今回は(今回も?)捏造設定キャラ崩壊魔改造中二病が散りばめられたイタイお話ですが、そんな拙作を読んでくださる方々に感謝を込めて。
では、お暇つぶしをどーぞ。
自動車の通り過ぎる音がした。きっと外では、クソ暑い太陽の下を同じく暑苦しい鉄の塊が行き交っているんだろう。
(この暑い中ご苦労様ね)
車道の端に停められた真っ黒な清掃車の中で、少女は頬杖を突きながらそんなことを考えていた。
『ちょっと! 聞いてるのアンタ!』
冷房完備の車内でひんやりとした空気を楽しんでいたところ、モニターからやたらと甲高い音が響いてくる。
「んー?」
少女は頬杖を突いたまま生返事を返して、
『こいつときたら! いいから聞けっての!!』
女性の怒鳴り声に思いっきり眉根を寄せた。正直うるさい。
「超うるさいです」
どうやら同じことを思っていたらしい。隣に座っていた十二歳ぐらいの少女がうっとおしげにそう言った。
それを口火に、車内にいた四人の少女達は口々に好きなことを言い始める。
「結局、更年期障害にはなりたくないってわけよ」
「今回ばかりはフレンダに超同感です」
「大丈夫。更年期障害でも私は応援する」
「待つってわけよ、今回はって何!? 絹旗! 結局私に何の恨みがあるってわけ!?」
「こないだの仕事、フレンダのミスのしわ寄せが超私に来たんですけど」
「……テヘッ☆」
「よーし超殺す」
「あ、シャケ弁切れてる。滝壺、ちょっと買って来てくれる?」
「むぎの、それくらいは自分で行って欲しい」
えー、このクソ暑い中を? と少女が呻いた瞬間だった。
『聞きなさいってばぁぁぁぁッ!!』
『NO IMAGE』と表示された、それ意味あんのかスピ-カーフォンにしてやるから携帯にかけてこいよと少女が日頃から思っているモニターから、爆音が鼓膜に襲来した。
四人の少女達が一様に耳を押さえるのにも構わず、耳障りな高い声は怒ったように空気を震わせてくる。
『仕事の内容を説明してる最中でしょうが!! アンタらそれでも暗部なの!? 遊びじゃないんだからもっと真面目にやりなさい!』
女性の声を聞いて、少女の表情がピクリと動いた。
暗部組織と呼ばれるものがある。
暗殺、諜報、護衛、殲滅、隠蔽など。学園都市の裏で暗躍する彼等の仕事は幅広い。だが当然ながら、それらの活動は隠しようもない共通点を孕んでいた。
学園都市の裏、暗部。すなわち、悪。
この街の闇に息づき、汚れ仕事を引き受ける。彼らは文字通りの『悪』であった。
そして、ここにそんな人間が四人。
「あー、はいはい。ちゃんと聞いてたよ。で、その上で言わせてもらうけど」
美琴達が走り出す数時間前、清掃車を装った真っ黒な車両の内部、その少女はモニターに向かって冷たく言い放った。
「
ふんわりとウェーブのかかった栗毛を悩ましげに揺らす少女の名は麦野沈利。暗部組織『アイテム』のリーダーだ。
暗部組織『アイテム』は学園都市内の不穏分子の削除及び抹消を主な任務とし、 また、学園都市統括理事会を含む上層部やその他の極秘集団の暴走の阻止、いわばストッパーの役目も担っていた。
麦野が軽く目を細めると、モニターの向こうから焦った声が聞こえてくる。
『こ、こいつときたら! 仕方がないでしょ上の命令なんだから!』
彼女は方々から舞い込む依頼を『アイテム』に伝える、いわば仲介人だった。
黒いニーソックスに覆われた足を組み直しながら、麦野は不審げに眉を
今回仲介人が持ってきた仕事の内容は『幻想御手のワクチンソフトを奪取または破壊すること』だ。
だが、引っかかる。
製造者である木山春生のことも含めて、暗部にも幻想御手の情報は伝わっていた。実際、幻想御手を使って学園都市に牙を向いた暗部の連中を、他ならぬ麦野がその手で粛清している。だからこそ、麦野はいっそう不可解だった。木山の行動は完全に学園都市への背信行為だ。そんな人物を手助けするような依頼内容を上層部が送ってくるだろうか? 疑問を抱くなというのが無理な話であった。
一体上は何を考えている?
