1年生の学年末テストが無事終わると、セブルスは一番に家に手紙を出した。
今年の夏休みは友人宅で過ごすので家に帰らない、という内容の手紙だ。
これは良い傾向なのか、はたまた悪い傾向なのか。ジェームズやシリウスたちと1年を共にした影響で、セブルスの性格も大幅に変わった。
嫌味ったらしい皮肉屋なところは変わらないがユーモアを覚え快活になり堂々としたその少年に、1年前のオドオドとした陰湿な影は見えなかった。
それは見た目にも影響した。
周りにシャワーはこまめに浴びろと口煩く言う友人がいるおかげで、あんなにべっとりした髪も今ではサラサラだ。
伸ばしっぱなしだった髪も短く切り揃えて、猫背もすっかり直った。
ハンサム--とまでは行かないが、(あくまで悪戯仕掛け人の中では)寡黙で落ち着いていて、そして何より成績トップクラスのセブルスを、憧れの眼差しで見る女生徒もいた。
他の悪戯仕掛人曰く、シリウスはともかくセブルスが女の子にチヤホヤされるのは納得が行かないとのこと。
そして、この1年ですっかり自信をつけて居場所ができたセブルスが、自身に強く依存するヒステリックな母と、魔法を忌み嫌い暴力を振るう父に嫌気がさしたのも当然と言えば当然のことである。
端的に言ってしまえば、素晴らしい仲間を持った今、両親への未練は無くなっていた。
母からの手紙の返事として、セブルスがスリザリンに入れなかったことへの罵詈雑言、家に帰ってこなければ今後ホグワーツに行かせる金は出さないという脅迫の手紙が届いたが、ジェームズがカラフルな花火で燃やしてしまった。他の友人たちも吠えメールじゃなくてラッキーだったじゃんとケラケラ笑った。
こうして、セブルスは親とほぼ絶縁状態になった。
ジェームズの家があるゴドリックの谷では、これ以上ないくらい楽しい夏休みが送れた。
ジェームズの親はとても優しく、何も不自由なく過ごさせてくれた。ゴドリックの谷は魔法使いの町であるため、好き勝手に魔法が使えるのも最高だった。(無論、未成年は学校の外で魔法を使ってはいけない決まりだが、誰が使ったか個人まで特定できない魔法界の法則上、暗黙の了解ってやつである。)
そこでセブルスは自身に箒の才能がこれっぽっちもないことが発覚し、夏休みの終わりまでジェームズとシリウスに揶揄われることになった。
また、セブルスにとって幸いだったのは、成績が良いおかげで奨学金制度が受けられたことだ。
奨学金制度の申し込みに行った際、現校長アルバス・ダンブルドアはDVによるセブルスの傷を見てすぐに許可を出してくれた。
ホグワーツでは助けを求める者にはそれが与えられる。
12歳で親と絶縁なんて、一見無理なようで何とかなるものであった。
2年生になって間もない時分。
開け放たれた談話室の窓からは、さらさらとした秋風が吹き込む。葉の匂いがどこか芳ばしくなり、僅かな肌寒さを感じた。
珍しく1人だったセブルスは肘掛け椅子にもたれ掛かれ、本を読みながら時々ウトウトと微睡んでいた。
先程までリリーとレイチェルと共に勉強をしていたが、2人とももう寝室に行ってしまった。
ギィ、と太った婦人の肖像画が開き、次々とクィディッチチームのメンバーが帰ってくる。
皆は簡単な挨拶を交わすと、疲れきったように寝室に直行する。後の方から、ジェームズとシリウス、そしてクィディッチメンバーではないが練習を見に行っていたピーターが現れた。
「長かったな。 初日の練習はどうだったんだ?」
セブルスは読みかけの本を閉じ、欠伸を噛み殺しながら言った。
「もう、最高だったよ! セブルスも来ればよかったのに! ジェームズもシリウスもすごくてね--!!」
まるで自分のことように、自慢げにピーターが捲し立てた。ジェームズとシリウスも、そう言われ満更でもないらしい。
「まあね。 リリーにも見てほしかったな。僕の活躍するところを!」
「いいのかよ、セブルス。 大事な幼馴染をジェームズに取られるぜ」
シリウスは意地悪くそう笑うと、かぼちゃジュースを一気に飲む。
先程セブルスが練習終わりのみんなのために厨房から貰ってきたものだ。規則違反が当たり前になってしまった自分にちょっと苦笑いをする。
「まあ、僕はさっきまでリリーとレイチェルと勉強してたからね」
セブルスが涼しい顔で言ってのけると、ジェームズは悔しそうに舌打ちした。
そして、シリウスと同様にかぼちゃジュースを喉に流し込むと、軽く辺りを見回した。
もう談話室には自分たち以外、誰もいない。
「リーマスはどうした」
「·····いつも通り。お母さんのお見舞いに行くってさ」
セブルスのその言葉に、ふぅんとジェームズは不機嫌そうな声を出した。
そして、開け放たれた窓に近寄ると、空を確認する。見上げた空には、満月が煌々と輝いていた。
暫く、誰も何も言わなかった。
沈黙に耐え切れなくて、最初に口火を切ったのはシリウスだった。
「·····おまえらも、もう気付いてるんだろ?」
その言葉にジェームズはくしゃくしゃの髪をさらにくしゃくしゃにし、セブルスは何ともやるせない表情で俯く。
ピーターだけが事情を飲み込めていないようで、きょとんとしていた。
「リーマスは、狼人間だ。」
セブルスが苦しそうに言ったその言葉に、ピーターは固まりやがて意味が飲み込めるとヒッと短い悲鳴を上げた。
