例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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ペデュグリューの罪

休日は長めのパンツで怪我を隠していたハーマイオニーだが、当然授業が始まれば制服を着ることになる。

 

プリーツスカートから覗く大きな包帯に、ハリーとロンは驚き心配した。

 

そして、どうやらホグズミードの一件のことでハリーからロンに説教があったらしい。朝食の時ロンはバツの悪そうな顔で「スキャバーズのことは許してないけど…こないだはごめん。わざわざホグズミードで言うことなかったよな」とボソボソ言われた。

 

例えそれが友達である自分への対応だとしても、本当にハリーは女の子の扱いに長けていた。ハーマイオニーは苦笑いしながらも、早めの仲直りにほっとした。

 

「それで、どうしたの? その傷」

 

ハリーは欠伸をしながらアップルパイに齧り付くという器用な芸当をこなしながら訊いた。

 

「…ブラック先生の個人授業中にちょっと失敗しちゃったの」

 

隠しても仕方ないのでハーマイオニーは正直にそう答えた。無論、彼の自室で起きたことは誰にも言う気はない。

 

「何だって!?」

 

ハリーは憤慨してロンと共にレギュラスの悪口を並べ立てた。

 

「だから言ったろ? もうあいつと個人授業なんてしちゃ駄目だよ。 もしかしたら、怪我させたのわざとだったのかもしれない」

 

ロンはまるで何かを挽回するように悪口に同調した。

 

「そんなことないわ。 調合に失敗したのは私だもの。 …でも、もう個人授業に行くのは辞めるわね」

 

ハーマイオニーが曖昧に微笑むと、2人は満足そうに何度も頷いた。

 

配布された今週の時間割を見ると、有難いことに暫く魔法薬の授業はなかった。

ハーマイオニーはどこかほっとして、サラダをを少しだけ取り分けた。あまり食欲がない。

 

「やった! 今日は1限からルーピン先生だ!」

 

ハリーが嬉しそうに言ったので、ハーマイオニーも気持ちを切り替えるようミルクを一気に飲んだ。

 

授業に集中しないと。

ただでさえ自分は逆転時計を使用しているのだから。

 

3人は連れ立って『闇の魔術に対する防衛術』の教室へ向かった。

しかし、いつもなら生徒が来る前から教室に待機しているリーマスが今日はいない。

 

「ルーピン先生、寝坊かな?」

 

ハリーがクスクス笑ったその時、扉が開いた。そこには不機嫌な顔をしたレギュラスが立っていた。

生徒たちのお喋りがぴたりと止む。

ハーマイオニーは驚いて羽根ペンと羊皮紙をバサバサと落とした。

 

「ねえ、何であいつが入ってきたんだ?」

 

「私語は慎みなさい。 グリフィンドール5点減点」

 

ハリーの声は小さかったが、レギュラスはそれを目敏く指摘した。

ハリーがギロリと反抗的な目でレギュラスを睨む。しかし、レギュラスは臆すことなく教壇に立った。

 

「…本日ルーピン教授は体調が悪いようですので、私がこの授業を担当します。 48ページを開きなさい」

 

途端に教室はリーマスへの心配と落胆の声でざわつく。

レギュラスはさらにグリフィンドールを減点してから、授業に入った。

 

淡々と授業をこなす彼だが、視線は時折ハーマイオニーへの傷へと逸れた。しかし、両者が目を合わせることはついぞなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

授業の終わりを告げるチャイムが鳴ると、グリフィンドール生たちはとっとと教室を後にした。

 

レギュラスはハーマイオニーの姿を探す。その手にはこないだ渡しそびれた薬が握られていた。

 

そこに特別な感情なんてもちろんない、とレギュラスは自身に言い聞かせる。

そもそもあんな一回り以上年下の少女が、自分を好いていたからなんだと言うのだ?

