例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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賢者の石編
11歳の誕生日


目覚まし時計の、柔らかなオルゴール音楽が部屋に流れる。

 

天蓋の付いたベッドの上で、少女がまだ起きたくないとばかりに寝返りを打つ。その拍子に長く豊かな金髪がベッドに広がった。

すぐ近くの木目調のサイドテーブルには、白い羊皮紙で出来た手紙が置かれている。何度も何度も読み返したらしく、端が少しよれている。

封筒の宛先には、『プリンス邸 3階右の部屋 シャルロット・プリンス様』と書かれていた。

 

 

「シャル! いつまで寝ているの。 早く準備しないとハリーが来るわよ!」

 

 

曾祖母の厳格な声が階下から響く。

まだ眠たい。シャルロットは、シルクの枕に顔を押し付けて唸る。

ハリー?どうして?

ぼんやりとした寝起きの頭が覚醒するまで、ちょっとだけ時間を要した。

 

8月6日、今日は私の誕生日だ!

 

シャルロットは、驚かされた子猫のように飛び起きると、慌ててパジャマを脱ぎ始めた。

 

 

 

 

 

 

 

水色のワンピースを身に纏い、シャルロットは大急ぎで階下へと向かった。

輝くシャンデリアの下、既に家族は朝ご飯を摂っていた。

うっすらと蛇の彫刻が施されたテーブルには、熱々のハムエッグとトースト、彩りの良いサラダが並んでいる。

 

「・・・朝からバタバタと足音を立てるな。 騒々しい」

 

不機嫌そうな声を上げて、父親--セブルス・スネイプはコーヒーのカップを傾けた。

テーブルには、グチャグチャとしたメモが塗れた資料が広がっている。

短い黒髪はボサボサで、眉間に皺は寄り、隈もできている。

セブルスが自身の手がけている研究が行き詰まっている時の特徴だ。恐らく徹夜だったのだろう。

 

「お嬢様、今朝はコーヒーと紅茶どちらになさいますか?」

 

屋敷しもべ妖精メアリーが、忙しげにこちらに走ってくる。

 

「紅茶をお願い」

 

メアリーは頷くと嬉しそうに、再びキッチンへと走っていく。

 

寝癖のついたまま、紅茶を飲むシャルロットにダリアは眉を吊り上げると、杖を一振りする。すると瞬く間に、櫛も通されず散らかっていた金髪は美しく編み込まれた。

ご飯を食べ終わる頃、セブルスがラッピングされた1冊の本を差し出した。

 

「11歳の誕生日プレゼントだ」

 

開けてみると、シャルロットが前から欲しがっていた『魔法薬全図鑑』だった。

 

「嬉しいわ。 ありがとう、パパ!」

 

シャルロットの嬉しそうな声に、セブルスも眉間の皺を和らげる。

そして、我が子の望んだプレゼントのチョイスに少し苦笑いをしながら、再びカップを口に運んだ。

 

「パパではなく、父上でしょう。 全く・・・少しはドラコを見習いなさい。」

 

同い年の幼馴染みを引き合いに出され、シャルロットは少し頬を膨らます。だが、ダリアからのプレゼントを見た途端そんな機嫌も吹っ飛んだ。

深緑色に銀の刺繍があしらわれたワンピース。有名な衣服店のオーダーメイドらしく、とても可愛らしい。

 

「ホグワーツの入学式に着て行きなさいな。・・・そうそう、ルシウスから高級チョコの詰め合わせが届いていたわよ。 後でお礼の手紙を出しなさいね。」

 

「ルシウスおじ様から? わかったわ、曾祖母様(ひいおばあさま)

 

シャルロットは無邪気に微笑むと、ダリアは満足げに頷いた。

 

何年か前に夫のエルヴィスを亡くしたダリアであるが、シャルロットの母親代わりをしているせいか雰囲気はまだまだ若々しい。きちっとしたローブを着こなし、髪を結い上げたその姿はまさに貴族然としている。

 

セブルスがちらりと、時計を確認する。そろそろシリウスとハリーが来ても良い時間だ。

 

今日はシリウスがハリーとシャルロットを、ダイアゴン横丁に連れて行ってくれる予定だった。

 

「ねぇ、今日はドラコは一緒じゃないのかしら?」

 

「ん?・・・あぁ、ドラコは両親とダイアゴン横丁に行くらしい。向こうで会うんじゃないか?」

 

夜のシャルロットの誕生日会はドラコも来てくれるが(無論ドラコの両親は来ない)、やはり幼馴染みの三人で買い物に行きたかったと少し肩を落とす。

そんなシャルロットの様子に、セブルスは違う解釈をしたらしい。

 

