幼女戦記 〜旗を高く掲げよ〜   作:猫敷

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本作のオリキャラ、EVA(階級はないがヒムラーの個人補佐官):
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第3節 診療室へ続く裏 前半

 

 随行区画照合の箱は、翌朝には照合室へ移された。

 

 箱の移動そのものは、目立たない処理だった。記録室の棚から出され、受領欄に時刻が入り、立会者の名前が付く。誰かが大声で命じたわけではない。廊下で騒ぎが起きたわけでもない。ただ、ひとつの箱が奥の棚から照合室の机へ移った。

 

 それだけで、総統周辺の小さな例外は、別の扱いを受け始めた。

 

 照合室は広くない。

 

 窓は高く、外の光は入りにくい。壁際には番号付きの棚が並び、中央の長机には、前日まで別々の箱に入っていた控えが開かれていた。紙の種類も、筆跡も、保管の癖も違う。医療側の記録は専門家の手元にあったものらしく、薬品名の略記が多い。警護班の申し送りは短く、余計な感想がない。侍従側の控えは、言い回しが柔らかい。党官房周辺の提出物は、面会順への不満がにじむ。宣伝省筋のものは、式典の見え方にこだわっている。

 

 それらが同じ机に置かれた。

 

 診療記録。

 

 薬品搬入票。

 

 診療室入退室記録。

 

 警護班の申し送り。

 

 総統会議予定表。

 

 側近の体調報告。

 

 モレルの署名が入った処方控え。

 

 薬品業者名が書かれた受領台帳。

 

 並べてみると、どれも一枚では大したことがない。

 

 診療記録だけを見れば、医師が総統の健康を見ているだけに見える。搬入票だけなら、必要な薬品が入っただけに見える。入退室記録だけなら、医師が部屋へ入り、出たというだけだ。警護の申し送りも、会議予定表も、側近の体調報告も、それぞれの部署だけで読めば普通の処理で終わる。

 

 だが、横に並べると違った。

 

 同じ時刻に近い行がある。

 

 同じ人物の署名が何度も出る。

 

 同じ薬らしきものが、別の名前で書かれている。

 

 立会者欄だけが抜けている日がある。

 

 業者名の綴りや表記が少しずつ違う。

 

 そして、会議前に診療が寄る。

 

 ターニャは、机の端に立ったまま、一覧を見下ろしていた。椅子はある。だが、座れば一方向の紙しか見えない。立ったままなら、机全体のズレが見える。

 

 彼女の横で、セレブリャコーフが新しい照合票を作っている。彼女は診療記録を読んでいるのではない。行を移している。薬効や診断名を抜き、日付、時刻、搬入者、受領者、署名者、立会者、会議予定の有無だけを別の欄へ落としていた。

 

 EVAは、壁際ではなく、今日は机の反対側に立っていた。視線は紙面を追うというより、形を見ている。空欄の位置、署名の固まり、時刻の偏り。彼女は文字を読んでいるようで、文字ではないものを見ていた。

 

「少尉、効能欄は作るな」

 

「はい。名称、数量、単位、搬入元、使用時刻だけにしています」

 

「診断名も要らない」

 

「削っています。体調報告は、会議予定との時刻照合に使うだけです」

 

「よい」

 

 ターニャは、診療記録の一枚を指で押さえた。

 

 そこには、薬品名が略称で書かれている。横の搬入票には別名があり、さらに業者台帳では別の表記になっていた。どれも同じものかもしれない。違うものかもしれない。医師や薬剤係なら分かるのだろう。だが、警護記録としてはそれでは足りない。

 

「この三つは同じものか」

 

 セレブリャコーフが、該当箇所を見る。

 

「医務側の対応表では同一系統とされています。ただ、正式名称の照合はまだ返っていません」

 

「同一系統では弱い。同じものか、違うものかで返させろ」

 

「はい。医務側へ再照会します」

 

「期限は」

 

「本日十六時でよろしいでしょうか」

 

「十五時にしろ。遅れたら未回答で本表に残す」

 

「承知しました」

 

 セレブリャコーフのペンが短く走る。

 

 ターニャは、次の票へ移った。

 

 薬品業者名の欄が揺れている。正式な社名で書かれている日がある。略称の日がある。間に別の仲介業者らしき名が入る日もある。受領者は医務側。搬入場所は総統随行区画の手前だったり、診療室付近だったりする。記載が一定しない。

 

 効能は知らない。

 

 知らなくてよい。

 

 知るべきなのは、物がどこから来たかだった。

 

「業者名の揺れは、別表にしろ」

 

「同一業者の表記揺れと、仲介業者の混在で分けます」

 

「そうだ。仕入れ先が変わったのか、書き方が雑なのか、まだ決めるな」

 

「判断保留で置きます」

 

「保留でいい。ただし、保留のまま通すな」

 

