例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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スキャバーズの正体

椅子に座っているだけで汗ばんでくるような初夏。

鬱陶しい気候の中で、期末試験は無事に終わった。

 

「…それでさー、トレローニーが急に恐ろしい声で言ったんだ。 闇の帝王が、召使いの手を借りて再び立ち上がって、なんとかって」

 

ハリー、ロン、ハーマイオニーのいつもの3人組にシャルロットと嫌そうな顔をしたドラコを加えた一行は、中庭を通ってハグリッドの家へと向かっていた。

 

「あんなインチキ占い師にそんな力ないわよ。 あなた、からかわれたんだわ」

 

この辛辣なコメントをしたのは、途中で占い学に見切りをつけて教室を飛び出したハーマイオニーである。

漸くテストも終わり、ここのところ皆が辟易していた彼女のヒステリー癖は形を潜めていた。

 

「そうねぇ。 占い学は一番不確かな分野だってパパも言っていたわ」

 

「そうかなあ。 でも何ていうか、ちょっと尋常じゃなかったんだよ。 トレローニーの様子」

 

まだハリーは納得をしていなかったが、ちょうどハグリッドの家に着いたのでその話はそこまでになった。

 

「おめえら、よーく来てくれた! おお、シャル!髪切ったんか! 母さんにそっくりだ!」

 

ハグリッドはピンクのエプロンをつけたまま、5人を出迎えた。その格好に、ドラコの唇がひくりと震えた。

しかしそんなことに気付くほどハグリッドは繊細でない。彼はドラコににっこり笑いかけた。

 

「マルフォイは俺の家に入るのは初めてだな? ちっこい家だが、寛いでいってくれ!」

 

「ええ…どうも」

 

ハグリッドの言葉は決して比喩ではなく、5人を迎えた家はいっぱいいっぱいだった。

ハグリッドは得意料理(だと本人は思っている)ロックケーキを振舞った。

 

「マルフォイ、ちゃんとお礼を言いたかったんだ。 バックビークのこと、本当にありがとうな…ビッキーはおまえのこと襲っちまったのに…」

 

ハグリッドは涙声混じりにそう言うと、ドラコの手を握りぶんぶんと振った。その勢いで、小柄なドラコは吹き飛びそうになった。

 

「あれは別に貴方のせいではないでしょう。 悪いのは、毒のある植物を餌に仕込んだ奴だ」

 

ドラコは嫌そうな顔をしていたが、ハグリッドの手を振りほどくことはしなかった。

 

「犯人は結局誰だったのかな」

 

「きっと生徒の悪戯だろ。 全くいい迷惑だ」

 

首を傾げたロンにそう言うと、ドラコはロックケーキを1口齧った。…確実にどこかの歯が欠けた音がした。

ドラコがげっそりした顔でフォークを置くと、珍しくロンが同情的な視線を向けた。

 

ハグリッドがせっかくだからバックビークに会っていかないかと言ったので、5人は外に出た。

その提案にドラコとハリーはちょっと迷惑そうな顔をしたが、落ち着いてる時のヒッポグリフはなかなか魅力的な生き物だった。少なくともハリーはトラウマを克服したらしい。

 

「可愛いわねぇ」

 

シャルロットが、バックビークの嘴をあやすように撫でる。バックビークは気持ちいいのか目を閉じていた。

 

「まるでレイチェルの若い頃を見ているようだなぁ。 あの子もリリーも、動物が好きな女の子だった」

 

ハグリッドは懐かしそうに目を細めた。

ハリーとシャルロットは何だか擽ったいような気持ちになり、顔を見合わせて笑った。

 

ハグリッドの家を出たのは夕方頃だった。青々とした草を踏みしめて、5人はダラダラと城へ向かった。

 

ハリーがお気に入りのクィディッチチームの連勝記録を話していたその時、ロンが大声を上げた。

 

「スキャバーズ!!」

 

突然ロンがその場に跪いたので、他の4人も驚いて立ち止まった。ロンが再び立ち上がると、その手の中には汚いドブネズミ--スキャバーズ--が確かに居た。

 