「すまないな、一緒に買い物に行けなくて。 どうしても論文が終わらなかったんだ」

 

心底申し訳なさそうに言うセブルスに、シャルロットは首を振る。

 

「私、ハリーとダイアゴン横丁行けて嬉しいから大丈夫よ」

 

「・・・そうか。 明日は、何とか暇をとるから一緒に聖マンゴに行こう。 ママに・・いや、母上に11歳になった挨拶に行こうな」

 

ダリアを横目で見て、セブルスが慌てて言い直す。

 

その時、プリンス家のインターフォンが軽やかな音楽を奏でる。

まもなく扉が開きシリウスとハリーがひょこりと顔を出した。

 

「遅くなって悪ぃ! お誕生日おめでとう、シャル!」

 

シリウスは満面の笑みで、シャルロットを抱きしめた。ふわりと高そうな香水が、鼻をくすぐる。

今日は休日だからか、ラフなジャケットにダメージジーンズというマグルの服装をしているシリウスは、三十路に手が届いても相変わらずハンサムだ。(その服装にダリアが何か言いたげな顔をしたのは言うまでもない。)魔法省でも、多くの女性職員が彼にメロメロなんだとか。

 

「おめでとう、シャル。 セブルスおじさんから誕生日プレゼントは何もらったの?」

 

同じくこちらもマグルの格好のシャツとジーンズを身に纏い、くしゃりとした父親そっくりの黒髪と眼鏡。そして、母親譲りの緑色の瞳をした少年--ハリー・ブラックが、シャルロットの頬にキスをした。

 

「えぇ! 見てよ、この『魔法薬全図鑑』! この素晴らしさが貴方に分かるかしら? 最新の魔法界の薬学情報だけでなく、マグルの新植物まで網羅されていて--」

 

きらきらと瞳を輝かせて捲し立てるシャルロットに、ハリーは理解できないとばかりに呆れる。

 

「また本!? 本なら、シャルはもうたくさん持ってるじゃないか。 箒を買ってもらえばよかったのに。 ドラコも自分の箒を持っているし、これで箒を持ってないのは君だけだよ」

 

ちなみに一週間前に誕生日を迎えたハリーは、シリウスからニンバス2000という高い箒を買ってもらったらしい。

ドラコにも言えることだが、男の子は本当にクィディッチに目がない。

 

「うわ、酷い顔だなぁ。 何としてでも夜のパーティーまでには仕事終わらせろよ。 仕事にしか目がない父親は嫌われるぞ」

 

テーブルに広がる書類を眺め、シリウスが揶揄うようにニヤニヤと笑う。

 

「おまえに言われんでも分かってる。 そういえば、リーマスも今夜は来れるらしいぞ。…新学期前だからな、レギュラスは忙しくて来れないらしい」

 

レギュラスの名に、シリウスはふんと鼻を鳴らす。何か言いたげだったが、子ども達の前だからか遠慮したようだ。

 

シャルロットにとって、レギュラスは親戚のお兄さんのような存在だ。ちなみに、実際には薄いながらも血縁関係はあるので親戚という表記は間違ってないわけだが。

 

レギュラスは昔、闇の勢力に入っていた時代があるらしい。そして、シャルロットは自身の母は闇の勢力に襲われたと教えられている。未だに、母は目覚めない。

だが、それとこれは別問題だとシャルロットは考えている。過去はどうあれ、シャルロットは優しくて博識な彼が好きだった。

 

「シャル、あまりシリウスに甘えるんじゃないぞ。 多めにお金を入れておいたから、そこから使いなさい」

 

セブルスは重めのお財布を、シャルロットに渡した。

 

「よし、じゃあ行くか」

 

「そういえば、ダイアゴン横丁までどうやって行くのかしら?シリウスおじさんとハリーはここまで何で来たの?」

 

シャルロットの問いに、シリウスとハリーは悪戯っぽく顔を見合わせた。

 

 

「「もちろん、空飛ぶオートバイさ!」」

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ…うぇっぷ……」

 

先程食べたトーストとハムエッグが逆流しそうだ。

 

「大丈夫? そんなにパパの運転荒くなかったと思うんだけど…」

 

ダイアゴン横丁の入口でグロッキーになるシャルロットの背中を、ハリーは擦る。

 

「あんたたち、どんな三半規管してるの? 少なくとも私の常識では、バイクの運転で宙返りは…うぷ」

 

