とある魔術と超能力者   作:和菓子

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ふ、不定期更新タグがやっと仕事した……と、ここ一週間のサボリを誤魔化す作者です。
今回はギャグ回につきネタがちらほら、不愉快に思われる方がいらっしゃるかもしれませんので前書きで先に謝っておきますですごめんなさい。
それでは。拙作を待ってました! なんて奇tげふんげふん菩薩のようなお方も、べ、別にこんなつまんないの読みたかった訳じゃないんだから勘違いしないでよね! なお方も、待ってもねえしツンデレでもねえよ何この作者キモイ妄想乙、なんて全く以てその通りな感想をお持ちの方も揃って退屈を紛らわせるよう作者は祈りつつ後書きまで十分間くらいアデュー!



1-9.幻想御手 Hope_in_My_Hand

 

(やっと、見つけた)

 カーテンを閉めきった寮の自室で、佐天は思わず口元を弛めた。

 ノートパソコンのディスプレイに目を釘付けたまま、彼女は大きく伸びをした。椅子がキィキィと耳障りに軋むが全く気にならない。

 冗談混じりに話した眉唾物の都市伝説『幻想御手(レベルアッパー)』、その実在を彼女が教わったのは昨日だ。ヒントは貰っていたのだが、こんなに早く見つけられたのは奇跡とでも言うべき幸運だった。

 能力の強度(レベル)を飛躍的に引き上げる、無能力者(レベル0)の希望。

 それが何の変哲もない音楽ソフトだとは夢にも思っていなかった。

 伸ばした背中が小気味のいい音を立てる。意識の端でそれを聞きながら、佐天はぼんやりと考えた。

(これを使えば……もう、あんな思いしなくてもいいんだよね)

 悔しさに涙を流すことも、嫉妬で自分が嫌いになることも、誰かを助けられないなんてことも、きっとなくなる。

 考えて、佐天は満面の笑みを作った。

(あの人には感謝しないとね。……えっと、あれ? 顔思い出せないや……ま、いっか)

 微かな違和感は大きな高揚に塗り潰されて消えた。今大切なことはそれではない。

 佐天涙子の手の中に、『幻想御手』があるという事実こそが重要なのだ。

(これで、御坂さんにも……)

 血塗れの少女を脳裏に浮かべた。

 虚空爆破(グラビトン)事件。その舞台となったセブンスミストのビルの中、吹き飛ばされた残骸の下で。

 焦点の合わない瞳でも、ぼろ雑巾のような体になっても、美琴は佐天達の事を気遣っていた。

 本来ならばそれは佐天が受けるべき報いだった。少なくとも、佐天涙子自身はそう信じてやまない。それを、彼女は小さな体で一手に引き受けたのだ。

 佐天は堪らなく惨めだった。惨めだと感じてしまう自分自身も嫌で、力のない自分も嫌で、周囲に対して大きな劣等感を抱えていた。だが、

(これさえあれば……もう)

 これさえあれば、彼女に借りを返すだけではない。

(能力者に、なれるんだ。こんなあたしでも、誰かの役に立てるようになる)

 今まで願ってやまなかった。一日だってそう願わない日はなかった。忘れようとしても、この街は決して忘れさせてくれなかった。いくら頑張っても、才能(げんじつ)は決して願いを叶えてくれなかった。

 それでも、『幻想御手』さえあれば、佐天涙子の全てが変わる。誰かを助ける『力』が手に入る。

 彼女はそう思わずにはいられなかった。

「……よし!」

 乾いた喉を鳴らして、佐天はカーソルを移動させた。ゆっくりと、震える手でマウスを動かしていく。

 クリック、ディスプレイに文字が浮かぶ。ノートパソコンが叫ぶような駆動音を上げた。

 一秒一秒が、佐天には途轍もなく長く感じられた。真っ白なダウンロードバーが赤く染まっていくのを、彼女は砂時計を眺める子供のような気持ちで見つめていた。

『Now_Loading:Level_Upper』

 断末魔のような駆動音が止み、耳障りな高音と共に新たな文字が浮かび上がる。

 

