例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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忍びの地図

ハーマイオニーとは寮が違うものの会うのは容易い。

図書館の奥まった大テーブルにだいたい彼女はいるからだ。

 

「ハァイ、ハーマイオニー!」

 

シャルロットが今日も定位置にいるハーマイオニーの肩に手をポンと置く。すると、ハーマイオニーは教科書から顔を上げずに「久しぶりね」とだけ言った。

テーブルには今にも崩れんばかりの本が並べられている。

 

シャルロットは一度溜息をつくと、ハーマイオニーの頬を引っ張って無理矢理こちらを向かせた。

 

「い、いたっ! ちょっと何するのよ、シャル!」

 

頬を伸ばされながらハーマイオニーは文句を言う。可愛い表情をしているというのに、目の隈は色濃く顔色はゴーストのように青かった。

 

成程。ハリーとロンが心配するわけだ。

 

「ハーマイオニー、あなたそろそろ倒れるわよ。 ちょっと『逆転時計』貸して」

 

「私なら大丈夫--なんですって!?」

 

ハーマイオニーの瞳が驚愕に染まる。しかし、シャルロットはそんな彼女の反応を無視して首元に垂れ下がるペンダントの鎖を引っ張った。想像通り、その鎖の先には小さな砂時計のようなものが付いていた。

 

「これが『逆転時計』ね」

 

シャルロットは興味津々にそれを見つめた。

 

「ど、どうして私が『逆転時計』を使っていることを?」

 

「私もオファーを受けたのよ。 断っちゃったけどね」

 

漸くハーマイオニーは納得したように数回頷いた。が、すぐに顔を顰めた。

 

「それなら、尚のこと勉強の邪魔しないでちょうだい。 私がどれだけ大変か分かるでしょう」

 

「ええ。 だから気分転換しましょうよ。 いい天気だしピクニック日和よ! …2回くらい引っ繰り返せばいいかしらね?」

 

シャルロットはにこっと笑って、バケットの中に入っているアップルパイと紅茶のボトルをハーマイオニーに見せた。

 

「何言ってるの!? シャル、『逆転時計』は自分の利益のためだけに使うのは違法なの! あなたもオファーを受けたなら知ってるはずよ!」

 

だんだん声が大きくなるハーマイオニーを、軽く手で制した。これ以上騒いだらマダム・ピンスに追い出される。

 

「馬鹿ね。ハーマイオニー、犯罪っていうのはバレなければ犯罪じゃないのよ」

 

シャルロットはくつくつと笑う。

ハーマイオニーは忘れてたわけではないが、目の前の友人がスリザリンであることを今更実感した。

 

 

『逆転時計』を違法な目的で使ってしまった罪悪感も、図書館を出た途端吹き飛んだ。

 

うららかな春の陽気はどこまでも優しく、勉強で凝り固まったハーマイオニーの心をみるみる溶かした。

 

「頭がちょっと硬すぎるわよ、ハーマイオニー。 そこが貴方のいいところでもあるんだけどね」

 

シャルロットとハーマイオニーは、湖畔の木の下でアップルパイと紅茶に舌鼓を打った。

 

「このアップルパイどうしたの? また曾祖母(ダリア)さんが作ってくれたの?」

 

ほろほろした甘い林檎を咀嚼しながらハーマイオニーは訊いた。

 

「いいえ。 屋敷しもべ妖精に厨房でもらったの。 あそこの厨房、ハリーに教えてもらってから私もちょこちょこ使ってるのよ」

 

「屋敷しもべ妖精に迷惑じゃないかしら? 私、やっぱり無償で屋敷しもべ妖精が働いてるのって変だと思ってしまうの」

 

「うーん、でも彼らはそれが幸せなのよ。 人間とは価値観の違う別の生き物って考えた方がいいわ。 …確かに、それをいいことに屋敷しもべ妖精に酷くあたる人もいるの。 かなりマシになったけど、ルシウスおじ様も最近までそうだったわね」

 

シャルロットはちょっと苦笑する。

ルシウスは良くも悪くも昔気質の貴族なのだ。ちなみに今は亡き、自身の曾祖父にあたるエルヴィスも屋敷しもべ妖精にはキツく当たっていたと聞く。

 

