例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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惨劇のハロウィン

セブルスは、この現状を打破する方法を考えていた。

 

セブルスは賢い。

勉学は勿論のこと、臨機応変に対応できる柔軟さ。ルシウスが、セブルスをスリザリンに獲得できなかったことを悔やんだほどに彼を買っているのは、これが理由だろう。

 

--とは言え、この状態はさすがのセブルスでもお手上げだった。

 

 

「・・・おい。何でこいつがここに居るんだ?」

 

 

普段は感情の起伏が激しいシリウスが、このうえなく落ち着いて冷えきった声を出した。

それはそのまま、この兄弟の深すぎる溝を表しているようでもあった。

 

確かに、迂闊だった。

セブルスも油断していた節はあったのだろう。

レギュラスは基本あの別邸に居るので此方に来ることもなく、クリーチャーが世話をしている。しかし、あの別邸は長期間住むことを前提としていないので、クリーチャーがたまに足りない物をこちらに取りに来るのだ。

そこで、たまたまプリンス邸に来ていたシリウスと鉢合わせするなんて、そんな可能性まで視野に入れていなかった。

 

そこからの展開は早かった。

クリーチャーを問い詰めたシリウスは、別邸に向かうとレギュラスに杖を突きつけた。

セブルスが慌てて向かって間に入っていなければ、すぐにでも決闘が始まっていただろう。

 

「パッドフッド、落ち着け。 杖を下ろせ」

 

シリウスは従わず、むしろ杖を握る手に再度力を込めた。

 

「・・・口を挟まないでくれ。シュリル、これはブラック家の問題だ」

 

「へぇ?ブラック家を出た兄上の口から、そんな言葉が出るとは驚きですね」

 

レギュラスが嘲るような口調で言った。その瞳は憎しみに満ち溢れ、兄と同じ表情をしているが、やはりこの2人は似ていない。

シリウスが目に見えて動揺する。

 

「ダンブルドアを呼べ! こいつは死喰い人だ。 早く捕らえろよ!」

 

シリウスは吐き捨てるように言った。

 

「だから、落ち着いて話を聞け。 もうダンブルドアには話はつけてある」

 

「は!? どういう--」

 

セブルスの言葉に、シリウスの瞳は大きく見開かれた。セブルスはさらに言葉を続ける。

 

「いいか、シリウス。 こやつは闇の勢力から足を洗ったんだ」

 

「馬鹿かよ、てめぇは! 1度死喰い人になった奴が、そう簡単に戻ってこれるわけねぇだろ!」

 

シリウスが荒々しく怒鳴った。

クリーチャーは、そんなシリウスを何処か侮蔑的に眺めている。

 

「だが、レギュラスは『例のあの人』に関わる大切な物をダンブルドアに渡している。 つまり、こいつはダンブルドアにもう認められているんだ」

 

「・・・それが『例のあの人』が仕組んだ罠だという可能性は? おい、セブルス。 おまえはこいつの行動を四六時中、見張っているのか?」

 

「いや、そういうわけでは・・・」

 

「だろ!? それなら、おまえがいない間にこいつは死喰い人の元に行ってんだよ! こいつの腕には『闇の印』があるんだ! それが何よりの証拠だろうが!」

 

シリウスは、長袖で隠されているレギュラスの左腕を指さした。

 

「・・・否定はしませんよ。 この『闇の印』は消すことは出来ませんから」

 

レギュラスは左腕を押さえて、僅かに目を細めた。

 

「シリウス、気持ちは分かる。 おまえに黙ってこんなことをして済まなかった。・・・夕飯を食べながら、落ち着いて話そう。 レイがパンプキンパイを焼いているんだ」

 

宥めるようなセブルスの言葉に、シリウスは憎々しげに口を開いた。

 

「・・・俺はこいつとは絶対に一緒に食事をしない」

 

「こちらからも願い下げですね。 私はこの別邸から動きませんから、ご心配なく」

 

