とある魔術と超能力者   作:和菓子

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まず初めに土下座を。
R18タグは撤回させていただきます。ホント調べが甘かったというか。じゃあ今はどうなんだとおっしゃられれば頭を地面に擦り付けるしかないわけですが。
誤解させてしまった方いらっしゃれば本当に申し訳ありません! 願わくばこれが作者の寂しい一人芝居にならんことを!

今回は皆ネガティブ。見事に駄作者の暗い性格に引っ張られてますね……
俺、この話が完結したら人の心の動きについて勉強するんだ……
あとキャラ崩壊にご注意を。佐天さんと食蜂さんはホントどうしてああなった。ほぼオリキャラじゃないですか泣きたい。



1-13.されど罪人は微笑する

 

 朝にも関わらず蒸し風呂じみた熱気に辟易しながら、美琴は歩道を歩いていた。向かっているのは柵川中学。風紀委員(ジャッジメント)第一七七支部があるごく普通の中学校だ。

 黒子はまだ帰れないらしい。

 第一七七支部にしばらく寝泊りすると聞いたのが三日前。慌てて着替えやらを用意してそそくさと出ていった。わざわざ『内側』の寮にまで行ったのは他の子の分も頼まれていたからだろうか。

 第七学区の南西端にある『学舎の園』。外側とはいえ、美琴達の住む寮はそこからあまり離れてはいない。より中心部に近い柵川中学の方が泊まり込みに適している、と黒子が言っていた。空間移動は少しでも温存しておきたいらしい。

 いつもなら四六時中ベタベタとくっついてくるのがなくなると、少し調子が狂う。

 うわだいぶ毒されてるなー、なんて考えながら、美琴は道端の石ころを蹴飛ばした。どうやらドラム缶型清掃ロボはまだこの道まで来ていないらしかった。

 大道というには道幅が小さく、小道にしては大きすぎる中途半端な印象の道路を気怠げに歩く。

 調子が狂うといえば、本当は四日前のあれが発端なのかもしれない。いつも賑やかな黒子がいなくなったせいでそれが表に出てきたのかも。

 蹴飛ばした石ころに追いついて、美琴はもう一度石を小突いた。ただし、少し弱めに。

 転がっていく石ころをどうでもよさげに見つめながら考える。

 百合花といい、佐天といい、どうやら自分は友人とトラブルを起こすのが特技らしい。

 皮肉を笑おうとして、しかし全く笑えなかった。

 佐天涙子とはあれから顔を合わせていない。初春が電話を掛けても着信は拒否されていたらしい。自分も掛けてみようかと思ったが、気まずい。面と向かうどころか、電話越しでもまともに話せる自信はなかった。

 ため息を吐きながら、歩く。

 曲がり角を曲がって、また歩いて、寂れた公園を横切って、大通りに沿って、脇道に入って、出て。

 上の空でそんな事を繰り返しているうち、目的地にたどり着いていた。

「あれ?」

 柵川中学校の校門の前で、美琴は思わぬ人物を見かけた。

 深く、やや暗い色合いの茶髪に碧い瞳。小柄であるが女性的な体つきの、美琴のコンプレックスを真正面から抉り抜きそうな少女だ。

 灰色のプリーツスカートに真っ白な半袖のブラウスが朝の日差しを反射して目に痛い。学校指定のサマーセーターは着ていないようだった。

 美琴に気づいたのだろう。視線の先、その少女が丁寧に会釈する。美琴は思わず馬鹿丁寧に会釈を返してから尋ねていた。

「え、と。藍原さん、だっけ?」

 銀縁眼鏡を鼻に引っ掛けた藍原は、にっこりと愛想よく笑いながら頷いた。

「はい、藍原桜と申します。御坂様もご機嫌麗しゅう」

 藍原桜。百合花の側に居るのは何度か見ているけれど、面と向かって話すのはこれが初めてだ。丁寧な話口調と邪気のない笑みが純粋培養のお嬢様を連想させて、何となく付き合いづらい娘というのが美琴の第一印象だった。