「ふぅん。 でも、ブラック先生は屋敷しもべ妖精を大切になさっているようだったわ」

 

「え! その話、本人から聞いたの?」

 

ハーマイオニーはゴホゴホと噎せた。隣りでシャルロットがニヤニヤと笑っている。

 

「へー…レギュラスおじ様、そんなプライベートな話を貴方にしてるんだ」

 

「このアップルパイ美味しいわね! 今度、厨房にお礼を言いに行かなくちゃ!」

 

ハーマイオニーは慌てて話を変えた。

これ以上疲れてる彼女をいじめるのは可哀想なので、シャルロットはそれに乗ってあげることにした。

 

「それにしても、ハリーったら誰にあんないい場所教えてもらったのかしらね?」

 

「…どうせまたあの地図でしょう」

 

ハーマイオニーは不満げに鼻を鳴らした。

彼女だけはハリーが最近手に入れた『忍びの地図』を胡散臭く思っていた。

 

去年リドルの日記によってあんな目にあったばかりなのに、みんな警戒心が薄すぎる。

 

「話が戻って悪いんだけど、最近レギュラスおじ様のところに質問は行ってないの?」

 

シャルロットとしては今日はそれが一番聞きたいことだったのだ。

いつも羨望の瞳でレギュラスを見ていた彼女が、あまりにも彼から視線を逸らしていて--それがあまりにも不自然で痛々しかったので気になっていた。

 

「…ええ。 忙しくてね」

 

ハーマイオニーが酷く傷ついた顔をしたので、シャルロットは何かがあったことは察した。しかし、詳しく聞かないことにした。

 

「そう。 『占い学』もキレて飛び出したらしいじゃない。 やっぱり、あなた無理しすぎなのよ」

 

「やだ…その話どこで聞いたの? 噂になってて色んな人から聞かれるし、変な尾ひれが着いてるみたいなの」

 

ハーマイオニーは恥ずかしそうに頬に手をあてて俯いた。

 

「私はハリーから聞いたけど、キレてテーブル振り回してトレローニーにパンチ食らわしたんでしょ?」

 

「ちょっと! まさか変な噂流してるのってハリーなの!?」

 

ハーマイオニーは呻いた。まさか、犯人が一番身近な人だったとは。

お調子者のハリーには、身の回りで起こった面白いことをちょっと誇張するというハタ迷惑な癖がある。

 

シャルロットはケラケラ笑った。

テスト前で皆談話室に引きこもっているのか、湖畔に人気はなく自分たちの貸切のようだった。

 

暫くその後も取り留めのない話をしていたが、疲れているハーマイオニーがこっくりこっくり船を漕ぎ出したので、そっと頭を自分の肩に置いてあげた。

スースーと規則的な寝息が聞こえる。シャルロットはそれを微笑ましく思いながら、紅茶を飲み、バッグから取り出した本のページを捲った。

ハーマイオニーの影に霞み気味だが、シャルロットもまた学年2位の好成績なので今更そんなに焦って勉強する必要もなかった。

 

夕方頃起きたハーマイオニーは寝すぎたと焦っていたけれど、顔色がだいぶ良くなっていた。

2人で城の方に歩くと、夕飯を作るいい香りが漂ってきた。今日のメニューはローストビーフだろうか。

 

「そうそう。 シャル、テスト終わったらマルフォイを連れて一緒にハグリッドの家に行ってほしいの」

 

ハーマイオニーは目を擦り、欠伸を噛み殺しながらそう言った。

 

「ドラコを連れて?」

 

「ええ。 ほら、バックビークのことお父様が訴えようとした時、マルフォイが辞めさせてくれたでしょう。 それで、ハグリッドったらマルフォイに直接お礼が言いたいそうよ。 私たちと一緒にお茶会しましょうって」

 

ドラコが聞いたら、ハグリッドのためにやったことではないと言い募りそうだが--ハグリッドが感謝していることに変わりない。

 

「成程ね。 そういうことなら引っ張ってでも連れていくわ」

 

シャルロットは短く切った髪を耳にかける。すると、夕陽を帯びて彼女の金髪をキラキラ光った。

 

本当に、新聞で見たレイチェル・プリンスに似てる。

ハーマイオニーはそう思って暫し、シャルロットに見惚れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハリー・ブラックは連日のところ大層ご機嫌であった。

