例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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恋慕の芽生えと転機

何度目かのクァッフルのゴールに、観客席がさらに沸き立つ。

 

ジェームズは箒に乗ったままこちらを向くと、ガッツポーズをした。

 

クァッフルが相手のハッフルパフチームに渡る。今期ハッフルパフの期待のチェイサーだ。が、クァッフルを手にしたのも束の間シリウスが凄まじい速さで突っ込み、それを奪う。そして、流れるような動作でジェームズにパスした。阿吽の呼吸。そのままジェームズが敵のゴールに--。

 

「グリフィンドール、ゴォオオル!90対20、依然としてグリフィンドールがリードです!」

 

解説の声とともにグリフィンドール側の観客席がさらに熱狂する。

 

セブルスは、リーマスやピーター、リリーとハイタッチを交わした。皆の顔に赤と金で装飾が施され、この学校におけるクィディッチの熱量を表している。

 

「スニッチはまだ見つからないのかな!?」

 

興奮した群衆の中、ピーターが大きな声を張り上げた。

両チームとも競技場の高いところで、シーカーは目を凝らしてスニッチを探している。

 

クィディッチとは不思議なスポーツだ。

既にハッフルパフには70点も差をつけているが、相手側のチームがスニッチを取ったら150点加算されるので負けてしまう。

 

最初はクィディッチなど全く興味がなかったセブルスだが、周りの熱狂的なファンにしつこくルールを説明され、観客席で応援が出来るほどにはこのスポーツが好きになった。--なんて言い方をしたら、皆にからかわれるかもしれない。大好きな魔法薬関連の読書を放り出してまで、夜中まで自分も横断幕作りに参加したのだから。

 

再びジェームズがクァッフルを手にした。そして、敵チームにフェイントをかけながら背後のフランク・ロングボトム選手にパス。セブルス達より2つ年上の彼は、安定したバランス型の選手である。猪突猛進な選手が多いグリフィンドールには珍しい。

そして、その猪突猛進代表のシリウスがやや強引に得点をきめると、前列の女の子達--別の名を『シリウス親衛隊』--から黄色い悲鳴が上がった。

 

グリフィンドールの優勢は変わらず、ますます勢い付いているようだった。

観客達は熱狂し、激しいコールにもちろんセブルスも加わる。

 

突如、観衆がどよめいた。

どうやら、シーカーがスニッチを見つけたらしい。シーカー同士の一騎打ちが始まった。

抜かし抜かされて、小競り合う。

2人のシーカーはとうとうスニッチに追いつき、同時に手を伸ばした。

皆が固唾を飲む。

 

 

勝負を制したのは。

 

--グリフィンドールのシーカー、レイチェル・フォウリーだった。

 

彼女は自身の金髪と同じ色のスニッチを力強く掲げた。爆発したかのような歓声の中、グリフィンドールのチームが駆けてくる。彼女はすぐメンバーに埋もれ、もみくちゃにされた。

 

そして、観客席にもその熱は伝わっていた。セブルスは、リーマスやリリーでは飽き足らず他のグリフィンドール生とも抱擁を交わして喜んだ。

普段厳格なマクゴナガルがぴょんぴょんと飛び上がりながら拳を突き上げ歓喜しているのはもしかしたら見間違えかもしれない。しかし、それくらいグリフィンドールは熱狂していた。

 

今年のクィディッチ杯は、グリフィンドールの優勝だ。

 

 

 

 

 

競技場の選手入場口から、シリウスとジェームズが出てきた。

彼らは自分たちに群がる女の子のファンを適当にあしらうと、こちらへ向かってきた。

 

「やぁ、見てたかい。リリー。 僕の華麗なクィディッチ」

 

ニヤリと傲慢な態度を隠さず笑ったジェームズだが、今日ばかりはリリーも喜びを抑えきれない。

 

「えぇ、すごかったわ! ジェームズもシリウスも! 何よりレイチェルもね!!」

 

「レイチェルには本当にびっくりだよ。 3年生になって突然チームに入りたいって言い始めて、いざ入ったら早速エースだぜ?」

 

シリウスは少し拗ねたように言った。

人気を取られたのが悔しいらしい。シリウスのそんな子どもっぽさに、リーマスは苦笑いする。

 

「何言ってるのさ。 君だって素晴らしい選手だよ。 ・・・僕も健康だったらやってみたかったな」

 

少し寂しそうにリーマスが言うと、シリウスが間髪あけずにバシンと強く背中を叩いた。

 

「リーマスこそ何言ってんだ。おまえは充分健康だろ。・・・まあ、ほんの少しふわふわした問題(・・・・・・・・)はあるけどな」

 