「…なんだい、その汚らしいネズミは」

 

ドラコが顔を顰め、ロンから距離をとった。しかし、死んだと思ったペットを見つけて興奮しているロンには聞こえなかったらしい。

 

「よかった! スキャバーズ! 生きてたんだ!」

 

「本当に! 信じられないわ…よかった」

 

クルックシャンクスが食べたと思い、傷ついていたハーマイオニーも喜びの声を上げた。

 

「ああ! 見てくれよ! ほら!」

 

「よかったな、ロン! でも、ハーマイオニーに疑ったこと謝るべきだ。 そうだろう?」

 

ハリーがそう促すと、ロンはスキャバーズを抱きしめながらバツの悪そうな顔をした。

 

「あー…そうだね。 クルックシャンクスのこと疑って悪かったよ」

 

「いいのよ。 疑われるようなことしたのはクルックシャンクスですもの」

 

ハーマイオニーがそう言うと、何故かロンはちょっと頬を赤くした。

そして、ハーマイオニーは手を伸ばしスキャバーズの頭を撫でようとした。

 

その時、スキャバーズはロンの手の中からぴょんと飛んだ。

 

「あっ!」

 

スキャバーズは草むらの中を走って逃げていく。

 

「スキャバーズ! 待てって! ごめん。 みんなスキャバーズのこと捕まえて!」

 

ロンが慌てて追いかけながら言った。

 

ハリーとハーマイオニー、そしてシャルロットも追いかける。ドラコも「何で僕がウィーズリーのペットなんかを…」とぶつくさ文句を垂れながら、ネズミを追いかけた。

 

スキャバーズはまるでこちらの様子を窺うように何度も振り返ると、つかずつかれずの距離を保って走って行った。

 

やがてスキャバーズは、暴れ柳の根元の近くで姿を消した。

ロンは焦って何度も幹に躓きながら、木に近付く。

『暴れ柳』はその名の通り暴れ狂って、シャルロット目掛けて枝を振るった。

 

「危ないっ!」

 

間一髪、ドラコが間に合ってシャルロットを庇った。

 

「うっ…」

 

ドラコの足首にずきりとした痛みが走る。捻挫してしまったらしい。

 

ハリーとロンは漸くスキャバーズを見つけたようだ。木の根元の穴の中にスキャバーズは入ってしまったらしく、懸命に手を伸ばしている。…人間も入れそうな大きな穴だ。

 

「おい! スキャバーズ、来いってば!」

 

「危ないぜ、ロン! よせよ!」

 

今にも穴に入らんばかりのロンを引っ張ってどうにか制する。

 

その時、とてつもなく不思議なことが起こった。先ほどスキャバーズが居たはずの穴の中から、にゅっと1本の人間の腕が伸びてきた。

 

「なっ…!?」

 

驚いたのも束の間、ロンはその腕に引っ張られ穴の中に姿を消した。同時にロンを掴んでいたハリーも穴の中に引き込まれる。

 

「ハリー! ロン!」

 

シャルロットは、穴の中に入ってしまった2人に声をかけた。しかし、穴の中は通路になっているようだ。どんどん2人の声は遠ざかっていく。一体どうなっているのだろうか。

 

「ハーマイオニー! 誰か先生を呼んでちょうだい!」

 

「わかったわ! シャルとマルフォイは!?」

 

「私たちは2人を追いかけるわ! 怪我しているかもしれない!」

 

ハーマイオニーは危険だと止めようとしたが、暴れ柳が再び攻撃を振るってきたので諦めた。シャルロットの言う通り、先生を呼んだ方が賢明だ。

 

ハーマイオニーは暴れ柳の猛撃を掻い潜ると、脱兎のごとく城に向かって走り出した。

 

それを見届けたシャルロットは、ドラコと共に穴の中に飛び込んだ。

穴の中は薄暗く蜘蛛の巣が張っている。そしてやはり通路になっていた。恐らく人工的に作られたものだろう。

 

「ドラコ、あなたはここにいて。 足怪我しているでしょう」

 