 セレブリャコーフは頷き、業者欄の横に細い線を入れた。

 

 EVAが、机の端に置かれた処方控えを指で押さえた。

 

「同じ形」

 

 ターニャは顔を向けた。

 

「薬か」

 

「空欄。署名。時刻」

 

 EVAは、三つだけ言った。

 

 ターニャは、少しだけ沈黙した。

 

 薬品名ではない。

 

 薬瓶でもない。

 

 空欄、署名、時刻。

 

 つまり、モレルの名前があり、周囲の確認欄が薄く、時間が会議前に寄っている。その形が繰り返されている。

 

「瓶ではなく、記録の穴か」

 

「以上」

 

 EVAは、それで口を閉じた。

 

 ターニャは、机上の紙を見渡した。

 

 確かにそうだった。

 

 瓶の中身を読もうとすれば、医療の話になる。薬効、処方、診断、必要性。そこへ入れば、モレルは医師として振る舞える。医務側も壁を作る。総統の信頼も盾になる。

 

 だが、穴は別だ。

 

 空欄がある。

 

 署名が一人に寄る。

 

 時刻が偏る。

 

 立会者が消える。

 

 業者名が揺れる。

 

 同じものか分からない薬が、別名で通る。

 

 これは医療判断ではない。

 

 記録の問題だった。

 

(同じ未来とは限らない。だが、同じ穴はここにある)

 

 ターニャは、その内心をすぐに切った。

 

 未来の話を紙に書く必要はない。書けるのは、目の前の欄だけだ。総統の身体へ入るものが、誰の確認を通り、どの時刻に動き、どの記録に残ったか。それだけでよい。

 

 彼女は、白紙を引き寄せた。

 

 表題は短い。

 

 診療記録再整理案。

 

 その下に、分類を置く。

 

 第一、薬品名称の揺れ。

 

 第二、搬入元および業者名の不一致。

 

 第三、投与時刻と会議予定の近接。

 

 第四、立会者欄の未記載。

 

 第五、署名者集中。

 

 第六、診療後の体調説明および予定変更。

 

 そこまで書いて、ターニャはペンを止めた。

 

 これは、医療記録の再整理ではない。

 

 医療記録を、警護が読める形へ置き換える作業だった。

 

「少尉、この表は医務側へ渡すな」

 

「内部整理用ですか」

 

「そうだ。医務側へ渡すのは、名称と搬入元の照会だけでいい。全体表を見せると、防御の仕方を教えることになる」

 

「はい。照会票は分割します」

 

「警護班へ渡すものも絞る。時刻、立会者、目録有無。それだけだ」

 

「分かりました」

 

「侍従側には、体調説明の伝達先だけ聞け。薬品名を見せるな」

 

「はい」

 

 セレブリャコーフは、三種類の照会票を作り始めた。医務側、警護側、侍従側。それぞれ見せる欄が違う。聞くことも違う。全体を見せずに、必要な答えだけ取る。

 

 ターニャは、総統会議予定表を開いた。

 

 会議予定表には、軍事会議、政治協議、作戦説明、接見、報告受領の予定が並ぶ。時刻はきれいに刻まれている。総統の一日は、紙の上では規則正しい。現実には変更が多いのだろうが、少なくとも予定表は整っている。

 

 その横に、診療記録を置く。

 

 診療時刻。

 

 投与時刻。

 

 会議開始時刻。

 

 終了後の体調報告。

 

 面会順変更。

 

 並べると、いくつかの行が近づいた。

 

 近づいただけでは、意味はない。

 

 だが、近づく日が何度もあるなら、確認対象になる。

 

「会議前二時間以内を拾え」

 

「はい。診療、投与、薬品搬入を分けます」

 

「投与と書くな。医療判断に見える。『記録上の処置時刻』で置け」

 

「分かりました」

 

「会議後の予定変更も拾う。ただし、因果関係は書かない」

 

「『同日変更』でよろしいでしょうか」

 

「それでいい。原因はまだ不要だ」

 

 セレブリャコーフは、総統会議予定表の横に新しい欄を作った。会議前二時間、会議前一時間、会議直前、会議後変更。同じ日付を縦に並べると、診療記録が別の顔を持ち始める。

 

 EVAが、ひとつの行を指した。

 

「ここ」

 

 ターニャは覗き込んだ。

 

 軍事会議の前に診療記録がある。薬品搬入は前日。診療室入室は記録あり。退室時刻はある。立会者欄がない。処方控えにはモレルの署名。会議後、側近から体調良好との短い報告。さらに面会順が一部前倒しされている。

 

 一枚ずつなら、普通の行だ。

 

 並べると、ひどく気持ちが悪い。

 

「この日を抜け」

 

「はい。照合対象にします」

 

「断定するな。『記録の近接』でいい」

 

「はい」

 

 EVAは、別の行を指した。

 

「ここも」

 