そして、シリウスは今度リーマスを箒に乗せてやると息巻いた。

 

「早く談話室のパーティーに行こうぜ、リリー。 僕の活躍した話をたっぷり聞かせてやる!」

 

「あら、だめよ。 レイチェルがまだ来ていないもの」

 

ジェームズが馴れ馴れしくリリーの肩に手を回す。リリーはちょっと顔を顰めたが、本気で嫌がってる素振りはない。

 

「いや、皆先に行っていいぞ。 僕はパーティーはあまり好かない。 レイチェルを待ってから、後で行く」

 

「パーティーが嫌いな奴が俺の友人とはな…信じられないよなぁ、シリウス」

 

何でもかんでもお祭り騒ぎにしたがるジェームズが大仰な仕草でそう言うので、皆は思わず笑った。

 

もちろんグリフィンドールの優勝は嬉しいし友人たちのことは大好きであったが、正直セブルスは騒がしい席があまり好きではない。どちらかと言うと、1人で図書館で本を読んでいる方が性にあってるのだ。

 

セブルスの申し出を皆は有難く受け入れると、談話室へと先に向かった。

リーマスが振り返って、頑張ってねと笑いかけた。シリウスも思わせぶりなニヤニヤ顔を浮かべてこちらを振り返る。が、セブルスには一体何のことか分からなくて首を傾げた。

 

暫く競技場の壁を背に、ぼんやりと考え事に耽っていた。

 

遠くでリリーとジェームズが楽しそうに話しているのが見えた。

2人は腕を組んで仲良く歩いている。

 

・・・胸が痛まないと言ったら嘘だ。

リリーは、自分にとって特別な女性だし…初恋の人だった。その感情は胸の中でまだ甘い疼きを持っている。

しかし、同じ寮になり長く一緒に居すぎたのだろう。セブルスもそしてリリーも、互いを大切に思っていたものの、それは恋愛というより家族のような感情へ変化していった。

 

今はただリリーは妹のような(世話焼きの彼女は姉のつもりかもしれないが)存在で、親友の彼女である。そして、心から幸せになってほしい幼馴染だった。

 

 

「あれ?セブルス、どうしたの。」

 

 

競技場の更衣室の扉が開く。

短い金髪が汗で少し濡れているレイチェルがどこか扇情的に感じて、セブルスは少しドキリとした。

 

「遅かったじゃないか。 皆で待っていたんだが、先に行かせたぞ」

 

「なぁんだ、そうだったの。 でも置いていったの薄情じゃない!? あたしシーカーなのに!」

 

レイチェルがおどけたように笑った。

 

--ちなみに、他の皆はこの2人に気を使って先に行ったわけであるが。

 

当の本人たちは全く気付いていない。

 

「もう更衣室には誰も残ってないのか?」

 

「うん、あたしが最後だよ。ピアスを失くしちゃってね。探してたら時間がかかっちゃったの」

 

そう言って、レイチェルは耳元のピアスに軽く触れた。フォウリー家の家紋が入ったそれは母から受け継いだものらしく、大切な宝物のようだ。

夕焼けの中、レイチェルの物憂げな表情が照らされる。

 

レイチェルは、表情がころころと変わる少女だ。

幼子のように笑っていたかと思えば、突然大人っぽい顔をする。

セブルスは自身でも気付いてないうちに、この少女に惹かれている。

 

 

「ねぇ、セブルス。・・・箒に乗ってみない?」

 

 

「正気か?僕の飛行術訓練の成績は知っているだろう。五体満足なのが奇跡だ」

 

突拍子もないレイチェルの申し出に、セブルスは目を瞬かせながら言った。

 

「あたしが後ろに乗せてあげる。 グリフィンドールのシーカーの後ろだよ? すっごく貴重だって!」

 

「自分で言うな」

 

セブルスが思わず笑うと、レイチェルはセブルスの手を掴んだ。

 

「いいからおとなしく着いてきなよ!」

 

そして、2人は逆戻り。再び競技場へと向かった。

 

「レ、レイチェル!談話室でパーティーもう始まってるんだぞ。急いで行かなければ・・・」

 

 

「そんなの別にいいじゃない!あたしはパーティーより、セブルスと今箒に乗りたいの」

 

レイチェルはセブルスの手を掴んだまま振り返ると、にっかり笑った。

 

誰もいなくなった競技場で2人は並ぶ。

 

「ちゃんと捕まっててね」

 

セブルスは顔を赤くしながらも、レイチェルの腰に手を回した。女の子の後ろに乗せてもらうのは何だか情けなくて気まずい。やはり何か理由をつけて辞めようか。

 

