とある魔術と超能力者   作:和菓子

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ちょっと寄り道して上琴を書いてみたり。
……いや、その割には結構殺伐としてますが、まあキニシナイ。
えーと、ゴホン! 拙作のキャラ改造タグの対象の筆頭となるのがレベル5勢で、それに引きずられるように上条さんもやや改造。
説明しよう! みこっちゃんの出力は元の数倍だッ! 上条さんの体術はつっちーといい勝負できるくらい(でも結局負ける)だ! (な、なんだってー!)
……やりすぎた? い、いや、ソンナコトナイヨネ? あはは……
そんなわけで本作はだいたいイージーモードです。
それでは、作者の拙い戦闘描写(笑)にうんざりしながらお暇を潰しちゃってください。



1-8.超電磁砲の少女のお話

 ゴロゴロと雷鳴が響く。真っ黒い雲の塊が苛立ったように稲妻を散らしていた。

「はぁっ、はぁっ、ああもうっ、待てやコラァァァァァァ!!」

 御坂美琴はひたすらに走る。ゴミ箱を蹴飛ばし、夜の街を駆け抜ける。

 ズキズキと体が痛むが、そんなことは全く気にせず、名も知らぬ少年を追い続ける。

 そう、全てあいつが悪いのだ。

 今日は七月十九日。憎いあん畜生の言うこと聞くのは癪だけど、とか愚痴りつつ、ネットで幻想御手(レベルアッパー)なるものの書き込みを見つけて、ファミレスで書き込み主達と接触。寒い演技をしながらも何とか情報を引き出せそうだというとき、その男は現れた。

 美琴が絡まれていると思ったのか。やけに浮かれた様子のそいつは不良に説教しようとして、しかし予想以上の人数を前に即効で逃げ出した。おかげで不良達は全部そちらに向かい、残された美琴はしばらく呆けた顔を晒す羽目になった。美琴が現在少年を補足できているのは、ひとえに彼女の高い身体能力のおかげだと言える。

 そう言えば、初めて会ったときもそうだった気がする。不良達に囲まれた美琴を、やつは頼みもしていないのに助けようとして不良どもに説教をかましていた。

 結局、そのときそいつが漏らした失言が元になって、だいたい一ヶ月経った今でも美琴とその男との関係は続いている。――ただし、それは決して友好的なものではないのだが。

 ときに追い回し、ときに闘って、しかし彼らはいまだお互いの名前すら知らなかった。

 駆ける。艶やかなブラウンの髪が夜風に靡き、町明かりを受けてキラキラと光る。

 しかし、それとは対照的に美琴の息は上がっていた。無理もない。もともと彼女は本調子でない上に、すでにかなりの距離を走り続けている。

 先ほどの叫びで声を出す気力が尽きたのか、美琴は心の中で悪態をつく。

(ほんと何なのよあいつ!)

 沸々と、熱い怒りがマグマのように沸き上がる。美琴の苛々は限界に達しようとしていた。

 そうだ。

 美琴が幻想御手の情報を手に入れそびれたのも、不良の後片付けをする羽目になったのも、門限にもう間に合わないだろうことも、現在進行形で息を絶え絶えにして追いかけっこしているのも、走っている最中プリティーな黒猫に怯えられたことも! 全部!

 

 全部、あのウニ頭が悪いのだ!

 

「ま、ち、な、さ、い、よぉぉぉぉッ!!」

「不幸過ぎますぅぅぅぅぅぅぅぅ!!」

 限界を超えて叫ぶ美琴に応えたのか、数十メートル先を爆走する黒いツンツン頭がやってられないとばかりに悲鳴を上げた。 だが、やってられないのは美琴も同じ。焦れてきた彼女は少年を確保するべく能力を使うことにした。

(これは負担がでかいから、特に今はあんましやりたくないんだけど……しょうがないか!)

 美琴の体が電気を纏う。青白い火花が彼女の周囲を照らした。

 火花の弾ける音を聞いて、少年が焦ったような声を上げる。経験則で分かっているのだ。次の瞬間には、光速の雷撃の槍が彼目掛けて飛んでくることだろう。

 走りながら、咄嗟に右腕を後ろに突き出す。少年の右手に美琴の雷は通用しない。故に、雷撃が避雷針代わりに伸ばした右手に当たってくれれば命拾いできる。

 とほほ、と少年はため息をつく。自分は夏休み前日で少し浮かれていただけだというのに、何が悲しくてこんな命懸けの追いかけっこをせにゃならんのか。神様とやらがいれば小一時間問い詰めたい気持ちだった。彼はそこまで考えて、

(……、あれ?)

