例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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四人目の代表選手

「よーし、決行だ!」

 

双子の片方--おそらくフレッドはそう言うと、ぬるりとした乳白色の液体が入ったゴブレットを手に取った。

中身はもちろん老け薬。そして、集まったメンバーはフレッドとジョージ、ロン、そしてハリーである。

 

「分かってるだろうな? この中の誰かが上手くいって選ばれたら…優勝賞金は山分けだぞ」

 

「その話するの三回目だよ、フレッド」

 

早く決行したいのか、うずうずして待ちきれないとばかりにロンは言った。

 

「馬鹿。 俺はジョージだ。 …それじゃあ、乾杯!」

 

四つのゴブレットが、チンと小気味よい音を立てた。

ハリーは中身を一気に飲んだ。腐った果実のような、変な味がする。隣りでロンも顔を顰めている。

ハリーとロンに比べ、双子は老け薬の成分が少ないからか一息に飲んでしまっていた。

 

四人は目配せすると、同時にゴブレットの中に名前と学校を書いた紙を投げた。

…特に何も起こらない。これは上手くいったのではないか、そう思った瞬間。

バチンッという音と共に、四人は金色の線の外まで弾き飛ばされた。

 

「うわっ!」

 

ハリーは強かに尻もちをついた。ロンも近くに転がっている。

 

「いたたた。 みんな、大丈…ぷっ!!」

 

ハリーの言葉は最後まで続かなかった。真正面から、ロンと双子の顔を見てしまった。二人の顔にはダンブルドア顔負けのフサフサとした髭が生えていた。慌てて自分の顎に手を持っていくと、同様にフサフサした何かがある。

 

「あははは! おまえら何だよ…その顔!」

 

「兄貴たちだって…くくっ!」

 

とうとう四人は互いの顔を指さしゲラゲラと笑った。

大広間で成り行きを見守っていた生徒たちもクスクスと笑っている。

 

「忠告したはずじゃよ」

 

ダンブルドアがどこからともなく現れた。しかし、その口調に咎めるような気配はなく、むしろこの状況を楽しんでるようにすら見えた。

 

「さあ、四人ともその素敵な髭をどうにかせねばならんのぅ。 マダム・ポンフリーの元に行きなさい。 君たちと全く同じことをした先客がおる」

 

老け薬の用量が多かったのか、ハリーの顎髭は今や床を引き摺っていた。

大広間の笑いは、さらに大きくなった。

 

「ちぇっ。 上手く行きそうだったのになあ」

 

マダム・ポンフリーの小言を聞き流しながら、ハリーは呟いた。顎髭はこれ以上ないくらい苦い薬を飲んだら、あっという間にスルスルと短くなって消えた。

 

「他にいいアイデアないかな?」

 

ロンは未だしぶとく残る髭を引っ張りながらぼやいた。

 

「うーん…ダメ元であと1個試してくる! 先に寮帰ってて!」

 

ハリーはそう言うと、双子とロンを置いて保健室を後にした。後ろからマダム・ポンフリーの声が聞こえてきたが無視した。

 

ハリーが向かったのはグリフィンドール寮のすぐ近くに位置するセブルスの部屋である。今日は確かホグワーツにいるはずの日だ。

思った通り、ノックをするとすぐに「どうぞ」と無愛想な声が聞こえた。

 

セブルスは訪れた人物がハリーだと分かると、論文を書く手を止めてニヤッと笑った。

 

「髭の調子はどうだ?」

 

「なんだ。 もう知ってたの? みんなお喋りだなあ」

 

ハリーはバツの悪そうな顔でふにゃりと笑った。

 

「おまえはジェームズと同じで派手なことが好きだからな。 変わった事件が起きたら、だいたい犯人はハリーだと思うことにしている」

 

失礼だなあ、とハリーは頬を膨らませて言った。しかし、セブルスたちからジェームズにそっくりだと言われるのは嫌ではない--むしろ好きだ。

 

「ところで何か用があったんじゃないのか、ハリー? 早く済ませないと夕食に遅れるぞ」

 

今夜はハロウィン。そして、代表選手たちが発表される晩餐でもある。

今頃屋敷しもべ妖精たちが腕によりをかけてご馳走を作っているだろう。

 

「うん。 あのね、セブルスおじさん、ポリジュース薬ちょうだい。 …あ、悪いことには使わないよ。 ちょっと遊ぶだけだから」

 

