美琴VS木山先生。……うん、原作まんまですね。
今回、この対戦カードのままどこまで魅力的なものを書けるかということがこの不肖和菓子に求められていたわけなんですが。
無茶しやがって……なーんて感じでどこぞのヤムチャみたいになっちまったぞおらワクワクするなぁちくしょう!
戦闘メインか心理メインかのどっちつかずになっちゃったのが拙かったのかなぁ……?
圧倒的な力に、
警備員の持つ銃器が味方に向けて弾丸を吐き出した。風の砲弾が道路を抉り、辺りにコンクリートの破片を散らす。警備員のパトカーが念動力らしき力に押し潰されて、粘土細工か何かのようにひしゃげていった。
「勝てる、わけがねえ……」
呟いたのは誰だったか。そんなこともはっきりと分からないくらい、警備員達は混乱の坩堝に落とされている。
高速道路のガードレールは突き破られ、路面は乾いた荒野の如く滅茶苦茶に砕かれていた。その上、パトカーや警備ロボット、警備員達が壊れた玩具のように転がっている。
そこに、木山春生は立っていた。
一種の地獄絵図のようだった。死者が出ていないのが不思議なくらい、その光景は圧倒的だった。
ふわりと、装甲車が木の葉のように宙に浮かび、そのまま路面に叩きつけられる。冗談のような光景の直後、爆音と共に瓦礫が跳ね上がった。合わせて強い風が吹き、木山のくすんだ栗毛を揺らす。煙の中、白衣が死神のマントのようにはためいた。
クスリと、木山の口角が上がる。
ほとんど同時に、背後から空気を裂いたような異音が響いた。空間移動特有の鋭い音だ。
ゆっくりと振り返り、言う。
「来ると思っていたよ、御坂美琴……学園都市に七人しかいない
視線の先、御坂美琴と白井黒子が正面から木山を睨んでいた。剣呑な様子の二人に、木山は軽口めいた皮肉を投げる。
「見上げたものだ。奇襲をしようと思えばいくらでもできただろうに」
「今すぐ始めるわけにはいかないでしょ」
美琴は敵意を剥き出しながらも、判断は決して間違えない。傍らの黒子に向かって言った。
「黒子。初春さんと警備員の人達を避難させて。このままだと巻き込んじゃうから」
一瞬黒子は逡巡の気配を発する。しかし、辺りの惨状を見渡せば迷っている暇はなかった。
「……分かりましたの。それが終われば助太刀いたします!」
「早くしないと終わらせちゃうわよ?」
気遣う声に、美琴は冗談のような口調で言葉を返す。黒子は虚を突かれたような顔になった。しかし、すぐに表情を笑みに変える。
「ご武運を」
柔らかく笑い、黒子は空間を裂いて消えた。
さて、と、美琴は仕切り直すように言って、木山に向き直る。
「というわけだから、場所、変えてもいいわよね?」
「ああ」
瞬間、風が吹いた。
美琴は道路を飛び下り、磁力を使って橋脚に張りつく。そのまま壁を滑り落ちるように着地した。同時に木山が空間移動で姿を現す。
「空間移動……この分だと
「正確には
「どっちでも良いわよそんなこと。厄介なのは変わらないしね」
愚痴るような声とは裏腹、美琴は獰猛に笑っていた。木山が不敵な笑みを返す。上の道路が太陽の光を遮り、高架下に薄い影を作っている。舗装されていない灰色の地面を踏みしめて、木山は試すような声色で問う。
「流石の君も私のような相手と戦ったことはあるまい。君に、一万の脳を統べる私を止められるかな?」
対して、美琴の答えは単純だった。
「止められるかな、ですって? できるとかできないとかじゃない」
負けられないから、負けない。
勝たなければならないから、勝つ。
どこまでも単純な、子供の理屈。
それでも。
決意と同時、御坂美琴は走り出す。
「絶対に止める!!」
「止まるわけには、いかないな!」
向かってくる美琴に対して、木山は勢いよく片手を突き出すのみだった。が、瞬間、重力操作か念動力か、乾いた音と共に美琴の足下が陥没する。不意を突かれた体が傾いた。
「っち!」
崩れたバランスを咄嗟に立て直しながら、右腕を振って電撃を放つ。もちろん美琴に木山を死なせる意図はない。この攻撃も気絶させる程度に威力を抑えられている。
青白い電光が真っ直ぐに宙を走った。
木山との距離は数メートル。速さでは光速の雷撃の槍に遠く及ばないただの電撃でも必中には十分過ぎる距離だ。電光は反応すら許さず木山を無力化する……はずだった。
