霊晶石物語   作:蟹アンテナ

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誕生

膨大な魔力が渦巻き圧縮された魔力が結晶化し、無数の魔石の結晶が形成されている洞窟。

魔力だけでなく生命エネルギーや世界を構築する元素[エレメント]なども高密度で洞窟内を循環している。

 

永い時を経て形成された洞窟中心部に鎮座する魔石の柱に小さな霊魂が魔力の渦に紛れて入り込むと、洞窟に異変が起こった。

 

魔石の柱は眩く光り輝き、砕け散ると、その破片が渦を巻き中心部へと集まって行く。

やがて、その中心部に青白く光り輝く六角形の結晶体が形成され、霊体・魔素・エレメントを吸収してその結晶体は見る見るうちに肥大化する。

 

光が収縮すると同時に洞窟内部が脈動し、天然洞窟がまるで人工物のような姿に形を変えて行く

 

この世界の人類が迷宮核[ダンジョンコア]と呼ぶ存在の誕生の瞬間であった・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

(此処は一体何処だろうか?いや、私はそもそも一体何者だろうか?分からない、思い出せない・・・。)

 

洞窟中心部の光る石は思案する、自分は一体何者なのか、そもそもこの体は生物のものでは無い、暑くもない、寒くもない、何も見えない暗闇の中、宙に浮いたような感覚に戸惑う。

 

(この体は・・・いや、生物ですらない、石・・・なのか?)

 

曇りガラスに映る風景のように、過去の自分の記憶が酷く曖昧で、しかし、確実に存在した記憶の残滓をかき集める様に石は思い出そうとする。

 

(そうだ、私は確か難病を患い、家族に見守られる中死んでしまった筈・・・つまりここがあの世・・・なのだろうか?)

 

それにしては・・・である。

石であるが故に温度を感じず、視覚を持たず、人間が必要とする感覚器官が存在しないこの体は、嫌がらせのように周囲のあらゆる物を感知していた。

 

(一体なんだこの感覚は、何も見えないのに、まるで自分の周りに神経が伸びている様だ、触覚も熱も感じない筈なのに何かを感じる。)

 

石は言い知れぬ気持ち悪さを感じ、視覚を取り戻したいと強く願った。

 

(っっ!!?)

 

石の周囲に一本の魔石の小さな柱が地面を突き破って伸びてくる・・・・柱は、淡く光り輝き、石に視覚を与えた。

 

(眩しい・・・何だこれは?・・これは、やはり此処は洞窟だったか、一体何が何やら・・・。)

 

石は洞窟内部に限り監視カメラのように見渡すことが出来るようになった。

 

(目が見えるようになった・・・・いや、まてよ?もしかして・・・?)

 

石は、体の感触を熱を感じたいと強く願った。

すると、再び洞窟の地面を突き破って新たな魔石の柱が伸びてくる。

 

(っ・・・肌寒いところだったのか・・・いや、やはりこれで・・・。)

 

石の周りに次々と色とりどりの魔石柱が伸びて行き、まるで神殿のように神々しい雰囲気に包まれる。

人間としての五感を石は取り戻したのだ。

 

(此処は一体何処だ?私は一体・・・いや、元人間だった何かだ。記憶が混濁していて訳が分からない)

 

神経細胞すら持たない石の体で思考を巡らせ、新たな体の感覚を確かめる様に神経の様な物を地形に溶け込ませてゆく。

彼自身は、混乱の極みであったが気が付けば覚醒から日にちが経ち、この数日間の内にある程度自分自身の体の機能について把握し始めていた。

 

彼の意思で洞窟の形状をある程度自由に変えられる事、洞窟の形状を変える事によって何かの力を消費する事、そして・・・。

 

(この感覚は?何かが流れ込んで・・・誰か来る?)

 

自分の支配する領域に踏み込んだ生物から、洞窟の形状を変えた時に消費した[何かの力]を補充することが出来る事に気付いたのだ。

 

「こんな所に洞窟があったんだ、湧水でも涌いていれば良いんだけど・・。」

 

ローブを身に着けた二人の人物が、自分の支配する領域の入り口から少し歩いた場所に立っている。

 

「外は酷い砂嵐だ、暫くここで休もう。」

 

「随分と深そうな場所だけど、野獣の巣穴じゃないだろうね?」

 

「出て来たらその時はその時さ、外に出て方向感覚を失って遭難するよりはマシだろう。」

 

どうやら、悪天候によりこの洞窟に避難してきたらしい、その表情を見れば疲労が蓄積していて今にも倒れそうである。

石は、湧水を求める彼らの下に地下水でも都合よく出れば良いのにと思うと、洞窟側面にヒビが割れ、清浄な湧水が流れ始めた。

 

「はぁっ?な・・何だぁ?」

 

「み・・水が飛び出してきた!?」

 

