例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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ドタバタの新学期

 

汽車が、出発した。

手を振る親たちもどんどん遠ざかり、瞬く間に汽車は速度を上げた。

 

去年ホームまでリーマスに着いてきてもらったシャルロットは、今年も同様に彼に見送りに来てもらった。

 

身なりの貧しいリーマスを見て、早速パンジーが「もしかして、あれがあなたのパパ?」と言ってきたが、名付け親だと返答した。

ドラコも何度かリーマスに会っているため、揶揄おうとしたパンジーをすぐに止めてくれた。

久々の再会早々にパンジーに嫌味を言われたシャルロットだが、彼女がドラコと仲のいい自分に嫉妬をしているだけだと分かっていたので気にしてなかった。

 

しかし、シャルロットはもどかしい気持ちになった。

セブルスは、ホグワーツでは魔法薬の教師だし全魔法薬研究会にも所属している、自慢の父親だ。それを友達に公表できないのが残念だ。

 

結局、意地を張ったままでセブルスとはろくに話もしていない。厳しい父親だが、こんなに長く反抗したのは初めてだった。

ホグワーツに行っても父親は居るわけだが、仲直りすればよかったとシャルロットは後悔していた。

 

車内販売が回ってきた頃、シャルロットは席を立った。ドラコにどこに行くのかと問われたが、トイレと誤魔化した。

たくさんのコンパートメントを覗きながら、汽車内を進んだ。

目当ての人物はすぐに見つかった。しかし何故か彼女は1人だった。シャルロットは首を傾げた。

 

軽くノックをしつつ、コンパートメントの扉を開ける。

 

「ハーマイオニー? ハリーとロンは一緒じゃないの?」

 

ハーマイオニーはシャルロットの姿を見ると、一瞬ぱあっと顔を輝かせた・・・がすぐに不安そうな顔をした。

 

「あぁ、シャル! 聞いてちょうだい。ハリーとロンがいないのよ!」

 

シャルロットは空いてる座席に座った。ちょうどハーマイオニーの真正面だ。

 

「・・・本当に? よく探したの?」

 

「えぇ、もちろん。 でもどこにもいないのよ」

 

ハーマイオニーが困ったように眉を寄せる。

 

「どうせハリーのことだから、何か悪戯して汽車に間に合わなかったんじゃないかしら」

 

「・・・ありえるわね」

 

シャルロットの言葉にハーマイオニーはちょっぴり笑った。

 

最初は何か事故に巻き込まれたのかとハラハラしたハーマイオニーとシャルロットだが、ハリーにはヘドウィグもいるし、何か困ったら連絡をしてくるだろうと結論づけた。

 

「ところで、シャルは何故ここに来てくれたの? その・・・スリザリン生たちはいいの?」

 

ハーマイオニーの遠慮がちなその言葉に、シャルロットは思い出したように手をぽんと叩いた。

 

「そうだわ! これをあなたにあげようと思って。 こないだ誕生日パーティーに来てくれたお礼よ」

 

シャルロットはローブのポケットから薄ピンク色の小瓶を取り出すと、ハーマイオニーに手渡した。

 

「これ、何?」

 

「スリークイージーの直毛剤。 ちなみに発明者はハリーのおじいちゃん。 1滴で驚くほど髪がまとまるわよ。 それ使ってレギュラスおじ様の元に質問に行きなさいな」

 

「な、なんで…そこでブラック先生の名前が出るのかしら?」

 

目に見えてハーマイオニーが動揺した。

すると、シャルロットは何を今更と言いたげに首を傾げた。

 

「だって、あなたレギュラスおじ様のことが好きなんでしょう?」

 

「…シャル、あなたってとてもストレートな人ね」

 

あっさりとシャルロットに言われ、ハーマイオニーは頬を真っ赤にしたまま、目の前の彼女を恨ましそうに睨んだ。

 

「…確かにブラック先生は素敵だし憧れてるけど、好きなんかじゃないわよ」

 

認めないハーマイオニーに、シャルロットは笑いを噛み殺しながら眉を吊り上げた。

 

「あら、そうなの? じゃあ、この直毛剤はいらないのかしら?」

 