 今度は政治協議の前だった。診療記録は短い。搬入票には略称。業者名は前回と少し違う。立会者欄は空白。会議後に予定の後ろ倒しがある。

 

「これも同じ形か」

 

「同型」

 

 EVAは、短く答えた。

 

 ターニャは、紙面へ視線を戻した。

 

 同型。

 

 便利な言葉だが、まだ提出物には使えない。提出するなら、具体的な項目に分ける必要がある。会議前の処置時刻、立会者未記載、搬入名の揺れ、予定変更。そこまで分ければ、誰も感覚の話とは言えない。

 

「同型とは書かない。要素ごとに分解しろ」

 

「はい」

 

 セレブリャコーフが、EVAの指した行を別紙へ移す。

 

 照合室の空気は、少しずつ重くなっていた。

 

 薬瓶そのものは、この部屋にない。モレルもいない。香水と薬品の匂いもない。あるのは、紙とインクだけだ。それなのに、診療室へ続く見えない通路が机の上に浮かび上がっていく。

 

 裏口。

 

 ターニャは、そう思った。

 

 正式な扉ではない。警護が認めた入口でも、会議予定表に載る通路でもない。だが、診療という名目で、薬品と説明と面会順が動く。総統本人の許可があれば、さらに通りやすくなる。誰も正面から止めない。止めるには、医療を妨げる理由がいる。

 

 だから、止めない。

 

 塞ぐのではなく、見えるようにする。

 

 見える通路は、裏口ではなくなる。

 

「持込目録との照合はどうなっている」

 

 ターニャが聞くと、セレブリャコーフは別束を出した。

 

「初回提出分です。常備品登録は出ていますが、当日追加の欄が薄いです。事後記載の理由も簡略です」

 

「モレル本人の署名は」

 

「あります。ただし、立会者欄が空白のものがあります」

 

「では、署名だけで通していた形だな」

 

「はい」

 

「その言い方は提出物には入れるな」

 

「『立会者欄未記載』とします」

 

「そうだ」

 

 ターニャは、持込目録を見た。

 

 モレルは出してきた。出さなかったわけではない。そこは見るべきだった。完全拒否ではない。だが、出してきたものがこちらの求めた形になっているかは別だ。常備品は登録した。だが、当日追加が薄い。事後記載はあるが、理由が弱い。本人許可欄が埋まる日もあれば、空いている日もある。

 

 つまり、相手は応じた形を取りながら、動ける余地を残している。

 

 それなら、こちらも応じた形を認めながら、空いている場所を詰めればよい。

 

「常備品登録を認める。ただし、当日追加と事後記載は別欄で追う」

 

「はい」

 

「本人許可欄が空白の日は、本人許可なしとして扱う」

 

「医務側が後で出した場合は」

 

「事後記載だ。時刻と理由を書かせろ」

 

「分かりました」

 

 セレブリャコーフは、持込目録の右端に新しい印を入れた。

 

 ターニャは、薬品業者台帳へ戻った。

 

 業者名の揺れが、どうしても気になる。

 

 医療側にとっては些細なことかもしれない。薬が届くなら、表記の違いは問題ではないのかもしれない。だが、警護の目で見れば、物の出所が揺れるのは危険だった。

 

 同じ業者の略称なのか。

 

 別の仲介を挟んでいるのか。

 

 モレル本人の指定なのか。

 

 医務側の仕入れなのか。

 

 誰も見ていないのか。

 

 そこを曖昧にしたまま、総統の近くへ瓶が入る。

 

 ターニャは、台帳の写しを一枚抜いた。

 

「業者名は、会計記録と照合できるか」

 

「可能です。ただ、会計側へ照会を出すと範囲が広がります」

 

「広げたくないな」

 

「はい」

 

「では、まず医務側に正式名称を出させる。会計にはまだ触れない」

 

「承知しました」

 

「ただし、会計照会の準備だけしておけ。相手が業者名で逃げたら使う」

 

「準備します」

 

 EVAが、薬品業者名の欄を見ていた。

 

「外」

 

「外部業者か」

 

「はい」

 

「そこも穴か」

 

「別の穴」

 

 ターニャは、少しだけ眉を動かした。

 

 別の穴。

 

 たしかにそうだった。

 

 診療室へ続く裏口は、建物の中だけではない。瓶が外から来るなら、外にも道がある。業者、受領、保管、搬入、診療鞄。一本の線でつながる。モレルの署名は、その線の途中に何度も現れる。

 

 今はまだ外へ出ない。

 

 だが、線だけは残す。

 

「外部業者の欄は、今は分離だ。第七項目にする」

 

「はい。外部搬入元の確認として追加します」

 

「薬品名と業者名を同じ表に載せるな。医療側に反発される」

 

「別表にします」

 

「そうだ。別表で作り、こちらで照合する」

 

 セレブリャコーフは、さらに一枚の票を用意した。

 