 

その理由はもちろん双子の兄弟に貰った『忍びの地図』である。

 

この地図と透明マントがあればまさに向かうところ敵無しで、ハリーとロンは毎日のように夜遊びをしていた。

 

こないだの冒険は試しに焦眼の魔女の像から、ホグズミードへの抜け道を進んでみた。出たところはハニーデュスクの地下だった。透明マントを使ってホグズミード内を彷徨いてみたものの、当然どこのお店もあいてない。

ハリーとロンはすごすごホグワーツに戻ったわけだが、こんなにときめく冒険は他になかった。

 

そんなわけでハリーはここのところ寝不足だった。もうすぐテストなのに勉強も身に入らない。

地図のことをよく思っていないハーマイオニーから、たまに咎めるような視線を感じていた。

 

しかし、それでも好奇心旺盛な13歳の冒険心は引き止められない。

 

その日もシェーマスとディーンが勉強疲れで深い眠りに付いたころ、ハリーは下のベットで狸寝入りを続けるロンをちょいちょいと突っついた。

ロンはその合図にニヤリと笑って起き上がる。

 

「…今夜はどこに行こうか」

 

ハリーは寝室を出ると声を潜めてロンに意見を伺った。

 

「うーん、昨日行った魔法薬品庫は面白くなかったし…フィルチの事務所は鍵かかってたし…」

 

「取り敢えず、厨房でお菓子でも貰う?」

 

「賛成」

 

行き先が決まると、ハリーたちはとっとと談話室を出た。

透明マントを被っているが、『太った婦人』に「またあの2人でしょう! いい加減になさい!」と怒られた。

 

マントの下でハリーとロンは顔を見合わせてニヤニヤ笑った。

 

厨房は24時間屋敷しもべ妖精が交代で働いているようで、いつ行っても彼らは歓迎してくれる。(初めて訪れた時、ドビーと再会した。マルフォイ家をクビにされたあと彼はここで働いている。)

その日も絶品のチョコレートケーキをご馳走されたハリーとロンは、ご機嫌で厨房を出た。

 

気になっていたところは殆ど行ってしまったため、特に目的もなく夜の学校はうろつき回った。

 

「いてっ!」

 

ハリーが急に止まったので、ロンはもろにハリーの肩に頭を打った。

そして思いの外大きな声が出てしまったので、慌てて自分の口を手で塞ぐ。

 

「なんで急に止まるんだよ。 危ないだろ」

 

声を落としてハリーに文句を言う。

しかし、ハリーは立ち止まったまま手元の地図を凝視していた。

 

「おい、ハリー?」

 

「ねえ。 僕、寝ぼけてるのかな? 変な名前が見えるんだけど」

 

ハリーの顔は青ざめていた。

ロンは『忍びの地図』をのぞき込んだ。そしてまた、彼もみるみる顔を青くさせた。

 

「まさか…ありえない!」

 

地図の中の、禁じられた森の近くに人を表す黒い点が描かれていた。そこまではいい。

問題は名前だった。

 

ピーター・ペティグリュー。

 

間違いなくそう書かれていた。

ハリーは透明マントがはだけるのも構わずに、窓へ走りよった。そこから禁じられた森の方向を見下ろす。

地図が正しければそこにペデュグリューが居るはずだが、暗いのも相俟ってよく分からない。ハリーは必死に目を凝らした。…しかし、やはりよく見えない。少なくとも肉眼で確認できるような人影はなかった。

 

「お、おい…これどういうことだ?」

 

ロンの言葉は震えていた。

ハリーも自身の腕に鳥肌がぶわりと立つのを感じた。もう春なのに急に寒くなったような気がする。

 

「取り敢えず…今日は寝室に戻ろう」

 

2人は急いで談話室へ向かった。

終始無言だった。もし一言でも言葉を発したら、ペティグリューに居場所を知られて攻撃される妄想に駆られた。

 

怖々と眠りについたハリーとロンだが、朝になって再び『忍びの地図』を確認するとピーターの名前はなかった。とはいえ、この地図が表すのはホグワーツの敷地内くらいだ。外に出てしまえば、名前は表示されない。

昨夜2人でピーターの名前を見間違えたとは思えなかった。

 