『Welcome_to_New_World』

 

 ありふれたアルファベットの羅列がまるで、異世界の扉を開く特別な呪文のように光っていた。

 

 

 

 

 氷のように、冷たく静謐な空気がその部屋を満たしていた。静けさに満ちた闇の中、赤や緑、橙など様々な色が夜空に浮かぶ星の如く瞬いている。

 カタカタと、軽やかにキーボードを叩く音が室内に響いていた。本来ならば静寂を乱す無粋な闖入者であるはずのそれが、静けさと調和し、一つの音楽となって薄暗い部屋の中へと溶けていく。

 白魚のように白く、陶磁の人形のように滑らかな指が、あたかも一種の芸術のように黒い鍵盤の上で踊った。

 ほぅ、と感心して食蜂が息を吐いた。流石です、と言わんばかりに少女が碧い瞳を輝かせる。

 コンサートホールを思わせる薄闇が支配した部屋の中、スポットライトのような明かりを浴びて光り輝く百合花は、しかし物憂げに、歌うように言葉を紡ぎ、

 

「見てないで手伝ってよ!?」

 

 うんざりして怨嗟の叫びを吐き出した。彼女は矢継ぎ早に言葉を重ねていく。

「ああ、確かに私は言ったさ。幻想御手(レベルアッパー)の解析作業を手伝うって約束して、今もこうして奮闘中だよ」

「えぇ、おかげで予定より少し早く終わりそうねえ。流石の実行力だわあ☆」

 からかうように楽しげな笑みを浮かべ、食蜂が言葉を返す。

「……ありがと。でも、違うんだよ、そういうことじゃない」

 律儀にお礼を言ってから、百合花はこの二日で溜まりに溜まった鬱憤を晴らすように、叫ぶ。

「たとえ、予想以上に作業がうまくいっているとしても、どれだけ早く終わりそうでも!」

「……、でも、何かしらあ?」

「それで操祈がサボっていいことにはならないよね!!」

 ゼエゼエと息を切らしながら百合花が食蜂を睨む。いわゆるジト目というやつだった。一方、食蜂はソファーに腰かけ、銀縁眼鏡の少女が淹れた紅茶を美味しそうに味わっていた。百合花の切実な抗議に、食蜂の口元が緩やかな弧を描いた。白磁のティーカップを傾け、ゆらゆらと波立つ琥珀を優雅に一口。

「休憩中よお☆」

「始めてすらいないよね!?」

 百合花は思わず突っ込んだ。これでは夜を徹して作業に勤しんだ自分が馬鹿みたいではないか。百合花は少し泣きたくなった。

「昨日の停電の時もだよ!? 操祈はグースカと――」

 涙を必死に堪えていると、突然光が百合花の顔を照らし、続いてパシャリと音がした。

「……桜は何してるの?」

「涙目の百合花様を激写、です」

「…………」

 キリッ、なんて擬音が付いてもおかしくない真顔で、桜と呼ばれた少女が静かに言った。手に持っているのは真っ黒な一眼レフカメラ。藍原桜(ブルータス)、お前もか。百合花はやっぱり泣きたくなった。