雷はしかし、木山を避けるように軌道を曲げ、受け流される。美琴の表情が楽しげに歪んだ。
「『誘電力場』を作ったってわけ?」
「その、通りだよ!」
返答は言葉だけではない。突き出された右腕が風を纏っていった。それを中心に風は吹き荒れ、大気は大蛇のようにのたくり、美琴の自由を奪っていく。巻き上がる突風に煽られて堪らずたたらを踏んだ、そのときだった。
間髪入れず、炸裂。衝撃波が灰色の煙を巻き上げた。瓦礫の散らばる高架下、美琴の居た辺りを濃い煙が覆っている。
大気を瞬間的に圧縮し解放したのだが、威力は十分なようだった。
だが、
「……まだ、か」
煙の奥を見透かそうと、木山が注意深く目を細める。この程度で倒れてくれる相手であるはずがない。そんな、ある意味での信頼からくる警戒だった。
(ああ、本当に厄介だ)
超能力者というものは、別格なのだ。大能力者の頂点でさえ超能力者との力の差は大人と子供。そんな怪物を相手にしているのだから、気を弛ませるなどできるはずがない。
何より、あの強い瞳を見たあとに、油断など微塵も残っていなかった。
身構える。
少しだけ、灰煙が揺らいだ。
――来る。
警戒が頂点に達したその瞬間、示しあわせたように、幾筋もの電撃が煙から飛び出て宙を舐める。
蒼く、白く、そして強く輝く、電光。空中に線を描き出し、火花と共に弾けて消えていく。
そして、美琴は灰色の煙を切り裂くように現れた。体から雷を迸らせ、木山へと一直線に突き進む。
「誘電力場が邪魔なら、直接電流を流せば良いだけの話よね!」
数メートルの距離をたったの〇・五秒で踏み潰して、美琴は木山へと右腕を伸ばす。電気を纏った右手が木山の腕を掴もうと迫ってくる。
「く……!」
表情を焦りに染めつつも、木山は空間移動で美琴の背後へと移動した。ほっと息を吐いてから、感嘆混じりの言葉を贈る。
「速いな……」
「あんたもね」
漏電したコンセントのように火花を散らして、美琴はゆっくりと振り返った。改めて
つい今しがたのテレポート、通常ではあり得ない。
空間移動とは、十一次元空間を経由することで幅・奥行き・高さの三要素で構成される通常の三次元空間の制約を無視した動きができる能力だ。しかし、三次元から十一次元への特殊変換を計算することは脳の演算負荷が大きい。故に、発動に時間がかかり、痛みや動揺などで集中力が乱れると簡単に使用不能になるという大きな弱点も存在する。
そこまで考えて、美琴は大きく顔をしかめる。余りの規格外に閉口していた。
木山は表情を焦りに歪めながらも完璧な空間移動を披露してみせた。演算を外部に任せているからなのか、膨大な演算処理能力にものを言わせたのかまでは分からない。しかし、どちらでも手強いことには変わりなかった。
(幻想御手のネットワークか。思ったよりずっと厄介な代物のようね)
流石に『
再認識して、身構えた。やはり面倒な相手だ、と美琴は思う。それは木山も同じだったのか、対峙する彼女は大きく息を吐いた。
「これならどうかな?」
直後、橙の炎が伸びてきた。木山の手のひらから吹き出す炎の放射に、美琴は磁力を操って盾を作り出すことで対処する。蜘蛛の糸のように伸びた細い電糸が鉄塊を引き寄せ、ぶつかった金属同士が耳障りな音を立てた。
灼熱が鉄の盾とぶつかった。ジリジリと、熱で炙られる嫌な感触が首筋を舐めていく。炎が止むころには地面に黒く焦げた線が走っていた。
「熱っついわね……! 傷に響いたらどうしてくれんのよ」
怪訝に手のひらを見つめる木山に向かって、盾から顔を覗かせた美琴が言う。即席の盾は表面が軽く溶けていた。馬鹿げた火力に木山は自分でも驚いた様子だ。
「予想以上の出力だが、それだけに扱いが難しいな」
見たところ、大能力者の上位と言ってもおかしくはない力。より集められた一つ一つの能力が、一万人のネットワークによって恐るべきものへ変貌を遂げている。しかも、本当に警戒すべきはその手札の多さだ。美琴の能力は応用性に長けているが、それでも、本当の意味で複数の能力を扱う木山には敵うべくもない。
大能力をポンポン手品みたいに出してくるなんて何の悪夢だ。と、浮かんだ感想に美琴は思わず苦笑した。
確かに厄介だ。
だが、それが何だ?
