例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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部屋は開かれた

『・・・なるほど、それで父親と気まずくなってしまったんですね』

 

『ええ、そうなの。 パパはいつもそうなのよ。 仕事、仕事、仕事ばっかり』

 

『分かりますよ。 大人というのは身勝手な生き物ですからね』

 

『その通りよ。 きっと、パパは私より仕事の方が大事なんだわ!』

 

『シャル、君の話に母は出てきませんね?』

 

『ママは…長いこと目覚めなくて、ずっと入院してるの』

 

『そうですか。失礼な質問でしたね』

 

『トムの親はどんな人?』

 

ペンの動きが少し鈍った気がした。

 

『僕の母は…偉大な魔法使いの血を引いてる魔女でした』

 

『すごいわね!』

 

『えぇ、僕を生んですぐに亡くなりましたが』

 

--おい。

 

『そうなの。父親は?』

 

『・・・すみませんが、あまり父の話はしたくありません』

 

『ごめんなさい! 嫌なことを聞いてしまったかしら?』

 

『いいえ、いいんですよ』

 

---おい!

 

「おい、シャルったら!」

 

耳元で大きな声を出され、漸くシャルロットは顔を上げた。

目の前には不審そうな顔のドラコが立っている。クィディッチの練習の帰りらしく、ユニフォームには少量の泥がこびりついていた。

 

「あ、あぁ・・・ドラコ」

 

どうにかシャルロットはそれだけ言った。辺りを見回すと、既に談話室には自分たち以外誰もいない。

時計を見て、シャルロットは驚いた。どうやら自分は2時間もこの日記と対話していたらしい。

 

「こんな時間まで何してたんだ?」

 

「何してたって…もちろん勉強よ」

 

シャルロットはそう言ってから、しまったと思った。テーブルの上に出された日記は、知らない人から見たらただの白紙だ。

予想通り、ドラコは怪訝な顔をした。

 

「…君、ちょっと疲れてるんじゃないか? 休んだ方がいいよ」

 

「えぇ、そうね」

 

取り敢えず、それ以上の追求がなかったことに安堵したシャルロットは、促されるまま寝室へと向かった。…大事そうに、日記を抱えて。

 

なんだか、頭の中が霞がかかったようにぼんやりとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

考えてみると、ハリーはこんなに長い間ドラコと口を利かないのは初めてだった。

 

幼い頃から彼とは日常的に喧嘩はしたものの、それは子ども特有のくだらないものだったし次の日にはもうお互い忘れていた。

 

ドラコと仲直りはしたい。しかしまた、ハーマイオニーの気持ちを考えると自分から彼に話しかけることははばかられた。

 

そして、ハリーの悩みは目下あと2つあった。

1つ目はある日、廊下を歩いていたら壁の中から恐ろしい声が聞こえたこと。「血の匂いがする…八つ裂きにしてやる…」と確かにハリーにははっきり聞こえたが、ロンとハーマイオニーには聞こえなかったようで、それが尚更気味が悪かった。

ドビーの1件があったため、すぐにシリウスに手紙を出したが、彼にもその声の正体は分からないようだった。

 

2つ目の悩みは、ひょんなことこから首なしニックに絶命日パーティーの誘いを受けたことである。

去年トロール事件により、ろくにハロウィンパーティーを楽しめなかったハリーは断ろうとしたのだが、首なしニックがあまりにも悲壮感溢れる顔をしたため、途中からそちらに参加するという約束をしてしまった。

 

ハロウィンが近くなり、ダンブルドアが骸骨舞踏団を呼んだと聞いてから、さらにハリーは絶命日パーティーに行く気が失せた。

 

「骸骨舞踏団を見終わってからでいいよな、絶命日パーティーに行くのは」

 

「あなたが安請け合いするからいけないのよ。 まあ、ゴーストたちのパーティーなんてちょっと興味あるけどね」

 

談話室でレポートに取り組みながら、ハーマイオニーは言った。今日は長い髪をまとめてポニーテールにしている。

 

「うぇー・・・自分の死んだ日を祝うなんて正気じゃないぜ」

 

ロンは、露骨に顔を顰めた。

 

「ところで君、さっきから何やってるわけ?」

 