 違和感に気づく。雷撃の槍はとうに放たれていてもおかしくない。にも関わらずそれが放たれた様子はなかった。

 ……嫌な予感がする。ダラダラと滝のように冷や汗を流しながら振り向いた少年が見たものは、

 

 青光を放ち、輝く雷を迸らせながら彼に迫る、御坂美琴の短パンだった。

 

(いや速すぎだろ! 三〇メートルは離れてましたよ!? ああもうっ、不幸――)

 不幸だ。そう叫ぶ間もなく、少年の意識は鳩尾にめり込んだ美琴の両足に刈り取られた。

 グベラッ、と間抜けな声を出して少年の体が吹き飛ぶ。

「あ、あれ?」

 見事なドロップキックを決めて着地した美琴が焦った声を出す。彼女の想定では、このドロップキックは背を向けて走る少年の背中に軽くお見舞いする程度だったのだ。まさか直前で振り返るとは、この男もついていない。

「どうしよ、これ……」

 美琴は途方に暮れて呟いた。

 

 

 

 不幸な少年が目を覚まして最初に見たのは、不貞腐れたように唇を尖らせる御坂美琴だった。少年の顔を不機嫌そうに覗き込む彼女はやはり美少女で、近くで見るとそれが一層際立った。

 きめ細やかな肌、整った目鼻立ち、深い茶色の瞳と髪。加えて、走り続けて上気した頬がそれらの要素に艶かしい魅力を与えていた。

 ゴクリ。少年の喉が鳴る。

(何だこれ、お前は俺を悶え殺す気ですか!?)

「あ、起きた?」

 ドギマギしている少年には、美琴の声が酷く遠くに聞こえた。聴覚だけでなく触覚もかなり鈍い。硬いコンクリの地面に横たわっているはずの彼の後頭部は、何故か、本当に何故か柔らかな感触を脳に伝えていた。

(っておい!?)

 と、それらの情報から信じられない解答を導き、少年の思考は停止した。

 「……、どうしたのよ?」

 美琴が訝しげな表情を浮かべるのがはっきりと見てとれる。睫毛の一本一本でさえしっかりと。やはり、やはりそうなのか。再起動した少年の脳が、後頭部に感じる柔らかな暖かさを認めた。

 端的に言って、彼は御坂美琴に膝枕をされていた。

(こ、これは不幸なのか!? それとも幸福なのか!?)

 口をぱくぱくとさせながら、少年は世の男子に呪われそうな思考を巡らせた。リア充爆発しろ、てなもんである。

「起きたんなら……」

 深いブラウンの瞳を細め、美琴が柔らかそうな桃色の唇を動かす。そんな何気ない所作でさえ、思春期真っ只中である少年の目を惹き付けてやまなかった。彼は思う。このビリビリとの出会いは最悪だったが、いいかもしれない。

 もしかしたら、もしかすると、この少年は御坂美琴のことが――

「さっさと退きなさい」

 ゴツンと鈍い音がした。少年の頭がコンクリートの地面と激突した音だ。

「痛ってぇ!」

 先ほどまで漂っていた(と彼が錯覚していた)甘い空気は一瞬で霧散し、ピリピリと、どこか張りつめたようなそれが辺りに漂い始める。

「何すんだ!」

 当然のように少年が抗議の声を叩きつけた。

「いつまでも人の膝に頭乗せてるからでしょーが」

 お前が乗せたんだろーが!! と言いかけて、しかし少年は咄嗟に右手を美琴の方へかざす。

 一瞬遅れて青白い雷光が辺りを照らし、次いで何かの砕けるような音が響き渡った。あらゆる異能の力を打ち消す彼の右手、幻想殺し(イマジンブレイカー)が美琴の電撃を跡形もなく消し去った音だ。

「相変わらずふざけた右腕ね……!」

 美琴が憎々しげに唸る。少年は跳ね上がるように後ろに飛んで美琴から距離をとった。

「……、いきなり何すんだよ」

(死んだっ! 今俺一回死にましたよ絶対!)