「で、
対峙する木山へと、美琴は鋭い声で詰問する。
ふざけるな。
例えどんな力が手に入るとしても、こんな手段をとって良い理由には決してならないだろう。
理論上実現不可能? 研究者の夢? SYSTEMへの第一歩?
それがどうした。
そんな下らないもののために、能力者達を犠牲にしたのか?
佐天涙子を、踏みにじったのか?
だとしたら、もう一度言ってやる。
「ふざけてんじゃないわよ」
そんなちっぽけな力、踏み潰してやる。
強い瞳で、美琴はそう宣言した。言葉には出さない。ただ、苛烈なまでの意志が、深い茶の瞳の中でらんらんと輝いていた。
それを受けて、木山の表情は変わらない。静かに言う。
「これはただの副産物に過ぎない。本命は別にある」
ネットワークは目的でなく、手段に過ぎないと。
返された言葉に、美琴はつまらなさげに鼻を鳴らした。
「――そう。何を考えてるのかは知らないけど、止めるから」
鉄の盾が分解され、複数の鉄塊となって飛来する。木山は眉一つ動かさなかった。
「言っただろ、止まるわけにはいかないんだ」
言いながら、エネルギーの剣を形成し、それらを薙ぎ払う。眩しい光に呑み込まれ、鉄の塊は跡形もなく消えた。それを確認してから、木山は美琴へと視線を戻す。
直後、後ろから黒い波が迫ってきた。
「中々強かなお嬢様だ」
予想外であるはずの不意打ちに、木山はそれでも表情を変えることはしない。空間移動を使い、あっさりと美琴の背後に退避する。
美琴は訝しげに目を細めて、けれどすぐに得心のいった表情になった。
同系統の能力を使う彼女だからこそ分かる。これはおそらく電磁レーダーだ。幻想御手のネットワークには
一瞬で結論づけた美琴に、獲物を見失った砂鉄の波が崩れる音を聞きながら、木山は聞き分けのない子供に言い聞かせるような調子で言った。
「私はある事柄について調べたいだけなんだ。それが終われば全員解放する。罪も償う」
それを聞いて、美琴の瞳は揺らがない。
「そんなのは大前提よ。罪の意識を自覚するのは最前提。たくさんの人を犠牲にしたって分かってんなら、今すぐ止まるべきだと思うけど?」
「だとしたら、なおさらここでは止まれないな。ここで止まれば今までの全てが水泡に帰してしまう」
木山の視線も揺らがない。
もう、戻れないところまで来てしまった。今さら揺らぐことなんてできやしない。
目の前に少女が言うことは理解できる。全く以てその通りだ。
――どんな綺麗事を並べても、私のしたことは正当化できるはずもない。被害者達の一人一人に頭を下げたって、償いきれるはずもない。
彼等の純粋な心を利用した自分は、図らずも最も憎むべき人物と同じようになった。
しかし、譲れないものがある。
どんなに強大な敵が立ちはだかっても、止まるわけにはいかないのだから。
――一度踏み出したんだ。泥の中に沈もうと、諦めるわけにはいかない。
木山は真っ直ぐに美琴を見つめていた。
「だから、私は止まれない」
「止めるっつってんでしょ!」
美琴の前髪から火花が弾け飛んだ。宙を電撃が疾駆する。
「しかし、君に私が止められるか? 電磁レーダーで不意打ちも効かない。正攻法も、手加減した攻撃では何の効果もないぞ」
「っ!」
真正面から迫り来る青い電光を散らして、木山は美琴の瞳を見据える。
美琴は舌打ちしていた。確かに現状は芳しくない。搦め手は事前に察知される上、唯一勝っている高出力も、加減している今は何の役にも立たない。しかも、木山は美琴が全力を出せないことを看過していた。