 照合室の机は、広さを失いつつあった。紙が増えれば、物理的に場所がなくなる。だが、乱れてはいない。束ごとに向きが揃い、未確認は右、確認済みは左、保留は中央の奥へ置かれている。

 

 ターニャは、その配置を見た。

 

 戦場の地図と同じだった。

 

 前線、後方、補給路、未確認地点。

 

 違うのは、地形ではなく書類でできていることだけだ。

 

 昼過ぎ、イギリス方面の攻撃準備に関する回付物が照合室へ届いた。

 

 空軍からの目標候補と、海軍からの条件表だった。セレブリャコーフが一瞬だけ迷い、ターニャへ視線を向ける。

 

「こちらも本日中の確認指定です」

 

 ターニャは、受け取った。

 

 戦争は待たない。モレルの鞄を見ている間にも、イギリス方面の下書きは進む。空軍は飛行場と港を挙げ、海軍は船と潮と護衛を並べる。陸軍は上陸後の補給に顔をしかめる。党は講和の形を語りたがる。

 

 外では大きな戦争。

 

 机の上では小さな穴。

 

 どちらも同じ国家の動きだった。

 

「イギリス方面は、夕方に回す。今は随行区画を優先する」

 

「よろしいですか」

 

「よくない。だが、今こっちを切ると、全体表が崩れる」

 

「はい」

 

「空軍目標表は受領だけ入れておけ。未処理で残すな。海軍条件表はレルゲンへ写しを回せ」

 

「承知しました」

 

 セレブリャコーフは、すぐに別の回付箱へ移した。

 

 ターニャは、内心で短く数えた。

 

 今日中に、薬品名称の照会。

 

 業者名の正式確認。

 

 持込目録の空欄返戻。

 

 会議予定表との時刻照合。

 

 警護班の立会者欄補足。

 

 侍従側の体調説明経路。

 

 それに加えて、イギリス方面の空軍目標表と海軍条件表。

 

(なぜ、勝った後の方が机が増える)

 

 答えは分かっている。

 

 勝ったから増える。

 

 負けている時は、選択肢が少ない。勝った後は、選択肢が増える。増えた選択肢は、それぞれに手続きと責任と確認を要求する。だから、机が増える。紙が増える。穴も増える。

 

 ターニャは、コーヒーに手を伸ばした。

 

 温い。

 

 だが、飲める。

 

 彼女はカップを置き、総統会議予定表へ戻った。

 

 会議前二時間以内。

 

 診療。

 

 処置時刻。

 

 薬品搬入。

 

 診療室入室。

 

 会議後の予定変更。

 

 体調報告。

 

 同じ行へ情報が集まっていく。

 

 セレブリャコーフが、ひとつの表を差し出した。

 

「会議前二時間以内に記録上の処置時刻がある日です。全件ではありませんが、軍事会議と政治協議の前に偏りがあります」

 

「数は」

 

「現時点で八件。うち四件に立会者欄の未記載があります。三件は薬品名が略称のままです」

 

「面会順変更との重なりは」

 

「二件です。体調報告経路の変更まで含めると三件になります」

 

 ターニャは、表を受け取った。

 

 十分ではない。

 

 だが、無視するには多い。

 

 この段階で断定すれば失敗する。だが、この段階で見逃せば、後で取り返しがつかない。ちょうど嫌な場所だった。

 

「全件を本表へ入れるな。まず三件に絞る」

 

「基準はどうしますか」

 

「会議前処置、立会者未記載、薬品名揺れ、予定変更。このうち三つ以上が重なるもの」

 

「はい。三件あります」

 

「それを第一群にする。二つ重なるものは第二群。単独は保留」

 

「分類します」

 

 EVAが、第一群の票を見た。

 

「濃い」

 

「言い方を変えろ」

 

「重なる」

 

「それでいい」

 

 ターニャは、第一群の三件を別に置いた。

 

 三件。

 

 多くはない。

 

 だが、始めるには足りる。

 

 総統の会議前に、診療記録があり、薬品名が揺れ、立会者がなく、会議後の予定が動く。これを偶然と言うには早い。だが、確認するには十分だ。

 

 モレルの意図を問う必要はない。

 

 薬の中身を裁く必要もない。

 

 ただ、穴が重なっている。

 

 そこを埋める。

 

「少尉、第一群の三件について、追加照会を出す」

 

「宛先は医務、警護、侍従の三方向ですね」

 

「そうだ。医務には正式名称と処置時刻の確認。警護には立会者と入退室。侍従には会議後の予定変更と体調説明の伝達先」

 

「提出期限は」

 

「明日正午。遅れる場合は理由を署名付きで出させろ」

 

「はい」

 

「モレル本人には、まだ直接出すな」

 

「医務側経由にしますか」

 

「そうだ。本人を動かすのは次でいい。今は部署の回答を見る」

 

「承知しました」

 