「馬鹿いうな! 一緒に行くに決まってるだろう。 僕は歩けるぞ」

 

間髪あけずにドラコにそう言い返されたシャルロットは、尚も何か言い募ろうとしたが諦めた。

言い合いをしている時間はない。

幸いドラコは痛そうに足を引きずっているものの、骨に異常はないようだ。本人の言う通り歩けているし、シャルロットはそれ以上何も言わなかった。

 

杖を懐から取り出し、警戒しながらトンネルを進んだ。

トンネルはかなり長かったが、やがて上り坂になり薄らとした光が零れた。トンネルはここで終わりらしい。

 

シャルロットはドラコと顔を見合わせた。

正直、何が起きているのかさっぱり分からない。しかし、ここから先に恐ろしいことが待ち受けていそうな気がしてシャルロットの背筋に悪寒が走る。

咄嗟に杖腕ではない方の手でドラコの手を握った。ドラコはちょっと驚いたようだが、すぐ握り返す。いつもひんやりしている彼の手は、珍しく熱く汗ばんでいた。

 

覚悟を決めてシャルロットはドラコとトンネルを出た。

 

朽ち果てた家具。埃まみれのカーペット。窓にはひとつ残らず、板が張ってある。

部屋のあちこちには何かで引っ掻いたような痕があった。

 

「ここって…まさか叫びの屋敷?」

 

シャルロットが呟いたその時。上の部屋で、物音が聞こえた。

ドラコとシャルロットは、今にも崩れ落ちそうな階段を駆け上がり、ドアを開けた。

 

「駄目だ! ドラコ、シャル! 逃げろ!」

 

部屋にいたハリーが呻き声をあげた。

ハリーとロンは部屋の隅で怯えたように、体を小さくしていた。

 

2人の対角線上に、薄汚れた背の小さな男がいた。

 

ピーター・ペティグリューだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後から思えば、完全に無意識だったと思う。

 

職員室の方が近いうえに確実に誰かしら居るはずなのに、パニックの中で無意識に辿り着いたのは地下に位置するレギュラスの研究室だった。

 

「ブラック先生!!」

 

レギュラスは期末試験の採点をしていたようだった。

 

ノックもなしに現れた来客に一瞬レギュラスは不快な顔をしたが、ハーマイオニーだと分かると驚いたように目を瞬いた。

 

「ブラック先生! 助けてください! ハリーたちが暴れ柳に襲われて、何故か木の中に! シャルも巻き込まれて!」

 

普段の彼女らしくないことに、ハーマイオニーの説明は支離滅裂で充分とはいえなかった。しかし、レギュラスに事の緊急性は伝わったようですぐに彼は立ち上がった。

 

「落ち着きなさい! 暴れ柳で、何かが起きたのですね?」

 

「はい!」

 

レギュラスは今にも部屋を飛び出そうとして、はたと足を止めた。

その視線の先には、何やら薬の入ったゴブレット。

 

「…グレンジャー。 私はこの薬をルーピンに届けなけばならない。 その後すぐに暴れ柳に向かいます」

 

「私も行きます!」

 

間髪あけずにハーマイオニーはそう答えた。しかし、レギュラスは迷うことなく首を振った。

 

「いいえ、貴方はここにいなさい」

 

「嫌です!」

 

ハーマイオニーは涙目で、しかし強気な態度で首を振った。

 

レギュラスの頭にふつふつと血が上る。

1年生の時もそうだった。どうしてこの少女は大した魔法も使えないくせに、誰かを守ろうと躍起になるのか。自分の身だってろくに守れないのに。

 

どうして、この少女はここまで自分の心を掻き乱すんだ。

 

「…貴方が来ても足手まといだと言っているんです! ここに居なさい!!」

 

レギュラスの激昴した態度に、ハーマイオニーは一瞬怯んだ。しかし、すぐに元通りの強気な態度に戻った。

 

「襲われているのは私の友人です。 私も行きます」

 

ハーマイオニーの決意の篭った瞳に、レギュラスはゴブレットをどこかに投げつけたい衝動に駆られる。

 