「いいえ、有り難く頂くわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2人がガールズトークに弾む少し前。

 

ハリー・ブラックとロナルド・ウィーズリーは、キングズ・クロス駅で呆然としていた。

時刻は11時を少し過ぎた。汽車は出発してしまった。

結局、今朝まで『隠れ穴』に滞在していたハリーはウィーズリー一家と共にキングズ・クロス駅に向かい、そして9と4分の3番線の改札に何故か弾かれて…今に至る。

フクロウと大きいカートを持っていたハリーとロンはそれはそれは目立った。

 

「あーあ…ハリー。 汽車、出発しちゃったよ」

 

ロンが頭を抱えて呻いた。

 

「何でだよ。 ホームに入れないなんて聞いたことない! とにかくホグワーツに向かわなくちゃ」

 

すると、ロンはウィーズリー家の空飛ぶ車でホグワーツまで行くことを提案した。

その提案に、ハリーは思わず楽しそうにニヤッと笑ったが首を振った。

 

「それはすごく魅力的だけど…人に見られたらまずいな。 残念ながらロン、マグル界では車は空を飛ばないんだ」

 

「じゃあ・・・どうする?」

 

「僕の家に行こう。 バスに乗ればすぐなんだ」

 

グリモールド・プレイス12番地はロンドンに位置している。ハリーたちは取り敢えず一旦そこに向かうことにした。いつもはシリウスの姿くらましでキングズ・クロス駅まで行っているため、バスに乗るのは久しぶりだった。

空飛ぶ車は却下されたものの、マグルのバスに乗るのはロンは初めてだったようで彼的にはかなりの大冒険だったらしい。

 

「さあ、着いたよ。 僕の家だ」

 

ハリーはすり減った石畳を歩くと、ロンが慌ててハリーの肩を掴んだ。

 

「お、おい! 一体どこにハリーの家があるんだ?」

 

「あ、そうか。 君、僕の家に来るの初めてだったね。 これを見て」

 

ハリーはすっかり忘れてた、と笑うと、ロンにメモを渡した。メモには『グリモールド・プレイス12番地』と書かれている。途端に、ロンの目の前に家が現れた。否、見えるようになったという方が正しいのだろうか。

古びているが掃除の行き届いた扉には、銀色の蛇の形を模したドア・ノッカーが付いている。

 

ハリーが扉を開くと、そこはブラック邸だった。

名前の通り黒を基調とした家具が置かれ、どこもかしこにも蛇の装飾が成されている。ハリー曰く、これでもかなり減った方らしい。

 

扉の開いた音を聞いたのか、リビングルームの掃除をしていたらしい屋敷しもべ妖精のアンが走ってきた。そして、ハリーの姿を見ると、元々大きいガラス玉のような瞳をさらに見開いた。

 

「ハリー坊っちゃま! どうなされたのですか? 今日はホグワーツに出発する日では?」

 

「友達の前でその呼び方しないでよ! …そのはずだったんだけどね、何故かホームに入れなくて。 誰か大人に連絡とりたいんだ。 パパは仕事忙しいかな?」

 

ハリー坊っちゃまというフレーズがツボにはまったのかゲラゲラと笑っているロンを睨みながら、ハリーが言った。

 

「暫しお待ちを!」

 

アンはバチンと音を立てて姿くらましをした。

アンの連絡はシリウスにはすぐに届いたらしく、彼は午後休みをとってホグワーツまで送ってくれることになった。

 

3人暮らしと思えないほど大きなキッチンで、ハリーとロンがアンの作ったベーコンサンドウィッチを食べていると、暖炉が青く燃え上がった。そして、きっちりと仕事用の黒いコートを着こなしたシリウスが現れた。

 

「ハリー! アンから連絡をもらったよ。 一体乗り遅れたとはどういうことだい?」

 

シリウスは慌てたようにハリーの元に駆け寄り、そしてロンにも気が付いた。

 

「君も汽車に乗り遅れたのか、ロン? 俺がホグワーツに送って行くが、一応アーサーとモリーにも連絡を入れとくか」

 

「おかしいんだ、パパ。 9と4分の3番線に僕たちだけ入れなかったんだよ。 その前のパーシーとかジニーは入れたのに」

 