想像通りの質問に、セブルスは思わず笑いそうになった。本人は何気なく言ったつもりなのだろうが魂胆が丸見えだ。

大人びたようで、目の前のハリーはセブルスから見るとまだまだ子どもだった。

 

「駄目に決まっているだろう。 そもそもポリジュース薬で大人に変身しても、年齢線を超えられないぞ」

 

「…ばれた?」

 

「当たり前だ」

 

 

 

 

 

 

そんなわけで、ゴブレットから名を呼ばれて一番驚いたのは間違いなく本人だった。

 

「ハリー・ブラック」

 

大広間は一瞬の静寂の後、蜂の巣をつついたような騒ぎになった。

予想外の出来事に思わずハリーも固まった。しかし、一番最初に平静さを取り戻したハーマイオニーによって前に押し出された。

 

いざ前に出ると、どうして名前を入れることが出来ない自分がという疑問と共に、選ばれたという嬉しさが胸に押し寄せる。

 

いつも通りニヤッと笑って、生徒たちの座っている方を振り返った。

 

しかし、そこにあったのは、ハリーの予想に反して敵対心の籠った視線だった。

 

 

 

 

教師やバクマンとクラウチに詰問された(特にレギュラスにはきつい嫌味をお見舞された)後、ハリーは何となく気まずい思いで恐る恐る寮へと帰った。先程の大広間での皆からの視線が気になった。

 

「フリバディジベッド」

 

合言葉を唱えて、寮に入る。しかし、ハリーを待ち受けたのは皆からの歓迎だった。

 

「あ! ハリーが帰ってきたわよ! やったわね、ハリー! 私は選ばれなかったけど貴方が出れるんだわ!」

 

同じクィディッチチームの仲間アンジェリーナはそう言って、ハリーに抱きついた。

 

「抜け駆けは禁止って言ったじゃないか、ハリー」

 

「そうとも! 優勝賞金は山分けって話、忘れてないだろうな?」

 

フレッドとジョージのどちらかに肩車をされた。今や皆がハリーをキラキラとした眼差しで見ている。

 

「ねえねえ、ハリー! どうやってゴブレットに名前をいれたの?」

 

ハリーの熱烈なファン、コリン・クリービーがカメラのシャッターを夢中で切りながらぴょこぴょことジャンプした。

 

--後から思えば、ここで例え信じてもらえなかったとしても、自分で名前を入れたことを否定するべきだったのだろう。

 

しかし、皆からキラキラとした羨望の視線を浴びて調子に乗ったハリーは…つい悪い癖が出てしまった。

 

「ふふっ、それは内緒さ! でも、絶対優勝してみせる! だから応援してよね!」

 

ハリーが大仰に手を広げてそう言うと、皆も興奮したように歓声を上げた。

 

そのあと漸く寮生から解放してもらえたハリーは、寝室に行くとベッドに音を立てて飛び込んだ。

先に寝室に着いていたロンは、既にパジャマに着替えている。

 

「…で、本当はどうやってゴブレットに名前入れたわけ? もちろん僕には教えくれるんだろうな?」

 

ロンは自分から話しかけた割にはこちらを見ようともせず、様子がおかしかった。

しかし、疲れきっていたハリーは、ロンの口調に帯びる刺々しさに気付かなかった。

 

「ああ、それなんだけどね。 みんなの前では言わなかったけど…本当は僕入れてないんだよ」

 

ハリーはあっけらかんと言うとローブを脱ぎ、パジャマに袖を通した。そして、ふわっと欠伸をする。

ロンの口元がひくりと歪んだ。

 

「へえ? 保健室のあと一人でどこかに行ったじゃないか」

 

そこでようやくハリーも、目の前の親友のおかしさに気付いた。

 

「それはセブルスおじさんにポリジュース薬もらえるか聞いただけだよ。 もちろん貰えなかったわけだけど。 どうしたんだ、ロン?」

 

「どうだかね。 目立ちたがりの君のことだ。 君だけ貰って隠しておいたんだろ? それで大人に変身して名前を入れたんだ」

 

「だから入れてないってば! そもそもポリジュース薬でも年齢線はごまかせないってセブルスおじさんが言ってた」

 

「本当かよ? いつだってスネイプ先生は君を贔屓する。 だって大好きなシリウスパパの親友だもんな? それに、皆の前では如何にも特別な方法で出し抜いたように振舞ってたじゃないか」

 

ハリーは自分の中の感情がすっと冷めていくのを感じた。

 