思い返せば、今までだってスリザリンの女子生徒に恋愛感情を持たれたことは数度あったのである。

 

つまり、これは個人的に質問を受けていた優等生がたまたま怪我をして、さらにたまたま校医が不在だったから作った薬を渡すだけ。

 

しかし、彼女の姿はなかった。まだ遠くへ行ってないはずなのに。

教室を片付けるふりをして辺りを見回す。

 

そして、はたと思い当たった。

そうだ。彼女は逆転時計を持っている。きっとそれを使って次の--いや、時間を戻るわけだから、正確には前ということになるのか?--の授業を受けに行ったのだろう。

 

明らかに避けられている。

飲み込みようのない苛立ちに襲われたレギュラスは、柄にもなく舌打ちをした。

苛立ちの正体さえも分からなかった。

 

今度こそ授業の後始末を終えて教室を出ると、外出用のローブを着たセブルスにばったり会った。

どうやら今帰ってきたところらしい。

 

「随分早いですね。 今日の学会は長引きそうだと言っていたので、てっきり夜までかかると思いました」

 

「ああ、こんな時間に帰ってこれるのは久しぶりだ。 …今日の午後のハッフルパフの魔法薬は私が受け持つ。 リーマスの穴も埋めねばならないし、おまえも大変だろう」

 

ちなみに余談だが、セブルスの魔法薬の授業もレギュラスの魔法薬の授業も評判はどっこいどっこいである。

 

セブルスはレギュラスのようにあからさまな贔屓はしないとはいえ、厳しくまた高度な彼の授業についてこれる生徒は殆どいないのだ。

 

「大したことではありませんよ。 セブルスが疲れているなら、午後の授業も私で構いませんが」

 

「いや、疲れてはいないのだが。 …ああ、それなら授業は私が受け持つから、リーマスの脱狼薬を煎じてくれないか?」

 

セブルスは最後の言葉を声を潜めて言った。

 

脱狼薬は調合も複雑な上にかなり時間を要する。セブルスとしては授業を代わってもらうより、そちらの薬を作ってもらえる方が負担は減る。

 

「脱狼薬ですって? 私は構いませんが、ルーピンが私の作ったものに口をつけるとは思えません」

 

「そんなことはない。 リーマスはホグワーツに来て、おまえを見る目が変わったようだぞ。 おおかたシリウスから悪い噂しか今まで聞いていなかったんだろうな」

 

レギュラスは興味なさそうに鼻を鳴らした。

レギュラスは、シリウスとジェームズを筆頭にした悪戯仕掛け人たちが心底嫌いなのだ。命の恩人であるセブルスだけが例外なのである。

 

「見る目が変わったなら、まね妖怪を使って私に女装させたりしないはずですが? ルーピンも兄上と一緒で素敵な性格をしていらっしゃいますね」

 

「そのことに関してはリーマスに強く言っておいた」

 

セブルスが眉根を寄せて困った顔をしたので、レギュラスはちょっとバツが悪くなった。

 

「…わかりましたよ。 貴方の頼みなら断れません。 私が脱狼薬を作りましょう」

 

「ああ。 恩に着るよ。 これで今夜は早めに寝れる」

 

「大袈裟ですよ。…それにしても未だペティグリューは捕まらないのですが? 本当に闇祓いというのは無能なのですね」

 

憎んでいる兄が闇祓いの局長であるのも相まって、レギュラスは痛烈に批判した。

とはいえ、レギュラスは悪戯仕掛け人たちが動物もどきであったことはもちろん知らない。

 

「シリウスのことは責めないでやってくれ」

 

シリウスがたった1匹のネズミを捕まえることに血眼になり最近は殆ど寝ていないのを、セブルスは知っていたのでそう窘めた。

 

レギュラスは可愛がっているシャルロットの母親の仇であるピーターを、当然憎んでいた。

 

お互いを嫌い合い共通点などほぼないこの兄弟であるが、憎む相手だけが同じであることにセブルスは何とも言い難い不思議な気分になるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

秋はまるで何かに追われているかのように姿を消し、今年の初雪はホグズミード週末の日だった。

 

こないだのクィディッチのハッフルパフ戦で勝利を掴んだハリーは、それはそれはご機嫌でロンとハーマイオニーと共にホグズミードへ向かった。

これでグリフィンドールは、さらに優勝に近付いた。

ウッドも今年で卒業してしまうせいでチームの練習はさらに熱が入り、ここのとこは毎日猛特訓が続いた。なので、今日は久々の休暇だった。

 