直属の上司ともいえる人間に、しかし麦野は一片の敬意を払うこともせず言葉を吐き捨てる。
「はっ、上層部の暴走阻止も私達の仕事だったはずだよね?」
とにかく、こんなふざけた依頼を受ける気はさらさらない。
ちらりと見るに、他のメンバー達も麦野に同意見のようだった。
「結局、そんなわけの分からない面倒事はNGなのよね」
金髪碧眼に、女子高生らしからぬ幼げな印象(貧相なスタイルとも言う)の少女、フレンダ=セイヴェルンは気怠げにぼやいていた。
「幻想御手の開発者を捕らえろと言うならならともかく、わざわざそいつを手助けする意味が超理解できませんね」
やれやれと言わんばかりに首を振るのは絹旗最愛。茶髪をボブカットに整えた、見かけ十二歳ごろの少女だ。
「……助けてって、信号が来てる」
滝壺理后が言った。普段眠たげに細められた黒い瞳は鋭く開き、肩の辺りで切り揃えられた黒髪はゆらゆらと揺れているようにも見える。
彼女達の様子を見て、麦野は微かに笑みを浮かべた。
「はい決まり。二度とこんなふざけた依頼持ってこないでねー?」
『ちょ、ちょっと待ってよ! これは本当に上からの圧力が半端な』
「さっき言ったこともう忘れてんじゃないでしょうね。統括理事会だろうが他の暗部組織だろうが、とち狂ったら叩き潰す。それが私達『アイテム』でしょ」
声を遮り、寝言を吐くなとばかり、麦野は画面を思いきり睨み付ける。モニターから返ってきたのは沈黙だった。黒い清掃車の中、暗い空間に静寂が満ちる。それを了承と受け取り、麦野はこの話はもう終わりだと言わんばかりに他の依頼を催促しようとした。
直前だった。
『ふむ、私としては君が受けてくれるのが一番助かるのだが』
先ほどまでとは全く違う声が、暗い車内に響く。驚いた麦野達が視線を向けると、モニターには逆さまの『人間』が映っていた。
男とも女とも分からない端正な顔立ち。
足元までゆうに届きそうな長い銀髪。
緑色の手術衣。
得体の知れない液体に浮かび、逆さの『人間』は薄く笑って言う。
『ああ、こうして話すのは初めてか。初めまして、アレイスター=クロウリーだ』
名前を聞いた瞬間、麦野達の表情が固まった。
「ア、アレイスターって、もしかして統括理事長なわけ……?」
恐る恐ると言った様子で尋ねたのはフレンダだった。アレイスターは短く肯定を返す。
『そうだ』
「ひぇっ!?」
フレンダが引き攣った表情で声を上げた。思わず出たという類いの、意味をなさない音の波。
アレイスター=クロウリー。
学園都市都市統括理事長にして、世界最高の科学者。
想像もしていなかった怪物との邂逅に、フレンダは錯乱し、絹旗は警戒の色を見せていた。
が、麦野は特に気負った様子はなかった。
「で? その統括理事長サマが何の用なのかな」
「ちょ、麦野!?」
フレンダが慌てているが、それは無視する。敵意すら剥き出しにして、麦野は切り捨てるように言った。だが、アレイスターに不快げな色はない。くつくつと笑いながら挑発を返してくる。
『何、少しばかり簡単な仕事をこなしてもらおうと思っただけだ』
「へぇ……?」
声と違い、麦野の表情に興味の色はなかった。
おそらくは、先ほどの依頼を持ってきたのはこの男なのだろう。自分の統治する学園都市をわざわざ引っ掻き回す意味は分からないが、どちらにせよ、麦野の意見は変わらない。
興味もない。『アイテム』の行動指針にも合致しない。結論、一昨日来やがれ。
そんな表情の麦野に、アレイスターは構わず続けて、
『君達が辞退するならば、第二位に任せてみることも考えているのだが』
麦野の眉が跳ね上がる。
第二位『
少しだけ、興味が出てきた。
「あいつはあんたの寝首を掻こうと虎視眈々じゃなかったっけ。素直に言うことを聞くのかな?」
『だからこそ、だ。準備の整わない内はまだ、彼は従順だろうからな』
アレイスターに感情の動きは見られない。薄い笑いから大したものは読み取れない。
が、何となく麦野は馬鹿にされた気分になった。