「確かに僕の行動も悪かったよ。 調子に乗りすぎた。 でも、僕の言葉を信じてくれないわけ?」

 

痛いほどの沈黙が流れた。

目の前にいるのは、本当に自分の親友のロンだろうか。

 

「…早く寝れば? 明日も写真撮影とか杖調べとか忙しいんだろ」

 

ロンは一度も目を合わせず、カーテンを乱暴に引いた。

怒りとショックで頭がごちゃ混ぜになったハリーは、乱暴に毛布を手繰り寄せ頭に被った。

しかし、寝付けたのはかなり時間が経ってからだった。

 

 

 

朝起きると、既にベッドにロンは居なかった。仕方なく一人で着替えて寮を出ると、大広間に向かう。

そこでハリーは自分が昨日感じた視線が、決して気のせいではなかったことを思い知った。

ハリーが大広間に入った途端、ヒソヒソ話の声は大きくなったし、いつも声をかけてくれる他の寮の友達ですら目を合わせようともしない。

 

そして何より誰が作ったのか知らないが、多くの生徒は『セドリック・ディゴリーを応援しよう。汚いぞ、ハリー・ブラック』という中傷バッジを付けている。

ハリーの頭の中はぐちゃぐちゃになった。

 

ロンはちょうど朝ご飯を終えたところで、ハリーの姿を見つけるなり席を立った。ロンの隣りにいたハーマイオニーはこちらに来ようか迷ってるようだったが、ハリーは大丈夫だとジェスチャーを返した。

 

ロンの気持ちは知っている。ここでハーマイオニーが自分を気遣ったら彼はさらに臍を曲げるだろう。

 

とはいえ、ここで嫌な視線に耐えてまで食事をとる気にもならなかった。

結局ハリーはトーストを何枚かナプキンに包むと大広間を後にした。

向かったのは、中庭に続く玄関。

…彼女は居るだろうか。角を曲がり、ダークブロンドの髪が視界に入ると、ハリーの心拍数はちょっと上がった。

 

「ルーナ」

 

名を呼ぶと、またしても玄関で朝食を取っていたルーナはにっこり微笑んだ。話すのは今学期始まって初めてだ。

 

「元気だった、ハリー? 何か大変そうだね」

 

「…うん。 トースト食べない? 多めに持ってきたんだ」

 

ハリーはルーナと二人でトーストを分け合った。さくっと音を立ててパンを齧る。

ルーナが何も聞いてこないので、ハリーは張っていた緊張が解けるのを感じた。

暫くは静かな時間が流れた。日向に手を置いているような暖かさ。ルーナの隣りはいつだって不変的に穏やかだった。

ついにハリーは自分から話したくなり、口を開いた。

 

「昨日はつい僕の手柄みたいな態度しちゃったけど…本当は僕、名前いれてないんだ」

 

「そうなんだ」

 

ルーナは何でもないことのように、けろりと相槌を打った。

 

「信じてくれるの?」

 

「ハリーは嘘を言ってるの?」

 

質問に質問で返され、ハリーは虚をつかれた。

 

「嘘なんてついてないよ」

 

「それなら信じるよ。 友達だもん」

 

ルーナはあっけらかんと笑った。

ハリーは不意にルーナに触れたくなった。何か言おうとしたその時。

 

「ここに居たのね、ハリー」

 

子どもらしくない鼻にかかった甘い声で、チョウ・チャンは背後からハリーに抱きついた。

 

「…やあ、チョウ」

 

「このあと杖調べがあるんでしょう? バグマンが貴方のこと探していたわ。 一緒に行きましょう」

 

「ああ、うん。 それじゃあ…またね、ルーナ」

 

「バイバイ」

 

ルーナはさっきと同じようににっこり笑っていたが、ちょっと寂しそうに見えたような気もした。

 

「ハリーったら、ルーニー(変人)と何話してたの?」

 

チョウはクスクスと笑った。

驚いてハリーは、チョウの顔をまじまじと見つめた。校内で1.2位を争うほど美人な彼女だが、その笑みにハリーは不快感を感じた。

 

「彼女の名前はルーナだろ。 そんな呼び方やめろよ」

 

「あら、何よ。 ハリーったら今日は機嫌悪いのね」

 

「…別に」

 

自分の隣りに居るのがルーナなら今どんなに気持ちが楽だったことだろう。

それからハリーは杖調べの会場に行くまで、一言もチョウと話さなかった。

 