レギュラスも兄に負けじと皮肉を言い放つ。

兄弟の同じ色の瞳が、重なり合う。ピリピリと焼け付くような雰囲気に耐えかねて、セブルスはシリウスを連れてプリンス家本邸へと戻った。

 

今日はハロウィン。プリンス家は、メアリーとレイチェルによってフワフワとしたかぼちゃの香りに包まれていた。

 

シリウスは不貞腐れた顔のまま、椅子にどっかりと座る。

まるで子どものようなその仕草に、レイチェルは呆れたようにため息をついた。

 

大皿に溢れんばかりのパンプキンパイ。冷たいかぼちゃのスープ。かぼちゃのカップケーキ。かぼちゃのグラタン。かぼちゃプリン。…絵に書いたようなかぼちゃ尽くしだ。ここまでやらんでも、とセブルスは思ったがレイチェル曰くホグワーツの再現らしい。成程、可愛らしい悪戯だ。

 

「…チキンはないのか?」

 

「わがままなワンちゃんのために今用意してるわよ」

 

結婚した当初は、レイチェルが料理を手伝う度に物凄い勢いで恐縮していたメアリーだが、今では楽しそうに2人で料理をしている。

 

「あうー!」

 

子ども用の椅子に座ったシャルロットが料理に手を一生懸命伸ばしている。

あまりの微笑ましさに、セブルスの眉間の皺も緩まる。

 

抱えている問題は未だ山積みだ。

しかし、セブルスは今とても幸せだった。

 

 

願わくば、この幸せがずっと--。

 

 

その瞬間だった。

白い何かが、するりと部屋に現れた。

 

不死鳥の守護霊。

この守護霊の使い主は、ダンブルドアだ。

不死鳥はゆらりと羽を翻すと、ダンブルドアの声色で言葉を告げた。

 

 

『ヴォルデモート卿が消滅した。ジェームズとリリーが亡くなった。ハリーは無事。そこから動くでないぞ』

 

痛い程の沈黙が訪れた。

ぽとりとパンプキンパイが落ちたのは、誰の手からだっただろうか。

 

 

 

 

 

 

 

「おい、やめろ!ダンブルドアの言葉を聞いただろうが!」

 

セブルスとレイチェルは、2人がかりで今にも飛び出そうとするシリウスを抑えていた。

あまりの騒々しさに、別の部屋で静かに食事をしていたダリアとエルヴィスもやってきた。ダリアは、泣きじゃくるシャルロットを必死にあやしている。

 

「プロングズが・・・ジェームズが・・・! ジェームズとリリーが死んだんだぞ!!」

 

「いいから落ち着いてよ、シリウス! お願い!」

 

レイチェルが今にも泣きそうに叫んだ。

その時、ふくろうが日刊預言者新聞を咥えて部屋に入ってきた。見出しには、『例のあの人、消滅!』と大きく書かれている。

 

「何故ここで待機する必要がある!『例のあの人』は死んだんだろ!」

 

シリウスはとうとう2人の腕を振り切ると、扉を開けた。が、思わずシリウスの足が止まった。

 

扉の前には、アルバス・ダンブルドアが静かに立っていた。

 

ダンブルドアは、シリウスまでここに居るのが予想外だったのか、僅かに目を見開いた。

が、やがていつものような飄々とした表情に戻る。

 

「・・・こんばんは、セブルスにレイチェル。そして、シリウスも来ておったのじゃな。あがってもよろしいかな?」

 

穏やかに、ダンブルドアは微笑んだ。

 

 

 

 

 

 

ダンブルドアは、勧められてパンプキンパイを口に運んだ。

 

少し落ち着きを取り戻したレイチェルが、メアリーに命じて紅茶を入れさせた。

 

「校長先生・・・。 一体何があったのですか?」

 

「美味しいパンプキンパイをありがとう、レイチェル。先程、守護霊で伝えた通りじゃ。早くも日刊預言者新聞が号外を出したらしいのぅ。直に世間はお祭り騒ぎになるじゃろう」

 

