とある魔術と超能力者   作:和菓子

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むぎのんはギャグ担当。異論は認めます。





1‐22.協力 Level_Fives

 

 

 

 崩落寸前の高速道路で、麦野沈利と御坂美琴は睨み合っていた。

 辺りに転がっていた警備員の装甲車は、麦野の『原子崩し』によって破壊――消滅し、道路にぽかりと空いた大穴に成り果てている。

 人影は、二つだけ。

 後ろに控えていた『アイテム』の三人は、今は麦野の指示でワクチンソフトを追っている。

「――ところで第三位。やりあう前に一つ聞いておきたいんだけど」

 そこら中に罅が広がる足場を踏みしめながら、麦野が徐ろに口を開く。

「何よ?」

 時間稼ぎかと訝しみつつも、美琴は応じた。ワクチンソフトを持つのが初春である以上、時間稼ぎはむしろこちらにとって好都合だったからだ。

 一方、短い返答から、麦野は美琴が既に戦闘態勢に入っていると判断した。が、どうやらそれだけではないらしいと分かる。やや荒い呼吸に加え、血の滲んだ衣服が、美琴の不調を雄弁に語っていた。

 麦野は不思議そうに首を傾げ、言う。

「アンタ、さっきのヤツらと違って風紀委員でも何でもないよね。そんなにボロボロになってまで、どうしてこんな真っ黒い事件に首突っこんだの?」

 木山とのやりとりを思い出し、美琴は黙りこんだ。沈黙を何も知らない証拠だと思ったのだろう、麦野はわざとらしく呻き、ため息をつく。

「私ら『アイテム』っていうんだけどさ。簡単に言えば学園都市上層部の雑用係みたいなもんなのね。で、その私らが幻想御手の存在を知ったのは今から二週間も前。つまり、この街の上層部はそれより前から知ってたってことになる。その間、この街は大した対応策も取らなかった。犯人が分からないにしても、『昏睡のリスクがあるから使うな』程度の警告は発して然るべきにも関わらずだよ」

 ていうか、わざわざ揉み消してる節もあるしね。と、強ばっていく美琴の顔をつまらなさげに一瞥して、麦野は結論を述べた。

「初めはパニックを恐れたのかと思ったんだけど、あの化け物を見て確信した。上のやつら、これを待ってたんだ」

 生物兵器でも造るつもりなのかなと、麦野は心底退屈そうに締めくくり、美琴の顔を再び睨む。

「要するに、アンタも私も上層部の駒に過ぎないってわけ。腹立つけどね。で、もう一度聞くけど、アンタはどうしてわざわざ駒になりに来たの?」

 麦野の話は美琴にはにわかに信じられないことばかりだったが、先ほどの木山の叫びを聞いては、眉唾だと一蹴することも難しかった。何より、美琴自身の直感が、背筋を走る悪寒が、麦野沈利の話が真実だと告げていた。この一連の騒動は、木山の願いは、すべて誰かの手の上で好き勝手に操られていたのだ。

 腸が煮えくり返る思いがした。

 だが。

 麦野沈利の言葉が真実だと仮定して、

「関係、ないのよ」

 御坂美琴は、躊躇わなかった。

「……今、なんて?」

「駒だとか、上層部だとか、関係ないのよ。友達を助ける。そのために私はここに立ってるんだから」

「ふーん」

 その真っ直ぐな目が、麦野はひたすら気に食わない。理不尽な怒りが体に満ちていく。

「……まっさかここまで甘ちゃんだったとはな―。うーん、第一位も第二位も気に食わないけど、やっぱアンタは格別に苛つく」

 そう言って、小さく笑った、その瞬間。

 麦野の雰囲気が、がらりと変わった。

 軽く腕を振るえば、拳大の光の球が複数、蛍のように宙に浮かんだ。美琴が身構える。

「――ぶち、殺す!!」

 怒号と同時、不吉な純白の光線が解き放たれた。研ぎ澄まされた力が一直線に美琴へ向かう。

「悪いけどさ、いつまでもオバサンの相手してるわけにはいかないのよ!」

 一刻も早く麦野を倒して、皆を、佐天を、百合花を助ける。美琴はただそれだけを考えていた。

 向かってくる不吉な光を、巻き取るように腕に絡み付かせ、一気に振り抜く。

 『原子崩し』が麦野沈利に牙を向いた。

「それがどうしたァ!!」

 牙を返した白い光は、しかし麦野に命中する直前、溶けるように消えていった。

 制御権は原子崩しに近い方が優先されるらしい。どちらにせよ、このままでは確実に長引く。

 認識して、しかし麦野は気にも留めなかった。

「じゃあこれはどうかなァ!?」

 もう一度、光の球が出現した。

「何よ。何も変わってないじゃ――」

 言い切る前に、拳ほどだった光球が爆発的に膨張した。大きさは、美琴が一抱えしてもなお足りないほど。首筋にちりちりとした感覚が走るのを、美琴は確かに感じた。

 そして、解放。

 光線と言うより、横倒しになった光の柱とでも表現すべきものだった。圧倒的な力の奔流が荒々しく迫る。先ほどのような洗練されたスマートさはないが、どこまでも馬鹿げた力の塊だった。