 内心慌てながらも、表面上は落ち着いた様子で少年が言った。それを見て美琴はつまらなさそうに鼻を鳴らす。

「勝負しなさい!」

 相変わらず血の気の多いやつ。少年は思う。そういえば、初めて会ったときの彼女もそうだった。お得意のビリビリで、少年もろとも周りの不良達を――

「って、後ろの連中が追ってこなくなったのも」

「うん。めんどいから私が焼い(ヤッ)といた」

 彼は思わず天を仰いだ。

「? 心配しなくても、弱者の料理法くらい心得てるわよ」

 少年の動きをどう解釈したのか、小首を傾げて美琴は言った。彼は大きく、呆れたように大きくため息をつく。

「お前なぁ、この街に七人しかいない超能力者の第三位ってのはよく分かってるけどさ。長生きしたかったら人を見下すような言い方はやめたほうがいいぞホント」

「はぁ!? 劣ってるからって努力もしないで諦めて、自分の非力を誤魔化すために群れて粋がってるような連中よ?」

 苛立ったように、青白い火花が弾けて散った。美琴の瞳が怒りを灯す。

「それでも、だ」

 少年はキッパリと言った。

「大体、どいつもこいつもおかしいんだよ。超能力が全てみたいに言ってさ。そんなに凄いもんかよ、超能力なんて」

 少年は、幻想殺しは躊躇わずに言い放つ。

「……」

 返ってきたのは沈黙。より正確に言うのなら、それは嵐の前の静けさだった。

「どこまでも上から目線の、鼻持ちならない強者の台詞よねソレは……」

 低く、深く、そして恐ろしく静かな声が、闇夜の鉄橋に響く。

 超能力開発を受けた当初、御坂美琴はどこにでもいるただの低能力者(レベル1)に過ぎなかった。

 怪しげな薬を飲み、電極を付けて頭の中を弄くりまわす。超能力者(レベル5)に至るまでの道程は並大抵のものではなかったし、それを乗り越えたことは御坂美琴の誇りだ。

 しかし、目の前の少年にそれは通用しない。光速を誇る雷撃の槍も、あらゆるものを切り裂く砂鉄の剣も、最大の切り札である超電磁砲さえ、ことごとく彼の右手に阻まれ、砕かれた。

 

 少年が()()()()()()幻想殺しによって。

 自分が今まで磨きあげてきた(ちょうのうりょく)が全く通用しない。超能力だけでなく、持てる力の全てを使ってやっと互角。努力した美琴と、生まれつきの少年が、だ。

 やるせなさを抑え込むように、美琴が顔を俯けた。

「……つか、何で俺なんかを狙うんだ? 俺はどこにでもいるただの無能力者(レベル0)ですよ?」

 分かっている。これはただの八つ当たり。この世界はどこまでも不平等で、美琴が何年も努力してやっと至った場所に生まれながらに立つ者がいても何ら不思議はない。目の前に立つこの男にはその自覚も無いのだろう。

 だが、それでも、

 自分の努力を否定されることは我慢ならなかった。

「ただの無能力者(レベル0)? それはまた、つまらない冗談ね」

 この少年は恐らく、本心からそう言っている。それが一層美琴の心を掻き乱した。不幸だ、と(うそぶ)くこいつの顔をひっぱたいてやりたくなる。

「……、俺が何したっていうんだよ」

「私の邪魔したじゃない」

 そう言って、美琴は咳払いを一つ。しかし、ピリピリとした空気は一層強くなっていく。

 風に流されて白い幽霊のように飛ぶコンビニ袋が、美琴の頭に触れるか触れないかといったところで青白い雷光に呑まれて燃えた。白い粘液がじゅうじゅうと煙を立てて鉄橋に広がる。

「私は自分より強い『人間』が存在するのが許せないの。それだけあれば理由は十分よ」

 努めて軽い調子で話す美琴の表情は、声色に反して剣呑そのものだった。

「……なんていうか、不幸っつーか……ついてねーよな」

 それを見て、諦めたように、少年がポツリと溢す。美琴を威圧するように、己の優位を見せつけるかのようにゆっくりと、重々しく、吐き捨てるように彼は言った。

()()()、本当についてねーよ」

 

 瞬間、御坂美琴は獰猛に笑う。

 

「そう来なくっちゃ、ね!!」

 そうでなくては面白くない。御坂美琴にとって、この男は対等な強敵(ライバル)でなくては、超えるべき壁でなくては面白くないのだ。今までと同じように、絶対に超えてみせる。

 この瞬間、美琴の頭に傷のことなど全くなかった。

 ほんの僅かに赤らむ傷口に一片の意識すら向けず、美琴は楽しそうに、嬉しそうに、犬歯を剥き出しにして笑った。

 手始めに牽制、電撃を放つ。(いかづち)が槍の如く少年に襲いかかった。光速で大気を切り裂き進む青白い電光は、しかし咄嗟に差し出された彼の右手に阻まれ消える。

 質量など持たないはずの電撃が砕かれたように甲高い音を立てて霧散した。

(死ぬっ! 死ぬから!)

