エタったと思ったそこのアナタ! 私もそう思ってました。
遅れてすみません、クライマックス近くなのにこれはどうよ……
文章も構成もその他諸々も、いまいちアレなんですよね。
っと、失礼しました。正直間が空きすぎでどんな話かも分からないかもしれませんが(ホントすみません)、お楽しみくだされば作者にとって無上の喜びです。
「だから、どんなことをしてでもあの子達を助けたかった」
木山は言った。
力なく震える足が、灰色の地面を踏みしめていた。
彼女の立つ高架下は、爆発に抉れ、炎に焼かれ、瓦礫も散らばっている。
そこには三つの人影があった。
その一人である美琴は、驚きに呆然と目を見開いている。先ほど見た木山の記憶、凄惨なそれに、脳の処理が追いついていなかった。
一方、黒子は状況を掴めないことに不安を見せていた。彼女は空間移動能力者である。木山の記憶を見ることはなかったのだ。
――そして。
木山は、静かに笑っている。
美琴との戦闘で荒れ果てた地面を、俯いたまま見つめていた。
闘いの決着そのままの格好だった。
腰にはまだ、美琴の両腕が回されていた。その腕に込められた力は、もはや木山を拘束できるほどではなかった。
唐突に、木山が言う。
静かな声だった。
「どうだった、私の記憶は。全部見たんだろう。それでもまだ、君は私の邪魔をするのか」
問いかけと言うよりは、確認に近い響きだ。同情を誘う意図ではなく、きっぱりと決別を示すための言葉だ。
揺れる美琴に、その言葉は酷なものであった。 彼女が予想していたよりずっと、この街の闇は深かった。どこまでも残酷で、狂っていた。
――ふざけるな。
そう叫びたくなるほど、美琴は憤っていた。
しかし、だからと言って、木山のしたことが正当化されるはずはない。黒子が不審げな表情になる隣で、美琴は静かに両目を瞑った。
木山は、先ほどの記憶を見て、それでなお自分の邪魔をするのかと、そう美琴へ訊いた。
ならば。
「ええ」
僅かな
「君達と私はよく似ているよ。眠り続ける大切な人を目覚めさせたい、そう願っているはずだった」
木山は言った。
そのあと、一瞬、噛み締めるような静寂があった。
「……滑稽だな、他の誰でもない私自身が、こんな状況を作り出すなんて」
美琴の腕を力なく振り払う。危なげに体を揺らしながらも、木山はかろうじて地面を足で踏んでいた。
「あの子達を助けたいだけだった」
美琴達に背中を向けたまま、ほとんど呟くように、言う。
「あの実験は、表向きではAIM拡散力場を制御する実験とされていた。が、実際は暴走能力の法則解析用誘爆実験だ」
途切れ途切れのか細い声からは、明らかな苦渋が感じとれた。
「AIM拡散力場を刺激して暴走の条件を知るのが、本当の目的だったと言うわけさ」
振り返り、美琴の目を見つめた。一転、皮肉げな笑みは消えて、代わりに悔しそうな表情を浮かべていた。
独白は続く。
「暴走は意図的に仕組まれていたんだ。もっとも、気付いたのはあとになってからだが」
悔恨と怒りと自責と、そんな負の感情を滲ませた言葉だった。
くすんだ茶髪を振り乱して、木山は叫ぶ。
「あの子達は一度も目覚めることなく今なお眠り続けている。私達はあの子達を使い捨てのモルモットにしたんだ!」
慟哭。
強い視線だった。
美琴の電撃を受けてなお、木山の目から光は消えていない。まるでこっちが悪役じゃないかと、美琴は何となくばつの悪い気持ちになる。
けれど。
「悪いわね。こんな方法を認めるわけにはいかないのよ」
木山の記憶を見て、そこに残る想いを感じて、美琴はそう決断した。
美琴の懸念が正しければ――。
視線をぶつけ合う二人。その片方に、黒子はおそるおそる尋ねる。
「そんな事があったなら、
私達に知らせれば――。そう続けようとした黒子の声は、途中で遮られる。
木山の答えは簡潔だった。
「二十三回」
「は……?」
「あの子達の回復手段を探るため、そして事故の原因を究明するシミュレーションを行うため、
黒子の目が、大きく見開かれた。木山は続けて、怒りを絞り出すように言う。
「統轄理事会がグルなんだ! そんなものが動くわけがない!」
「……それが、この街の闇ってわけ?」
美琴が言った。