歯噛みする美琴へ向け、木山は出し抜けに強い声で言った。
「君達が日常的に受けている能力開発。あれが安全で人道的な物だとでも思っているのか?」
「は?」
「学園都市は『能力』に関する重大な何かを隠している。それを知らずに、この街の教師達は一八〇万人にも及ぶ学生達の脳を日々『開発』しているんだ。それがどんなに危険なことか、分かるだろう?」
「なかなか面白い話じゃない。あんたを止めてからゆっくり、調べさせてもらうわよっ!」
幾条もの砂鉄の鞭が木山へと向かっていった。先ほどの砂鉄の波と比べてずいぶん速い、対処の暇も与えないと、そういうことか。
(だが……)
木山が視線を地面に向ける。たったそれだけで、隆起した大地が盾となって砂鉄の鞭を阻んだ。
「調べる、か。それも良いだろう。君が関わっているものも少なくはないしな」
「……何ですって?」
「この街は君が思っているよりずっと闇に染まっている。超能力者なんて素材を放っておくと思うか?」
「調べる理由が、また増えたわね」
「ここから無事に帰れたらの話だがね」
軽く腕を振り、近くのゴミ箱をふわりと浮かせた。そこに入っていた大量のアルミ缶を美琴の頭上へと降らせる。ぶちまけられ宙に散らばるそれら全てが、不気味に歪んでひしゃげていた。
「!! アンタ……!」
美琴は目を見開いた。
思い出すのは虚空爆破事件。アルミを使った重力子加速によって爆弾を生成していた介旅初弥のことだ。美琴に決して軽くはない傷を負わせた、いや、負わせているあの能力。
友達を守りきることができなかった。
超能力者なんて持て囃されておきながら、いざというとき他人を助けてみせることもできなかったのだ。肉体も、精神も、受けた傷は決して軽くはないし、いまだに癒えてもいない。
それを前にして、しかし。
「こんなもん、全部吹っ飛ばす!!」
美琴は、獰猛に笑う。
それがどうしたと、その程度でやられてなるものか、もう二度と不覚を取ってたまるかと、御坂美琴は不敵に笑う。二番煎じの小細工など通用しない。あのときと違い、爆発までには十分な余裕もあった。
電撃を散らす。
放たれた電光は、できの悪いシューティングゲームのようにあっさりと爆弾を撃墜していった。アルミ缶が次々と破裂し、辺りに小気味のいい音を響かせる。木山は思わず感心していた。
(凄いな。ま、出力が段違いな以上、正攻法で勝てないのは分かりきったことだが)
だが、単純な力の大小で勝負が決まるわけではない。
美琴は得意気に前を向いて、
「どんなもんよ! もうおしまいかし――」
刹那、遅れて空間移動されたアルミ缶が彼女の背後に出現した。
爆発。弾けるような音と共に黒煙が立ち上る。完全な不意討ち、これならばいかな超能力者といえどもただではすむまい。
「超能力者。一万人の力を借りて辛勝か、恐ろしいな」
誰にともなく、呟いた。終始美琴を圧倒していたように見える彼女のその言葉は、単なる余裕か、いつ喉笛を食いちぎられてもおかしくない緊張感から来るものか。
風を吹かせて黒煙を散らす。美琴はやはり倒れていた。傷が開いたのか、ところどころ制服に血が滲んでいる。
「恨んでもらって、構わんよ」
木山は微かに表情を曇らせる。何かを振り切るかのように目を逸らし、美琴から背を向けた。荒れ果てた瓦礫の上を数歩歩いて、
電光が木山を避けるように飛んでいった。