 正面から見れば円形の壁にも見えるそれを、美琴は全力で押さえこむ。

 傷を負った体に鞭をうって、極大の光線を何とか弾き飛ばす。極大の原子崩しが上空へと逸らされたのを眺めて、麦野はつまらなさげに鼻を鳴らした。

「一応、全力で射ったヤツが乗っ取られることはないか」

「それがどうしたってのよ、全力が防がれたわりにずいぶん冷静じゃない」

 今度はこちらの番、雷撃の槍を放つ。

 が、円状に展開された原子崩しの盾で防がれる。

「おらどうした!? こんなもんかよ『超電磁砲』!!」

 お返しとばかり、原子崩しが三本放たれた。

 放たれた白光は、極大には及ばないものの太い蛇のような軌跡を描き、美琴を貫かんと疾駆する。

 美琴は両手をかざし原子崩しを掌握。麦野めがけて嗾ける。麦野は右手をかざしてこれを掌握し直した。

 先ほどの焼き増しのような光景ができあがる。

「テメェこそ内心震えてんじゃねえのか!? このまま続けたって万に一つも勝ち目なんかねえってなァ!!」

 白光の蛇を右腕に纏わりつかせながら、麦野が吼える。

 返事をせず、美琴は大きく深呼吸をして、浅く腰を落とした。

 麦野の言う通り、このまま力比べを続ければ必ず負ける。単純な攻撃力と防御力で負けている上、美琴は木山との戦闘やそれ以前の騒動で負傷・疲弊している。ただ、小回りとスピードなら、美琴の方が上だ。

 ならば、速さで攪乱し、搦め手を打つしかない。

 全身に紫電を纏い、疾駆する。

 鬱陶しげに原子崩しの盾を展開する麦野を攪乱するように、その周囲を駆け回り、電撃を放つ。

 狙いは、接近してからの直接放電。これならば、軌道を逸らされることも、盾に防がれることもない。

 しかし――

 速さは美琴が勝っているものの、接近戦での原子崩しは脅威だ。美琴と麦野とでは、当然、原子崩しにおける支配力は麦野が勝る。よっておそらくではあるが、接近戦での原子崩しによる直接攻撃を美琴は防げない可能性がある。

 つまり接近戦は、スタミナで劣り、さらには遠距離戦におけるアドバンテージを持たない美琴にとって唯一の勝機であると同時、即死の危険を孕む死地でもあった。

 故に、攻めあぐねる。

 牽制に電撃を放つばかりで、美琴は麦野に中々近づけないでいた。時折思い出したように磁力で瓦礫をぶつけにかかるが、それも原子崩しの盾の前にほとんど意味がない。

 対する麦野も、自分が速度で劣ることを自覚して牽制の原子崩しと盾の展開に終始し、自分から美琴に近づこうとはしない。麦野からしてみれば、こうして美琴が動き続けるだけで自分の勝利が近づいてくるのだ。ワクチンソフトにあまり興味がない彼女にとって、長期戦はむしろ望むところだった。

 電撃。

 盾。

 原子崩し。

 回避。

 電撃。

 逸らされる。

 繰り返されるやり取りに、焦りばかりが募っていく。

 まだ三分も経っていない筈なのに、美琴はもう何時間もこうして闘っているような感覚に囚われていた。

 ――そして。

 繰り返される焼き増しの闘いに、堪えきれず駆け出した。

 背後からの、強襲。

「はっ、バカがっ!!」

 麦野はそれを予期していたかのように振り向き、迎撃の構えを見せる。

 その右肩から生えた、第三の腕。原子崩しのアーム。

 獲物をその間合いに捉えるまで、残り五メートル、四メートル、三メートル……

 ぴたりと、美琴の動きが止まった。

 膝をつく。

 ――ガス欠!