「今すぐやめて、お願いだから」

「…………」

「……やめなさい」

「…………」

「お願いだから」

「……わか、り、まし、た……グスッ」

「泣くほどの事!?」

 普段凛々しくてクールな女の子が急に泣き出したら誰だって驚く、百合花も驚く。彼女はわたわたと両手を振って慌てた。

「アッハッハッハッ! お腹痛いわあ☆」

「笑うなぁ!! ていうかいつもより星多くない!? あれか、私を虐めるのがそんなに楽しいんですか!?」

 堪らないとばかりに食蜂が腹を抱えて爆笑し、百合花がそれに噛みついた。食蜂は涙目の百合花ににっこりと笑いかけて、

「ええ、もち」

「分かった分かったよ分かったから皆まで言うな! それ聞いたら多分私泣いちゃうから!!」

 ヤケクソ気味に百合花が叫ぶ。心のダムは決壊寸前だった。

 全くなんてヤツだ。疲れたように肩を落とし、百合花は大きく大きく息を吐き出した。そんな彼女の様子を藍原が心配そうに見つめて、

「百合花様、あまり根を詰められてはお体に障ります。少し休まれてはいかがですか?」

「復活早いよ!?」

 再び突っ込みが火を吹いた。食蜂の笑い声が部屋に響く。

「あはは、百合花さん、私を笑い死にさせる気い?」

 ケラケラと、カラカラと、食蜂は百合花を指差して笑い転げた。途端、ブチッと、何かが切れたような音と共に百合花の表情が消える。

「……、」

「あらあ? どうしたのかしらあ、ねぇ百合花さん」

 食蜂は気がつかない。ニタニタと笑いながら百合花の胸をつついていた(じらいをふんだ)

「……、」

「ゆぅーりぃーかさあーん」

「……、操祈」

「やっと反応してくれたわあ。百合花さんったら、焦らすのが上手いんだゾ☆」

「一発、殴らせて?」

「へ? あ――」

 ゴチン! と鈍い音が鳴り、うぅ、と食蜂が涙を浮かべてうずくまる。百合花はため息をついてそれを見下ろしていた。と、そこで藍原がトレイを持って百合花に声をかけた。

「百合花様、ハーブティーをお持ちしました。熱いのでお気をつけて」

「ん、ありがと……あれ、ケーキは? ねえケーキは?」

「これからお休みになるおつもりなのでしょう? 太りますよ」

「太りませーん。いくら食べてもお肉付かないんだもの。ホント、ヤになるよ」

「羨ましい体質ですね。分けていただきたいくらいです」

「……胸にも栄養いかないんだよ? 牛乳飲んでも身長が伸びるだけでガリガリの痩せっぽち……いーな、桜と操祈は胸大きくてグラマラスで」

「百合花様は十分女性的ですよ? 特に腰回りはむしゃぶりつきたいくらいです」

「…………、ありがと、でいいのかな……? 何か複雑、ホント複雑」

 そんな、他愛ない会話――さりげなく話題が逸らされていることに百合花は気づかなかった。寝不足のせいだろう――をしながら、藍原が何食わぬ顔で百合花の後ろに控える。先ほどの弛んだ様子は欠片も感じさせず、常通り氷像の如く(見かけだけは)屹立していた。

 裏切り者ぉ! うずくまりながらそう叫ぶ食蜂に眉一つ動かさず、

「裏切り者ではありません。私はあくまでメイドですので」

 藍原は素っ頓狂な世迷言をのたまう。

 いや、お前メイドじゃないだろ。百合花は思わず出かかった言葉を慌てて飲み込んだ。もう突っ込まないぞと、震える体を必死に押さえつける。おかげで、出された声は思いの外低く、意図せずしておどろおどろしい印象を与えていた。

「……茶番はもういいよ。で、操祈はもうサボらないよね……?」

 頷く以外に選択肢はなかった。食蜂はブンブンと首を縦に振った。

「分かったわよぅ。ちゃんとするから、拳骨は、拳骨はやめてぇ」

「……はぁ」

 体に溜まった疲れを吐き出そうと、百合花はソファーに深く身を沈めた。

 頭が少しふらつく。二晩完徹は流石にやり過ぎたらしい。眠い。眠い。眠すぎる。

(あー、久々によく眠れるかも)

 そんな事をぼんやり考えながら、百合花はソファの上でもぞもぞと体を(よじ)った。眠たげな黒い瞳を上目遣いにして藍原に視線を投げる。

「私はしばらく寝るから。桜、操祈を見張っててくれる?」

「かしこまりました」

 恭しく(鼻血を垂らしながら)一礼する藍原に満足げに頷いて(鼻血は見なかった事にした)、百合花は重たげな瞼を閉じた。しばらくすると、すぅすぅと規則的な寝息が立てられた。

 

 

 