「電磁レーダーで不意打ちを察知して防御、そのあとに高速の電撃で不意打ちか。確かにそれなら反応が間に合わないかもしれないが、それは私が誘電力場を解除していた場合の話。電磁レーダーなら私も使っていたんだ、防がれた可能性を失念するはずがないだろう」
「っはぁ……ぐ、くそ」
「息が上がっているな、無理もない。その怪我ではさっきのをまともに防御するだけでもかなり堪えるんじゃないか」
満身創痍、それが今の美琴だった。常は汚れなど微塵もない制服はところどころが破け、露になった包帯は紅く染まっている。息も絶え絶えで、今に倒れてもおかしくない。この状態なら本来の出力の十分の一も出せるかすら怪しいように思える。その程度なら防ぎ切ることも容易い。
もう、勝ち目なんてないはずだ。
だが、美琴はそれでも立っていた。
「君は何故諦めない? 軽くはない傷でここにやって来て、私を殺さないように能力にも枷をつけて。分が悪いのは分かりきっていただろうに」
初春も、美琴も。あまりに眩しくて、直視できなくなる。木山は思わず聞いていた。
「――したから」
辛そうに息を吐きながら、美琴は小さく言った。
「助けるって、約束、したから。友達、だから」
そうだ。約束した。佐天涙子を助けると。自分は他ならない彼女に、そして自分自身に、誓った。
だから、諦められるものか。
一万人も、大切な友達も、絶対に助けるんだ。
きっと、アンタ達なら同じことを言うに決まってる。
ねえ、そうでしょう? ――。
大きく息を吸う。
「友達が友達を諦めるなんて、できない!!」
青い光が迸った。
自身を鼓舞するような激しい電撃だった。空を駆け上がり、細い光の柱を作る。それを見て、木山は表情を怪訝に歪めていた。
「無駄が多すぎる。やぶれかぶれの特攻か?」
何にせよ、
向かってくるその一部を展開した誘電力場で逸らしながら、木山は右腕を美琴へ伸ばす。ゆっくりと、風が腕の周りを回っていく。作り出した風の弾丸を美琴に放とうと、視線を向け直したときだった。
紫電を纏って、雷の砲弾と化した美琴が真っ直ぐに突っ込んでくる。
やはり速い。電気で身体能力を底上げしているのか。
「これで終わりだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」
「そうだな」
衝突の直前、木山の姿はもうそこになかった。
「ただし、止まるのは君の方だ」
「っな……!」
美琴の背後に立ち、右腕の風を思い切りぶつけようと振りかぶる。
「空間移動だろうが何だろうが、今の私に能力の併用など簡単なことだよ」
ほんの少し、少女の顔を絶望に染めることに後ろめたさを感じながらも、木山は止めをさそうとした。例え美琴と初春がどんなに正しかろうと、自分が間違っていようと、絶対に、止まれない。迷いはもうない。ほんの一片の躊躇いすら、今の自分にはないはずだ。
そして、時を切り取った刹那の中で、確かに見た。
美琴が力強く笑っているのを。
希望を信じる強い瞳を。
(な、んだ……? どうしてそんな目をしていられる)
木山の疑問をよそに、美琴は叫ぶ。
いや、呼びかける。
「黒子ぉ!!」
予想外の言葉に、一瞬木山は美琴が何を言ったのか分からなかった。けれど、すぐに気づく。思い出す。
――彼女達は、決して独りではなかった。
確証はない。けれど、美琴は確信していた。こんなとき、自分の可愛い後輩がどんな行動に出るか。
きっと手助けしてくれる。応えてくれる。
そうでしょう? 黒子。
「お姉様!」
背後に人間らしき物体が出現したのを感じ取って、木山は反射的に振り向いていた。
(さっきの電撃は目印か!)