 麦野はこのチャンスを逃さない。アームの間合いには遠いと見るや、極大の光球を出現させ、美琴に止めをさそうとする。

 今の美琴にこれを防ぐ余力はない。そう考えての、全力の一撃。

 発射。

 放たれた白い光は全てを消し去り、瞬く間に美琴を呑みこむ。

 

 はずだった。

 

「なん……だと……」 

「残念、だったわね」

 白い光に呑みこまれる寸前、美琴は獰猛に笑った。両腕を突き出し、迫り来る原子崩しを全力で抑えこむ。

 原子崩しを押しとどめる美琴に、麦野は舌打ちをこぼした。

「テメェ……さっきのは演技かよ」

 呟くと同時、疑問が浮かび上がる。

 だが、何のために?

 次の瞬間、疑問は驚愕に変わった。

 原子崩しが、逸らされる。

 足元へ。

 極太の光線を撃ちこまれ、高架はついに崩壊した。

 崩落する瓦礫に紛れ、美琴は姿を消す。

 どこへ!?

 動揺は一瞬。

 麦野は思考を切り替え、着地の衝撃に備えるため原子崩しを展開する。

 それを下方に発射しようとして――気がついた。

 空中に放り出された状態で、着地のために原子崩しを放つ、この瞬間。

 御坂美琴が狙っていたのは、まさにこれだったのだと。

 その考えを裏付けるように、美琴は磁力を使って瓦礫から瓦礫へと移動し、麦野の背後に回り、今まさにその腕を掴もうとしていた。

 起死回生の一手を探すも、徒労に終わる。

 腸が、煮えくり返った。

 ――くそっ。くそっ。くそっ!

「このクソガキがあぁぁぁぁぁッッ!!」

 叫ぶ。

 そして、紫電は閃き。

 その直後、麦野の鳩尾に百合花が直撃した。

 

「ごふっ」

 

 

 

 

 

 天使の光翼に吹き飛ばされ、何かにぶつかった。百合花が理解できたのはそこまでだった。

 麦野と百合花、空中でぶつかった二人は斜めに落下し、そのまま高架下に墜落した。

「痛ったぁ……」

 強かに打ちつけた体をさすりながら、涙目で呻く。能力を使い、ぶつかった何か(麦野)をクッションにした百合花だったが、咄嗟のことだったため落下の衝撃までは殺しきれなかった。

「百合花、大丈夫!?」

「うん、なんとかね……」

 慌てて駆け寄ってくる美琴を見れば、常盤台の制服はあちこちが擦り切れて、所々赤が滲んでいた。酷いありさまだったが、きっと自分も似たようなものなのだろうと思い直し、苦笑する。

(それにしても、まいったな。まさかここまで化物だったなんて)

 先ほど百合花が確認した、天使の変貌。

 胎児から赤子へ。

 そして、赤子から大人へ。

 正体不明の特異因子に触れたことがキーだったのか、その変貌は劇的で、容赦がなかった。

 百合花は始終防戦一方。戦況はじり貧だった。

 速いし、痛い。

 だが、全く攻撃ができないわけではないし、通らないわけでもない。防げないわけではない。

 ただ、再生する。それこそ無限に。『解析』が通じればその再生力も封じられたはずだが、特異因子によってエラーが起こってしまう状況では、それもできない。あとはワクチンソフトを頼りにするしかない。