 それでも、彼女は百合花との仲直り(と言っても美琴は何故かその理由も知らないのだが)のために重要な人物だというのは間違いない。将を射んとするならまず馬を射よ。

 引き攣った顔でご機嫌ナントカと返して、美琴は一昔前のお見合いのような質問をしてみた。

「ええと、ご趣味は?」

「生け花を少し」

 突拍子な質問にも関わらず、藍原は笑いながら答えた。

「特技は?」

「給仕全般です」

 彼女は完璧な笑みを浮かべている。

「好きなものは?」

「コーヒーですね」

 藍原はにこにこと笑っている。美琴はほんの少し違和感を感じて眉を(ひそ)めた。

 目の前の少女がどこか無理をしているように感じられたのだ。美琴と彼女に接点はない。が、美琴は似たような感じを以前味わっていた。

「もしかして、猫被ってる?」

「……よくお分かりで。初見で見抜かれたのは御坂様で三人目、です」

「慣れてるのよ」

 満面の作り笑いを浮かべる藍原に既視感を感じ、美琴は大きくため息を吐いた。

「(一年前も似たようなやりとりしたし、後輩はやっぱり似るもんなのかしら)」

 ぼそりと呟いて、襲いかかった悪寒に慌てて首を振った。

(って! それだと私と黒子が似た者同士ってことじゃない!!)

「どうかされましたか?」

 ぶんぶんと頭を振り回す美琴に、藍原は笑顔のまま首を傾げていた。

「あ、ごめん。気にしないで」

「そうですか」

 偽物。

 そう考えると、藍原の笑顔が妙に薄ら寒いものに思えてくる。自分と彼女の間に、巨大な壁が幻視されるようだった。

「……ねえ、猫被るのやめない?」

 藍原はきょとんとした表情を返した。一つに結ばれた後ろ髪が小刻みに揺れている。

「一応、これは御坂様に気を遣っていたのですが」

 思いもよらない言葉だった。

「どういうこと?」

「私の素は社交には向いていませんから。現に白井様にも嫌われているようですし」

 どこか清々しい藍原の言葉を咀嚼して、美琴は構わず言った。

「別に気にしないわよ。黒子と比べれば軽い軽い」

 四六時中ところ構わず迫ってくるはた迷惑な後輩と比べればたいていの事は我慢できる。

 苦笑しながら藍原の顔を見た。

 

 何の感情も浮かんでいなかった。

 

「そうですか。クラスの皆様には変なものを見る目で見られたのですが、御坂様がそうおっしゃるなら」

 声を聞いた直後、人形のような少女にびくりと体を震わせた。先ほどとは別人ではないかと、一瞬疑っていた。声の感じ自体も変わっている。少し話し方が変わるだけでここまで印象が変化するとは思ってもみなかった。

「先ほどの自己紹介にも見栄があったので、訂正しておきます」

 無表情の藍原を、美琴は呆然と見つめていた。うだるような陽射しの下で、知らず、美琴は干上がった喉を鳴らした。

 けれど、ついさっき言ったばかりの言葉を引っ込めるわけにはいかない。何とか驚きを表に出すまいと気を入れる。

 対して、藍原は涼しげな顔で言った。

 

「趣味は百合花様ウォッチング特技は隠密行動好きなものというか人は百合花様です」

 

「……へ?」

 今、この少女は何と言った?