少し聞いただけならば、気軽なようにも思える声だった。
「こんなものではないさ」
溢れた怒りを無理やり押し込めた声。
二人のやり取りには、圧し殺された激情が暴れていた。
「君はまだ、何も分かってはいない」
美琴の眉が僅かに跳ねた。
――アレは、この街の闇の、ほんの一端でしかない。
そう、木山は言外に語った。
「私は間違った」
ふらりと、幽鬼のように体を揺らしながら、呟く。白衣のあちこちは煤け、電撃で焼け焦げ、もはや立っていられるような状態とは思えなかった。
しかし、倒れない。強烈な意志が彼女を支えていた。
「だが!」
叫ぶ。透明な滴が宙に散った。
「あの子達を救うためなら私は何だってする! この街の全てを敵に回しても、止めるわけにはいかないんだ!」
間違っていることなんて分かりきっている。
自分のしたことを正当化しようなんて思うはずがない。
それでも、ここで止まることなんて、絶対に、あり得ない。
震える体を揺らして、崩れそうな肉体を凌駕して、心がそう叫ぶのだ。
『子供達を助けたい』。そう叫んでやまないのだ。
だから、全てを分かっていて、それでも木山は慟哭する。
――瞬間、異変は訪れた。
胎動する。
糸が切れたように、木山の体が崩れ落ち、瓦礫の上に転がった。
それと呼応するように、辺りの空気が変わった。大気が振動した。
上から押さえつけられるような、凄まじい圧迫感を感じた。
美琴と黒子は、頭を押さえて呻く木山に駆け寄ろうとして――。
二人は硬直した。
にゅるりと、木山の頭部から半透明の液体らしきものが這い出てきたからだ。
自身の体から滲み出る異形を見て、木山は苦しげな表情で言う。
「ネットワークの、暴走!? いや、これは、外部からの虚数学区への干渉――」
言葉はそこで途切れた。意識を失ったのだ。
宿主に構わず、その液体らしき何かは、段々と形状を変えていく。
球体から、長い尾やエラのようなものを備えた形へ。そこからさらに、魚類のような形、両生類のような形、爬虫類、哺乳類へと。
まるで、生物の進化の過程をなぞっているようだった。
――胎児。
咄嗟に美琴の浮かべた言葉がそれだ。
だが、進化はそこに留まらない。
胎児の背中から、無数の、薄く光る触手が伸びてきた。それらが孔雀の羽のように広がり、周囲に淡い光の瞬きを散らす。
まるで『翼』だ。
変化はまだ続いていた。
胎児の頭上、すう、と、見えないラインをなぞるように、何もない虚空から『光輪』が現れた。木山と胎児を繋いでいた、へその緒のようなものが、音もなく空間へ溶けていく。
半透明だった胎児の巨躯が、僅かに青白く、濁ったように色づいた。
いや、訂正しよう。胎児ではない。
――天使。
美琴達の眼前に浮かぶ怪物は、確かにその特徴を備えていた。
ぎょろり。
と、天使の眼が抉じ開けられた。巨大で不気味な赤い眼球が、まるでそこだけ別の生き物のように激しく蠢く。
その眼は美琴を映してはいない。黒子も、木山も、天使の眼中にはない。
何かを捉えた。
「gjamtjpamtapッッ!!」
理解不能の咆哮を、上げた。
一瞬で、その周囲に氷柱が複数形成された。全長は約三メートル。先端が鋭利に尖っている。
氷の槍とでも言うべきものだった。
美琴の表情が歪む。
(
前髪から火花を散らし、重心を下げ、美琴は襲いくる氷の槍に備えた。黒子は、目を合わせるまでもなく、意識を失った木山を退避させるため空間を跳躍していた。
そして、巨大な氷柱は放たれた。
――ただし。
それは美琴達に向けたものではない。黒子が退避させた、負傷している警備員達へのものでもない。美琴たちからすればまるで見当違い、明後日の方向だった。
宙を貫く氷の槍は、高架を挟んだ向こう側のタクシーへと向かっていた。
(っやば!)
美琴は直感する。頼りない鉄の塊には、風見百合花と食蜂操祈が乗っている、と。
――そう、最大級の警鐘が脳内で鳴っていた。
美琴は慌ててそちらを向いた。
途端、体がじくりと痛む。いく筋、脚を赤い血が伝っていた。
(間に合わない……!)
標準をつける時間が足りない。一歩間違えば、美琴の雷撃が彼女達に当たってしまうこともありうる。
躊躇いは、
(くそっ!)