この瞳が、どこまでも自分を惑わす。

 

以前1度だけ、この子がスリザリンだったならと思ったことがある。

しかし、目の前の少女は--どこまでも憎き兄と同じ--紛うことなきグリフィンドール生だった。

 

 

 

 

スリザリン贔屓の教授とグリフィンドールの首席というまさかのツーショットに、廊下を歩く生徒たちは皆怪訝な顔で道を開けた。

 

廊下を駆け抜けて、『闇の魔術に対する防衛術』の教授の部屋に行くと、そこにリーマスは居なかった。

 

「なぜ…今日は満月なのに」

 

レギュラスが呆然と呟いた。

その時、ハーマイオニーは机の上に置いてある『忍びの地図』を見つけた。

 

そこには暴れ柳に向かっているリーマス、セブルス、そして何故かシリウスの名前まであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いくら魔法が使えたって、杖がなければ何の意味もない。

 

ペティグリューに杖を奪われたハリーとロンは、そのことをこれ以上ないくらい痛感した。

そのうえ長いトンネルの中を引き摺られたハリーとロンは、既に満身創痍だった。当たりどころが悪かったのか、ハリーの足からは血がダラダラ流れている。

 

目の前のペティグリューは、ボロボロの衣服を身に纏った小汚い男だった。しかし、瞳だけは妙にギラギラしていて異様である。

 

シャルロットは無意識に生唾を飲み込んだ。

 

ずっと歩いてきたせいで足が痛むのか、ドラコは小さく呻き声を上げた。

 

「怪我しているのか、マルフォイ」

 

それに気付いたロンはドラコに肩を貸した。ドラコは小さな声で「すまない」と言うと、彼に寄りかかった。

 

「…マルフォイ? ルシウス・マルフォイの息子か?」

 

ペティグリューは虚をつかれたように、そう言った。そして、見定めるようにドラコをしげしげと見つめた。

 

「今すぐ立ち去れ。 そうすれば、危害は加えない。 私が今宵殺したいのは、ハリーだけだ」

 

その言葉に、一番に反応したのはシャルロットだった。

 

「ハリーは殺させないわ!」

 

シャルロットはそう怒鳴ると、ペティグリューに杖を向けた。

 

短く切りそろえた金髪。母親譲りの切れ長の瞳。杖を向けるその強気な態度。

 

「またしてもその顔が、私の前に立ちはだかるか」

 

ペティグリューは憎々しげにそう言った。その姿は否が応でも、シャルロットの母親を思い出した。

 

「その顔? 何を言って--」

 

「駄目だ! シャル、聞いちゃ駄目だ!」

 

ハリーが慌てたように、声を上げた。

しかし、ペティグリューは残忍な笑みを浮かべた。

 

 

「本当に知らないんだな。 ならば教えてやる。 君の母親レイチェル・プリンスを瀕死にしたのは…私だよ」

 

 

まるでシャルロットの反応を楽しむかのように、ゆっくりとペティグリューは言った。

 

シャルロットの体が痙攣するように、ひくりと震えた。

闇色の瞳が揺れる。

 

「エクスペリアームス!」

 

ペティグリューはハリーから奪った杖でそう唱えた。

シャルロットの杖は弾かれ、反対側の部屋の方へと落ちた。

 

「ぁ…」

 

ペティグリューはさらに杖を振った。すると、シャルロットの体は吹っ飛ばされ壁に叩きつけられる。

意識こそ失っていないものの、シャルロットは痛みに呻いた。

 

「もう一度言う。 ハリーを渡せ」

 

ペティグリューが冷たい声でそう言い放った。

 

「嫌だ!」

 

ロンとドラコは、ハリーと攻撃を食らったシャルロットを庇うように一歩前に出た。

 

その態度にペティグリューは表情を崩さないまま、ため息を吐いた。

そして、静かに子どもたちに杖を向けた。沈みきった泥のような瞳に見据えられる。それは、人を殺したことがある者の瞳だった。

凄まじい恐怖感に思わず、子どもたちは腰を抜かす。死を待つより他はなかった。

 