 

 

 

 

「やあ、ハリー。 セブルスおじ様が君のこと探してたよ」

 

杖調べも終わり、一人で中庭を歩いているとドラコにそう話しかけられた。隣りにはもちろんシャルロットも居る。

こいつらスリザリンに他の友達いないのだろうか、とハリーは失礼なことを考えた。

 

「セブルスおじさんが? オッケー」

 

三人は久しぶりに連れ立って歩いた。

 

「大丈夫だった? リータ・スキータが居たんでしょ? あの人にパパも酷い記事を書かれたことがあるの」

 

「え? 大丈夫だったよ。 むしろ何かすごい気を使われた」

 

ハリーは先程インタビューを受けた派手な女を思い浮かべた。

グルグルとした巻き毛に、装飾がやたらついた眼鏡をした中年の魔女だった。底意地の悪そうな人物だったが、ハリーには簡単な質問と抱負を聞いただけで「お父様によろしくね」とだけ言うと、媚びるような笑みを浮かべて去っていった。

 

「ああ、それはシリウスおじ様がファッジのお気に入りだからだよ。 日刊予言者新聞は魔法省に言いなりだからな」

 

ドラコの考えが合っているなら、全くもってブラック家のブランド様々である。もし、自分がシリウスの息子じゃなかったらどんな悪評を書かれたのだろうと、ハリーは今更ながら恐ろしくなった。

 

ちょうどその時、数人のスリザリン生がすれ違いざまに「汚いぞ、ブラック」と笑いながら悪態をついた。

それを見たドラコは心底申し訳なさそうな顔をした。

 

「悪いな、ハリー。 止めさせたいところなんだが…」

 

ハリーは首を振った。

ドラコにだってシャルロットにだって、スリザリン寮で立場というものがあるだろう。むしろ無理して止めさせて、対立なんてしてほしくない。

ハリーにとっては、ドラコとシャルロットがあの馬鹿げたバッジをせず一緒に居てくれる、それだけで充分だったのだ。

 

「そんなことどうでもいいよ。 君たちは僕のこと応援してくれるだろう?」

 

「そうね。 応援しないと貴方いじけそうだし」

 

「間違いない。 しかし、皆よくハリーが自分で入れたと信じるよな。 たいして成績の良くないハリーが、ゴブレットを出し抜けるわけないじゃないか」

 

「ちょっと待って。 僕の成績は真ん中より上…って、二人とも薄情すぎない?」

 

ハリーがむくれると、二人は顔を見合わせて冗談だと笑った。ハリーも吊られて笑った。少し涙が出そうになった。

ひとしきり笑った後、ふとシャルロットは真面目な顔になった。

 

「ロンと喧嘩でもしたの?」

 

ハリーは思いきり顔を顰め、昨日のやり取りについて話した。

 

「酷いと思わない? 僕が抜け駆けしたと思ってるみたいなんだ」

 

すると、シャルロットと…驚いたことにドラコでさえ微妙な顔をした。

 

「ハリー…それ多分だけど、ウィーズリーは本気で君が抜け駆けしたとは思ってないと思うよ」

 

「どういうこと?」

 

「わからないの? 貴方って友情に関しては鈍感なのね。 …きっと、ロンはあなたに嫉妬しているんだわ」

 

シャルロットは言いにくそうに言った。しかし、当のハリーは意味がわからず眉をひそめて首を傾げた。

 

「嫉妬?」

 

「ええ、そうよ。 貴方たちは仲がいいけど、いつだって目立ってるのはハリーだわ。 きっとロンは劣等感を感じているんでしょうね」

 

ハリーはシャルロットの言葉に対して何か言おうとしたが、ちょうどセブルスの部屋に着いてしまったため話はそこまでになった。

 

「スネイプ先生、マルフォイとプリンスとブラックです。 入っていいですか?」

 

代表してドラコがそう言うと、すぐ扉は開いた。部屋にはセブルスしか居ないと思ったが…。

 

「よお!」

 

暖炉から聞き慣れた声がした。見ると、炎と薪がシリウスの顔を形作っている。煙突飛行ネットワークによる部分通信だ。

 

「パパ!」

 

ハリーは嬉しそうに声を上げた。

 

「大丈夫か、ハリー? セブルスから事情は聞いたぞ。 シャルとドラコも元気そうだな」

 

セブルスは早速お茶を沸かすと、ハリーたちに座るよう促した。

 

