

さっきまでやっていた王子様の演技を取り去り、素で対応する。流石にもういいだろ。

 

「……それに、急いだ方がよろしくてよ。もし30秒以内に抜けられなかったら……」

 

メタトンが言葉を切った瞬間、背後でボシュッという炎が灯る音がした。

 

「このジェットの炎であなたは真っ黒焦げになってしまうの!!」

「……文字通りファイヤーフォールってか。ハッ、笑えないね」

 

後ろを振り返って見れば、先程までは無かった筈の吹き出す炎の壁が出現していた。メタトンの高笑いが響く中、これがじりじりと迫ってくる図を想像し、ゾッとする。

 

「かわいそうなあなた! 悲しくって笑いが止まらないわ!」

「やだそれ何てサイコパス?」

 

こわいわー、と茶化すように付け加え、私はフリスクの手を取る。そろそろ始まる筈だ。

 

「頑張って、ダーリン!」

 

はは、嫌味かよ。

そんな事を思いながら、直ぐ様フリスクを引っ張って抱えあげ、ベルトコンベアの上を走り出す。

 

「こんのっ……」

 

耳障りなメタトンの歌を聞きながら遅くなるベルトコンベアの上を走り、その間即座にパネルに目を通す。記憶の中にある攻略法と照らし合わせ、差異一つも見当たらない事を確認し、ベルトコンベアが終わった瞬間記憶の中のルートを全速力で辿っていく。

ピンク。黄緑。オレンジ。紫。青。ピンク。青。青。ピンク。黄緑。オレンジ。紫。紫。オレンジ。ピンク。紫。青。青。青。ピンク。オレンジ。ピンク。オレンジ。黄緑。紫。オレンジ。青………

青のパネルに踏み出そうとした瞬間、水面から鋭い牙を光らせたピラニアが顔を出す。すかさず踏み出そうとしていた足を引っ込め、迂回する。

ピンク。ピンク。紫。青。ピンク。オレンジ。紫。青。ピンク。紫。青。黄緑。オレンジ。ピンク。ピンク。紫。黄色。

ビリッと微弱な電気が踏み出した足裏から走り、思わず顔を顰めてから直ぐ様踵を返し、ピンクのパネルまで戻る。

青。紫。オレンジ。紫。オレンジ。紫。紫。ピンク。青。黄緑一色。

安全地帯まで来た所で、残り時間などを考えて全力で走る。黄緑のカラータイル地帯を抜け、地面に立つと、パンパカパーン、というファンファーレが響いた。

 

「おめでとう! 見事パズルをくぐり抜けたね!!!」

 

パチパチと空中で拍手をするメタトンを一瞬睨みそうになりながら、フリスクの顔を覗き込む。

 

「急に抱き上げてごめん。さっき電流が流れるパネルにやむを得ず突っ込んだんだけど大丈夫だった?」

「えっ、うん、ぼくはなんともないけど……」

 

不安そうな顔で私は大丈夫なのかと暗に訊いているフリスクから気付いていないフリをして目を逸らし、メタトンを見上げる。

 

「ほら、クリアしたんだからとっととこの壁消してよ」

「そうですね! さぁ、お待ちかね、火を消しましょう!」

 

メタトンが一言そう言ってパチンと指を鳴らせば、背後と目の前にあった炎の壁が元々無かったかの様にかき消えた。

 

「よし! 火を! 止めて!」

 

メタトンが約束通り炎の壁を消した事に安堵したのか、フリスクがほっと息を吐き、くいくいとパーカーを引っ張って降ろすように催促してくる。それを無視して、私は逆にフリスクを抱える力を強くする。

 

「……しかしこんなことわざもありますよ? 『火から逃れてフライパンに飛び込む』。」

「………『一難去ってまた一難』って言いたいのかい、君は」

 

というか、それをちゃんと訳するなら『フライパンから逃れて火に飛び込む』だろうに、と思いながら、暗喩されている日本語的な意味を言えば、フリスクの体が強張る。

 

「その通りです、ダーリン!」

 

私の言葉に肯定を返し、メタトンは声高々に告げる。

 

「たとえ火から逃れられても……この焼けつくような金属の体に耐えられるかな!?」

 

………あぁ、成る程。攻撃としては火が先だからフライパンと火を入れ換えたのね。

呑気にそんな事を思ってから、今度こそメタトンを睨み付ける。ここでバタフライエフェクトが起こってガチ戦闘になりにでもしたら洒落にならない。

 

「さあ覚悟して『プルルルル………』…………」

 

メタトンの台詞が途中で遮られ、フリスクから携帯の着信音が鳴り響く。咄嗟にフリスクは電話に出ると、直ぐに携帯を弄ってボタンを押した。

 

『見てて!! 私があなたを守る!!』

 

スピーカーモードにしたらしく、携帯からアルフィスの声が流れ出す。

 

『火炎放射器は、停止したから!!』

 

場違いな声がその場に響き、暫く何とも言えない沈黙が流れる。

 

『………あれ?』

 

その空気を可笑しく感じたのか、アルフィスが困惑したような声を出した。

 

「……人間はパズルを突破したよ。だからもう火は切った。それに今から人間と戦うつもりだったんですけど」

 

最高に盛り上がる筈だったであろうシーンを邪魔されたからか、メタトンは不機嫌そうな声でアルフィスに言い返す。

 

『えッ、え??? あ、あのパズルを?』

 

やはりあのパズルの製作者としても驚く所があったのか、アルフィスは驚きと困惑の混じった声でメタトンに聞き返す。……って言ってもまぁ、私はズルしただけだから、解いたとは言えないんだけどね。