「わりぃ、わりぃ。 ちょっと調子乗りすぎた。 そういえば、おまえのパパも乗り物酔いがしやすい(タチ)だったなぁ」

 

シリウスは学生時代のセブルスの壊滅的な箒技術を思い出して豪快に笑った。母親はシーカーだったというのに、残念なことにこの少女の身体的センスは父親似らしい。あまり悪びれていないシリウスを、シャルロットは恨ましげに睨みつけた。

 

こうしてシリウスのバイクのサイドカーで、束の間の空中ドライブを楽しんだシャルロット一行は、久々のダイアゴン横丁に足を踏み入れた。

まさに魔法使いの世界。

いつ来ても、ここは活気がある。

 

新学期前のせいか、物珍しそうにお店を覗く人々が多い。魔法使いの子供の付き添いで来た、マグルの両親も多いのだろう。

マグルと思わしき女性が、店に飾られているドラゴンの心臓を怖々見つめているのを見て、漸く体調が戻ってきたシャルロットはくすりと笑った。

 

 

「まずは、マダム・マルキンでローブを作らなきゃな。 待ってる間に教科書買っておいてやるから行ってこい」

 

シリウスに促され、シャルロットとハリーはマダム・マルキンの洋装店へ向かった。

 

「いらっしゃいませ」

 

愛想の良い笑顔を浮かべた小太りの魔女が、2人を迎えた。

混雑していたが、そんなに待つことなく採寸台へと通された。

 

「お嬢ちゃんとお坊ちゃんも、ホグワーツ?」

 

「はい。そうです」

 

「そう。 先ほど家族で来たブロンドの髪の男の子も、ホグワーツと言っていたわ。 今日は多いわねぇ」

 

てきぱきと寸法を図りながら、魔女はそう言った。

思わず、シャルロットとハリーは顔を見合わせた。

 

「もしかして、ドラコかな?」

 

「ありえるわね。 今日、ドラコも家族とダイアゴン横丁に来るってパパが言ってたもの」

 

「僕、ドラコは好きだけどドラコのパパとママは苦手」

 

ハリーはちょっとだけ、顔を顰めた。

 

ローブの採寸が終わると、シリウスと合流して鍋や羽ペンを買いに行った。ハリーもシャルロットも、一番良い物を購入した。

 

「後は・・・杖だな。 その前に、通り道だからイーロップのふくろう百貨店に寄ろう。シャルにも誕生日プレゼントとして買ってやるから好きなのを選べよ」

 

「本当に!?」

 

シリウスはにっこり笑って頷いた。

 

「ホグワーツに行くならふくろうを持っておいた方がいい。 便利だしな」

 

イーロップのふくろう百貨店では、数多のふくろうが店内を滑空していた。騒がしく落ち着きのない店内で、どうにか目を凝らしてフクロウを吟味する。

 

だいぶ長い時間ハリーとシャルロットは共に悩んだ。結局ハリーは真っ白なふくろう、シャルロットは真っ黒なふくろうを買って貰った。

アジア人の黒髪のような翼をもつそのふくろうに、シャルロットはセレスと名をつけた。ハリーは悩んだ末にヘドウィグと名付けていた。

 

 

 

 

 

 

 

オリバンダーの店は、薄暗く埃の積もった小さな店だった。雑多に杖の入った箱が積み上げられている。

店主のオリバンダー老人は、月のようにキラキラした大きな目で、品定めをするようにシャルロットとハリーを見た。シャルロットは少し居心地が悪くて目を逸らした。

 

「なんと…貴方がハリー・ポッターさんですか。 噂でお父さんのご友人に引き取られたと聞いておりましたが、シリウス・ブラックの元にいたのですね。 えぇ、ハリーさん。 貴方のお父さんの買った杖、お母さんの買った杖。 覚えていますとも。あれは、28センチのマホガニー…」

 

「じいさん、悪いけど長話は今度で。 この後も予定があるんだ」

 

シリウスが軽く咳払いをして、オリバンダーの演説を遮った。

オリバンダーは気を悪くした様子もなく、そそくさとハリーに近付いた。

 

「杖腕は?」

 

「えっと、右利きです」

 

ハリーの杖選びは、時間がかかった。オリバンダー曰く、難しい客だったらしい。

柊で、芯は不死鳥の尾羽。何やら、芯が『例のあの人』と同じと不吉なことを言われて、ハリーは少し傷ついたようだった。

 

「さて、次は貴方です。 貴方は…シリウスの娘ですかな?」

 