首筋を狙った手刀を紙一重で躱し、風の弾丸を黒子めがけて発射する。着弾の直前、黒子は空間移動で掻き消えた。舌打ちしかけたところで、
「捕まえた」
腰に腕が回されていた。
「な――」
あり得ない。電磁レーダーは解いていないはずだ。疑問を透かしたように、美琴は驚愕する木山へと説明した。
「これでも最高位の電撃使いよ。私一人分レーダーを誤魔化すくらいならできるわ」
疲労を滲ませながらも、獰猛に笑う。この程度怪我のうちにも入らないと、そう言外に語っていた。
さて、と、美琴は話題を戻す。
「ゼロ距離からの電撃、右手を掴んでたせいであの
「……ああ、どうやら、詰みだな」
その言葉にほんの少し、美琴は力を弛めた。
けれど。
「だが、言っただろう。止まるわけにはいかない。学園都市の闇、その中で、想像もできない凄惨な目に遭ってしまった子供達もいる、私はその子達を助けたいんだ」
コンクリートから飛び出た鉄筋を操作し、美琴を貫こうと伸ばす。
悪あがきとの自覚はあった。けれど、諦めたくはなかった。
そして、そんなあがきはいとも容易く蹴散らされた。流動する砂鉄に切り裂かれ、輪切りになった鉄筋が灰色の地面に転がる。
美琴の気配は静かだった。揺らがずに、木山の想いを受け止めた。
「アンタにはアンタなりの正義が、譲れないものがあったってわけか」
だからこそ、美琴も真っ直ぐに木山の目を見て、自分の本心をそのまま告げる。
「でも、私にもソレはある。どんな理由があろうと、あれだけの人を巻き込んで、あれだけの人の心を弄んだアンタを、見過ごすわけにはいかない!」
こんな方法じゃなければ、いくらでも協力する。だから、と美琴は続けた。木山を捕まえた腕に力が入る。
「やめ――」
「とりあえず止まっときなさい!!」
電光が、木山の体を這っていった。
「――――――ッ!!」
微かに煙を上げ、木山の体がくずおれる。
「一応、手加減はしといたから」
美琴がそれを支え、ほっと一息。体を走る痛みに眉根を寄せる。
「お姉様、お体の方は大丈夫なんですの? その、大分酷いお怪我を……」
大丈夫だと、心配そうな黒子にそう返した。それを強がりと知りつつ、黒子は目立った反論をしてはこない。
そんな黒子に、美琴はそっと微笑んだ。顔を見合わせて、穏やかに笑う。
「さっきはありがとね」
「当然のことをしたまでですの」
瓦礫の散らばる高架下、青白い雷の欠片が空中を舞った。
二人はほっと息をつく。やっと終わった。これで、あとは木山から幻想御手使用者の意識を回復させる手段を聞き出すだけだ。
テレポートで避難させていた警備員と連絡を取る黒子を視界の端に映して、美琴は何となく空を見上げた。急に痛みだす体に内心うんざりしつつも、雲一つない晴れた空に満足げな笑みを作る。
アイツらの出番なかったなー、と、美琴は弛んだ頭でぼんやりと考えていた。
瞬間。
『せんせー!』
「え?」
何故だか、脳裏に知らない子供達の映像が浮かぶ。
「お姉様、どうかなさいましたの?」
電光が一筋、宙を舐めた。
「これは……木山春生の、記憶? 私と木山の間に電気を介した回線が繋がった……?」
記憶の中で、一人の少女が笑う。
髪をカチューシャで留めておでこを出した、小学生くらいの女の子。
彼女は無邪気な、本当に無垢な笑顔を浮かべ、楽しげに呼びかけた。
『せんせい』
「お姉様!?」叫ぶ黒子の声は遠かった。
美琴の意識が沈む。
記憶の世界へ。
少女の笑顔に、引き込まれるように。
呼ばれた、気がした。
『木山せんせい!』
燃える展開が書きたかった。反省はしているが後悔はしていない。次こそは皆様をイノケンティウスにぶち込めるよう努力していきたい(などと供述しており、被告に更生の兆しは見られません)。
燃える展開と言えばジャンプですよね! 作者は単行本派なんで本誌はあまり見ないんですけど、今連載してる中では黒子のバスケやワンピースが好きです。今はどこまで進んでるんだろ? ネタバレの誘惑に負けそうで困ります。かと言って毎回買うお金もないですしね、くっそ!
取り乱しましたゴメンナサイ。では、今回もこのお話にお付き合い下さりありがとうございました!