 セレブリャコーフが三方向の照会票を作り始める。

 

 ターニャは、第一群の三件を見た。

 

 まだ、証拠ではない。

 

 だが、道筋だった。

 

 診療室へ続く裏口は、ひとつの扉ではない。時刻、署名、空欄、業者名、体調説明、面会順。その細いものが重なって、ひとつの通路になる。

 

 それを見つけたなら、次は通路の幅を測る。

 

 幅が分かれば、誰が通ったかも見える。

 

 夕方に近づく頃、照合室の机上には新しい表ができていた。

 

 総統会議予定表との照合。

 

 第一群、第二群、保留。

 

 薬品名称照会。

 

 搬入元確認。

 

 立会者未記載。

 

 体調説明経路。

 

 予定変更。

 

 モレル署名。

 

 そこに、まだ結論は書かれていない。

 

 結論を書けば、早い。

 

 だが、早すぎる結論は、相手に逃げる時間を与える。

 

 ターニャは、第一群の表紙に短く記した。

 

 会議予定との重複照合対象。

 

 その表現なら、医療ではない。

 

 総統の会議予定と、診療記録の時刻が重なっている。だから確認する。誰が見ても、手続きとして通る。

 

 EVAが、表紙を見て言った。

 

「始まる」

 

 ターニャは、ペンを置いた。

 

「まだだ。始めるために、今は揃える」

 

「揃ったら」

 

「動く」

 

 EVAは頷いた。

 

 セレブリャコーフが、三方向の照会票をまとめる。

 

「明日正午までの回答で、第一群の照合が進みます」

 

「進むだけだ。決めるな」

 

「はい」

 

「会議後の発言録も確認対象に入れろ」

 

 セレブリャコーフの手が止まった。

 

「発言録ですか」

 

「体調説明や予定変更だけでは足りない。診療後の会議で、総統の発言がどう記録されているかを見る」

 

「内容判断になりませんか」

 

「判断はしない。発言の長さ、決裁の有無、予定変更との関係だけだ」

 

「分かりました。会議録の写しを照会します」

 

「限定でだ。発言内容を広げるな。時間、決裁、予定変更だけでいい」

 

「はい」

 

 ターニャは、総統会議予定表の横に、もう一つ欄を加えた。

 

 診療後発言録。

 

 その欄が加わった瞬間、机上の資料はさらに一段重くなった。

 

 薬品の出入りだけではない。

 

 診療室を出たあと、総統がどの会議へ入り、何を決裁し、予定がどう動いたか。それも照合対象になる。

 

 まだ、誰も裁かない。

 

 だが、診療室へ続く裏口は、会議室の入口へつながり始めていた。

 

 ターニャは、第一群の三件を揃え、机の中央に置いた。

 

 そこには、瓶の中身は書かれていない。

 

 薬効もない。

 

 診断名もない。

 

 ただ、時刻と空欄と署名と予定が並んでいる。

 

 それで十分だった。

 

 

 第一群の三件を中央へ置いたあと、照合室の仕事は紙の読み比べから、通路の組み立てへ変わった。

 

 日付だけでは足りない。

 

 時刻だけでも足りない。

 

 誰がどの部屋に入り、どの扉を通り、どの控室で待ち、どの会議へ移ったのか。そこまで並べなければ、診療記録と会議予定は別々の紙のままだった。

 

 ターニャは、建物内の区画図を取り寄せさせた。

 

 豪華な図ではない。警護班が使う実務用の写しだ。診療室、待機室、侍従控室、会議室、側近の待機場所、廊下の曲がり角、警護員の立哨位置。線は太くなく、部屋番号も簡素だった。だが、必要なものは載っている。

 

 彼女は、それを長机の端へ広げた。

 

「この図に、第一群の三件だけを落とせ」

 

「動線ですか」

 

「そうだ。診療室へ入った時刻、出た時刻、次の会議室への移動、予定変更の連絡先。全部を一本の線にする」

 

「承知しました」

 

 セレブリャコーフは、区画図の横へ小さな紙片を置いた。日付ごとに紙片を分け、時刻だけを抜いて並べる。診療室入室。退室。侍従控室への伝達。会議開始。面会順変更。体調報告。

 

 ひとつずつ置くと、ただの予定表だった。

 

 だが、線で結ぶと、部屋と部屋が近すぎた。

 

 診療室から会議室へ向かう途中に、侍従控室がある。さらに、その横に側近の待機場所がある。医師が診療後に出て、侍従へ短く伝え、側近へ体調説明が回り、会議前の順番が動く。紙の上では、それが数本の線で済んだ。

 

 現実でも、同じくらい短かったはずだった。

 

 ターニャは、区画図を見下ろした。

 

 戦場なら、地形が兵を動かす。

 

 建物なら、廊下が権限を動かす。

 

 どの部屋が隣り、誰がそこで待ち、どこから声が届くか。それだけで、正式な命令を使わずに予定は変わる。

 