 現実逃避に巡った思考とは別に、美琴の本能が叫んでいた。

(あ、コイツ黒子と同じ人種だ)

 生気の抜けていく美琴の前、藍原は律儀に繰り返す。

「趣味は百合花様ウォッチング特技は隠密行動好きな人は百合花様です」

 一息に吐き出された妄言に、一気に肩の力が抜けていくのを感じた。

 美琴は気を落ち着かせるように息を大きく吸って、

「何だそれ!!」

 抜けるような青空に絶叫が響き渡った。

 

 

 

 突然聞こえた大声に佐天は思わず耳を押さえていた。

(御坂、さん? どうしてここに……)

 おそるおそる曲がり角から顔を覗かせると、御坂美琴が佐天の知らない少女と何か話している。背を向けている少女の顔はここからでは見えないが、美琴が顔を真っ赤にしているのはよく見えた。

 佐天と美琴は四日前のあのとき以来顔を会わせていない。それどころか、佐天は三日前からほとんど寮の自室にこもりきりだった。電話にも出ていないし、誰かが訪ねてきても無視していた。

 怖かったからだ。

 幻想御手を使ったことを知られて責められるのも怖かったし、今さらどんな顔をして会えばいいのかという気まずさもあった。

 悶々と考えて、決断するのに三日かかった。でも、幻想御手のことを打ち明けなくてはと思った。

(でも、ちょうどいいかもね。さってと! ズルしてごめんなさいしないとねー?)

 ――思った、のに。

(あれ?)

 佐天は曲がり角から一歩踏み出そうとして、しかし、脚は縫いつけられたように動いてくれない。

 数秒考えて、ようやく原因を自覚した。

 別に、何かよく分からない力が働いたわけではない。もちろん超能力を使われたわけでもない。

 単純に、まだ心のどこかで踏ん切りが付いていなかっただけだった。

 自分でも、意気地がないと思う。

(何やってんのあたし。このまま御坂さんに声掛けて、一緒に初春のところに行って、白井さん呼んで、全部話して)

 自覚して、自嘲して、俯いて。

(サヨナラすれば、いいじゃない)

 今まで隠していた激しい嫉妬と向き合うこともできないで、幻想御手に頼って。

 こんな自分じゃ、きっと彼女達には釣り合わない。

 無能力者だから。心が弱いから。みっともない劣等感を抱えているから。誰の役にも立てないから。

 心が弱いから嫉妬して、妬みは劣等感に変わって、劣等感はヒーロー願望になって、ヒーロー願望が彼女達に迷惑をかけて。

 嫌なところばかり浮かんできて、佐天は乾いた笑みを零した。

 俯いた視界には何の変哲もない路面が広がっている。柔らかい地面が特殊素材のタイルに覆われていて、まるで自分を表しているようだった。

 弱い心を笑顔で覆った、みっともない自分を表しているようだった。

 自分で自分が分からない。彼女達の傍は嫉妬で苦しくて、でも離れたくなくて、やっぱり釣り合わなくて。

 止まらない思考を続けながら、佐天は焦点の合わない目で地面を見つめていた。

 そのとき。

 「佐天、さん?」

 聞き慣れた声だった。つい先ほどまで向こうから聞こえていた声だった。

 顔を上げると、美琴の心配そうな顔が目に入った。

 驚いて息が止まるかと思った。さっきまで彼女は向こうにいたはずだ。そんなに考え込んでいたのだろうか。慌てて表情を取り繕いながら佐天は思う。

「こんにちは、御坂さん」

 ちゃんと笑えているか不安だった。

 躊躇いがちだった美琴の顔が少し歪んだ。

「御坂様、こちらの方は?」

 美琴の後ろから少女が歩いてくる。さっきは見えなかった碧い瞳が印象的な少女だ。

 少女に視線を向けながら、美琴は当たり前のように言った。

「佐天涙子さん。私の友達よ」

 胸が痛んだ。こんな情けない自分をまだ、彼女は友達だと思っている。

(でも、きっともう終わっちゃう)