 少年が余裕綽々といった顔で美琴を見る。それがどうした? と言っているような錯覚すら感じさせた。

 自身の電撃があっさりと散らされた事を確認して、何故か美琴がほくそ笑む。

 幻想殺し(イマジンブレイカー)は確かに反則的な能力だ。あらゆる異能を打ち消すといった謳い文句は決して偽りではない。少なくとも、御坂美琴の『超電磁砲(レールガン)』は『幻想殺し(イマジンブレイカー)』にことごとく無効化されている。その上、どんな仕組みかは知らないがこの少年は異能の気配を事前に察知出来るようだった。光速で飛来する雷撃の槍に反応するなどそうでなければ説明がつかない。

 しかし、付け入る隙はある。美琴は拳を握った。

 少年の幻想殺しが作用するのはその右手のみ。そこ以外はただの人間、能力を打ち消すなどできるはずもない。故に、美琴の電撃を防ぐとき彼は必ず右手を使う、使わざるを得ない。

(だから、簡単に動きが予測できる)

 獰猛に笑みを浮かべて美琴が駆けた。数メートルの距離を一気に潰す。

 右手を突き出したまま、少年の余裕の表情が固まる。美琴の右拳が唸りを上げてその鳩尾に迫っていた。

「っとお!?」

 体をずらし、少年が美琴の拳を慌てて避ける。表情には隠しきれない焦りが滲んでいた。

「はっ、やっと澄ました顔が崩れたわね! ムカつくのよあんたのソレは!!」

 喜びを隠そうともせず美琴が叫ぶ。つり上がった口元から鋭い犬歯が覗いていた。

「威嚇は逆効果ってわけか……、不幸だ」

 少年はげんなりした様子でぼやいた。

「それじゃあどんどんいくわよ!」

 言うや否や美琴が少年に飛びかかる。電撃によってできた隙に拳を、蹴りをねじ込んでゆく。少年はそれを必死にいなし、躱す。

 幻想殺しに超能力が通じないのなら、超能力を使わなければいい。それが美琴の出した結論だった。能力使用はあくまで囮程度に留め、格闘を主体として闘う。常盤台の生徒は皆特殊な護身術を仕込まれているし、幸いにも美琴には才能があった。

 だが、それでも目の前の男は倒れてくれない。すでに数分が経っているにも関わらず、焦燥を浮かべながら彼はいまだ美琴の連撃をいなし続けていた。

 跳ね上げるように美琴が右足を蹴り出す。空気を引き裂いて疾走するそれは、やはり少年の顔に命中する事はなかった。上体を反らしてバク転、そのまま後方に下がる彼を美琴が憎々しげに睨み付ける。吐き出す呼気は、荒い。

「はぁっ、はぁっ、く、……ちょこまかとうっとおしい奴ね」

「悲しいことに俺は不幸だからな。ケンカする機会には事欠かねぇよ」

 少年は明らかに喧嘩慣れしていた。加えて、その動きはもはや素人のものではない。死線を幾度となく潜り抜けてきた、明らかな玄人のそれだ。――なんて語ってみたが、要は彼が隣室の土御門元春と頻繁に割とマジな勢いで喧嘩(ころしあい)しているというだけのお話(これは土御門の義妹に対してしょっちゅう発生する少年の不幸体質(ラッキースケベ)が原因なのだが)。

 美琴が乾いた笑いを溢す。

「はぁっ、どこまでも、ふざけた、奴」

 美琴の息はすっかり上がってしまっていた。体に巻かれた包帯の奥がズキズキと、もはや無視できないほどに痛む。けれど、この男に一泡吹かせないことには終われない。

 次で最後。美琴は能力を全開にした。

「……おいおい」

 凄まじい勢いで火花が爆ぜる。閃く蒼の電光が少年の目を刺した。まるで蒼い爆発だ。少年は思わず目を閉じる。

 うっすらと目を開けると、雷の衣を纏い、御坂美琴は悠然とそこに立っていた。大きく深呼吸して息を整え、美琴は少年に問いかける。

「……、人間の体がどうやって動くか、知ってるわよね?」

「は?」

 少年が眉をひそめた。そんな事、この学園都市ならば幼稚園児でも知っている。彼には美琴の意図がさっぱりだった。

 美琴は怪訝な様子の少年を見て首を振り、出来の悪い生徒に噛み砕いて説明するように続けた。

「人間の体は脳から出る電気信号で動いてる。これ、どういう意味か分かる?」

 と、青白い火花が飛んだ。不審げだった少年の表情が、一拍置いて驚愕に染まる。

「まさか――」

「こういうことよ!!」

 瞬間、弾けた電光を置き去りに、美琴の姿が掻き消えた。先ほども人間離れして速かったが、これは少し次元が違う。

 超音速。

 真っ直ぐに少年に近づき、大きく振りかぶって、愚直に拳をつき出す。

 たったそれだけだった。たったそれだけの、子供にもできる拙い攻撃。

 しかし、それを認識する間もなく、少年の体は鳩尾に突き刺さる衝撃に吹き飛ばされる。固いコンクリートの上をゴロゴロと転がった。

「……、はは。やった、ざまぁ、見なさい」

 それだけ言って、御坂美琴は地面に倒れこむ。

 結果だけを言うのなら、引き分けだった。

 