白銀の世界となったホグズミード村はまるで絵画の一部を切り取ったかのように美しい。茅葺き屋根の小さな家には雪が薄く積もり、どの家にも戸には柊のリースが飾られていた。

 

途中、ドラコとシャルロットに出会った。

 

「やあ、君たちデートかい?」

 

ハリーがからかうと、ドラコは顔を真っ赤にした。それが面白くて執拗にからかったので、シャルロットにきつく怒られた。

 

「全く、ドラコもドラコよ。 いちいちハリーの言葉を真に受けるんだから!」

 

しかし、そんなシャルロットの態度も満更ではなさそうだ。

こいつら本当に付き合いそうだなとハリーは考えながら、2人と別れた。

 

最初は子どもらしく休日と初雪が被ったことを喜んだハリーたちだったが、しんしんと積もる雪は次第に3人の体を芯から凍りつかせた。

 

「ねえ、『三本の箒』でバタービール飲んで温まらない?」

 

ハリーの提案に2人はマフラーに顔を埋めながらコクコクと頷いた。

 

この気候のせいで『三本の箒』はかなり混んでるかと思いきや、ハリーたちは入り口から離れた一番奥の席を確保できた。

 

早速バタービールを3つ運ばれてきた。

 

「メリークリスマス!」

 

3人は乾杯して半分ほど一気に呷る。

温かい甘さが、3人の冷たい体を解いていく。

 

「ハーマイオニー、お髭ができてるよ」

 

ハリーがクスクス笑うと、ハーマイオニーは慌てて口元を拭った。

 

チリンチリンと音を立ててドアが開き、また誰かが入ってきた。扉が開いた拍子に、足元に冷たい風が流れる。

 

「…全く、今日は冷えますな。 しかし、仕事とはいえ久々のホグズミードは懐かしい」

 

「特に今日は生徒たちも来ていますからね。 尚更でしょう。 ああ、マダム。 私はギリーウォーターのシングルを頂きましょう」

 

「それでは、私はさくらんぼシロップソーダを」

 

「俺は蜂蜜酒を…そうだな。 4ジョッキ分くれ」

 

聞き覚えのある声に思わず視線を向けると、そこには何と驚くことに魔法大臣コーネリウス・ファッジと、フリットウィック、マクゴナガル、それにハグリッドが居た。

 

「へぇ。珍しいメンツだね」

 

ロンが興味津々に首を伸ばした。

こちらからは4人の席が良く見えるが、向こうからこちらは死角らしい。ハリーたちに気付いてる気配はなかった。

 

マダム・ロスメルタが飲み物を運んでくる。

 

「ありがとうよ、ロスメルタ。 君にまた会えて嬉しいよ。 よかったら君も一杯どうかね? ご馳走しよう」

 

「まあ大臣! 光栄ですわ」

 

大臣の言葉に、マダム・ロスメルタが体をしならせて微笑んだ。

 

「それで大臣。 どうしてこんな片田舎にお出でになりましたの?」

 

マダム・ロスメルタが席につきながらそう問うた。

ファッジを辺りを注意深げに見回す。そして、これ以上ないくらい声を潜めたので、ハリーたちは耳をそばだてた。

 

「君も知っているだろう? 殺人犯ペティグリューの件だ」

 

「まさか! 彼がこのホグズミードに潜んでいると言うんですの!?」

 

マダム・ロスメルタが怯えながら自分の肩を抱いたので、ファッジが慌てて顔の前で手を振った。

 

「いや、いや! そうと決まったわけじゃない! イギリスの主要な町には、全て捜査が入ってるんだよ」

 

「しかしね…私は未だにあのペティグリューが、本当にあんな恐ろしいことをしたのかと考えてしまうんですよ」

 

マクゴナガルがおよそ彼女らしくない悲哀の篭った声を出したので、ハリーは思わず二度見してしまった。

 

「ああ…。 ペティグリューはミネルバの寮の生徒でしたもんね」

 

フリットウィックは彼女を慰めるように肩に手を置こうとした。しかし、彼の小さな腕はマクゴナガルの肩まで届かなかったようだ。

 

「まあ! それじゃあ、ペティグリューはグリフィンドールでしたの!?」

 

マダム・ロスメルタが口に手を当てて心底驚いたように言った。

そして、ハリーたちも顔を見合わせた。

 