 想像するだけで頭が真っ白になる。足は小刻みに震えていた。

「佐天涙子様ですね。私の名前は藍原桜と申します」

 にっこりと笑う藍原もそれを小突く美琴も、動揺した佐天には気にならない。

「よ、よろしくね!」

 真っ白になった頭でまともな受け答えができたのは、佐天の社交的な気質のもたらした奇跡のようなものだった。

 佐天は今さらになって気づく。震えていたのは体だった。

「……どうしたの?」

 美琴は不安げだった。

 気遣う声の意味を分かって、佐天はあえてとぼけていた。噛み合わない答えを美琴に返す。

「あ、夏休みの宿題学校に忘れちゃって」

 笑いかけたのに、何故か美琴の表情が曇っていく。

「……この前はごめん」

「やめてくださいよー! あんなのただの冗談なんですから」

 張り付けた笑みはまるで逆効果だった。

「でも」

「冗談なんですってばー!」

 美琴の表情がどんどん歪んでいく。藍原はどうしていいのか計りかねているようだった。

 思うことと話すことの違いに呆然としながら、佐天は他人事のように自分の言葉をなじった。

(ここで言わなきゃどうするの!? 最後くらい勇気出してよ!!)

 もぞもぞと口を動かす。美琴がそれに気づいたところで、思い切って口を開いた。

 それでも、口から出てくるのは嫌になるくらい空っぽの笑い声。

(どうして)

 頭の中がぐちゃぐちゃになって、気がついたら走り出していた。

「待って!」

「来ないでください!!」

 美琴の声を振り切って、ひたすらに走る。何度も躓いて、転んで、ぶつかって、すっかり息が上がっていた。

 しかし、勢いは衰えない。得体の知れない感情が佐天の体を突き動かしている。

 道行く人の視線を気にもせず大通りを駆け抜けて、階段を駆け上がって、また走った。

 途中からは、いつかの帰り道を巻き戻しているような感覚だった。

 初春飾利と一緒に歩いた道。風見百合花に送ってもらった道。御坂美琴に酷いことを言ってしまった道。

 走って、走って、走って。

 平凡な学生寮に戻っていた。慌てて自室に駆け込む。糸が切れた人形のように、佐天はベッドの上に倒れこんだ。

 都合がいいな、と自分でも思う。

 面と向かっては無理だった。向かい合うことはできなかった。

 自分で自分が分からなかった。

「うい、はる……」

 震えながら、佐天は携帯電話を握りしめた。

 

 

 

(ん……?)

 キーボードを叩く音で風見百合花は目を覚ました。

 酷く喉が渇く。何となく、怖い夢を見て母親を探す子供のような気持ちになって、彼女は辺りを見回した。見慣れた金髪を見つけて安堵したように息を吐く。ゆっくりと体から緊張が抜けていった。

 それでも、しこりのような感触は消えてはいない。

 周囲を取り囲む機材は不気味なほど静かだ。しかしそれらは確かに起動していて、薄暗い室内を夜空に光る星のように照らしている。カーテンくらい開ければいいのに、なんてことを百合花はぼんやりと思う。寝ぼけ眼を擦り、真っ白なベッドシーツから体を起こした。