「見てわからない? ブラック先生からの、特別課題よ」

 

ハーマイオニーは目の前のロンに出来上がってきたレポートをひらひら翳した。

そこには几帳面な字がびっちりと書かれている。

 

毎回質問に来るハーマイオニーに最初は鬱陶しそうだったレギュラスだが、飲み込みの早いハーマイオニーの向上心を彼なりに好意的に捉えたらしい。最近は上級生向けのレポートを課した。授業が終わった放課後、そのレポートの出来を見てもらい添削してもらう時間が、最近のハーマイオニーの楽しみだった。

 

「なんだよそれ。ハーマイオニーにだけレポートを課すなんて・・・まるで罰則みたいじゃないか」

 

事情を知らないハリーはロンと共に、憤慨して大嫌いなレギュラスの悪口を言い始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『もうすぐハロウィンね。 聞いてよ、トム。 私去年のハロウィンでトロールと戦ったのよ』

 

『トロールと? それはすごいですね。 大人でもトロールと戦うのは大変と聞きます』

 

『えぇ、ハーマイオニーを助けるために戦ったの』

 

『ハーマイオニー? 初めて聞く名前ですね。 友達ですか?』

 

『そうよ。 グリフィンドールの友達』

 

『シャルはスリザリンであるのに、グリフィンドールにも友達がいるのですね。その子はマグル生まれですか?』

 

『えぇ。でも、学年一の秀才なの』

 

『・・・なるほど。 あなたは純血主義ではないのですか? マルフォイ家の少年と友達と聞いたので、てっきり純血主義かと』

 

『私はそんなことないわ。 確かにドラコは純血主義だけど、彼に悪気があるわけではないの。 ハリーとドラコは親友だし』

 

『ハリー? まさかハリー・ポッターですか? 彼と知り合いなのですか?』

 

『ええ。 今はハリー・ブラックだけど。 ハリーとは幼馴染よ』

 

『ハリーの話をもっと聞かせてください』

 

『いいけど、どうして?』

 

『生き残った男の子に興味があるだけですよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

ハロウィンの朝、去年と同じように校内はかぼちゃの香りで満たされていた。

トロール事件が起きた去年の埋め合わせをするかのように、さらに今年は飾り付けが豪華だった。生徒も皆どこか浮き足立っていた。

 

あちらこちらでコウモリが飛び回り、かぼちゃの形のランプの下、多くの生徒が「トリック・オア・トリート!」と叫びあい返答を聞く前に他愛ない悪戯を掛ける。

 

夜のパーティーで骸骨舞踏団の生演奏に感激しながら、ハリーは友人たちと共にかぼちゃタルトにかぶりつき、悪戯に精を出した。

 

おそらくハーマイオニーが2人を引っ張らなければ、ハリーとロンは絶命日パーティーの約束をすっぽかしただろう。ハリーとロンは渋々、まだまだパーティー真っ最中の大広間を後にした。

 

「最高だよ。 まさか骸骨舞踏団の演奏を生で聞けるなんて!」

 

「あぁ! 今じゃチケットなんて、プレミアものだもんな!」

 

廊下を歩きながら、ハリーとロンは尚も興奮気味にそう話した。

魔法族なら誰でも知っている人気バンドの骸骨舞踏団であるが、一方でマグル生まれのハーマイオニーにはピンと来ていないようだった。

 

絶命日パーティーはお世辞にも楽しいムードとは言えなかった。

 

細蝋燭には真っ青な炎が灯り、階段を下るたびに体温が下がっていくようだった。3人は思わず身震いした。

黒板を爪でひっかくような嫌な音がしてきた。

 

「あれ、音楽のつもり?」

 

ロンが2人にしか聞こえないよう囁いた。

 

ニックは羽飾りのついた帽子を被って入口付近に立っていた。

 

「これは、友よ。 遅いので来てくださらないのかと思いました」

 

恭しくニックがお辞儀をすると、3人を中に招き入れた。

 

仄暗い地下牢は数百ものゴーストがふわふわと飛び回り、ワルツを踊っていた。なかなか圧巻の光景だ。

 

「取り敢えず、見て回ろうか」

 

ハリーは足がガチガチに冷えてきたのでそう提案した。

 