「ま、まじかよ! あいつグリフィンドールだったのか」

 

「ロン、静かにして!」

 

ロンの声は相当小さかったが、それでも尚ハーマイオニーに小突かれて渋々黙った。

 

「まあまあ! 私、勝手にペティグリューはスリザリン出身だと思っていましたわ! …ほら、あの寮はそういう人が多いでしょう?」

 

マダム・ロスメルタは興奮したようにそう言ったが、教師の前だからか最後に慌てて言い訳を付け足した。

 

「いいえ。 彼は私の寮の生徒でした。 大人しくて、少しばかり劣等生で、でも優しい子だと私は思っていました」

 

「ペティグリューか。 私は彼のことより、彼の回りにいた子たちの方が印象に残ってるね」

 

フリットウィックはさくらんぼシロップソーダをストローで掻き回しながら、懐かしそうに目を細めた。

 

「ええ。 あの子たちほど手を焼かされた生徒は他にいません!」

 

「さあ? ウィーズリーの双子も負けてはおらんぞ」

 

早くも酔いが回ったハグリッドは、クックッと楽しそうに笑った。

 

「あら、それは誰ですの?」

 

「マダム。 貴方もホグワーツに通っていたなら知っているでしょう。 …ジェームズ・ポッターやシリウス・ブラックたちですよ」

 

ハリーはジョッキを取り落としそうになった。

 

「あら…じゃあ、もしかしてペティグリューって、あのポッターやブラックの後ろをいつも着いて回っていた子? あの小さくて太った男の子のことなのかしら?」

 

「ええ、ええ。 そうですよ。 あの2人のことをまるで英雄のように崇めている子でした」

 

マクゴナガルの声がちょっと湿っぽくなる。

 

「そんな大人しい人物が、あんな大胆な事件を起こすのだからな。 全くもって恐ろしい。 早く捕まえなければ、魔法省の威信に・・・」

 

ファッジが溜息をつきながら頭を抱える。

極悪人の脱獄を許した魔法省へのバッシングは、未だに終わりが見えない。

 

「ところで今更なのですが、ペティグリューの罪状とはどのようのものなのです?」

 

「なんだ、ロスメルタ。 そんなことも知らなかったのか?」

 

ファッジが咎めるような視線を送る。

マダム・ロスメルタの頬が赤くなったのは、アルコールのせいではないだろう。彼女はあまり新聞を読まないタイプだった。

 

「ペティグリューはな…」

 

ファッジが再び口を開きかけたその時。

チリンチリンと扉が開き、寒さで鼻を赤くしたハッフルパフ生の団体が入ってきた。

 

「いらっしゃいませ」

 

マダム・ロスメルタはすぐに立ち上がると、店主としての顔に戻る。

生徒たちを空いてる席に通し、にこやかに注文を聞いた。

 

「混んできましたね。 私たちもそろそろ出ましょうか」

 

マクゴナガルの言葉を皮切りに、一行は立ち上がった。

 

「それじゃあ、ロスメルタ。 どうもご馳走様」

 

どうやらこの席はファッジの奢りらしい。彼が硬貨をテーブルに置くと、1人また1人と扉から出て行った。

 

ハリーは呆気に取られたまま、その様子を見送った。手元のバタービールは既に温くなってしまっていた。

 

「おい、どういうことだよ。 君の本当のお父さん(ジェームズ)とシリウスさん、ペティグリューの友達だったの?」

 

「いや…きっと何かの間違いだよ。 だって、そんな話パパから聞いたことないよ…」

 

ハリーはゆらゆらと首を力無く振った。

しかし、マクゴナガルたちの態度から見ても、さっきの話は真実な気がしてならなかった。

 

「あなたのお父様がペティグリューとお友達だったってことは、ルーピン先生やスネイプ先生もそうだったってことじゃない? 聞きに行ってみたらどう?」

 

今まで親たちが自分たちに何か隠し事をしているのは何となく気付いていた。

そろそろ教えてくれてもいい頃かもしれない。

 

「うん。 そうする」

 

ハリーたちはゾンコの悪戯専門店に行くのを辞めて、雪の中ホグワーツ城へと向かった。

 