刹那、破砕音が炸裂した。
◆
風の刃が氷の槍を切り裂いた。
「何あれ」
くだけ散る氷の槍を見つめながら、百合花は目を丸くしていた。
その黒い瞳に、異様な『天使』が映っている。
傍らで食蜂がにたりと笑んだ。望遠鏡のように丸めた左手の奥で、瞳に映る星が楽しげに瞬く。
「あらあらあらあら、面白いのが出てきたわねえ」
適当な調子で言った。
タクシーから降りる彼女達に、今度は瓦礫が飛んできた。人の頭ほどあるそれが、複数。
飛来するコンクリートの
くい、と、手の甲が空気を押し出す。
扇ぐような動きだった。
微かに肌が感じ取れる程度の、そんな小さな風しか起こせない、ゆっくりとした動きのはずであった。
――烈風が吹いた。
大気の壁が灰色の瓦礫を押し戻し、辺りに砂ぼこりを巻き上げた。
百合花は、もうもうと立ち込める煙を鋭く見つめる。
呟いた。
「うん、やっぱり
「映像を見た限り御坂さんはもう限界みたいだけど、あなた一人で大丈夫う?」
間延びした声で食蜂が言う。呑気に腕を組んでいた。
百合花が尋ねる。
「その前に聞きたいんだけど、あれは――」
言葉は最後まで出なかった。
舞い上がった砂煙を突き破って、天使が百合花達へと突っ込んできたからだ。
百合花は咄嗟に右腕を振る。少し乱暴な動きだった。
天使の巨体が、強烈な逆風に押し返される。柔らかい躯が高架の橋脚にぶつかる音を聞きながら、百合花はもう一度問う。
「あれって、AIM拡散力場の集合体?」
「幻想御手の原理を考えるなら、そうでしょうねぇ」
眉唾だけどお、と付け加える。自身の長い金髪をいじりながら、食蜂は泰然と言った。
そっか、と、百合花は短く頷いた。
次の攻撃がやって来たのは、それとほとんど同時であった。
感じたのは、敵意。
天使の背中から伸びる『翼』の数本、それらが宙を切り裂いて百合花へと迫ってくる。その淡い光の筋は、例えようのない威圧感を放っていた。
直感する。
おそらく、天使の本体を構成するものと比べ、より純度の高いAIMの塊だ。
そこだけ、まるで質が違った。子供の工作に本職の職人が後付けしたような、そんな違和感が肌を突き刺していた。
百合花は舌打ちした。
(本体はともかく、あの触手みたいなのに物理攻撃は通るかな? どうも何かおかしいな)
思案しながら、駆ける。
(私を狙ってるみたいだから、防御できないならとりあえず操祈達から離れた方がいいか)
光の線が追ってくる。
速さはそれほどでもなかった。音速や雷速、光速などといった大仰なものではない。
けれど、百合花の走る速度よりは速い。逃げの一手で稼げたのは十数メートルほどだ。
背中を撃ち抜こうと走り抜ける翼を、百合花はほとんど倒れこむように回避する。連続して襲うそれを、彼女は勢いよく横に転がって躱した。
高架の脇に伸びる道路、そこに光の筋が容赦なく突き刺さった。
殺意すら感じる光景だった。
(よく分からないけど、何故かあれの攻撃は私に集中してる。美琴の負担を軽くするなら好都合だけど……!)
体を跳ね上げるように立ち上がりながら、百合花は叫ぶ。
「操祈、演算補助をお願い!」
「はいはい、分かったわよお」
タクシーに腰かけながら、食蜂は気楽な様子で視線を百合花へと向ける。
精神感応の回線が繋がった。
テレパスによる演算の同調、本来ならば複数の方式を併用してなされるそれを、『
繋がった回路を自覚して、百合花は前を向いた。
「jgdwtadwッッ!!」
――その眼前。
胎児のような体に光の翼を携え、頭上に光輪を戴いた天使が座していた。
瓦礫の中から飛び出し、百合花の前に迫り来て、その天使は咆哮を叩きつける。
敵意を込めつつも、どこか苦しげな叫びだった。聞いて、百合花は少し目を細める。
右手を向けつつ、ぼやいた。
「一対一は望むところなんだけど……。私の『制御』、やっぱり通用しないみたいだね」
――と。
『解析力から始めましょうかあ?』
食蜂の声が脳裏に響く。
『攻めてみるのはどう?』
百合花は腕を一閃した。薄く伸ばされた大気の刃が、『翼』を含め、天使の体を真一文字に切り裂いた。
だが。
ぐじゅり、と。内臓を掻き回したような不快な音と共に、それらは再生する。
鋭く目を細めた。
「むう。通ったはいいけどほとんど無駄か」