「あら、起きたぁ?」

 それを認めて、食蜂がディスプレイから視線を移す。その間も指がキーを弾く音は続いていた。

「……うん、おはよ」

 微かに暗い声だった。寝間着代わりの真っ白いワイシャツには皺が寄り、肩に少し届かないくらいの真っ黒なセミショートがところどころ跳ねていた。

 長い前髪を鬱陶しそうに掻き上げる。

「おはようって、もうお昼よぉ?」

 クスクスと笑いながら指差されたディスプレイを見れば、なるほど、タスクバーの端に小さく『7/24 12:09』と表示されていた。

「ちょっと寝過ぎたか」

「もう少し寝てればぁ? 最近寝不足だったみたいだしぃ」

「……、ん、今は、いいよ」

 何かしていた方が気が楽だった。百合花は着替えもせずにコンピュータの前に座る。

 食蜂が訝しげに目を細めて、

「本当に大丈夫ぅ?」

「それで、解析はどこまで進んだ?」

 断ち切るような百合花の言葉に不満げな顔でディスプレイへと視線を戻す。

「九割ってとこねぇ、もうすぐ終わるわぁ」

「何だ、予想以上に早いな。もう一日くらいかかると思ってたよ」

 感心したように息を吐きながら、百合花は目を丸くした。昨日の時点ではいいとこ七割程度だったはずなのだが。

「もしかして、寝てない?」

 罰の悪そうな表情で百合花が尋ねる。しかし食蜂は嘲るように言った。

「まっさかあ。夜更かしは美容の大敵よお?」

 言った通り、彼女に疲労の色は見られない。

 と、なると、この少女は百合花が眠ってから自分が休むまでの数時間で約二割もの解析を進めたことになる。

「ま、私が本気を出せばこんなものよお?」

「流石……、と言いたいんだけど」

 自慢げに胸を反らす食蜂にげんなりとした表情を作った。

「ならもっと早く本気出してよ」

 百合花はため息を吐きながらキーボードを叩く。

 その彼女に違和感を憶え、食蜂は自分のバッグを漁った。

 取り出したリモコンをクルクルと回しながら、

「えい☆」

 百合花に向けてボタンを押した。

 食蜂の『心理掌握(メンタルアウト)』は全ての精神系能力の上位互換だ。そのあまりの応用範囲の広さに基準と区別を設けるため、食蜂はそれぞれの機能専用のリモコンを持ち歩いていた――のはまだ未熟だったころの話。今も持ち歩いているのは、リモコンのボタンを押すという動作が気に入っただけというよく分からない理由だった。

 必要もなく読心用とラベルの貼られたそれから、自分と相手の回線を繋げるための電波が飛び出した。他の読心能力者はどうか知らないが、繋がった道筋から自分の好きな情報を一方的にやり取りするのが食蜂式の読心だった。

 微弱な電波が冷たい空気を走って百合花へと向かう。

 彼女の頭に潜り込もうとぶつかって、

 

 何か得体の知れない力に散らされた。

 