画面の向こうから響く声の、お見通しとばかりの言い草に麦野が噛みつこうとしたところで、
「……りじちょうは本気なの?」
今まで押し黙っていた滝壺が、唐突に口を開いた。警戒していた絹旗の表情が虚を突かれたように歪み、フレンダの顔は真っ青になっている。
「た、滝壺さんまで突然何を!?」
「りりり理事長様に失礼ってわけよ!」
滝壺理后は物静かな少女だ。能力の関係か、しょっちゅう電波な発言を繰り返すという一面はあるが、基本的に彼女達『アイテム』の中では自己主張が少なめだった。
しかし、
慌てる絹旗達に見向きもせず、滝壺はモニターを睨んでいる。麦野すら、普段とは違うその様子に驚きを隠せていない。
アレイスターはそんな滝壺に愉快げな笑みを返して答えた。
『構わない。君達二人は学園都市にとってそれなりに重要な位置にいる』
麦野沈利と滝壺理后。本人達は知る由もないが、共に、アレイスターの謳う計画の『
知らないままに、しかし麦野は不敵に笑う。
「それって珍しい能力持ちって意味なのかな? あんた達ならいくらでも造れるでしょうに」
学園都市の得体の知れない技術に対する、彼女なりの皮肉だった。
しかし、響く声にそれを気にした様子はない。
『いや、これでも能力者を造るのは難しい。ほんの二十年ほど前は大能力者さえ稀で、無能力者が生徒の九割近くを占めていた。加えて、数少ない能力者を食い潰すような実験も行われていたからな』
昔語りをする老人のような語調だった。麦野は微かに興味を持って尋ねてみる。
「ふうん? それにしては今うじゃうじゃ居るみたいだけど」
『その内知ることもあるだろう』
取りつく島もないようだった。「つれないね」と麦野が素っ気ない返答に唇を尖らせたところで、
「それで、どうなの。りじちょう」
滝壺が鋭い声を飛ばした。
アレイスターは笑みを作る。薄暗い空間にぽっかりと空いた長方形から覗く深淵を、四人の少女達はそれぞれ違うことを考えながら見つめていた。
薄い笑みを保ったまま、アレイスターは煙に巻くような声で尋ね返す。
『どう、とは?』
聞いた滝壺の表情が歪むのを見て、麦野は思わず口笛を吹いていた。そんな二人を、絹旗とフレンダが固唾を飲んで見守っている。
滝壺の声は強かった。
「ワクチンソフトを壊して、それでどうするの」
『……ああ』
合点のいったように息を漏らし、アレイスターは言った。
『このAIM拡散力場の揺れは君には苦しかったか』
――『
歌うような声はやはり、微かな笑みを含んでいる。その声を聞いて、麦野は納得したように頷いた。
滝壺の『能力追跡』はAIM拡散力場――能力者達が無意識に発している力のフィールドのことだ――に干渉し、また干渉される能力だ。体晶と呼ばれる薬品のようなものによって能力を意図的に暴走させ、他者のAIMを記録して追跡したり、それを通して『
「……もう、暴走寸前」
苦しげに告げられた言葉の示すところは、わざわざ問うまでもない。
『……そうか、今回は予想以上に順調らしい』
薄く薄く笑った、静かな声。
ここでやっと、麦野にはアレイスターの抱く感情が垣間見えたような気がした。
歓喜と、高揚。
アレイスターのそれには少し興味があるが、それよりも優先することがある。
「答えになってないよ」
麦野は呆れて、ため息をつきながら米神に手をやった。
やっと興味が出てきたところなのだ。自分の箱庭をわざわざ引っくり返そうとする理由、聞かせてもらおうじゃないか。
そんな麦野の期待に、アレイスターは応えなかった。
『ただの実験だ。君達が気にするようなことではない』
画面の向こう、逆さまの『人間』に悪びれた気配はない。どうやらコイツ、『アイテム』の仕事を履き違えているのではないか? 自分達の仕事は『上層部』の暴走阻止なのだから、依頼が暴走でない根拠を示してもらわなければどうしようもないのだが。
麦野は半分痴呆の老人を見るような目をモニターに向けて、気づく。
いや、違う。私達『如き』に事情を説明する気などさらさらないと、そういうことか?