冬休み前最後の週末ということで、生徒に加え教師たちもホグズミードに羽を伸ばしに行っているらしく、ホグワーツは閑散としていた。

 

城に残っているのは1、2年生とO.W.L試験やN.E.W.T試験を控えた上級生、それに外に出るのを億劫がる数名の教師くらいだろうか。

そして、出不精のリーマスとセブルスはまさしくそれだった。

 

グリフィンドール塔のすぐ近くにあるセブルスに与えられた部屋をノックすると、すぐ中から「どうぞ」と声がかかった。

 

ドアノブを捻ると、セブルスとリーマスはアフタヌーン・ティーの真っ最中だった。

テーブルの上には紅茶のセットとケーキやクッキーが置かれている。リーマスはかなりの甘党だが、セブルスは甘いものを好かない。よって、ここにある甘味は全てリーマスの胃におさまるのだろう。

 

ハリーの姿に、セブルスとリーマスは少し驚いた表情をした。が、すぐにセブルスは眉間の皺を和らげて、リーマスはにっこりと笑った。

 

「なんだ、ハリー。 ホグズミードには行かなかったのか?」

 

「今日は寒いもんね。 君の分の紅茶も入れよう。 ケーキ、食べるかい?」

 

「うぅん。 遊びに来たんじゃないんだ。 2人に聞きたいことがある」

 

ハリーの真剣な眼差しにつられて、セブルスとリーマスも居住まいを正した。

 

「なんだい? 授業の質問かい?」

 

ハリーは首を振った。

暫く視線を落として逡巡していたハリーだが、やがて決心したように顔を上げた。

 

 

「ねえ、ジェームズ父さんとパパは…ペティグリューと友達だったの?」

 

 

リーマスの顔が驚愕に染まる。フォークを持つ指が小刻みに揺れていた。

対照的にセブルスは妙に落ち着いていて、深く深呼吸をした。

 

「…誰からそれを聞いた?」

 

セブルスのその言葉は、肯定を意味しているのと同然だった。

 

「やっぱり本当なんだ。 さっき『三本の箒』でマクゴナガル先生たちが話しているのを聞いちゃったんだ」

 

「そうか」

 

「その2人がペティグリューと友達だったなら、リーマスおじさんとセブルスおじさんも友達だったんじゃない?」

 

ハリーは思いきって訊いた。

 

「確かにペティグリューとは同学年で同じ寮だったから、それなりに親交はあった。 しかし、それだけだ」

 

ハリーはまるで用意されたかのようなその言葉に、セブルスは本当のことを言ってないと悟った。

 

「でも…それなら何でそのことを今まで僕たちに教えてくれなかったの? ペティグリューと同級生だったなんて」

 

尚もハリーは食い下がる。

しかし、セブルスの回答はにべもないものだった。

 

「わざわざ犯罪者の話などしても愉快でなかろう」

 

ハリーは苛ついて、自身の頭に血が上るのを感じた。

もともとハリーは少々短気なとこがある。しかし、それを踏まえても死んだ父親の話をあまりしてくれず、写真もろくに見せてくれず、まして漸く知った数少ない情報をはぐらかされたことに腹が立った。

 

ハリーはシリウスをそれこそ実の父親のように思っているし、愛している。だが、それでも血の繋がった本当の父親のことを知りたがるのは当然のことであった。

 

「何だよ…! いつまでも僕たちのこと子ども扱いしてさ。 そんなにジェームズ父さんのことを知りたがるのは悪いことなわけ? もういいよ!」

 

「…そうじゃないよ、ハリー。 一旦落ち着いて、紅茶でも」

 

自分が幼いことを口にしているのは、自覚があった。しかし、止まらなくなったハリーはそれだけ吐き捨てると、諌めようとしたリーマスを無視して乱暴に扉を閉めた。

あまりにも扉から大きな音がしたので、近くを歩いていた下級生が怖々とハリーを見た。

 

苛苛とした足取りのまま、談話室に向かう。

 

「スカービー・カー!」

 

居眠りをする『太った婦人』に八つ当たりするかのように大声で合言葉を叫ぶ。『太った婦人』は短い悲鳴をあげ、文句を言いながらハリーを談話室へと入れた。

 