「この位置関係は、警護側の資料にあるか」

 

「あります。ただ、医務側の記録にはありません」

 

「当然だ。医務側は部屋の配置を見ていない」

 

「警護側へ、診療後の移動先を確認しますか」

 

「確認する。ただし、モレル本人の行き先ではなく、診療後の伝達先だ」

 

「はい」

 

 EVAが、区画図の侍従控室を指した。

 

「ここ。薄い」

 

「記録がか」

 

「はい」

 

 ターニャは、該当する日付の控えを見た。

 

 診療室の退室時刻はある。会議室への入室時刻もある。だが、その間にある侍従控室の記録が薄い。人が通ったかどうかは分かる。しかし、何を伝えたかはない。体調説明があったとされる日でも、侍従控室の行は短い。

 

「ここを空白にするな」

 

「侍従側へ追加照会します」

 

「伝達内容は聞かない。伝達の有無、伝達者、受領者、時刻だけでいい」

 

「はい」

 

「内容を聞けば医療情報へ逃げる。経路だけにしろ」

 

 セレブリャコーフが照会票に書き加えた。

 

 伝達の有無。

 

 伝達者。

 

 受領者。

 

 時刻。

 

 短い欄だ。

 

 だが、その短さが重要だった。短ければ、相手は答えやすい。答えやすい質問に答えないなら、答えないことが意味を持つ。

 

 ターニャは、第一群のうち一件を取り上げた。

 

 軍事会議の前。

 

 診療記録あり。

 

 処置時刻あり。

 

 薬品名略称。

 

 立会者欄なし。

 

 会議後に予定変更。

 

 体調説明経路あり。

 

 そこへ区画図の線を重ねる。診療室、侍従控室、会議室。紙の上で、一本の道ができた。

 

 これは偶然かもしれない。

 

 だが、偶然なら偶然で、記録を埋めればよい。

 

 埋めて何も出なければ、それで終わる。

 

 埋めてなお同じ形が残るなら、次へ進める。

 

「会議室側の入室記録はどうなっている」

 

「会議室前の警護控えがあります。出席者名簿とは別です」

 

「それを取れ。出席者名簿だけでは足りない。会議に入った者と、扉前まで来た者を分ける」

 

「はい」

 

「総統本人の入室時刻も必要だ」

 

「確認します」

 

 セレブリャコーフは、すぐに記録室へ照会を出した。

 

 照合室の扉が一度だけ開き、記録係が別の箱を運び込んだ。会議室前の警護控えだった。表紙は簡単で、使い込まれている。中身はもっと簡単だった。時刻、入室者、退室者、扉前待機、伝達あり。警護員の書き方は短い。短いが、余計な言い換えがないぶん、使いやすい。

 

 ターニャは、控えをめくった。

 

 診療後の会議の日、扉前待機の欄に側近事務方の名がある。

 

 伝達あり。

 

 相手は侍従。

 

 内容は記載なし。

 

 時刻は、会議開始の少し前。

 

 彼女は、その行を指で押さえた。

 

「ここだ」

 

 セレブリャコーフが覗き込む。

 

「侍従控室の記録と一致します」

 

「一致しているのは時刻だけだ。内容はない」

 

「はい」

 

「内容は追わない。伝達の有無だけを第一群へ入れろ」

 

「追加します」

 

 EVAが、別の日付を見ていた。

 

「ここも、扉前」

 

 ターニャは、その行へ視線を移した。

 

 政治協議の前。

 

 診療後、側近事務方が扉前で待機。

 

 侍従から伝達あり。

 

 会議開始後、面会順変更。

 

 立会者欄なし。

 

 似ている。

 

 だが、同じとはまだ言わない。

 

「第二群から第一群へ上げるか」

 

 セレブリャコーフが聞いた。

 

 ターニャは少しだけ考えた。

 

「まだ上げない。追加要素が一つ増えただけだ。侍従側の回答を待つ」

 

「承知しました」

 

「焦るな。上げるのは簡単だ。下げる方が面倒になる」

 

「はい」

 

 ターニャは、区画図の端に細い線を引いた。

 

 診療室。

 

 侍従控室。

 

 会議室前。

 

 会議室。

 

 これが、診療室へ続く裏口の片側だった。

 

 もう片側は、外から入る薬品の道だ。

 

 業者、搬入、保管、鞄、診療室。

 

 ターニャは、二つの線を別々の紙にした。ひとつにまとめれば見やすい。だが、見やすさは危ない。医療側に見せるには強すぎる。警護側に渡すには広すぎる。侍従側には余計な情報が多すぎる。

 

 内部だけで重ねる。

 

 外へは分けて出す。

 

 それが、この案件の進め方だった。

 

「薬品の道と、伝達の道を分けろ」

 

「二系統ですね」

 