 

『え、あー……すごい! 遂にメタトンを追い詰めた!』

 

気まずい雰囲気をどうにかしようとしたのか、棒読みの台詞でそんな言葉が聞こえてくる。

 

「追い詰めたって? は! どちらにしても博士は火を止めるだろうと思ってたよ」

 

何処か小馬鹿にしたような、冷徹な声でメタトンはアルフィスにそう言った。ぐっ、と息が詰まったような声が電話越しに聞こえた。

 

「………それで、何をしようとしてたっけ?」

「……私達とバトルするんじゃなかったの?」

 

グッダグダになってしまった空気の中、空気が台無しになった所為で当初の目的を見失ったらしいメタトンにツッコミを入れれば、メタトンはぽんと手を叩く。

 

「オーウ イエス! 君を処刑するところだったね!」

 

そう言うと、メタトンは私達の直ぐ傍に着地し、ドレスを脱ぎ捨てて襲いかかって来た。

 

Mettaton attacks(Mettatonが襲いかかってきた)!

 

世界が白黒に切り替わったと同時に、戦闘開始を告げるアナウンスが流れる。彼に攻撃が効かない事を知っているフリスクは、ターンを進める為に『MERCY』を押した。

 

『これで終わりだよダーリン! お別れの時間だね!』

 

ターンがメタトンに回り、そうメタトンが言った瞬間、携帯の着信音がまた鳴り響く。

 

『それが君の電話かい? 出た方がいいと思うよ!』

 

メタトンの言葉に甘えてフリスクが電話に出ると、会話が始まる。

 

『あ、あの! まずい事態だけど、でも心配しなくてもいいわ!!』

 

フリスクは気を効かせて私にも聞こえるようにスピーカーモードにしてくれたらしく、携帯からアルフィスの声が聞こえる。

 

「何か策でもあるのかい、アルフィス」

『さっ最後の機能があなたの携帯にインストールされてるの……! その黄色いボタンが見える……? この携帯の【アクト】メニューに行ってそのボタンを押すのよ!!!』

 

Your phone's 【ACT】 menu is glowing(あなたの携帯の【ACT】ボタンが光っている).

 

アナウンスとアルフィスの声で携帯を見れば、確かに『ACT』と書いてあるボタンが黄色く光っていた。アルフィスの指示に従ってフリスクがボタンを押す。

 

You press the yellow button(あなたは黄色のボタンを押した).

The phone is resonanting with Mettaton's presence(Mettatonと携帯が共鳴する)……!

 

『これで終わりだよダーリン! お別れの時間だね!』

 

その瞬間、フリスクの真っ赤なソウルがぐるんと上下反転し、モンスターのソウルと同じ形をした黄色のソウルになる。これ、イエローアタックか

 

『[ゼット]を押して!!!』

 

アルフィスの指示に従い、フリスクが携帯をメタトンに向けてボタンを押した。

 

バンッ

 

爆弾解除の際にも見たエネルギー弾が、今度は銃弾のような形になってメタトンに発射される。ギィン、という金属の甲高い音が響く。

 

『オーウ! オーーーーウ!! やられちゃったー!!』

 

本当はそこまで効いていないのだろうが、メタトンは弾が当たった場所を手で押さえて、結構なダメージが入ったフリをして、大袈裟にそう言った。

 

『まさか君がこんなに強いなんて、うんたらかんたら』

 

口でうんたらかんたらって言ったぞ、おい。

アルフィスの茶番劇に付き合わされてうんざりしてるのか、と思いながら、次の行動を待つ。

 

『まあいいやー』

 

それだけ最後にそう言って、メタトンは退散していった。

 

プルルルル………

 

世界に色が戻ってきたと同時に、また携帯の着信音が響く。

 

『…………! ……………』

 

そっとフリスクを地面に降ろすと、直ぐに電話に出て、話を始める。そして、口をパクパクと動かした。

 

『………? ………! …………』

 

アルフィスが自虐的な事でも言ったのか、フリスクは驚いたような顔をしてからブンブンと首を横に振った。そしてまた口を動かす。そんなことはない、とでも言ったんだろうか。

 

『……………、…………?』

 

アルフィスから話を持ちかけられたのか、フリスクは今度は首を縦に振った。その様子に、アルフィスの秘密に関わる話をされるのかと思い至る。

 

『……………………………………』

 

じっと、フリスクは電話越しで始まったアルフィスの話――――いや、この場合は懺悔も入ってるか。懺悔に耳を傾ける。……私の妹はシスターかなんかか?

若干の苛立ちのような物が湧き出しつつ、話が終わるのを待つ。暫くすると、プチリという音を立てて電話を切った。

 

「終わったよ」

「ん、結構長話してたけど、どんな話だったの?」

 

フリスクに笑顔で話を振ってみれば、フリスクは少し口を濁らせ、んー、と言った。

 

「えーっと、あのね、ちょっと言い辛い部分があるから其処は飛ばしちゃうけど……『有り難う』って言われたよ」

「へぇ。『有り難う』ねぇ」

 

ふーん、と興味を無くしたように言っておく。……確か、『私に助けさせてくれてありがとう』だったか。自分で仕組んだものなのに皮肉なもんだと前世で思った所為か、どうにも良く覚えている。

 

「……電話も終わったし、これ以上此処に留まってても仕方ないし、行こうか」

「うん、そうだね。行こう」

 

電話をポケットにしまい込んだフリスクの手を取って、結構急な階段を上り始めた。




※描いてみました。一応タイトル絵のつもりです。


【挿絵表示】

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