――見くびるなクソ野郎
麦野の端正な顔立ちに青筋が浮かんだ。普段通りの口調を保っているのが半ば奇跡のような心境で警告を発する。
「何にせよイカれてるのに変わりはないね。死んどく?」
『それは困るな。君にはまだ死んでもらうわけにはいかない』
呆けたような表情のあと、麦野の表情が音を立てて歪むのを見て、フレンダと絹旗は震え上がった。口元を左右に引き裂くように、麦野は獰猛に笑っている。愉悦などではない。怒りから来る笑いだった。
要するに、この男は麦野など物の数ではないと言っているのだ。神経を逆撫でるには十分な事実だった。
口調ががらりと変わるのを自覚する。
「おいコラ、宇宙の塵にしてやろうか?」
『早めにそこまでできるようになってくれると助かる』
できの悪い生徒に苦笑する教師のような雰囲気に、麦野の我慢は限界に達した。荒々しく立ち上がりながら、
「よし殺す」
「だぁー! 麦野それは超マズイですから!」
「そうだよ麦野! 理事長様に逆らったら私達生きていけないってわけよ!」
「んなことはどうでもいいんだよッ!! この私をこけにしやがったんだ、一〇〇回ぶち殺される覚悟はできてんだろうなァ!!」
「大丈夫、りじちょうをぶち殺す麦野を私も応援している。殺っちゃえ」
「滝壺さん超煽らないで!」
本気の殺意を撒き散らす麦野、冷たい視線の滝壺、蜂の巣をつついたような慌てっぷりの絹旗とフレンダ。アレイスターは自覚なしに漫才を繰り広げる四人にため息をついて言った。
『それでは、依頼の時間と場所についてだが』
「舐めてんのかテメエ!! 受けねえっつっただろ!!」
絹旗に羽交い締めにされながらも、怒り狂った麦野が大きく吼える。
それでも、アレイスターは笑みを崩さない。薄く笑いながら切り札を投入した。
『
「は?」
麦野の体が石像のように固まった。アレイスターは平坦な口調で続ける。
『やはり、元第三位としては現第三位のことが気にかかるのか』
言葉はもう耳に入らなかった。たった一つの単語が麦野の思考を支配していた。
超電磁砲が、どうしてここで出てくる? アレは暗部とは何の関わりもなかったはずだろう。
疑問を浮かべる麦野の表情に、あれほど燃え盛っていた殺意はもうない。冷や水を浴びせられた気分だった。
麦野は荒れた口調を元通りにして言う。
「別に。
『そうか』
見透かしたような逆さまの笑いが麦野沈利は気に入らない。誤魔化すように先を促した。
アレイスターは薄く笑って口を開く。
『幻想御手事件と仮称する一連の出来事。第三位と第五位がその解決に動いている』
「第五位も? 闇を知らない小娘達が血気盛んなことだね」
『それで君はどうする』
声に、麦野は射抜くような視線を返した。
「二つ、誤魔化さずに答えなさい」
『質問によるが』
「一つ。私達がワクチンソフトを壊したとして、あんたはどう収拾をつけるのか」
『どうもしない。ワクチンソフトが壊されようがそうでなかろうが、結末にそれほどの違いはない』
簡単に言うが、それだけで麦野達を納得させられるはずがない。
特に、麦野の視界の端、滝壺の目付きがどんどん鋭くなっていった。
「根拠は?」
そんな状況を分かっているのかどうか、アレイスターは言った。
『それが二つ目の質問か』
「そうだと言ったら?」
『答える気はない』
麦野は思わず舌打ちしていた。まともに取り合う気はないらしい。
「じゃあ二つ目。実験て何よ」
『世界を引き裂く暴れ馬。手綱は早めに掌握するに越したことはないだろう』
「……は?」
意味が分からない。もしかしてコイツ、質問の内容を聞き間違えたとか?