殆どは見たことがないゴーストだったが、中には見たことのあるゴーストもいた。ハーマイオニーは『嘆きのマートル』というゴーストを見つけて、慌ててこちらに逃げてきた。どうやらちょっと厄介なゴーストらしい。

 

「ご飯、済ませてきてよかったわね」

 

腐った魚や焦げた山盛りのケーキが盛られた銀の皿を見て、ハーマイオニーは顔を顰めた。

 

その後も暫く地下牢を彷徨いた3人だが、何も楽しいことは起きなかった。

 

「僕もう寒くてだめだ」

 

ロンがブルブル震えながら言った。

 

「もう、行こう」

 

ハリーも同じ思いだったので、とっとと地下牢を後にした。

 

「どうする? もう寮に戻る?」

 

「うーん。僕デザートもう少し食べたいな」

 

ハーマイオニーの問いかけに、ロンは少し迷ってそう答えた。

ハリーも体が冷えてしまい、何か温かいものが食べたかったので同意するよう頷いた。

 

皆が大広間に集まっているせいか、廊下には人っ子一人居なかった。

 

その時、ハリーはあの声が聞こえた。

 

「引き裂いてやる・・・殺してやる・・・」

 

あの声だ。こないだ聞いたのと同じ声。

何とか恐ろしい、身震いするような声。

 

ハリーはよろよろと石の壁に近付くと、耳をぴったり付けた。廊下をじっくり目を凝らして見てみたが、何もいない。

 

「おい、ハリー。 どうしたんだ?」

 

「またあの声なんだ! 静かにしてくれ!」

 

「血の匂いだ・・・殺してやる・・・」

 

「ほら聞こえる!」

 

ハリーは焦ったように言ったが、ロンとハーマイオニーは何も聞こえないようで当惑した顔で立ち尽くしている。

 

声はだんだん幽かなものになっている。それは上に向かって遠ざかっていくようだった。

どうして、この声の主は石の壁を通り抜けられるのだろうか。ハリーの脳裏に先程たくさん見たゴーストの姿がちらついた。

 

ハリーの心臓が緊張と恐怖で早鐘を打つ。

 

ハリーは3階の廊下へと、声を追いかけるよう走った。ロンとハーマイオニーは息せき切ってハリーを追いかけた。

 

「おい…ハリー、これはどういうことなんだ…?」

 

ロンはゼェゼェと息を切らしながら言った。額には汗が滲んでいる。

 

「見て!」

 

ハーマイオニーはハッと息を呑むと、廊下の隅を指差した。

 

向こうの壁で、何かがヌラヌラと光っていた。真っ赤なペンキのようなもので、何か文字が書かれている。

 

 

 

『秘密の部屋は開かれたり

継承者の敵よ 気をつけろ』

 

 

 

「ねぇ、何かあそこにぶら下がってない?」

 

ロンの声は微かに震えていた。

 

3人はじりじりと文字に近付いた。何故か水溜りがあったので、危うく転びそうになった。

ぶら下がっているものが何か分かると、3人は声も出せずに飛び退いた。

 

フィルチの飼い猫、ミセス・ノリスだ。

その姿に生気はなく、目だけカッと開いたままだらりとぶら下がっていた。

 

3人は暫く動けなかった。やがて、ロンが口を開いた。

 

「ここを離れよう」

 

「そうだな。 誰かにここにいるところを見られたら不味い。 そんな気がする」

 

ハリーもそう同調したが・・・既に遅かった。

楽しそうなざわめき声が聞こえた。どうやらパーティーは終わり、生徒たちは寮に帰ろうとしているらしい。

 

生徒たちはおしゃべりに興じながら廊下を歩いてきた。そして、先頭の生徒たちがミセス・ノリスの姿を見つけると、おしゃべりは一斉に止んだ。

 

ハリー、ロン、ハーマイオニーは真ん中にぽつんと残され、皆の注目を浴びていた。

 

 

「まさか、こんなことが起きるなんて。穢れ・・・いや、マグル生まれが狙われるぞ」

 

蒼白な顔をしたシャルロットの隣りで、ドラコはそう呟いた。

 




絶命日パーティー、絶対行きたくないよね( ˇωˇ )

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