「アバダ--」

 

「エクスペリアームス!」

 

ペティグリューが呪文を唱える前に、赤い閃光が迸った。

閃光が走った先を見ると、そこにはシリウスが立っていた。

闇祓い局長としての腕は噂通りのようで、たかが武装解除の呪文だというのにペティグリューの体は吹っ飛んだ。彼の持っていたハリーの杖は弧を描き、シリウスの空いている手に収まった。

 

「パパ!」

 

ハリーは安心して、泣きそうになった。

もう大丈夫。自分たちは助かったのだ。

 

シリウスの背後にはリーマス、さらにセブルスまでも居た。

 

 

「ペティグリュー、君は私の娘までも手にかけようとしたのか」

 

 

セブルスの言葉はこの場にそぐわないほど穏やかだった。しかし、そこに込められた怒りは凄絶で、誰もが--リーマスとシリウスでさえも--圧に飲み込まれそうになった。

 

「シリウス…リーマス……セブルス」

 

ペティグリューは喘ぐようにそれだけ言った。

先程までの殺気に満ち溢れた彼は消え、形勢は逆転した。

 

シリウスは顔色1つ変えずに、ペティグリューに杖を向けた。

 

「ああ、親愛なる友よ。 覚えていてくれて光栄だな。 きみの友達は、髑髏の仮面に変わってしまったようだからな」

 

「この1年ヒッポグリフをけしかけたり、クッキーに毒を仕込んだのは君だね。 狙いはハリーか?」

 

リーマスが訊くも、ペティグリューは能面のような顔のまま何も答えない。

 

「答えろ!」

 

シリウスが怒鳴ると、ようやくペテュグリューはフッと自嘲的な笑みを浮かべた。

 

「ああ、そうだ。 まさか『あの人』の元に手ぶらで行くわけにはいかない。 もっと色々な仕掛けを仕込んだのだが、発動したのがそれだけとは。 落ちこぼれの私らしいだろう?」

 

「ネズミになれる君なら、ヒッポグリフの餌に細工をするのもクッキーに毒を仕込むのも容易かっただろうね」

 

「ネズミ!そうだ、おまえスキャバーズをどこにやった!?」

 

驚きの連続にペットのことを忘れてしまっていたロンが、そう怒鳴った。

 

「何言ってるんだ、君の目の前にいるだろう? 君がエジプトで拾ってくれて助かったよ。 おかげで私は餓死せずに済んだ」

 

「何をわけのわからないことを!」

 

ロンが顔を真っ赤にして食ってかかった。

その様子を見て、リーマスは同情的な視線をロンに向けた。

 

「ロン。 ペティグリューは『動物もどき』なんだ。 つまり、スキャバーズはペティグリューだったんだよ」

 

ロンはあまりのショックに呆然と立ち尽くした。

仕方ないことだろう。一年弱可愛がっていたはずのペットが、脱走していた殺人犯だったのだから。

 

そんなロンを一瞥すると、今度はペティグリューが口を開いた。

 

「しかし、一体どうしてここが…」

 

「忍びの地図だよ、ペティグリュー。 君もよく知っているだろう」

 

ペティグリューは目をカッと見開いた。そして、全ての合点が言ったように歯をギリッと食いしばった。

 

「どうして、ペティグリューがあの地図を知ってるんだ?」

 

思わず口から零れ落ちたハリーのその問いには、リーマスが答えた。

 

「黙っていてごめんね、ハリー。 その地図を作ったのは--悪戯仕掛け人は私たちなんだ」

 

どこか懺悔するような口振りでリーマスは続けた。

 

「ムーニーが私だ。 パッドフットがシリウス。 シュリルはセブルス。プロングズが君の父さんのジェームズ。 そしてワームテールが…ピーター・ペティグリュー」

 

ハリー、ロン、ドラコ、そしてシャルロットはあまりの衝撃に言葉を失った。

特に父親たちとペティグリューが友人であったことを今さら知ったシャルロットは、あまりの過度な情報に混乱して唇をわなわな震わせている。

 