あり得ないとは思いつつ、麦野は馬鹿にするような表情で言った。
「……耳付いてる?」
『君こそ、言葉の裏をもう少し吟味してはどうだ』
さっき以上に本気で殺したくなった。回線焼き切ってやろうか。
顔中に青筋を浮かべながら、麦野は暫く考え込んでいたが、
「……何? 幻想御手のネットワークからAIM拡散力場の制御でもしちゃうわけ?」
暗部に公開された情報からでは、その程度の推論が関の山だった。アレイスターの表情に変化はない。
『少し違うな。あのネットワークは繋がれた者達の負の感情でいつ暴走してもおかしくない状態だ。とても制御には使えない』
つまらなさげな声だった。
「じゃあ何よ」
『自分で推測するのもたまには悪くないだろう?』
「ふーん……分かったわ。質問終わり」
『それで、どうする?』
確信を持った声に苛立ちながらも、麦野に躊躇いはなかった。アレイスターの言うことは信用しきるには足りないが、優先順位が変わったのだ。
「いいよ、受けてやろうじゃない」
「むぎの」
滝壺の非難するような視線をさらりと無視して、麦野は真剣な表情で続けた。
「ただし、さっき言ったことに間違いがあったらぶち殺すから」
『期待している、第四位』
そこで映像は途切れた。モニターには再び『NO IMAGE』の文字が並び、スピーカーから女性の慌てた声が聞こえてくる。
『あっれーっ? おっかしいわね、もしもし、こら、じゃじゃ馬娘共返事しなさいよーッ!』
「誰がじゃじゃ馬だ」
『やっと繋がった!? こいつらときたら、もしかしてわざと回線切ったわけじゃないでしょうねッ!』
「違うよ。文句なら上に言って」
説明も何もかもが足りていない適当な返事だった。その証拠に、画面の向こうで首を傾げる気配を感じる。
『? それで、依頼の件なんだけど……』
「受ける」
『こいつときたらッ! てあれ? 受けるの!?』
「ああ、情報はケータイに送っといて」
『やけに素直ね?』
「お前の声はなるべく聞きたくないからね」
『こいつときたらッ! いつか罰が当たるわよ。っていうか――』
真っ白い極光と同時、焼けるような音が車内に響く。今度こそ、麦野は回線を物理的に切断していた。「うわー、ついやっちゃったよ」と、じゅうじゅうと煙の立ち込める中、麦野はうんざりしたような顔になって、
「むぎの」
咎めるような声だった。振り向けば、滝壺が半目になって麦野を睨み付けている。
「滝壺!? 真っ二つになっちゃうって!」
「そうですよ! 超落ち着いてください!」
面白いくらい慌てる絹旗とフレンダに、麦野は内心で笑っていた。
目の前の滝壺は、そんな二人を気にすることなく真っ直ぐ麦野を見つめている。普段の彼女からは考えられない目で尋ねてくる。
自分の恐ろしさを彼女が知らないはずがない。この第四位の作り出す拡散力場をもっとも長い間感じ続けてきた少女なのだから。この強い視線の裏、怯えは確実に存在する。
麦野は考える。自分には善悪の基準なんて分からないしどうでもいいが、やっぱりこの少女は善人だ。昏睡状態に陥った人間達の助けを求める声を聞いて、それを見捨てられない程度には。
面識もない誰かのために、もっともよく知る脅威に立ち向かえる程度には、滝壺理后は善人だった。
「むぎの、どうして?」
だが。
滝壺の意図も想いも全部理解して、麦野はそれを完全に切り捨てた。
「あら? 別にいいんじゃない。結果的には元通りになるらしいし」
「根拠は聞けてない。それで元に戻らなかったらどうするの」