「いえ、シリウスおじ様は付き添いです。 シャルロット・プリンスと申します」

 

シャルロットの自己紹介に、オリバンダーは驚いたように目をぱちくりさせた。

 

「何と! プリンス家は血が途絶えたと思っていましたが…あぁ、いや失礼。 それで貴方の杖腕も右ですかな?」

 

「えぇ」

 

オリバンダーが驚くのも、無理はない。

 

プリンス家は、セブルスの母――つまりシャルロットの祖母――のアイリーン・プリンスの家出により途絶えたと思われている。

セブルスがプリンス家に戻ったことを知る者は少ないし、セブルス自身も魔法薬研究やホグワーツではセブルス・スネイプと名乗っている。

知らなくて当然だ。

 

シャルロットは促されるままに、あれやこれやと杖を試した。一つ目の杖では奥の棚が崩れ、二つ目の杖では埃の溜まった窓が割った。

 

「うーむ、では次はこれを。 ブドウの木、セストラルの尾、26センチ」

 

オリバンダーから次の杖を受け取る。と、手の先からじんわりと温かな熱が広がる。

 

この杖だ。

 

シャルロットは確信すると、杖を軽く振った。

杖先から暖かな虹色の光が飛び出し、店内を染め上げた。

 

「ブラボーー!」

 

オリバンダーに大袈裟に拍手され、照れ臭そうにシャルロットは笑った。

シリウスが杖もプレゼントすると言ったが、長い押し問答の末、シャルロットは自分で払った。あまりシリウスに甘えたら、後でセブルスに怒られる。

 

「ねぇ、パパ。 ちょっとだけクィディッチ専門店寄っていい?」

 

支払いが済み、オリバンダーの店を出る時ハリーが言った。

 

「またか? こないだ箒を買ったばかりだろうが」

 

「わかってるよ。 だから、ちょっと見るだけ。 いいでしょ?」

 

自身もクィディッチ好きであるシリウスか頷いた、その時。

 

偶然目の前を見知ったブロンドの髪の男の子が通り過ぎた。

 

 

「「ドラコ!」」

 

 

シャルロットとハリーの声が揃う。

声をかけられた男の子、ドラコ・マルフォイは振り向く。と、冷たいその顔立ちがまたたく間に、笑顔に変わった。

 

「ハリー! シャル! きっと、会えると思っていたよ! 会うのいつぶりだっけ?」

 

「僕の誕生日パーティーで集まって以来だから、一週間ぶりかな。みんな、ホグワーツの準備でバタバタしてたもんね」

 

「そうか。 お誕生日おめでとう、シャル!」

 

「ありがとう、ドラコ。 もう買い物は済んだの?」

 

「あぁ、全て終わって今父上と母上と食事を済ませたところさ」

 

わいわいと楽しそうに三人は話し始める。ドラコの後ろに、両親が控えているのを見つけると、シャルロットは近付いてスカートを摘み挨拶をする。

 

「お久しぶりです。 ルシウスおじ様、ナルシッサおば様。 誕生日プレゼントのチョコレートをありがとうございました。 お礼の手紙を書こうと思ったのですが、今日会えて直接お礼を言えて光栄です」

 

貴族育ちのダリア仕込みである挨拶をすると、ルシウスは満足気に頷いた。

普段は口煩く思っている曾祖母の教育が無駄でないことを、シャルロットはマルフォイ家の人々と関わる度に感じる。

 

「喜んでもらえたなら何よりだ。君がどこの寮になるかは分からないが、スリザリンに入れたなら(・・・・・)ドラコを頼むぞ。」

 

尊大なルシウスの言葉に、シャルロットは曖昧な笑みを見せた。

 

「今日はセブルスと一緒じゃないのかしら? 誰と一緒に来たの?」

 

ナルシッサは彼女にして珍しく朗らかにシャルロットに問いかけた。娘のいないナルシッサは、シャルロットの血筋に思うところはあるものの、礼儀のしっかりしている彼女を気に入っていた。

 

「えぇ。父は仕事が忙しくて。…今日はシリウスおじ様に連れられてダイアゴン横丁に来ました」

 

「…ほぅ?」

 

シャルロットの言葉に、ルシウスは目を細めた。そして、少し離れた所にいるシリウスに視線を投げかける。

シリウスもまた、敵対心のこもった視線を返した。

 

「これはこれは、ブラック。 先日は、ハリーの誕生日会でうちの息子が世話になりましたな。お礼を言うのが遅れてすまない」

 

「はは。 水くさいな。マルフォイ。 子ども同士、仲がいいのが一番だろ」

 