ハリーの言葉に、ロンもコクコクと頷いた。

 

「そんな話は聞いたこともないな。 取り敢えず、出発しよう」

 

「姿くらまし? それとも、煙突飛行粉?」

 

ハリーが荷物をまとめながら訊いた。

 

「いや、ホグワーツでは両方とも許可がもらえないと出来ない。そんなことしてる時間ないからな、少し遠いがバイクで行こう」

 

シリウスはヘルメットを2つこちらに投げながら言った。

 

空飛ぶ車は使わなかったものの、結局空飛ぶバイクという何とも大差ない結果となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

渋滞がない空の旅といえど、ホグワーツに着いた頃は陽もとっぷり落ちていた。

 

校門ではセブルスが待っていた。

 

シリウスのバイクが無事に着地すると、セブルスが門を開く。

 

 

「全く…汽車に乗り遅れるとは何と愚かしい。 自分の寮の生徒でも減点したいくらいだ」

 

 

セブルスはやれやれといった顔で嫌味を吐いた。

 

「違うんだよ、セブルスおじさん。 何故かホームに入れなかったんだ!」

 

ハリーがむっとして、すかさず抗議した。

 

「セブルスおじさんではなく、スネイプ先生だろう。 父親(シリウス)に似て学習能力のない奴め」

 

「そう言うなって。じゃ、ハリーを頼んだぞ」

 

思わぬ飛び火を食らったシリウスは、さっさとバイクに跨ると再び空へとアクセルを踏み抜いた。

ハリーとロンはシリウスに手を振ると、セブルスに着いて城への道を進んだ。

 

「まだ歓迎会は続いている。 お腹が減っただろう?」

 

「うん。 組み分けは終わったの?」

 

「あぁ、終わったぞ。 よかったな、ウィーズリー。 末妹はグリフィンドールだぞ」

 

その言葉にロンは安堵したように、息を吐いた。が、妹の組み分けも見届けたかったのか少し残念そうだった。

 

大広間に着くと、ハリーとロンはこっそりグリフィンドールのテーブルに向かった…つもりだったが、皆の視線を浴びていた。

 

「ハリー、ロン! あなたたち心配したのよ! どうしてたの!」

 

席につくなり、ハーマイオニーがそう言ってきた。

他の生徒たちも、こちらの会話に聞き耳を立てているのが分かる。

 

「アー…説明するから、ちょっと待ってくれ」

 

ハリーとロンはローストビーフとマッシュポテトを口に詰め込みながら、モゴモゴとそう返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業が始まる日の朝食時、多くのグリフィンドール生は突如現れた美しい髪の女生徒を二度見した。

 

そして、その生徒がハーマイオニーだと分かると殆どの人があんぐりと口を開けた。

 

それもそのはず、鳥の巣のように縮れボサボサだった髪は、滑らかにまとまり彼女が動くたびに波打っている。

ハーマイオニーは多くの人から注目を浴び、少し恥ずかしそうにオートミールを口に運んでいた。

 

そんなハーマイオニーを、ロンはまじまじと穴が開くほど見つめ、ハリーは「誰か好きな人ができたんでしょ!」とからかい騒ぎ立て、ハーマイオニーから呪いをかけられそうになった。

 

魔法薬の授業の時、いつも水蒸気を吸って膨らむ彼女の髪はしっかりと束ねられ、時折見えるうなじに数人の男子生徒は目を逸らした。

 

「ブラック先生」

 

授業が終わり片付けが済んだ生徒から地下牢を出て行く中、ハーマイオニーはレギュラスに声をかけた。

 

「なんですか」

 

レギュラスはちらりと一瞬だけ視線を向けると、素っ気なく返事をした。

 

「あの、今日の授業で扱った『ふくれ薬』について質問が」

 

ドキドキしながらも平静を装ってハーマイオニーは言った。

 

レギュラスは意外そうに目を瞬かせた。

自分がスリザリン贔屓で、グリフィンドールを嫌っているのは自他共に認める事実である。

どうせならグリフィンドール出身で魔法薬研究会に所属するセブルスに質問に行った方が、遥かに有意義なはずだ。

 

とはいえ、教師である以上生徒からの質問を無下にできない。

 