 しかし、そのワクチンソフトが流れるまでもつかどうか、それがわからない。

 百合花は弱音を吐きかけて――やめた。

 美琴の瞳を見る。強い光を宿す、ブラウンの瞳を。

 そうすれば、ほら、真っ直ぐな視線が返ってくる。

 ぶれないなあと、百合花は小さく笑った。

「美琴」

 名前を呼ぶ。

「なに?」

 美琴が応える。声には確信があった。

 その確信に応えるように、百合花は右腕を持ち上げ、ゆっくりとこちらへ歩いてくる異形の怪物――『天使』を、指さす。

 そっと、目を伏せた。

「ごめん。怪我してるのは分かってる。……でも、手伝ってほしい」

 そんな百合花に、美琴は小さく笑いかける。

「バカ、もともと私の獲物よ」

 ――と。

 そこで、百合花の足もとがもぞもぞと動き、

「いつまで踏んでんだコラァ!!」

 ――爆発した。

「うわっ」

 バランスを崩した百合花が倒れこみ、美琴にもたれかかる。

 その背後、栗色の長髪を怒りにくねらせ、復活した麦野がすごい目で美琴を睨んでいた。

「第三位ぃ!! まだ勝負はついてねえぞ!!」

 麦野の視線を美琴は鬱陶しげに受け、間に挟まれた百合花は目を白黒させていた。

「……あー、百合花? ちょっと待っててね。今邪魔なオバサンをどっかやっちゃうから」

「いや、ちょっと待って。あれどうしたの?」

 今この場に学園都市第四位がいることに戸惑いながら、百合花は聞いた。すると、美琴は困ったように目をそらす。

「うーん、説明しづらいんだけど……なんか絡まれた」

「なるほど」

 美琴に御執心の第四位ならさもありなん。大方あの化け物関連の任務中に遭遇したのだろう。状況が状況なので、百合花は深く考えるのをやめた。

「よし、手伝ってもらおう」

「え」

「話つけてくるね」

 そう言って、目をまるくする美琴をよそに、麦野を引っ張って柱の側まで歩いていく。

「……アンタ、誰?」

 麦野は腕をとられてはじめて百合花に気がついたといわんばかりの態度だったが、数秒百合花を見つめたあと、冷たい口調で聞いた。美琴と離れていくらか平静を取り戻したのか、意外に静かな口調。その視線には、少しの警戒と強い興味が浮いていた。百合花は知るよしもないが、麦野が美琴と戦う直前、『アイテム』の滝壺理后が、超能力者に匹敵するAIM拡散力場の持ち主として百合花と『天使』を挙げている。それ故の警戒と、興味だった。

そんな麦野の視線を受け、百合花は、

「はじめまして第四位。私は風見百合花。さっき貴方にぶつかった挙句クッションにした者です」

「ぶち殺し確定ね」

「まあまあ落ち着いて」

 わりとふざけていた。ちらりと天使に目をやれば、彼我の距離はいまだ数百メートル。天使は、まるでこちらに絶望を植え付けようとするかのように、ゆっくりとこちらへ歩いてくる。進化して遊びを覚えたのだろうかと百合花は思った。殺意の使い方を覚えた者は、厄介だ。やはり、戦力は多いほうがいい。

 麦野沈利。満身創痍の百合花達の中でおそらく一番動けるのは彼女だ。

 だから、どんな切り札を切ってでも、手に入れる。

「――私と、取引しませんか?」

 覚悟を決め、徐ろに言う。そろりと、懐から銃を引き抜くような緊張感が二人の間に漂う。

 麦野の目が、すっと細まった。

「……取引?」

「はい。あの化け物を倒すのに協力してほしいんです」

「それで、私にどんなメリットがあるの?」

 今だ。百合花は意を決して、自身の持つ最高の切り札を投入した。

 麦野の耳もとに口を近づけ、囁く。

「『極秘候補(シークレットプラン)』の能力と正体。これでどうです?」

 麦野の目が、大きく見開かれた。

「お前、暗部なの?」

「似たようなものです」

 美琴に聞こえないように小さく、答えた。

 麦野の警戒は一転、同業者に対する殺意へと、変わる。

 しかし、それはあくまで一瞬だった。

「そのネタ、本当だろうね」

「もちろん。第四位に嘘はつきませんよ」

 そして、沈黙――

「しゃーないね。今回だけだよ」

 麦野は舌打ちともに懐から端末を取り出し、乱雑に操作した。

 短い呼び出し音の後、小さな少女の声が端末から聞こえた。

「絹旗? ちょっと予定が変わった。ワクチンソフトはもうほっときなさい。あと、私ここに残るから先帰ってていいよ」

 一方的に言い捨てて、通話を切る。

「これでいいんだよね。で、協力って具体的に何すればいいの?」

「あ、それ私も気になってた」

 麦野がそう言った時、ひょこりと、美琴が百合花の背後から顔を出す。場の雰囲気が少し険しくなった。

「あ?」

「なによ」

「こら、喧嘩しないでよ」

 同じ質問をした美琴達が睨みあい、百合花が苦笑する。

 その瞬間だった。

「それは、私から、説明するわあっ」

 ぜいぜいと息を切らし、今にも倒れそうな食蜂操祈が、瓦礫の上に立っていた。

 その後ろから木山春生がひょこりと顔を出す。

「げ、食蜂」

「あれ、木山先生まで来たんだ」

「ふうん、第五位まで出てきちゃったか」

 思わぬ人物達の登場に、百合花達は思い思いの反応を返す。なけなしの猛ダッシュですっかり上がってしまった息を整えるのもそこそこに、食蜂は作戦を話し始めた。

「やらなくちゃいけないのは、ワクチンソフトが流れるまでの時間稼ぎよぉ。百合花さんが闘ったのを見てる限り、あの『天使』はどれだけダメージを与えようと無限に再生するみたいだから、攻撃は捨てて防御や攪乱に徹するべきねえ」