「悪かったな、ハリー。 急に呼び出して」

 

ハリーはふるふると首を振った。確認するまでもなく、呼び出したのは三大魔法学校対抗試合についてのことだろう。

 

「まず確認するが…おまえは自分で名前を入れてないんだな?」

 

「入れてないよ!」

 

ハリーは即答した。

 

「だろうな。 ハリーにあの年齢線が超えられるとは思わない」

 

「ああ。 それにハリーは嘘なんてつかねーよ」

 

そんなことはわかっている、とセブルスは頷いた。

ハリーは胸の中がジワジワ熱くなるのを感じた。

 

問題は、とセブルスが言葉を続ける。

 

「どうやってゴブレットに名前を入れたかじゃない。 誰が入れたかだ。 シリウス、心当たりは?」

 

「一番可能性が高いのはカルカロフだな」

 

シリウスの言葉に、そうだろうなとセブルスも同調する。

 

「カルカロフってあのダームストラングの校長?」

 

ハリーは、先程も見かけた髭をたくわえた仏頂面の男を頭に浮かべた。

 

「ああ。 元は死喰い人だったが、仲間を売ることで逮捕を逃れたやつだ」

 

「シリウス、ハリーの出場資格を取り消すことは出来ないのか?」

 

「ちょっと待ってよ! たしかに入れたのは僕じゃないけど…せっかく選ばれたのに!」

 

ハリーは憤慨したように抗議した。が、すぐに厳しい声でシリウスに窘められた。

 

「ハリー、これはそんなに簡単なことじゃない。 誰かがおまえを危険な目にも合わせようとしてるんだ。 …だが、セブルス、無理だな。 魔法ゲーム・スポーツ部に掛け合ったが相手にしてもらえない」

 

「おまえが掛け合ってその結果なら、どうにも出来ないな」

セブルスは眉間を寄せて溜息を吐いた。

 

「だが、最初の課題の内容は聞けた。 どうやら、ドラゴンらしい」

 

「ドラゴン!?」

 

シャルロットとドラコとセブルスは、同時に叫んだ。

 

「馬鹿な…危険すぎる。 十七歳相手でも難しい課題だぞ。 ましてハリーは大した呪文を知らない」

 

セブルスの顔は今や青白くなっている。

 

「僕、ドラゴンと戦うの…?」

 

ハリーもここに来て漸く危機感を感じた。選ばれた嬉しさにかまけて、課題のことなんてすっかり頭から抜け落ちていたのだ。

無論ハリーはドラゴンに効果的な魔法なんて何も知らないばかりか、本物のドラゴンを見たことすら少ない。

 

「今から『結膜炎の呪い』を覚えるか? いや、間に合わない。 それなら『失神呪文』か…しかし」

 

「セブルス、相変わらず頭が固いな。 どれも今からじゃ間に合わない。 もっと、ハリーの得意なことを応用させるんだ」

 

どうやら既にシリウスには案があるらしい。

 

「得意なこと?」

 

ハリーは自分でさえ思い当たらず、きょとんとした。

すると、隣りでシャルロットが思いついたと言わんばかりにパチンと手を叩いた。

 

「わかった! 箒ね!」

 

「正解」

 

暖炉の中にあるシリウスの顔は、ニヤリとした笑みを形作った。

 

試合中に箒を手に入れるための『呼び寄せ呪文』はハリーは一応取得している。しかし、箒ほど重いものを呼び寄せたことがないので、これに関しては放課後セブルスが練習に付き合ってくれることになった。晩ご飯を前に三人はセブルスの部屋の前で分かれた。

 

大広間からは良い匂いが漂ってくる。ハリーは朝に比べて、かなり気分が軽くなっているのを感じた。

 

そもそも自分の態度も悪かったのだ。ハリーは自分の手柄で名前を入れたように振舞ったのを、今さら後悔した。

 

よく見れば、皆が皆バッジを付けているわけではない。グリフィンドールの友人は誰一人付けてないし、ハッフルパフやレイブンクローもハリーのことを好意的に見ている女の子たちは付けていない。

 

「頑張ってね、ハリー!」

 

名前も知らないハッフルパフの女の子が、すれ違い様に頬を赤らめてそれだけ言った。

 

こんな状況でも、応援してくれる人も、信じてくれる人も居る。

ハリーは未だ解決していないこともあるものの、それを本当に幸せなことだと感じた。

 




1.2.3巻と比べられないくらい、4巻から先のページ数がエグい

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