「どうする、ハリー。 あれって本当にペティグリューだったのかな? もしかしたら地図が故障してたのかも」

 

「…昨日色々考えたんだけどさ、僕この地図リーマスおじさんかセブルスおじさんに渡そうと思う」

 

ロンはちょっと惜しそうな顔をしたが、ハリーの決断を予想していたらしい。

もし本当にペティグリューがこの城内に居るなら大変なことだ。

 

先生に提出したら罰則どころか退学案件のことをしているが、リーマスとセブルスならどうにか甘く見てくれるだろう。…もちろん説教は不可避だろうが。

 

今日は休日なので、朝食を食べたらすぐにセブルスかリーマスの部屋に行くことにした。2人の意見は一致して、優しいリーマスを選んだ--が、いざ行ってみるとリーマスの部屋にはセブルスも居た。

扉を開けた途端、リーマスの後ろに不機嫌そうな黒衣が見えたので思わずハリーとロンは呻いた。

 

「やあ、ハリー。 ロン。 こんな朝早くからどうしたんだい?」

 

そんな2人の心境を露知らず、リーマスは柔和に微笑んだ。

 

「あのね、リーマスおじさんと…セブルスおじさんに伝えたいことがあるんだ」

 

もうここまで来たら引き返せないので、ハリーはそう切り出した。ポケットから一見羊皮紙の切れ端にしか見えない『忍びの地図』を取り出す。

 

その途端、リーマスとセブルスの顔色が一変した。しかし、怒られることを危惧しているハリーとロンはその異変に気付かなかった。

 

「これ『忍びの地図』って言うんだ…。 ある人からこれを貰ってね。 すごいでしょ、こうやって使うんだ」

 

ハリーは杖を取り出し、「われここに違う。われ良からぬことを企む者なり」と唱えた。

あっという間に羊皮紙の切れ端は、素晴らしい魔法アイテムに変化した。

 

「…確かに素晴らしい地図だ。 それで、これをどうして私たちに提出する気になったんだ?」

 

セブルスはどうにか表情を顔に出さず、それだけ訊いた。そして、隣りで何か言いたそうにウズウズしているリーマスの足を踏んづけた。

 

「びっくりしないで聞いてよ? 昨日これを使ってたら…禁じられた森の近くに、ピーター・ペティグリューって名前があったんた」

 

ハリーはちょっと誇らしげに言った。

まるで、自分こそがペティグリューを見つけたのだと言わんばかりに。

 

僅かな沈黙。

次の瞬間、セブルスがすごい剣幕でハリーの胸倉を掴んだ。ハリーはぎゅっと爪先立ちになり、少し首が絞まる。

 

「…どこだ。 どこに奴が居たというのだ!」

 

セブルスがそう吠えた。あまりの怒声に窓が震えた。

 

「セブルス!」

 

リーマスも鋭く叫んだ。彼もまた狼狽えていたが、それ以上にセブルスの動揺は著しかった。

 

ハリーはあまりのセブルスの剣幕に圧され、胸倉を掴まれたまま口をパクパクとさせている。

 

「今すぐ答えろ!!」

 

「いい加減にしないか、セブルス!!」

 

普段温厚なリーマスがここまで声を荒らげるのを、ハリーは初めて聞いた。隣りのロンはどうしていいのか分からず青い顔で固まっている。

 

セブルスはリーマスに両肩を掴まれ、そこで漸くハッとしたようにハリーを離した。

支えを失ったハリーの体はすてんとその場に尻餅をつく。

 

「…ッ…ハリー! すまなかった! どこか痛いところはないか?」

 

セブルスは慌ててその場で膝をつき、ハリーが怪我をしてないか確認するためペタペタと彼の体に触れた。

 

「ぼ、ぼくは大丈夫。 でも、セブルスおじさん。 この地図が正確なものかは分からないんだ。 もしかしたら故障とか…それか去年の日記みたいに危ないものかもしれないって」

 

仮にペティグリューの名前が本物じゃなかった場合を考えて、ハリーは慌ててそう言った。セブルスにぬか喜びをさせるのは悪いと思ったからだ。

 

しかし、ハリーは知る由もないことだが、この地図が何より正確で信頼出来るものだということをセブルスとリーマスは知っていた。

 