とりあえず、『翼』へ風で干渉することはできるらしい。それは収穫だった。
けれど、別の不安要素が出てきた。
「jdtapgntaッ!!」
天使は咆哮する。殺意はいや増すばかりだ。
しかも、叫びと呼応するように、天使はその姿を変えた。
赤い眼と胴体が小さくなる。手足が延びる。より人間の赤ん坊へ近い姿へと、その天使は変貌する。
『ふぇっ!?』
動揺の声を上げたのは、何故か食蜂であった。その声を別な風に解釈して、百合花はテレパスで言う。
『再生されちゃったら、こっちのスタミナが保たないんだけど』
苦渋が滲んでいた。
そこで、天使に動きがあった。
全長十メートルほどの氷の槍、それを一本形成し、百合花の細い体へと放つ。
対して、百合花は軽く息を吐く。
吐息は、旋回する風の槍となって、飛来する氷の塊を砕く。
薄片が散らばり、太陽の光で煌めいた。
『……解析を急ぎましょう』
食蜂は、先ほどとうってかわった、真剣な気配を滲ませていた。
百合花は頷く。
『うん、そのための演算補助だしね』
『それまでは』
『何とか凌ぐよ。それより、操祈は美琴達と合流してちょうだい。ワクチンソフトがあるならそっちのが早いから』
『……それもそうねえ』
『あと、演算補助も少しは切っていいから。そっちでも操祈の能力を使うかもしれないし』
『御坂さんが私の能力使用を認めるとは思えないんだけどぉ』
『大丈夫』
力強い言葉だった。
『ならいいけどねぇ』
そこで会話は途絶えた。
タクシーが走り出すのを視界の端に捉えて、百合花は場違いに笑ってしまう。
百合花達と美琴達のいる場所は、せいぜい百メートルほどしか離れていないのだ。途中の障害物を考えれば、常人は走った方が早いはずだ。
普段と違い、笑っても、食蜂から怒ったような気配は伝わってこない。何故かは知らないが、余裕をなくしているらしい。
百合花は何となくそう思った。
「さて」
区切りの言葉を、あえて声に出す。
「jmapma殺taw強ga制……!」
ネットワークの怪物へ向かい、言葉をかける。
「どうして私を狙うのかは分からないけど、こっちにも闘う理由はある」
わずかに腰を下げた。重心を落とし、脚に力を溜めていく。
「あなたを倒さないと佐天さんは目覚めないし、他の子達も起きられない。街も壊れるし、常盤台にも被害が出るかもしれない」
ふと、天使から視線を外す。
美琴達との距離は、約百メートル。百合花と天使の戦いを詳細に見るには、少しばかり遠い位置だった。
視線を戻す。
だから、と言葉を続けた。
目の前に居るのは作り物の天使だ。天使の特徴を備えていても、決して本物に届くことはない。一万人のネットワークから生まれて、そして、おそらくはすぐにでも消えていくであろう――消されるであろう――歪んだ怪物。
その怪物に、百合花は言葉をかける。
少しだけ、湿った声だった。
「――ごめんね。本当にごめんなさい。あなたには、消えてもらわなくちゃならないの」
限界まで、脚に力を込めた。
その、次の瞬間だった。
「ちょっとだけ、本気出すから」
「ajpmwdp殺jawpdtaッッ!!」
光と風がぶつかった。
◆
百メートルほど離れた場所、天使の姿は何とか見えていた。生まれた当初と比べ、いくぶんか小さく、より洗練された形状だ。
食蜂は軽く息を荒げていた。
それは、単なる疲労から来るものではない。
(何なのよあれ。あそこまで進んでたなんて聞いてないわよぅ)
普段余裕の笑みを浮かべた顔は、少し赤い。疲労もあるだろうが、怒りが多くを占めていた。
転がった瓦礫を、苛立たしげに蹴り飛ばした。
「――――ッ!」
爪先を鈍い痛みが走り抜ける。悶絶した。
「何やってんのよアンタ」
大きめの瓦礫に腰かけた美琴は、そんな食蜂に呆れた表情を見せる。瓦礫は人の腰ほどまでの高さで、座り込んだ美琴の足は地面に届いていなかった。
ぶらぶらと宙を揺れる両足から、赤い血がいく筋も流れ出していた。灰色の地面が赤く染まっていく。
黒子は、意識を失って横たわる木山の介抱をしていた。初めは美琴を優先しようとしたのだが、一喝されてやめた。そもそも、美琴の傷を手当てできるほどの物資がない。包帯も、ガーゼもない。黒子の鞄には金属矢の束が入っているのみだった。
そのせいだろうか。