「ふざけんなよ! 何がめでたいものか!! ジェームズとリリーが死んだんだぞ!」

 

プリンス家に、シリウスの慟哭が響く。やがて、それは啜り泣きのような声に変わった。

 

「俺が・・・俺が・・・『秘密の守り人』を・・・」

 

シリウスはそこまで言うと、はっと顔を上げた。

 

「そうだ・・・。ワームテールは・・・ピーターは!?ピーターは無事なのか!?」

 

シリウスの言葉に、セブルスもハッと息を飲んだ。そして、ポッター夫妻の死に意識が行き過ぎて、同じ友人であるピーターのことに今の今まで気が回らなかったことを恥じた。

 

「何故そこでピーターの名前が出るのじゃ?」

 

ダンブルドアが静かに問う。

 

「校長先生! ピーターが『秘密の守り人』だったんです! 俺がこないだあいつと代わったんだ! このことはセブルスとレイチェルに相談して決めたから、この2人も知ってる!」

 

「何じゃと!?」

 

ダンブルドアは驚き、そしてセブルスとレイチェルを見た。2人は頷いて、肯定を示した。

 

「なるほど。ここにシリウスが居たのはそういうことか。 おかしいと思ったんじゃ。 ・・・すぐに騎士団に連絡を。 ピーターが死喰い人に捕らわれて、拷問を受けた可能性が高い」

 

ダンブルドアはてきぱきと指示を出した。

『例のあの人』の消滅に世間が浮かれる中、残っていた騎士団のメンバーはピーターを捜索した。が、すぐに捜査は打ち切られた。

 

調べているうちに、ピーターは連れ去られたのではなく、自ら姿を消した(・・・・・・・)ということが分かったからだ。

 

これには、セブルスもレイチェルもシリウスもショックを隠せなかった。事実上の親友の裏切りだった。

 

「あたしの・・・せいだ。 あたしがあの時、ピーターを『秘密の守り人』にすることに賛成したから! あたしがリリーとジェームズを殺したんだ!」

 

いつも強気なレイチェルが、子どものように泣きじゃくる。セブルスは宥めるように、レイチェルを抱きしめた。

もともと負けん気の強い彼女が、騎士団で表立って戦えないことを気に病んでいたのは、セブルスも知っていた。それなのに、何気ない自分の意見で、結果的に親友を追い詰めてしまっていたのだ。

 

「提案したのは、俺だ。 レイチェルは悪くない」

 

シリウスが苦しそうに呻いた。が、その言葉がレイチェルに届いているのかどうかは疑問だった。

 

「よいか、決して軽はずみなことをするでないぞ。 特に、シリウス。 君が、ハリーの後見人であることを忘れてはいないな?」

 

ダンブルドアは厳しい声でそう言うと、プリンス邸を立ち去った。

騎士団のリーダーとして、『例のあの人』が消滅してもやることがたくさんあるのだろう。

 

シリウスはそのまま、プリンス邸に泊まった。まさかそこまで浅慮ではないと思っていたが、セブルスは一応シリウスを見張りながら寝た。

 

 

 

次の日の朝、レイチェルの姿がどこにもなかった。

 

セブルスはもちろん、シリウスも騎士団のメンバーも死に物狂いで彼女を探した。

 

夕方、レイチェルは見つかった。

彼女の活躍で、ピーターはアズカバンに送られ『吸魂鬼のキス』を待つ身となった。

 

しかし、その犠牲はあまりにも大きい。

追い詰められたピーターは、苦し紛れに強力な爆発呪文を使った。

不意を突かれたレイチェルは、それに巻き込まれた。そして、関係のない12人のマグルも。

 

到着したセブルスとシリウスが目にしたのは、ズタズタになったマグルの死体と。

 

血塗れで辛うじて浅い呼吸を繰り返す、レイチェルの姿だった。

 




ハリー「僕の出番まだ?」

親世代の話は、次話で終わりです。長いプロローグだったぜ。
ハリポタ全巻購入しました( ´ω` )

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