暖炉の前の特等席にハーマイオニーとロンはいた。ロンの膝の上ではスキャバーズが安心しきったように寝そべっている。どうやらクルックシャンクスは不在らしい。

 

「何か教えてもらえた?」

 

「…うぅん、何にも。 でも、あの態度は間違いない。 絶対ペティグリューと何かあったんだよ」

 

スキャバーズがぴくりとロンの手の中で身じろいだ。

 

ロンとハーマイオニーはちょっと顔を見合わせると、おずおずと1枚の新聞を取り出した。

 

「あのね、ハリー。 貴方がスネイプ先生たちを訪ねている間に、私たちは図書館に行ってきたの」

 

ハリーは渡された新聞の日付を確認する。今から12年ほど前の新聞だ。

 

「もしかしたら、ペティグリューの事件が何か載ってるかもしれないと思って。 それで、見てちょうだい。 その一番上の記事」

 

ハーマイオニーに促されるまま、ハリーは記事に目を通した。

 

そこにはこう書かれていた。

 

『昨日未明、消滅した「例のあの人」の配下ピーター・ペティグリューが逮捕された。 彼は捕まる前に大規模な爆破呪文を使用し、関係のないマグル12人が死亡。 さらに1人の魔女が重体で聖マンゴ魔法疾患傷害病院へと搬送された。ペティグリューを追い詰めたのは彼女だと推測される。 (中略) 裁判は後日行われる予定である。 しかし、吸魂鬼のキスの執行が免れることはないだろう』

 

その記事の横には重傷を負った魔女の写真が小さく載っていた。

その写真にハリーは思わず息を飲んだ。

 

「なっ…シャルロット?」

 

否。その女性はシャルロットにそっくりだが、よく見ると違う。

シャルロットより髪は短いし、目つきも鋭い女性だった。

 

「あっ。 この人…レイチェル・プリンス、シャルのお母さんだ」

 

ハリーの言葉に、ハーマイオニーは気まずそうに目を伏せた。

 

「やっぱり。 シャル、前に言ってたもの。お母さんが長い間入院してるって」

 

「…このこと多分シャルは知らないんだよな?」

 

ロンがスキャバーズを片手で構いながら言った。スキャバーズはまるで3人の話を聞いているかのように、じっとしている。

 

「知らないと思う。 …そっか。 だから、さっき2人ともペティグリューについて何も教えてくれなかったんだ」

 

きっと、母親をあんな目に遭わせた犯人が脱走していると知ったらシャルロットはショックを受けるから。まして、その犯人が父親たちの友人であったのだから。

 

だから、シリウスはペティグリューを捕まえるのにあんなに必死になっていたのか。

 

ハリーは自身の怒りが急速に萎んでいくのを感じた。

 

先程2人に言ってしまった言葉への後悔と罪悪感が波のように押し寄せる。

 

シリウスやリーマス、セブルスたちが自分の父親(ジェームズ)のことを心から大切に思っていて未だに死を悲しんでいるのは、もちろん知っていた。だからこそ、そのことをあまり話してくれないのには何か理由があるはずだと少し考えれば分かることじゃないか。

 

「…吹雪いてきたわね」

 

ハリーが何も言わず項垂れていると、ハーマイオニーが窓を見つめて不意にそう言った。

 

ホグズミードにいた頃は舞うほどであった雪は、今では窓を激しく打ち叩いている。

 

「あー…チェスでもやるかい、ハリー?」

 

慰めるのが下手くそな親友に、ハリーは思わずクスッと笑った。

 

「嫌だよ。 絶対君には勝てないもの」

 

何もかもを隠すように雪は降り積もっていく。

 

ペティグリューが、この雪で凍えてしまえばいいのに。

 

先程まで静かだった城内が徐々に騒がしくなる。悪天候により殆どの生徒はホグワーツへ帰ってきたようだ。

 

喧騒が大きくなる談話室で、ハリーはそんなことを思った。

 




クィディッチについては吸魂鬼がいないため、ハリーたちグリフィンドールチームは順調に勝ち進んでいます。

そして、まだハリーはペデュグリューが『秘密の守り人』になり両親を裏切ったことまでは知りません(›´ω`‹ )
親たちの同級生で、幼馴染の親友の敵!くらいの認識でしょう。

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