乱雑に置かれた鞄の横、木山を介抱する黒子の背中はどこか悔しげであった。
そんな少女達を見ながら、食蜂は平静をつかみなおそうとした。
「別にぃ。ちょこっと嫌ぁなことがあってねぇ」
「奇遇ね。私もよ」
体を走る痛みをおくびにも出さず、美琴は笑っていた。
鋭い笑みだった。
「あれ、どうやって止める?」
「さてねぇ。そこの先生にワクチンソフトの場所を聞きたいんだけど、のびちゃってるから」
木山へ視線を投げながら、食蜂は薄く笑う。やっと調子が戻ってきたらしい。
けれど、薄い笑みの中から、張りつめた弦のような真剣さが滲んでいた。その食蜂の横顔を見て、美琴は驚いた顔になった。
「まぁ。時間もないことだし、無理やり起こしてもいいんだけどねぇ」
その前に、と前置きして、食蜂は美琴へと歩み寄る。
「その見苦しいの、何とかしないと駄目よぉ」
美琴の着ている、血の滲んだ制服を見ながら、食蜂は言った。
「へ?」
呆ける美琴を気に留めず、食蜂は持っていたバッグを開いた。金色を基調として星の模様が敷き詰められた、やや小振りのバッグだった。
その中から適当にリモコンを放り投げる。
「ちょっと、アンタそれないと能力使えないんじゃ――」
「うるさい。こんな玩具今はどうでもいいのよぉ。なくてもある程度なら問題ないわぁ。――まさか、成長してるのが自分だけだとか思ってない?」
バッグを漁りながら、視線を向けずに言う。美琴の返事を待たずに、食蜂は包帯やガーゼ、止血スプレーなどを取り出した。無遠慮に美琴の服をめくり、スプレーを吹きかけ、ガーゼを当てて、包帯を巻いていく。
流れるような動きだった。
美琴は舌を巻いていた。
「アンタってこんなことできたっけ?」
「私らしくない、とでも? あらぁ、あなたとそこまで親しくなった記憶力はないんだゾ」
不審げな様子の美琴に、食蜂は軽口を叩いて返す。
「はい終わりぃ」
言ってから、木山の方へと向き直る。つかつかと歩いていって、腹を思いっきり蹴った。
「ちょ――」
美琴と黒子が叫びかけたが、食蜂は構わない。
「悪いけどぉ、こんなことでいちいち能力使ってられないのよねぇ」
もう一度、脚を薙いだ。
呻き声を上げながら、木山がゆっくりと目を開く。
「私は……?」
「起きたぁ? ちょっと大変なことになってるから教えてもらいたいことがあるんだけど」
食蜂は矢継ぎ早に言う。
「幻想御手のワクチンソフト、どこにあるのかしらぁ」
突然の質問に木山は困惑した表情を見せるが、食蜂が指を指した先を見て顔色が変わった。
彼女の視線の先、天使の巨体と暴風がぶつかっていた。
「あれは……!!」
顔を蒼くする木山に、食蜂は何の気遣いも見せない。
「そういうのはいいから、早くワクチンソフトの在りかを教えてちょうだい」
「……初春飾利、彼女に渡した」
動揺を押し殺して、木山は静かに言う。食蜂は強く頷いた。
美琴達の方へと視線を向ける。
「ご案内しますの」
黒子が頷く。
「――いいえ」
けれど、食蜂は首を横に振った。
「あんまりここから離れるわけにはいかないのよぉ。あなただけで行ってちょうだい」
御坂さんもまだ使えるしねぇ、と食蜂は言う。
黒子の目が鋭くなった。
「それは聞き捨てなりませんの。お姉様はもう限界ですわ」
美琴へと視線を向ける。
一応の手当てをしたはといえ、包帯にはそれでも赤が滲んでいた。
息も荒い。限界は近かった。
それでも、美琴は言う。
「黒子、ありがとね」
短い、拒絶の言葉だった。
「お姉様……」
「私も残ろう」
木山が言う。静かな表情だった。
「いい心がけよぉ」
食蜂は冷たく言い放つ。薄い笑みが唇に浮かんでいた。
「さって、とお」
地面からリモコンを拾い上げて、食蜂は薄く笑う。余裕はもう戻っていた。
「始めましょうかあ」
リモコンを黒子へと向けて、食蜂は唇の端を釣り上げた。
薄い笑みはもう、酷薄なものに変わっていた。
今日超電磁砲二期のラストを見たんですけど……
何故か『仲良しレベル5』という言葉が浮かびました。いや実際は違うんですけどね、タブン。
えーと、あれだ。拙作でやりたかったこと先にやられちゃった感じだ。
けれど妙に嬉しいです。これが食蜂さんの心理掌握なのか……!
あ、場面転換の仕様を気まぐれにチェンジしてみました。こっちの方がわかり易いでしょうか?