「僕たちだって馬鹿じゃない。 毎月、満月の日に居なくなったら気付くさ。 リーマスが狼人間だとしても·····そんなこと僕たちは気にしないのに」
ジェームズの声色には、悲しみというより自分たちに打ち明けてくれない怒りの方が込められている。
「·····僕たちが気にするか、しないかじゃない。 一番苦しいのは本人だろう」
「クソッ!!そんなの分かってる」
セブルスのその言葉に、ジェームズはイラついたように机を叩いた。かぼちゃジュースが少し溢れた。
「僕たちに何か出来ることないのかな·····?」
ピーターが神経質そうに爪を噛みながら皆の顔色を窺うように言ったので、思わずセブルスは眉を顰めてしまった。ピーターのこういった人に意見を出させそれに乗っかろうとするところが少し苦手だった。
「人狼になるのを防ぐ薬とかないのか?」
シリウスが、魔法薬の成績が学年トップであるセブルスに問う。珍しくその瞳は真剣だ。
「現段階では存在してない。·····まあ、例え存在してたとしても、僕達に作れるような簡単なものではないと思うけどな」
「じゃあ、おまえ何もしないって言うのかよ!リーマスが苦しんでるのに、このまま放っておく気か!?」
食ってかかったシリウスに、セブルスはやれやれと息を吐く。彼の友達思いなところは好ましいと思っているが、短気にも程がある。
そんなセブルスの様子に、シリウスはさらに激昂する。が、セブルスに先程まで読んでいた本を目の前に掲げられると、思わず口を閉じた。
本の題名は『人狼の習性と対処法』と書かれている。
「その本には何て書かれているんだ?」
ジェームズが訊く。
「さっきも言ったように、人狼には特効薬がない。そして人間である僕らは傍に居てあげられない。襲われてしまうからな。ただ、それが人間じゃなかったら…動物だったらどうだ?」
セブルスは反応を窺うように、一度皆の顔を見回した。
「つ、つまり·····リーマスが変身しちゃった時、周りに動物を置いてあげればいいってことなの?」
「それも悪くないが·····僕にもっといい策がある。」
セブルスがそう言うと、1度言葉を切った。そして不敵にニヤリと笑った。
「僕達が動物になるんだ!!」
談話室が、しんと静まった。それほどに皆は驚いていた。
「·····僕たちが動物? つまり、マクゴナガル先生みたいに?」
「物を動物に変えるのはよく聞くけど·····自分が動物になるなんて、そんな魔法絶対難しいよ·····」
ジェームズとピーターが口々に言う。
「そうだ。自身が動物になる変身術を『動物もどき』と言う。かなり難しい魔法だし、多分僕らだったら習得に数年はかかると思う。」
「数年!? そんな待てるわけねぇだろ!!」
「でも、これ以上いい方法はないぞ。 やるか、やらないかだ」
セブルスが落ち着いて言い返すと、シリウスはむくれたように頬杖をついた。付き合いが長くなったから分かる。これは彼の渋々の承知だ。
動物もどきは難しい魔法だ。無論、危険も伴うので慎重に取り組まなければならない。教師もなしに自学で習得するのだから、時間も余計かかるだろう。まして--。
「それに誰にも見られないように練習しなきゃだから、夜しか練習できない」
「なんでだ? 別に闇の魔術でもないんだし…確かに2年生には不相応な魔法かもしれないけど」
「違うんだ。 この魔法は、習得したら魔法省に登録名簿を出さなければならない。 つまり届け無しで勝手に動物に変身するのは違法なんだ」
「えっ·····? じゃあ、もし習得して見つかったら僕たち逮捕されちゃうってこと? 嫌だよ! 僕、アズカバンには行きたくないよ!」
シリウスとジェームズは馬鹿にするように軽く鼻で笑う。
「情けないこと言うんじゃねえよ、ピーター。 それでも悪戯仕掛人のメンバーか?」
シリウスに呆れたように肩を掴まれ、ピーターはうぅ…と声を漏らした。そんな様子にさらにシリウスは溜息をつく。
そんな2人を横目にジェームズが不敵な笑みを讃えてセブルスに向き直った。その瞳は何て君は楽しいことを思いつくんだと言いたげに、爛々と輝いている。
「いいのかい?優等生の君がこんな犯罪行為を提案して」
ジェームズのその言葉に、セブルスは涼しい顔をした。
「阿呆だな、ジェームズ。犯罪というのはな、バレなければ犯罪にはならないんだよ。」
事も無げに放たれたその言葉に、ジェームズとシリウスは目を丸くして・・・そして、豪快に笑うとセブルスを滅茶苦茶に抱きしめた。
「君って本当にイカしてる!」
「あぁ!そうと決まったら早く練習するぞ!」
--今なら何でもできる。
セブルスは不意にそう思った。
こいつらが居れば、できないことなんて何もない。
きっと箒なしで空だって飛べる。
満ち足りた気持ちのまま、セブルスは心から破顔した。
何より一番の親友であるリーマスになにかしてあげられるのが嬉しくて嬉しくてたまらなくて、涙が零れそうになった。それをこっそり拭き取った。
そんな3人の後ろで、ピーターはそっと俯いた。
普通のハリポタ二次創作って「賢者の石編」から始まっても大長編じゃないですか。完走するのなんて稀じゃないですか。
まして親世代から始めたら、完結に何年かかるんだ(白目)