「私は愚かだった…。 人生で初めてできた友人たちを危険に晒し、法律を破らせ…挙句の果てに保身に走った。 彼が鼠に変身できると公表していれば」

 

「それ以上はやめろ。 黙っていたのは俺とセブルスもだろ。…同罪だ」

 

「パパ!何やってるんだ。ペティグリューを早く逮捕して!」

 

話し続ける大人たちに、最初に痺れを切らしたのはハリーだった。

そして、同時に疑問に思った。どうして、シリウスは部下を1人も連れてきていないのだろう。

 

「…いいや、ハリー。 ペティグリューは捕まえない」

 

「何を…」

 

ハリーが絶句していると、同じく無言のままリーマスとセブルスがシリウスの隣りに並んだ。そして、2人も杖を抜く。

 

 

「今ここで、ペティグリューを殺す」

 

 

シリウスの口から放たれたその言葉に、子どもたちは呆然とした。

 

そして様子が変わったのはぺティグリューもだった。

 

「私…を……殺すと言ったのか……?」

 

掠れた声でそれだけ言った。

信じられないものを見るような目で、シリウスたちを交互に見つめる。

 

「如何にも。 むしろ、どうして命を助けてもらえるとそう思ったんだね? 君は私の大切なものを奪ったはずだが?」

 

セブルスは冷えきった声でそう言った。

 

「はは…。 馬鹿馬鹿しい。 君たちに…私を殺すことなんてできるわけが…」

 

ぺティグリューはどうにか虚勢を張っているが、様子が変わったのは明らかだった。

どうやら、旧友たちは命までは取るまいと高を括っていたらしい。

汗がふつふつと額にあふれ出す。そのまま、ぺティグリューはたじたじと後ずさった。

 

「シリウス、子どもたちに見せるべきではない」

 

しかし、リーマスは意に介さず厳しい声でそう言った。

 

「…そうだな。 ハリー、今すぐ友達を連れてここから出ろ」

 

シリウスの言葉で漸くハリーは我に返った。

 

「…こんなのおかしいよ!! 何でパパたちがペティグリューを殺さなきゃいけないんだ! こいつはアズカバンに戻ればいい、そうだろう!」

 

「ハリー! まだ何も知らないくせに口を出すな!!」

 

シリウスが、ハリーに怒鳴りつけた。

義父に叱られたことなど殆どないハリーはショックを受けたようだが、負けじと言い返す。

 

「僕は知ってる! そいつが、シャルロットのお母さんを昏睡に追い込んだんだろ! だから、パパは昔の写真を見せてくれなかった! ペティグリューと友達だったとバレてしまうから!」

 

「そうじゃない!! それだけじゃねえんだよ…こいつは……こいつはッ!!」

 

シリウスの杖を持つ手がぶるぶると震えた。

美しい美貌は壮絶に歪み、一種の狂気を窺わせた。

 

「シリウス」

 

セブルスは、激情に駆られているシリウスを窘めるように鋭く名を読んだ。まるで、これ以上言うなと言わんばかりに。

 

「いや、いずれハリーも知るべきことだった。 そろそろ潮時だろう」

 

シリウスはどうにか感情を抑えて言葉を吐き出した。

セブルスは小さく頷き、リーマスもまたシリウスの意見を尊重した。

 

「君がそう言うなら反対はしないよ」

 

シリウスはギリッと爪が食い込むほど、杖を強く握りしめた。

 

「いいか、ハリー。 よく聞いとけよ」

 

シリウスの脳裏にこの世で一番愛した親友とその妻が浮かんだ。

憎しみが、唸りを上げて加速する。

 

「おまえの両親はこいつのせいで死んだ。 ジェームズとリリーを死に追い込んだのは、ピーター・ペティグリューなんだッ!!」

 




原作よりピーター凶悪じゃね?って思うかもしれませんが、原作と違いレイチェルを殺しかけてアズカバンに入ってしまったので、吹っ切れてるというか・・・もう戻れる場所が闇の勢力側しかないんですよね。

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