「そうだ。混ぜると、相手が片方だけを否定して全体を崩しに来る」

 

「別表で作ります」

 

「薬品側は、名称、業者、搬入、保管、持込目録。伝達側は、診療後時刻、侍従控室、会議室前、予定変更、体調報告」

 

「はい」

 

 セレブリャコーフの作業がさらに増えた。

 

 それでも、彼女は文句を言わない。言ったところで紙は減らないと知っているのだろう。あるいは、ターニャが減らすつもりなどないと分かっているのかもしれない。

 

 EVAは、二つの表を見比べた。

 

「別々。重なる」

 

「こちらでは重ねる」

 

「見せない」

 

「そうだ」

 

「見せると、隠れる」

 

「分かっている」

 

 短いやり取りで足りた。

 

 ターニャは、第一群の三件に新しい番号を振った。

 

 A一。

 

 A二。

 

 A三。

 

 数字ではなく記号を付けたのは、相手に序列を読ませないためだ。番号だけなら、一が最重要に見える。日付なら、時系列で言い訳を作られる。記号なら、内部整理に見える。

 

「この記号は内部だけですか」

 

「そうだ。外へは日付で返す」

 

「はい」

 

「A一は薬品側と伝達側が両方ある。A二は薬品側が強い。A三は伝達側が強い。そういう整理で置く」

 

「記載します」

 

 照合室に、また電話が入った。

 

 セレブリャコーフが受け、短く答える。

 

「医務側からです。正式名称の回答に時間がかかるとのことです」

 

 ターニャは、すぐに言った。

 

「理由を署名付きで出させろ」

 

「はい」

 

 セレブリャコーフが電話へ戻る。

 

「回答延期の場合は、理由と回答可能時刻を署名付きで提出してください。はい。口頭では受けられません」

 

 受話器が置かれた。

 

「不満そうでした」

 

「構わない。電話で済ませようとした事実も残せ」

 

「はい」

 

 ターニャは、医務側の表へ印を付けた。

 

 時間がかかる。

 

 それ自体はあり得る。正式名称の照合には手間がかかるのかもしれない。だが、手間がかかるなら、誰がどの程度の手間を必要とするのかを残す。口頭で済ませれば、あとで言っていないと言える。

 

 言わせない。

 

 書かせる。

 

 それだけだった。

 

 少しして、記録係が小さな封筒を持ってきた。

 

 会議録の索引だった。内容そのものではない。どの会議で、決裁があったか。予定変更があったか。発言録が残っているか。索引だけなら閲覧範囲を広げすぎずに済む。

 

 ターニャはそれを受け取った。

 

「中身はまだ要らない。索引で十分だ」

 

「写しを作成した者の名前も入っています」

 

「よい」

 

 彼女は索引を開いた。

 

 第一群A一の日、会議録あり。決裁二件。予定変更一件。発言録あり。

 

 A二の日、決裁なし。予定変更あり。発言録あり。

 

 A三の日、決裁一件。面会順変更あり。発言録なし、要旨のみ。

 

 発言録なし。

 

 ターニャは、A三で手を止めた。

 

「なぜ要旨だけだ」

 

 記録係は、少し緊張した顔をした。

 

「会議の性質によるものと思われます。詳細な逐語記録ではなく、要点のみ残す扱いです」

 

「誰が決めた」

 

「確認します」

 

「確認しろ。今すぐでなくていい。だが、A三は保留から外すな」

 

「はい」

 

 記録係が下がる。

 

 ターニャは、A三の横に小さく印を入れた。

 

 発言録がないことを、すぐに問題扱いしない。

 

 会議によって記録の形式が違うことはある。だが、診療後の会議で、予定変更があり、発言録が要旨だけなら、確認対象にはなる。

 

 偶然は、ひとつなら偶然でよい。

 

 三つ並べば、紙の上で場所を取る。

 

 ターニャは、机上の票を整理した。

 

 A一。

 

 薬品側、伝達側、会議録あり。

 

 A二。

 

 薬品側強、予定変更あり、決裁なし。

 

 A三。

 

 伝達側強、要旨のみ、面会順変更。

 

 それぞれ性格が違う。

 

 だから、まとめて断じてはいけない。

 

 まとめて断じれば、ひとつを崩された時に全体が弱くなる。別々に置けば、ひとつが崩れても他が残る。

 

「A一、A二、A三で照会文を変える」

 

「同じ文面では出しませんか」

 

「出さない。中身が違う」

 

「はい」

 

「A一は総合照合。A二は薬品名称と搬入元。A三は伝達経路と会議記録形式」

 

「作成します」

 

 セレブリャコーフは、三枚の照会票を分けた。

 

 ターニャは、照合室の時計を見た。

 

 十五時まで、まだ少しある。

 

 医務側は、おそらく署名付きの延期理由を出してくる。出してこなければ未回答で残る。どちらでもいい。回答があれば使う。なければ、なかったことを使う。

 

