霊晶石物語   作:蟹アンテナ

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緑月戦争

大河国際会議の開催地での破壊工作と言う暴挙に及んだとみられるウラーミア王国は、嫌疑をかけられるも全面的に否定し、主催国であるリーヴァンストリア首長国の自作自演や片割れであるツラーミア公国の工作だと主張し多くの国に反感を買い、懲罰の為に結成された連合軍がウラーミア王国へと進軍するのであった。

 

「多くの国が集まる大河国際会議の場の攻撃を行うなど、ここまで落ちぶれたか。」

 

「かつて大河中に轟かせた魔術師の国も見る影もありませんな。」

 

「陸路で進軍中の友軍の到着は我々よりも後になりそうだな?」

 

「あぁ、川の流れに乗っている事と近道を通っている事もあるからな、しかし敵の水軍と出くわさないな・・・。」

 

「ウラーミア王国の事だ、きっと何か企んでいるに違いない。」

 

「そろそろ奴らの砦だ、国境沿いに建設されたものの一つだが、数が多く攻略に難儀するだろうな、流石は帝国の遺産という事か。」

 

「こんなのが幾つもあるんだからウラツァラル帝国残党とは言え侮れない。」

 

船を河岸に寄せると、次々と連合軍はウラーミア王国の国境沿いの砦へと殺到する。

ある程度の距離までに近づくと風切り音と共に矢が飛来し、連合軍の兵士たちの悲鳴が上がる。

 

当たり所が悪くて即死したもの、自力で矢を引き抜いて布で傷口を縛りつつ突撃を再開する者、矢が刺さったまま走り続ける者、様々な連合軍兵士が砦へと向かうが突如、矢に被弾した兵士たちに異変が起きた。

 

「あ・・あぶ・・あぶごぼぼぼ・・・。」

 

「あれ?なに・・・あれ・・あ・・・あ・??」

 

顔から血の気が引き青白くなり、紫色に染まった唇の端から泡立った唾液が垂れ流しになり、全身が痙攣し、目の焦点も定まらない。

 

「これは・・・気を付けろ!毒矢だ!!」

 

大河の自然環境では過酷な生存競争が行われており、大河の国々の持つ砦と言うのは襲撃してくる侵略者や野盗などを相手取る対人戦だけでなく、野生動物や危険な魔物を相手にする事も多いので、大型の魔物にも通用する強力な毒が使われることも珍しくなかった。

 

「くそっ、解毒は難しそうだ・・・。」

 

「介錯してやりたいが、この矢の雨の中では難しい、門の破壊はまだか!?」

 

「攻城杭を叩きこんでおりますが、破壊するまでに時間がかかりそうです。」

 

「ちっ、遠目から見ると鋼鉄ではなく石材で出来てそうなのに中身は別物か、恐らく魔力か何かで補強されているのだろう。」

 

「もう少し大きな拠点で使いたかったが、仕方があるまい、破壊の魔石を使え!」

 

何度も砦の門を打ち付けていた攻城杭を持った兵士たちは門から退避し、握り拳大の青白く発光する魔石を持った工作兵が門へと魔石を取り付ける。

 

工作兵は飛来する矢に警戒しつつも魔石に魔力を流しながら刻まれた印を操作し、安全圏まで走り、破壊の魔石を起爆する。

 

不安定かつ大容量の高密度魔石の内包魔力は、はち切れんばかりに増大し、無秩序に魔石内部を荒れ狂う。

 

魔石自体が耐えられなくなり青白い閃光と共に爆散し、その効果範囲内に在ったものを破壊の奔流が蹂躙する。

 

「よし、門を破壊したぞ!突撃ーー!!」

 

連合軍が砦の入り口に殺到すると、防壁内の広間に出て急に視界が広がった。

思いのほか開けた場所に出てしまった連合軍は前後から弓矢の攻撃に晒され、被害が広がって行った。

 

「応戦しろ!防壁上部へ続く階段を確認した!近づける者は切り込め!」

 

「梯子をかける前に門を破壊しちまったから弓兵の排除がまだ出来ていない、上を取られるのは不味い。」

 

「弓兵を排除したら中央の兵舎と思われる施設を制圧せよ!」

 

彼方此方に剣を打ち合う音が響き渡る、怒号、悲鳴、絶叫、連合軍とウラーミア王国軍共に多数の死者が出てウラーミア王国側の敗北が決まると思いきや、砦に異変が起こる。

 

「な!防壁が崩れ始めた?工兵、一体何をしたと言うのだ?」

 

「わ・・我々は何も・・・っ!?お下がり下さい!!」

 

瓦礫の山と化した防壁は、突如光を放つと、爆発音とともに激しく炎上し退路が断たれた。

 

「火攻めだと!?だがこれはウラーミア王国の兵ごと焼く事になるぞ?」

 

「奴らは正気か!?」

 

連合軍が動揺していると、突如倒した筈の敵兵や討たれた仲間が起き上がり、白濁とした目で剣や斧などを握りしめフラフラと最寄りの人間に近づき始めた。

 

「な・・・死霊術だと!?」

 

「これは・・・ただの毒矢じゃない!錬金術で作られた不浄なる毒だ!」

 

「なんとおぞましい・・・ごほ・・ごほ・・がはっ・・・こ・・この霧は?」

 

「黒い・・・霧・・・。」

 

迫りくる炎の壁、敵味方関係なく襲い掛かる動く死体と、身動きを奪う黒い霧、ウラーミア王国国境沿いの一つの砦では阿鼻叫喚の地獄絵図が繰り広げられていた。

 

全てが終わった後は、人が焼けこげる臭いの漂う瓦礫の山と、元が何だったのか分からない炭化した死体の山が残されていた。

 

「ククククク・・・・中々良い駒が手に入ったわい。」

 

まだ熱気を残す砦跡地に、黒いローブの老人が佇んでいた。

 

「さあ目覚めの時だ、我に従え。」

 

老人が杖を掲げると、びくりと炭化した死体が震えると、乾いた音を立てながら死体が起き上がり、炭化した肉が剥がれ落ちて骨だけの姿になる。

 

「ふむ、生焼けの奴も少々おるが、まぁ多少臭う程度で問題は無かろうよ。」

 

「やはり死体は良い、恐怖により動きが止まったり剣が鈍ることも無ければ、裏切ることも無い、魔石さえあれば幾らでも駒を増やせる。」

 

「別動隊がおるようだが、そちらは正規軍に任せるとしよう。」

 

「ひひひひひ・・・かつて大河を恐怖で染め上げたウラツァラル人の魔術の力・・・・いま一度思い出すがよい!」

 

黒いローブの老人・・・ウラーミア王国の王宮魔術師は、アンデッド化させた連合軍兵士やウラーミア兵を連れて部下の魔術師に駒を引き継がせるために、王都へと帰路に就く。

 

「我らの邪魔をする者は皆滅びる運命なのだ、砂漠の民と言う土人共も大河の領土を不当に占拠する蛮族共も、誇り高きウラツァラル人の前にひれ伏す事になるだろう。」

 

「あぁ、そうだ・・・砂漠の土人に敗北した奴らに活躍の場を与えてやろうでは無いか、死体は水も食料も必要あるまい・・・くくくく・・・。」

 

後日、陸路を進む別動隊は、他の拠点を攻めるも変わり果てたかつての友軍の兵士たちと遭遇しこれと交戦、撃破に成功するも士気に影響を及ぼし、その勢いは目に見えて低下していた。

 

元から攻略される事前提で作られていた砦は、自壊する事で死霊の軍勢を生み出し、ウラーミア王国は新たな駒を砂漠の集落攻略に使うのであった。


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