「…そっか。ハリー、これを届けてくれてありがとう。 セブルスが悪いことをしたね。 びっくりしただろう? 私たちでこの地図のこと調べてみるよ。 …ほら、君たちは帰りなさい。 テスト前なんだから」

 

リーマスは先程と同様に優しく笑ったが、その口調は有無を言わせないものだった。

 

ハリーはショックを受けていた。ハリーにとって、シリウスも含めセブルスやリーマスは絶対的に信頼ができる大人たちであった。

そんな大人があそこまで取り乱すところを初めて見て、驚いたのだ。

 

隣りのロンも見てはいけないものを見てしまった心持ちなようで、バツの悪い顔をして部屋を出た。

 

「僕たち、正しいことをしたんだよな…?」

 

暫く廊下を歩いてから、ロンは不安げにそう言った。

ハリーはちょっと困ったように眉根を寄せた。

 

「正しいことはしたと思う。でも…僕、今日になってペテュグリューが僕のおかげで逮捕されるかもって、調子に乗ってた。 セブルスおじさんのこと、もう少し気遣うべきだった」

 

彼は、ペティグリューのせいで最愛の妻を失いかけたのだから。

 

 

 

 

 

 

 

「…すまない」

 

ハリーとロンが出ていった後、セブルスはポツリと呟いた。

リーマスは、心底反省しているセブルスの肩に慰めるよう手を置いた。

そして、早速『忍びの地図』を起動させる。まさかこんな状況でこの地図と再会するとは。

 

「これを誰から譲り受けたのか、聞くの忘れちゃったね」

 

「ああ。 …しかし、血は争えないものだな。 あの子が地図を使うところを見たとき…ジェームズが帰ってきたのかと思った」

 

セブルスもリーマスも、学生時代の頃を思い出していた。

そういえば、ジェームズは自分の子どもが『忍びの地図』をフィルチから盗み出すのを期待していたっけ。 …遠い日の在りし記憶だ。

 

「それで、ペティグリューは?」

 

冷静さは取り戻したものの、セブルスは尚も鋭い声で訊いた。

 

「今は…いないね。 ただホグワーツに来ているのなら、何か目的があるのだろう。 また姿を現すはずだ」

 

リーマスの言葉に、セブルスは思いつくことがあった。

 

「もしや、こないだのヒッポグリフや毒の件はペティグリューの仕業か?」

 

「私も今同じことを考えていた。 目的は…まさかハリーか?」

 

リーマスの瞳がスッと細まる。

 

セブルスは自身の体が憎しみで燃え盛るのを感じた。

奴は、妻を昏睡させたのでは飽き足らず、娘や親友の息子にまで危害を与えようとしていたのか。

 

「リーマス、取り敢えず魔法省に連絡を」

 

「そうだな--いや」

 

リーマスは同調しかけて、やはりと首を振った。

 

「事を大きくして、ペティグリューに逃げられたら元も子もないな。 取り敢えずシリウスにだけ知らせよう」

 

リーマスは、てきぱきと羊皮紙を取り出すと羽根ペンを走らせる。

 

そもそも『忍びの地図』は自分たちが子どもの頃作ったものであり、その存在を知るものは少ない。それでペティグリューを見たと訴えても、魔法省がまともに取り合ってもらえるかは怪しい。

 

「…すまない、リーマス」

 

セブルスはガックリ肩を落としたまま、全てをリーマスに任せていることを謝った。

リーマスはそんな彼を見て困ったように笑った。

 

「さっきから君は謝ってばっかりだね。 こういう時は『ありがとう』の方が嬉しいかな。 君が辛い目にあっていたら、助けるのは当たり前だ。 …友達だろう?」

 

リーマスの言葉は、セブルスの中に燻る憎しみをほんの少しだけ和らげてくれた。

 

「そうだな。 ありがとう、リーマス」

 

改めてセブルスがそう言うと、彼は満足そうに頷いた。しかし、同時にセブルスは少し苦い気持ちになった。

 

ペティグリューも・・・いや、ピーター(・・・・)もまた自分の友人だったことに変わりはないのだから。




原作見ていつも思うんだけど、フレジョは何故スキャバーズの正体に気付かなかったんや・・・。

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