 

 

「救急車呼ばなくてホントに良かったのか?」

 静まりかえった夜の道路を二人の男女が進む。と言っても、手を繋いで歩くようなロマンチックなものではなく、少年が少女をおぶっているだけであったが。

「いいのよ。心配かけたくないって言ったでしょ」

 罰の悪そうな顔で美琴が言った。

「ならはじめから喧嘩吹っ掛けてくんなよ……」

「う、うるさい!」

 少年との戦闘のあと、美琴は極度の疲労で倒れてしまった。本調子でない体を酷使した結果だ。そのせいで体は危なっかしくふらつき、開いた傷を辛うじて覆う包帯は赤い色に染まっている。

 今は、それを見かねた少年が動けなくなった美琴をおぶって、常盤台の寮に送る最中であった。ちなみに、美琴が暮らしているのは『学舎の園』外にある学生寮だ。

「にしても、あんたホント頑丈よね」

「言ったろ? 俺は不幸だって」

「へー」

 能力を使った身体強化込みの全力右ストレートをまともに食らわせたはずなのだが、この男はまるで(こた)えた様子もなくピンピンしていた。

(全く、人造人間かミュータントかっての。おまけにまた引き分けだし)

 呆れて美琴が大きく息を吐く。ゆらゆらと揺られながら、視線を夜の街にさ迷わせる。

「…………」

「どうした?」

 急に黙りこくった美琴を不審に思い、少年が声をかける。

「……、何でもない」

 こいつにだけは言えない。美琴は頑なにそう思った。

「何でもないことはないだろ。話してみろよ、少しは楽になるかもしれないぜ?」

 少年はなおも食い下がる。

 誤魔化すように首を振り、美琴はからかうように笑った。

「あんたって、ホントお人好しだわ。そこまでいくと逆に尊敬するわよ」

「……、それ、褒めてんのか?」

「なわけないでしょ」

 あ、やっぱり? 少年は苦笑して、

「ま、俺はただの偽善使い(フォックスワード)だしな」

「ふぉっくすわーど?」

「口だけって事だよ」

 少年の口が、自嘲するように弧を描く。

「……、そっか」

 まじまじと、彼の背中を見つめた。大きな背中だ。それでも、先ほどまでと違い、美琴には何だかその背中が小さく、頼りなく見える。さっきまでの怪物じみた得体の知れなさはもう感じられない。目の前にいるのは幻想殺しでも無能力者でもない、美琴と同じただの人間だった。

 何となくそんな事を考えて、美琴は今さらながら自分達が名乗り合っていないことを思い出す。できるだけ軽く、気楽な声色を意識して、言った。

「ねぇ、あんた名前は?」

「上条当麻」

「フーン……」

 今さらかよ。そんな突っ込みが入ってくるかと思ったが、そうでもないらしい。

「私は御坂美琴、よろしく」

「おう、よろしくな」

「……」

 少し素っ気ない様子だったが、美琴は特に不快には思わなかった。クスリと、笑いながら上条の頭を小突く。

 

「あんたは立派なお人好し(バカ)よ」

 

 だから難しいことは考えんな。さっきのは引き分けが悔しかっただけよ。

 そう言って、御坂美琴は太陽のように笑う。

 なんだそりゃ、と上条が苦笑した。

 

 これは、幻想殺しの少年と禁書目録の少女が出会うほんの一日前、超電磁砲の少女のお話。

 




前兆の感知ってこの時点であったっけ?
みこっちゃんて一巻のとき上条さんのことどう思ってんだろ?
そもそも電気で身体能力アップなんてできんの? ていうか無理だろ。
などなどの疑問をすっ飛ばしてアクセル全開な駄作者です。
身体能力云々はH×Hのキルくんから思いつ――パクりました。技の発想自体けっこうありふれてるし、技名も出してないからタグには入れてませんが(多分神速以外は出さないし)、お気に障るようでしたら追加します。遠慮なく言ってやってください。
では、拙作を読んでくださる読者様方に感謝しつつ、駄作者はここらで退場します。
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