他ならぬ石本人?が一番驚いた。感覚が、神経が自分の支配する領域に伸びているからこそ、あの付近に地下水の類が存在しない事を知っている。

しかし岩の内部が突如くり抜かれ、何もない空間から突如水が出現し、それなりの強度がある筈の岩盤を叩き割り勢いよく吹き出したのだ。

 

最初こそ勢いがあったものの、湧水はチョロチョロと流れが穏やかになり、現在も水が流れ続けている。

 

「っっ!革袋を出せ!今のうちに補充しろ!」

 

「ひゃ・・ひゃぃぃぃ!!」

 

湧水が尽きてしまうと焦ったのだろうか、ローブがめくれるほどの勢いで革袋を取り出し、水を満たして行く。

最初よりも勢いは落ちたものの、湧水が尽きない事に安堵し、二人分の革袋に注ぎ込めるだけ注ぎ込んで、背嚢の中から片手鍋のような調理器具を取り出すと、それにも水を入れ始めた。

 

「こんな丁度良く湧水が湧くもんかね?何にしても運が良いわね。」

 

「咄嗟に補充してみたは良いものの、これは飲めるのか?」

 

「変な臭いもしないし、これだけ透明なら悪いもんじゃないでしょ?最悪腹を下す程度さね!」

 

「楽観し過ぎだろう・・・まぁ、今なら泥水でも腹いっぱい飲めそうだがな。」

 

石は彼らの会話から、この周辺地域の人々にとって水が貴重品だという事を何となく理解した。

安心しきった表情で、地面に赤い宝玉が収められた台座の様な物を敷き、その上に先ほど水を溜めた調理器具を乗せる。

 

「こりゃ久しぶりにスープが飲めそうだな。」

 

「乾燥スープの素があって助かったよ。」

 

石は、何を始めるのか不思議そうに様子を見ていると、フードが脱げ赤銅色の髪が露わになった少女が何かを呪文のようなものを呟き、台座から火が灯る。

 

(っ!?これは一体?ガスコンロか?いや、まて、ガス・・?ガスコン・・ロとは一体何だ?うっ記憶が・・・。)

 

「具材は日干しの野菜くらいしか無いかなぁ・・・」

 

石が目の前で起こった超常現象に驚いているのを他所に、赤銅色の髪の少女が背嚢に手を突っ込みながら中身を漁っている。

 

「おっ?生きが良い具材発見!!」

 

少女が背嚢の中からもぞもぞと動く麻袋を取り出すと、麻袋から出て来た物は見た事も無いようなサイズの大蠍であった。

 

(ひぃっ!?)

 

石が思わず動揺していると、少女は日干しの野菜と共に大蠍を沸騰する鍋の中に投入し、岩塩らしき桃色の結晶をおろし金で削り、乾燥スープの味を調整した。

 

(・・・・あれ?また何かが流れ込んで・・・今度はかなり多い!)

 

大蠍が鍋に放り込まれてから暫くして絶命したのだろう、恐らくそのタイミングで石の体に力が流れ込んできたのだ。それも瞬間的ながらかなり多く。

 

「あ゛ーーっ!この火が通ってほろ苦い毒腺が堪らんなー!」

 

「ジジ臭いぞ、それにちゃんと火が通ってなかったらあの世行きだぞお前・・・。」

 

「だってだってさ!食材は持っているのに全然調理できなかったんだよ!?もう、乾燥スープを塊のまま齧ろうと思ったんだよ!?」

 

「仕方がないだろう、水の配分を間違えたんだ、それに塩の塊を齧るような真似は止せ、それこそ干乾びて死ぬぞ。」

 

現在も洞窟の入り口に滞在する二人から[力]が流れ込んでくる。

しかし、大蠍が死んだ分、[力]の流れ込む量は抑え目である。恐らく、自分の支配領域で生物が死ぬと瞬間的ながら大量の[力]を吸収する事が出来る様だ。

 

(・・・これは、要検証だな・・・。)

 

「はぁぁっ・・・おなか一杯になったから眠くなっちゃった。ちょっと寝よう?」

 

「おいおい、まだ安全かどうかも分からな・・・って、寝るの早いな・・。」

 

ローブの二人組の片割れ、黒い髪をオールバックにした壮年の男は少女を抱きかかえ、岩陰に寝かせると、木でできた骨組みを組み立て始め簡単な天幕を張った。

暫くすると寝息が増え、砂嵐で疲れた体を休ませるように深い眠りへと落ちていった。

 

(この地で初めて出会う人たちだ、しっかり守ってあげないと・・・。)

 

石は、この洞窟に神経を伸ばしているので天幕の中の暗闇の中も何不自由なく彼らの寝顔を見ることが出来る。

彼はどこか穏やかな心で彼らを眺め続けた。




取りあえず、ダンジョンコア兼ダンジョンマスターのお話を書いてみたいと思います。
タイトルはほぼ決まっておりますが、今は未定です。

ただし、ダンジョンでハーレムにとか、ダンジョンチートで世界最強とかのタイトルにはしない予定です。

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