お互いどうにか親しげな笑みを貼り付けると、それらしい会話を繰り広げた。

しかしマルフォイの笑顔はあまりにも完璧すぎて歪であるし、シリウスの唇の端もひくひく引き攣っている。

 

「父上、これからハリーとシャルとクィディッチ専門店へ行ってもいいですか?」

 

ドラコの言葉に、ルシウスの顔が曇る。

 

ルシウスとしては、友人(・・)の娘であるシャルロットはともかく、ハリーは主君を打ち破った人物である。おまけに義父のシリウスは不死鳥の騎士団の元メンバーなのだ。

闇の帝王亡き今、ハリー・ブラックと親しいのは自分にとって利益がある。しかし、ルシウスは内心、複雑だった。

 

それもこれも、幼いドラコをプリンス邸に遊びに連れて行き、偶然居合わせたシリウスとハリーに出会ってしまったことが運の尽き。

幼い子どもたちが仲良くなることを、大人が止められるわけがない。

 

「…あぁ、行っていいぞ」

 

ドラコの顔がぱあっと明るくなる。

何はともあれ、ルシウスは息子に弱い。駄目と言えるわけがなかった。

 

「ねぇ、それならドラコも一緒にそのままシャルの家へ行こうよ。 どうせ夜はシャルの家に行く予定だったんでしょ? ねぇ、パパ。サイドカーにもう1人乗せられるよね?」

 

ハリーの提案に、一瞬だけシリウスは面食らった。が、頷いた。

 

「マルフォイ、それで構わないか? ドラコのことは、帰りも私が責任を持って煙突飛行で届けよう」

 

「…よろしく頼む」

 

親同士の表面上は和やかな会話を終えると、子どもたち三人は早速クィディッチ専門店へ走っていく。

 

ナルシッサは息子との買い物が途中で終わってしまったことに、寂しそうな顔をした。しかし、楽しそうな息子の様子を見て、考え直したらしい。

シリウスに形式上の会釈をすると、夫と共にさっさとその場を後にした。

 

三人はクィディッチ専門店へ行くと、新型の箒を見たり、箒の手入れ道具を選んだ。ドラコは、クィディッチの雑誌を購入していた。

シャルロットは自分の箒を持っていないので、後ろで2人の買い物を見ていた。

 

お店を出た後は、シリウスが三人に大きなナッツ・チョコレートアイスを買ってくれた。

三人はホグワーツでの話に花を咲かせながら、ベンチで食べた。

 

「組み分けってどうやってやるんだろうね? パパに何回聞いても教えてくれないんだ」

 

「僕の父上もだよ。きっと何か簡単なテストをするんじゃないかな?」

 

「テスト? でも、マグル生まれの子だって居るのよ。 いきなりテストなんて出来ないと思うわ」

 

三人の話を、シリウスは楽しそうに聞いていた。

暗黙の了解として、代々組み分け帽子のことはホグワーツに行ってからのお楽しみなのだ。

 

「…ご馳走様でした。 シリウスおじ様」

 

一番に食べ終わったドラコが、シリウスにお礼を言った。

 

セブルスのおかげでアズカバンは逃れたものの、元死喰い人であるマルフォイ家に、シリウスは良い感情を持っていない。それは子どもであるドラコに対してもそうだった。

しかし、息子の幼馴染にキツく当たるわけにいかない。そうして接していくうちにある程度の情が芽生えているのもまた事実だった。

 

「よし。 それじゃあ、買い物も済んだしプリンス家に行くか! ドラコ、バイクなんて乗ったことねぇだろ?」

 

「バイク…?」

 

予想通り、きょとんとしたドラコにシリウスは、自慢げにニヤリと笑った。

 

「俺の持ってる最高にかっこいい乗り物だよ! 乗せてやるから、たっぷり楽しめよ!」

 

「ゆっくり運転でお願い」

 

シャルロットは未だ食べかけのアイスを喉奥に流し込むと、間髪をいれずにそう口を挟んだ。

 

こうして、4人は夕焼け空を翔る美しいドライブを楽しんだ。

 

 

――ちなみに、後からマグルの乗り物で空を飛んだという話を息子から聞いたマルフォイ夫妻は、ショックで失神しそうになるわけだが・・・それはまた別の話である。

 




マルフォーイの性格を大幅に改変。

そりゃ彼だって幼い頃からまともな友人に恵まれたら、イイ奴になります。もちろん純血主義だけどね。

賢者の石編、開幕です。何とか更新頻度を上げていきたい所存。

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