「…見せてみなさい」

 

既に誰もいなくなった地下牢の教室で、大釜がコポコポと静かに沸き立つ音だけが聞こえる。それがどうか自分の心音をかき消してくれるよう、ハーマイオニーは祈るばかりだった。

 

 

「やめなよ、あんな奴に質問行くなんてさ」

 

 

地下牢の外で待っていたハリーは、ハーマイオニーが教室を出てくるなり言った。ロンと共に不機嫌そうに、眉を寄せて壁にもたれかかっている。

 

「だって、次の試験ではシャルに勝ちたいんですもの」

 

「だったらスネイプ先生のとこに行けばいいじゃん」

 

「スネイプ先生、いない時の方が多いじゃないの。 …あら、もうこんな時間?」

 

ハーマイオニーは時計を見て驚いた。

もうすぐで『闇の魔術に対する防衛術』の授業が始まってしまう。

ハーマイオニーは、ハリーとロンに待たせたことを謝ると、慌てて階段を駆け上がった。

 

3人が教室に入ると、他の生徒たちはもうみんな席に座っていた。

ハーマイオニーが謝ろうとする前に、ロックハートは困ったような笑顔でやはり真っ白の歯を見せた。

 

「おやおや、ハリー! 初日に続いてまたまた遅刻ですか。 いいですか、ハリー。君が目立ちたい気持ちはよーく分かるよ。 ただね、遅刻で目立とうのするのは、よくないことだね」

 

まるで父親が幼子を諭すかのような言い方だった。

何人かの生徒がクスクスと笑う。ハリーは少し顔が熱くなった。

 

「違うんです、ロックハート先生…」

 

「ミス・グレンジャー。 ハリーを庇いたい気持ちは分かるとも! 取り敢えず席に着いて着いて! これから簡単なテストをしますからね」

 

ハーマイオニーの言葉を、ロックハートは遮った。

テストという単語に目の色を変えたハーマイオニーは、誤解を解くのも諦めてとっとと椅子に座った。

 

ハリーとロンも渋々座る。

すぐにテストペーパーが配られた。ハリーは問題を読んだ。

1問目は、『ギルデロイ・ロックハートの好きな色はなに?』だった。よく見ると他の問題も似たようなものだった。あまりの馬鹿らしさにハリーは羽根ペンを置き、白紙で提出した。

 

「・・・チッチッチ。 皆さん、勉強が足りていないようですね。 私の好きな色はライラック色ですよ。 『雪男とゆっくり一年』に書いてありますよ?」

 

ロックハートはそう言いながら、集めた解答用紙を捲った。

 

「おっと、ハリー。白紙回答かい? 君が私に嫉妬するのは分かるさ。 しかし、授業はちゃんと受けないといけないね。 私は君の教師なのだからね!」

 

ロックハートは完璧な笑みで、バッチリとウインクをした。

 

その後、ロックハートはピクシーを紹介し教室に放った。

生徒たちがパニックになる中、教壇を見ると既にロックハートはいなくなっていた。

 

「全く、ふざけた先生だわ! 授業らしいこと何もしてないじゃないの!」

 

ピクシーに引っ掻かれ少し髪が乱れたので、ハーマイオニーはカンカンだった。

 

「ほんとだぜ。 去年も酷かったけど…今年もなかなかパンチが効いてるな。 ハリー、何か君目つけられてるみたいだよ」

 

ロンもうんざりしながら言い、3人は連れ立って教室を出た。

 

「勘弁してほしいよ、全く。 僕が遅刻で目立ちたがるなんて…そんなちゃちなことするわけないじゃないか」

 

「・・・そこかよ」

 

憤慨したように言うハリーに、ロンは苦笑した。

 

「ロン、やっぱ君の言う通りフォード・アングリアで空から学校に突っ込んだ方が良かったかな? そしたら、ロックハートのやつどんな顔しただろう?」

 

ハリーはロンに向かって悪戯っぽくニヤッとした。

 

「そんなことしたら、悪いけどあなたたちとは絶交よ」

 

ハーマイオニーは、呆れてそう言った。

 




魔法使い、なんでもかんでも空飛ばせたがる説。

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