「……さて、と」

 穏やかな吐息が響く薄闇で、食蜂が無表情に区切りの言葉を紡ぐ。空気が僅かに軋んだ。

「食蜂様」

 藍原が咎めるように呼びかけた。そんな彼女を見て、食蜂操祈はにっこりと笑みを浮かべる。

「そんなに怖い顔しなくても分かってるわよお。……じゃあ、()()()を始めましょうかあ?」

 普段のからかうような微笑でも、張りつけたような薄い嘲笑でもない。もし美琴がこの場に居れば、お前は誰だと食蜂に食ってかかっていたことだろう。それほどまでに異質で、ひたすらに純粋な笑みだった。

「……御意」

 藍原が恭しく頭を下げる。氷のように冷たい無表情で百合花に向き直り、彼女の寝顔に視線を向けた。

 

 見るものを凍りつかせるような、絶対零度の視線。

 

 第三者がいるならば口を揃えてそんな表現を使っていただろう。藍原の瞳はひたすらに、どこまでも冷たい印象を周囲に散らしていた。

 おもむろに、藍原は()()を取り出した。すやすやと眠る百合花に気づかれぬよう、暗殺者のように慎重に、淡々と、それを彼女の寝顔に向けた。カチャリと、黒光りするそれが無機質な音を立てる。

 百合花は気づかない。ここ二日の疲労は確かに彼女を蝕んでいた。いや、それ以上に、食蜂達への信頼が彼女の警戒心を削ぎ落としていたのだろう。

 食蜂操祈は嘲笑う。安らかに眠る百合花の頬を撫ぜながら、彼女は百合花の迂闊さを鼻で嗤った。ひとしきり頬を撫ぜたあと、嘲笑を一瞬で消して、食蜂は普段通りの薄い笑みを張り付けた。

「やりなさい」

 常盤台の女王が命令を下した。藍原は躊躇うことなく指に力を込め――

 

 刹那、パシャリと間抜けな音がした。

 

 パシャパシャと、連続したシャッター音が食蜂の部屋に響く。

 藍原は氷のような無表情に鼻血を垂らしながら、悟ったように静かな声で言った。

「百合花様のあどけない寝顔頂きました」

「焼き増しお願いねえ」

「いえす、まむ」

 真面目くさった顔で敬礼して、藍原はここぞとばかりにカメラのシャッターを切りまくる。激しい指の動きとは裏腹に、彼女は恐ろしいほどの無表情だった。どんなときでも淡々と、それが藍原(あいはら)(さくら)という少女である。なのだが、

「華奢なお体、白雪色の肌、真っ赤な唇、黒檀のように黒く艶やかなお髪。むしゃぶりつきたくなる腰回りに触らなければ分からないほどに愛らしい双丘。細いお体からは想像もできない柔らかさにお菓子の甘い匂いが相まって、私はもうどうにかなってしまいそうです……百合花様、いえ、女神様。最高です。最高にハイってやつです」

 ……今は少し気が昂っているようだ。淡々とした無表情でそんな事を呟く。もちろん食蜂はドン引きした。

「……褒めすぎじゃないかしらあ?」

 百合花は確かに中性的で整った顔立ちだが、美の化身を信奉するような藍原の言葉を受けるには些か荷が勝ちすぎている。というか人間には無理だ。目ぇ大丈夫かコイツ。自分のことを棚に上げて、藍原を見る食蜂の視線は氷点下だった。

「いいえ、そんなことはありません」

 しかし藍原はキッパリと言った。

「ああ、百合花様。好きです、大好きです。いえ、これはもはや愛です」

「……、起きてるときに言ったらあ?」

「言いました」

「……、」

「断られました」

「……、」

「諦めません」

「……、」

 絶句。今の食蜂の状態を言い表すのならまさにこの一言に尽きる。

(百合花さん、ごめんなさあい。貴方も苦労してるのねえ)

 滅多にしない憐れむような表情を食蜂は浮かべていた。

 

 パシャリ。シャッター音が響く。食蜂の携帯だった。

 

(これからは、少しからかうのを控えるわねえ)

 

 パシャリ。シャッター音が鳴った。食蜂の携帯である。

 

(この写真は脅威力の高い脅し、もとい良い取引材料になるわあ)