 食蜂が頬を膨らませる。

「こら、防がないで欲しいんだけどお」

「反射的にやっちゃうの。せめて一言断ってからにしてよ。ていうか普通に口で聞いて」

 百合花は憂鬱そうな顔で言った。

「普通に聞いても答えが返ってこないんじゃないかしらあ。前もそうだったしい」

「何の事かな? ソレ、言葉を軽視してるみたいで嫌なんだよね。慣れると大変な事になりそう」

「あらあ? 言葉というものは気持ちを伝えるためにあるんだから、もっと効率的に伝える方法があるならそっちを使う方が理に適ってるわよねえ」

 二言三言の軽口に、白旗を上げたのは百合花だった。

「分かった。もう好きにして」

「素直力全開でよろしい☆」

 手に持ったリモコンをバトンのように回してから、百合花の額にぴったりとくっつける。

 間抜けな電子音が部屋に響いて、

「あちゃあ、またコレ?」

 食蜂が億劫そうに呻いた。

「また、って。ずっと続いてるんだけど」

「あのジーサンもご苦労なことねぇ」

 あまりよろしくしたくないマッドサイエンティストを思い浮かべて、食蜂が嫌そうに顔を顰めた。

「何にしても御坂さん絡みなワケねぇ」

 得心がいったという顔の食蜂に、百合花は吹けば飛びそうな作り笑いを貼りつけた。

「うん……気づいちゃったの。今まで美琴のためなんて綺麗事吐いてたのは、全部自分のためだった。それで」

「何をどうすれば御坂さんのためになるのか、あの子達のためになるのか分からない。また他人を自分のための言い訳に使ってしまいそうで怖い、というワケなのねえ」

「その、通りだよ」

 百合花が力なく言った。

 食蜂はしばらく黙りこんで、やがて億劫そうに口を開いた。

「ねえ百合花さん。私達は歪んでる。どうしようもないくらいにねぇ」

「分かってるよ。じゃなきゃ人殺しなんてできるわけないもの」

 人殺し。

 殺人者。

 百合花は罪状を読み上げられた犯罪者のような表情だった。

「あなたのそれは一般的な殺人とは少しかけ離れ過ぎてる気もするわよぉ?」

「悪い意味でね。殺人に一般的も糞もない。最初にあの子を殺したとき、私はもう手遅れだったんだよ」

 食蜂の純粋な疑問に、しかし厳しい言葉が返ってきた。

「そんなものよぉ。特に私達超能力者(レベル5)は。御坂さんにだって少なからず歪みはあるんだしぃ」

「それでも、私なんかよりはずっとましだ」

 憧れを滲ませた声だった。それを汲んで、食蜂はニヒルな笑みを百合花に向ける。

「そうねぇ。確かに、他の超能力者達と比べればずっとまともだけどぉ。でも、私はどうしようもなく歪んでるけど、それでも手に入れたいものがあるのよねぇ。世界中の人間にどう思われようと。たとえ笑顔で握手を求めてくるような、私のことを怒ってくれるようなお人好しの胸にナイフを突き立ててでも、心を踏みにじってでも、譲れないものがある」

 暗い影を纏っていながら、どこか歌うような声だった。きっと、芯が揺らいでいないからだ。

 考えて、百合花が目を細める。

 譲れないもののために、報いも罵倒も裁きも全て飲み干して、受け入れて、泥の中を前に進む。

 自分の『大切』を守り切って、罪人らしく笑ってギロチンの下に首を置いてみせよう。

 褒められたものではないだろう。悪人であることに変わりはないのだから。

 こうなれるとは思わないし、なろうとも思わない。それでも、眩しかった。

「私には、そんなものない。手に入れたいものも、守りたいものも、譲れないものも、何もない。もう、限界だよ」

 弱音が出た。

 罪悪感すら擦り切れそうな自分が、百合花は堪らなく嫌だった。

 首を回して目を逸らす。

 その横顔を食蜂が見つめていた。

「馬鹿じゃないのぉ?」

 食蜂がため息と共に言った。

「何を言っているのかしらぁ? お人好しのあなたなら譲れないものなんてたくさん持っていると思うけどねぇ」

「え?」

 思考――ほとんど自嘲だった――が止まっていた。

 不意打ちに、呆けたような声が出た。

 食蜂が微笑を浮かべて言う。

「一切合切自分のためでいいじゃない。誰かのためなんてのも、突き詰めれば自分のためなんだしぃ」

「台無しなこと言わないでよ……」

 釣られて、百合花も苦笑していた。

 食蜂は金色の髪を指に絡ませながら、からかうように言った。

「そういうものなのよお。『心理掌握』が言うんだから間違いないわねえ」

 食蜂が微笑する。

「全部自分のためにするのをオススメしておくわぁ。誰かのためなんて理由じゃあ絶対に折れてしまう。そんな免罪符で立っていられるほど、この街は優しくないことだしねぇ」

「操祈……」

「なーんて、出まかせの作り話なんだけどねえ☆」

「……」

「ここ笑うとこよお」

 百合花は黙ってキーボードの前に座った。

 沈黙が部屋に満ちる。

 あら、外しちゃったあ? と食蜂が首を傾げて椅子に座ったとき。

「……ありがと」

 水面に広がる波紋のように、小さな呟きは何とか食蜂の耳に届いた。

 聞いて、二番目の友人は複雑な微笑を浮かべた。

 





超電磁砲の九巻がもうすぐ発売らしいですね(いや、もう売ってんのかな?)
作者は基本単行本しか読まないので(ネタバレサイトなんかはつい見ちゃうんですけど。ミコっちゃんどうなっちゃうの……)、食蜂さんの資料が増えてヤター! な状態です、が!
ぇ? 手遅れ? もうキャラは完全崩壊?
……ぐうの音も出ない。
どうして、こんなことになっちゃったのかな(完全に力量不足)。当初の予定では美琴組ともさっさと合流するはずだったのに(見通しが甘い)。
うおぉぉぉぉぉぉぉッ不貞寝だぁぁぁぁッ!!
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