 その時、EVAが区画図の端を押さえた。

 

「もう一つ」

 

「どこだ」

 

「電話」

 

 ターニャは、眉を動かした。

 

「電話記録か」

 

「診療後。会議前」

 

 セレブリャコーフが顔を上げる。

 

「電話交換記録を見ますか」

 

 ターニャは、少しだけ考えた。

 

 電話記録は危険だった。範囲を広げすぎると、通信監視に見える。総統周辺の電話となれば、扱いを誤るだけで別の問題になる。

 

 だが、診療後、会議前、侍従控室、側近事務方。

 

 そこに電話があるなら、伝達経路の一部だ。

 

「範囲を絞る」

 

「はい」

 

「第一群三件の診療後三十分以内。侍従控室と側近事務方の外線ではなく、内線だけ。通話内容は不要。発信、受信、時刻、内線番号」

 

「照会します」

 

「総統本人の回線には触れるな」

 

「はい」

 

「そこへ触れたら、話が変わる」

 

 セレブリャコーフは、緊張した顔で頷いた。

 

 EVAは、短く言った。

 

「内線」

 

「そうだ。内側の道だけを見る」

 

「外はまだ」

 

「まだだ」

 

 ターニャは、電話記録の照会票に自分で一文を足した。

 

 通話内容は照会対象外とする。

 

 これを入れなければ、相手は通信内容を守るという名目で全体を拒める。必要なのは、誰が話したかではない。どの部屋とどの部屋が、診療後に短くつながったかだ。

 

 通話内容を見ないと明記すれば、相手は時刻を出しやすくなる。

 

 出さないなら、別の理由が必要になる。

 

 照合室の空気は、さらに細かくなった。

 

 診療室。

 

 会議室。

 

 侍従控室。

 

 警護控え。

 

 内線記録。

 

 薬品台帳。

 

 業者名。

 

 持込目録。

 

 紙が増えるほど、裏口はひとつの扉ではなくなっていく。扉ではなく、細い隙間の集まりだった。医療、警護、侍従、会議、電話、業者。それぞれの隙間を通って、誰かの判断へ影響が届く。

 

 それが見えた時、ターニャはようやく椅子に座った。

 

 座っても、机全体は見える。必要な線は引き終えた。

 

 あとは、返答を待つだけだ。

 

 ただ待つのではない。

 

 待っている間に、返答が来なかった場合の欄を作る。

 

「少尉、未回答欄を三種類に分けろ」

 

「未回答、回答延期、回答不能でしょうか」

 

「そうだ。延期には理由と署名。不能には根拠。未回答はそのまま残す」

 

「はい」

 

「未回答を空白にするな。未回答という文字で埋める」

 

「承知しました」

 

 セレブリャコーフが新しい欄を足した。

 

 空欄を潰すための作業で、こちらが空欄を残すわけにはいかない。

 

 それでは、同じ穴を作るだけだ。

 

 十五時前、医務側から署名付きの延期理由が届いた。

 

 正式名称の確認に時間を要する。

 

 薬品の略称は、担当医師および医務補助者の間で通用するもの。

 

 業者名については、納入経路確認中。

 

 次回回答可能時刻は翌日午前。

 

 ターニャは、それを読んだ。

 

 悪くない。

 

 少なくとも、口頭で逃げることはやめた。

 

「延期として受ける」

 

「はい」

 

「ただし、略称が担当医師と補助者の間で通用する、という文を残せ」

 

「意味がありますか」

 

「ある。警護には通用していない」

 

「記載します」

 

 セレブリャコーフが、延期理由を本表の補助欄へ写す。

 

 ターニャは、第一群三件の表を見た。

 

 薬品名はまだ確定しない。

 

 業者名もまだ揃わない。

 

 立会者欄は追加照会中。

 

 会議後の伝達経路も回答待ち。

 

 電話内線記録も未着。

 

 結論はない。

 

 だが、結論へ向かうための欄はできた。

 

 この欄が埋まるたび、診療室へ続く裏口の幅が測られる。

 

 ターニャは、表紙を閉じた。

 

 前半の仕事としては、十分だった。

 

 薬瓶を調べる段階ではない。

 

 効能を語る段階でもない。

 

 今は、通った道を紙の上に戻す。

 

 それだけで、総統の会議予定と診療室は、同じ表に載った。

 

 ターニャは、第一群の束を照合箱へ入れた。

 

 箱の蓋を閉じる直前、EVAが中を見た。

 

「残る」

 

「何が」

 

「穴」

 

「だから埋める」

 

「はい」

 

 蓋が閉じた。

 

 小さな音だった。

 

 だが、その中には、診療室から会議室へ伸びる見えない道が入っていた。

 

次に読みたい展開はどちらですか?(※構成上、前後する可能性あり)

  • イギリス戦方面
  • 帝国内政(モレル関連)
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