 パシャパシャパシャパシャパシャリ。シャッター音が愉快に素敵にリズムを刻む。食蜂(ケータイ電話)と藍原(一眼レフカメラ)だった。

 パシャリ。ちっとも作業は進まない。このあと二人は(はた)かれた。

 

 

 

「痛いですの!」

「もっと普通に起こしなさい!!」

 消毒液がごく僅かに香る病院のロビーで、美琴は黒子に向かって絶叫した。毎度のセクハラ漫才であった。

「起きなかったではありませんの……」

 頭を擦りながら黒子が言う。瞳には微かに涙が浮かんでいた。

 そんな漫才を不思議そうに見つめる女性が一人。

「君達、まだいたのかね……?」

 穏やかな、しかし疲れたように掠れた声音で、白衣の女性が言った。ヒールがカツカツと病院の廊下を叩き、くすんだ栗色の長髪がそのたびに揺れていた。

「ちょっとお尋ねしたいことがありますの」

 虚空爆破事件の犯人、介旅(かいたび)初弥(はつや)が昏睡状態に陥ったと聞いたのが今朝のこと。書庫のデータと実際のレベルに食い違いがあることから、彼が幻想御手を使用していた可能性は極めて高いと黒子達は推測していた。他の幻想御手(レベルアッパー)使用者の現状を鑑みて、「幻想御手が昏睡を引き起こしているかもしれない」、「専門家(だいのうせいりがくしゃ)の意見を聞きたい」と考えるのは至極当然だった。

「そうか……」

 そんな事情を聞いて、白衣の女性――木山春生というらしい――が隅のできた目を僅かに細めた。

「そういうことなら私は構わないが……それにしても暑いな。ここは真夏日でも冷房を入れない主義なのか……?」

「そうですわね……」

 うんざり肩を落とす黒子の呟きを聞いて、通りがかったナースが申し訳なさそうに言う。

「申し訳ありません。それが昨夜停電がありまして、まだ復旧してないんです」

「そういえば、昨日は雨でもないのに雷が鳴ってましたわね」

「うぇっ!? そ、そういえばそうよね! いや~、うるさい夜だったわ、うん」

 上擦った声を出しながら、美琴は黒子の視線から逃げるように顔を背け、

 ぴしりと、衝撃に固まった。

「そうか、非常用電源は手術や重篤患者に使われているしな」

 木山春生が、スルリとネクタイを外した。

「へ?」黒子が呆けた声を出し、「い、一体、何を」美琴の顔が茹で上がる。

 木山はそれを気に留めず、白衣を脱ぎ、真っ白なブラウスのボタンを一つ一つ丁寧に――

「何をいきなりストリップしてますの!?」

「いや……だって暑いだろ」

 叫ぶ黒子に木山が平然と返す。何がおかしいのか、と言っている気がした。

 おかしいのはあんたの常識だ。美琴はそう言ってやりたかったが流石に失礼と思い、泣く泣くぐっと我慢した、のだが。

「殿方の目がありますの!!」

 再び黒子が叫ぶ。美琴は全力で頷いた。木山が少し驚いたように周りを見れば、彼女は男女問わず多くの視線を集めていた。木山は困ったように周囲を見回して、

「……下着着けててもダメなのか?」

「あんたは馬鹿か!!」

 美琴の堪忍袋の緒をいとも簡単に断ち切った。顔を真っ赤に染めた美琴が、開いたブラウスの両端を掴んで前を閉める。

「……そうか、ダメなのか」

 何故か残念そうだった。それを見て美琴はがっくりと肩を落とす。

「はぁ……木山先生、専門家としてご意見を伺いたいのですが」

 昨日からたまりにたまった疲労をなんとか吐き出そうと、美琴が虚しくため息を吐いた。横を見ると黒子も同じような顔をしていた。

「それはいいが……ここは暑すぎる……」

 うんざりした表情で木山が言って、美琴達はどこか冷房の効いた場所へと避難することになった。

 

 

 

 疎らな人ごみの中、初春飾利はぼんやりと青空を見つめていた。

「遅いですね、佐天さん」

 携帯をチラチラと確認しながら、佐天涙子の名前を小さく呟く。と、

(あ、れ……何ですか、コレ……?)