酷薄な笑みを浮かべる自分を自覚して、しかし取り繕おうとも思わなかった。
「別に。そしたら暴走したってことで、あの逆さま理事長を消せばいいんじゃないかな」
滝壺が目を見開いた。息を飲む音がここまで伝わってくる。
「……本気なんだね」
本気で彼等を見捨てる気なのか。
そう問われても、麦野の表情にさしたる変化はなかった。
「悪いけどさ、私にとって大切なのは出来損ないの能力者でも、ましてや無能力者でもないのね。あの得体の知れない理事長がある程度保証したんだし、私としては興味のある方に行きたいわけだ」
麦野沈利は想う。引き裂くように笑う。
御坂美琴。超電磁砲。学園都市第三位。
「でもっ」
「くどいよ滝壺」
麦野の笑顔からは凄まじい威圧が吹き出している。殺意すら混じるそれに肩を跳ね上げ、滝壺は根負けした。いや、もとより麦野を止めることなんて不可能なのだ。滝壺にできることといえば、玉砕覚悟で説得を試みることだけだった。それすらも、下手を打てば命の危険を孕んでいる。
「……分かった」
とりあえずは麦野とあの怪物を信じることにしたらしい。いや、信じざるを得ないのか。
「滝壺」
自分でも惚れ惚れするくらいの『悪い』笑みを浮かべているだろうな、と思いながら麦野は言う。
「嫌なら来なくてもいいよ。あんたの体晶を使うほどでもないだろうしね」
滝壺は首を横に振って、
「最後まで見ないと、りじちょうの言ったことが本当か分からないから」
そこで会話は途絶えた。
黒い清掃車の車内で、滝壺はうずくまって耳を塞ぎ、絹旗はそんな滝壺と麦野を交互に見て、フレンダは爆弾を弄っている。その三人を気に留めることもなく、麦野は頬杖をつきながら物思いに耽っていた。
考えるのは第三位と、ついでに第五位のこと。共に電子を操る能力者だ。
電撃使いである超電磁砲を『電子を操る規模に特化している』とするなら、対する心理掌握は『電子を操る精密性に特化している』と言える。両者の差異は表面上は大きい。だが、その本質に大した違いはない。超電磁砲に脳構造の知識があれば簡単な洗脳くらいはこなしてみせるだろうし、そこらの電撃を逸らすくらいなら心理掌握にも可能だろう。
異質なのは、自分だ。
学園都市第四位。
『
『電子を変質させることに特化した』能力者。あるいは、電子の本質を引き出す能力者か。
光と影。表と裏。日常と暗部。現第三位と元第三位。
御坂美琴と、麦野沈利。
ぶちぶちと、引き裂くように笑った。
(第三位……表にいるはずのアンタがどうしてわざわざ裏に触れるのか、確かめさせてもらうから)
裏で暗躍するのは悪党の特権だ。甘いお子様が触れていいものではない。お前のような
獰猛に笑い、麦野は強く拳を握った。
15巻を読み直して思ったこと
「あれ? 麦野さん普段と浜面追っかけモードとでキャラ違いすぎじゃね?」
クールでさっぱりした印象からいきなりバーサーカーとは、流石超能力者と言ったところですか……! だがそこがいい。巨乳だし。巨乳だし!(大事なことなので二回言いました)
さて、禁書本編で麦のんとミコっちゃんって会話してたかな? 作/者のいまいちな記憶力じゃそこらへんがあやふやです。
今回もキャラ崩壊と捏造設定のオンパレード、このお話のアレイスターさんはやけに人間くさくなっちまいました。黒幕感が全然出ない(泣)
……なんか今回は後書き諸々含め書きたいことがいまいちまとまってませんね。
よーしここは唐突な次回予告(適当)!!
次回、原子崩しVS守護神 ―花飾りの少女は友達の幻想を守り抜けるのか?―
乞うご期待(大嘘)!!