 食蜂はここで一旦言葉を切り、百合花達が頷くのを見て、また続けた。

「だから、アイツに狙われてる百合花さんが攪乱、御坂さんはそのサポート、第四位さんは私の護衛兼アイツの妨害役についてもらうんだゾ」

「アンタは何すんのよ」

 矢継ぎ早に飛ぶ食蜂の指示に、美琴が噛みついた。麦野は黙り込んでいたが、思うことは同じだろう。ただ、百合花だけが食蜂の役割を知っていた。

「護衛の後ろで高みの見物……と言いたいところなんだけど、そんな余裕力ないのよねえ。だから『演算補助』でサポートするわあ」

 ――『演算補助』

 食蜂操祈の誇る『心理掌握』の一機能。テレパスによって能力者の演算領域を接続し擬似的な並列コンピュータを作り出すことによって、演算能力を飛躍的に向上させる。ただ一つの欠点は――

「これを使うと見せかけて洗脳されたら困る……なーんて人がたくさんいる事かしらあ」

 艶然と笑う食蜂を、美琴は興味なさげに眺めていた。

「私はパス。ま、初対面の精神系能力者にそこまではさせらんないかな」

 美琴の後で、麦野がこんなことを言っている。「あら、残念ねえ」と、食蜂はさして気にしてないふうに言った。

「今繋がってるのは百合花さんと私だけだけどお……どうする、みぃさかさぁん?」

 挑発するような、食蜂の口ぶり。美琴はつかつかと食蜂のところまで歩いていって、

 思いきり拳骨を喰らわせた。

「~~~~!」

 悶絶。

 食蜂が頭を押さえて転げまわる。

「いったーい!! いきなり何するのよお!?」

「うっさい。いちいち試すなって言ったでしょ。二回も言わせんな」

 食蜂が取り落としたリモコンを拾い、自分の米神に押し当てる。

「ほら、電磁バリア解除したわよ。さっさとやんなさい」

「はぁ……御坂さんたらいつからそんなお馬鹿になったのかしらあ」

 赤い頬を誤魔化すようにため息をつき、食蜂は百合花を見る。

 微笑ましいものを見る顔だった。その隣で麦野沈利が我関せずとばかりに佇んでいる。

 また、ため息をついた。

 美琴からリモコンをひったくり、もう一度その米神に押し当てる。

「本当に、覚悟はいいのかしらあ?」

 脅かしてみても、効果はない。

「早くしなさい」

 何の躊躇いもなく、美琴はそう言い切った。

 食蜂はそのことに一瞬複雑な表情を浮かべたが、

「はいはーい☆」

 何事もなかったかのように、リモコンのボタンを押した。

 

 

 

 

 

 

 ――繋がった。

 美琴と同様、百合花は感覚で理解した。

 食蜂操祈の『演算補助』。

 最高位の精神系能力者だけが持つ、埒外の技能。

 単に演算補助と言っても、口で言うほど簡単なことではない。三人の脳波を食蜂が常に調律していなければならないし、そのため多少演算領域を食う。演算領域の増加についても、三つの演算領域を束ねて一つにしただけで、絶対量が変わったわけでもない。

 しかし、『演算補助』の真価は「束ねた一つの演算領域の割り振りは自由」であることにある。

 例えば、本来これは食蜂ともう一人による二人での使用が想定されていたのだが、発火能力者と組んだ場合、超能力者+α級の発火能力者を生み出すことができる。それだけではなく、演算領域の割り振りを即座に変更することで、食蜂は同じく超能力者+α級の精神系能力を行使することが可能になる。ただし、これらは両立できない。前述の通り、あくまで演算領域の絶対量は変化しないからだ。

(今回の相手に『心理掌握』はたぶん効かない。なら、私と美琴は思いきりやれる)

 と、そこまで考えたところで木山が

「頼む」

 と言った。思わず漏れたというような、小さな呟きだった。

 美琴が頷き、百合花は微笑み、食蜂はにやりと笑む。麦野はただ牙を砥いでいた。

「さ、行こうか」

 百合花が言う。

 その声を合図に、食蜂は集中するようにしゃがみこみ、麦野は食蜂を守るように前に出る。

 そして、百合花と美琴は歩き出した。

 前を見る。

 睨む。

 ――その視線の先。

 二メートル強の細い体躯。

 光り輝く長大な『光翼』を、孔雀の如く広げ。

 目も口も鼻もない顔を、底なしの悪意に歪ませ。

 『天使』が、そこに立っていた。

 超能力者達の戦いが、始まる。

 

 

 






食蜂さんの演算補助は『妹達』のアレと似たようなもんだと思ってください。ただし8割くらい妄想が入ってますが。


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