 ふと、後ろに気配を感じた。瞬間、悪寒が初春の全身を這う。夏の陽射しに照らされながらも、初春の体は冷たい石像のように固まっていた。

 風が吹く。

 嫌な風だ。初春は直感でそう思った。

 風が()()を引き起こしたのか、それが起こったから風が吹いたのか、定かではなかった。だが、初春は確かに感じていた。とてつもなく嫌な予感がしていた。何故か、体が震えた。

「今日は青のストライプか!」

 背後の気配が理解できない言語で初春の頭脳を苛む。キョウハアオノストライプカ?

 何だそれは。初春は思う。理解するな、振り向くな。そんなことをしたら、全てが終わる。

 背後から、息を吸う音がした。初春は降りかかるだろう呪詛に身を縮こませ、

「Wir_harl_chant_panz_heidelkart?」

 摩訶不思議な未知の言語に思考を停止させた。

「はい?」

 訳が分からない。ドイツ語に似ているが微妙に違う。初春も知らない言語だった。初春の知り合いにこんな言語を話す人間はいない。先ほどまで彼女が犯人だと思っていたスカートめくりの常習犯も含めて、だ。

 そう思うと、初春は急に怖くなってきて、反射的に振り向いていた。その拍子、ブチリと何かが切れるような音がした。

 

 後ろにいたのは、果たして佐天涙子だった。

 

 ポカーンと口を開ける初春に、佐天がニヤニヤとした表情を作る。

「初春ぅ? スカート落ちたよ」

「ふぇ? ……きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 ずり落ちたスカートを初春が必死に持ち上げた。切れたのはスカートのホックだったようだ。

「佐天さん! いきなり何するんですか!!」

 慌てる初春に佐天はにっこりと笑って、

「初春、ちゃあんとパンツ履いてるかー?」

「めくって見たじゃないですか!?」

 初春が泣きながら佐天の胸をポカポカと叩く。佐天はにこにこと笑っていた。

 

 

 

 燦々(さんさん)と照りつける夏の陽射しから逃れて、佐天と初春が街路樹の影を縫うように街を歩く。

 ゴホン、と咳払いをした初春の頬は紅かった。それはけして暑さだけのものではないだろう。

「……で、見せたい物って何ですか?」

「よくぞ聞いてくれました!」

 少し拗ねたような声の響きをさらっと無視して、佐天がニカリと笑った。

「刮目しなさい! ――ついに見つけた噂のアイテム!」

 ごそごそとポケットをまさぐり、取り出したのは、

「じゃじゃーん!!」

「……ただの音楽プレーヤーじゃないですか」

 初春が拍子抜けして息を吐いた。そんな初春を見て、佐天がからかうように人差し指を振った。

「チ、チ、チ。中身が問題なのよね」

 ――後で教えてあげる。そう言って佐天は笑った。

 それを横目に見ながら、初春は思った。以前彼女が見せたどこか暗い笑みとは違う。曖昧さも陰もなく、輝かんばかりの笑顔で彼女は笑っていた。

 佐天涙子は笑っていた。

 そんな佐天につられて、初春は安堵したように頬を弛めた。

 スカートもめくられた。

 




何か前書きの異常なテンションに自分でも引いてる駄作者です。どうしてああなった。
さて、今回はシリアスとギャグの切り替えが激しかったりシリアスっぽいギャグだったりと訳わかんないことになっちまいました。これも全て作者の未熟ってやつの仕業なんだ! 割と切実に泣きたい。
あとオリキャラの名前がやっと出た。なんでこんなに遅くなったのかサッパリだ。あいはらさくらで一応ルビ振っちゃったけど多分要らない、よね? オリ主さんの名前とか普通に読めるよね、DQNネームとかじゃあ、ないですよね……?
やべえ不安になってきた。これが子供に名前を付ける親の心境だというのか……なんて不安を誤魔化しつつ作者はここらで失礼をば。
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