「行くよ!」

 

しかし、そんなセブルスの葛藤はレイチェルが地を蹴った瞬間に消え去った。

ふわりと滑らかに体が浮かぶ。

 

--その刹那、はっきりと世界の色彩は変わった。

 

風が、空気の匂いが、木々の揺らぎが、陽の鮮やかさが、少し浮かんだだけなのに地上とまるっきり違う。

 

飛ぶとは、こんなに楽しいことだったのか。

ジェームズの家に行った時や、授業の訓練で最低限の飛行は経験していた。しかし、それとは似ても似つかない経験だった。

 

「ね? 飛ぶのって素敵でしょ」

 

ぽっかりとした大きな夕陽がぐんぐん近付くようだった。

 

「君は--いつだって、僕の知らないことを教えてくれるな」

 

「あははっ! なにそれ? セブルスったら大袈裟なんだから」

 

快活な笑い声を上げ、レイチェルはそう言った。そう言われて初めて、セブルスが柄でもない小っ恥ずかしいことを自分が口にしたことに気付き赤面した。

オレンジ色の空を自由自在に飛び回る彼女は、ただただ綺麗だった。

 

 

結局2人が談話室に着いたのは、夕陽がすっかり落ちて辺りが真っ暗になった頃だった。

もうとっくにパーティーも終わってしまっているだろう。

 

レイチェルは全く気にしていなかったが、セブルスは皆に冷やかされることを考えると少し憂鬱な気持ちになった。

 

ジェームズやシリウスが悪質な揶揄いをしてきたら、『足縛りの呪い』をかけてやろう。

そんな呑気なことを考えながら、太った婦人の肖像画を開けた。

 

しかし、そこに居たのは予想もしない人物だった。

ホグワーツ校長アルバス・ダンブルドアと、グリフィンドールの寮監ミネルバ・マクゴナガルだ。

 

隣りでジェームズ、シリウス、リーマス、ピーター、リリーが神妙な顔つきをしている。

 

「2人とも一体こんな遅い時間まで何をしていたのですか!」

 

マクゴナガルが厳しい声で言い放った。が、ダンブルドアが怒るマクゴナガルを手で制し、柔らかく微笑んだ。

 

「よいよい。 今日はグリフィンドールの優勝だったのじゃ。少しくらいの遅い帰りは目をつぶろう」

 

談話室を見回すと散らかっていたが、やはりパーティーは終わった後だった。

皆、寝室に行ってしまったらしい。・・・いや、もしかしたらダンブルドアが人払いさせるために皆を寝室に行かせたのかもしれなかった。

隣りのレイチェルも状況が読めないのか、困惑している。

 

「あの・・・失礼ですが、どうして校長先生がここに?」

 

セブルスが恐る恐る訊いた。

まさか夜アニメーガスの練習をしているのがバレてしまったのだろうか。

だったら罰則で済むだろうか。ダンブルドアのこの様子からして、流石に退学はないだろう…と信じたい。

そこまで思考を巡らしてから、いや違うなとセブルスは思い直した。もし、アニメーガスの練習がバレただけならリリーとレイチェルはこの場に居ないだろう。

この2人は何も知らないのだから。

 

ダンブルドアは穏やかな瞳でセブルスを見つめていた。その青い瞳には、悲しみと生徒を思いやる慈愛が含まれているようにセブルスは感じた。

 

 

「セブルス、落ち着いて聞いておくれ。君の母上が先程亡くなったと連絡が入ったのじゃ」

 

 

言われたことを理解するまで数秒を要した。

 

母が亡くなった・・・。

あのヒステリックで暴力から自分を守ってさえくれなかった、自分の母親が。

 

「ショックなところ酷な話をして悪いのじゃが、お葬式は君の父親は出す費用がないらしくてな・・・アイリーンの両親が喪主を務めるらしい」

 

母の両親。つまりプリンス家のことだ。

セブルスは、自身の祖父母が健在であったことを今更初めて知った。

 

「ミスター・スネイプ、お葬式には私が同行します。明日は授業を休んで構いません」

 

マクゴナガルの言葉に、セブルスは力なく首を振った。

母はプリンス家から勘当されていたのだ。そんな母の息子である自分が、今更ノコノコと現れても迷惑でしかないだろう。

何より、罪の意識があった。

自分が家を出てしまったから、母は心労で死んでしまったのかもしれない。

自分は、母を見捨ててしまった。そんな暗い考えが嫌でも頭を過ぎった。

 

「家族は失うのは辛いことじゃ。例えどんな関係性であっても、別れはきちんと済ませなさい。君のためにも」

 

ダンブルドアは何か共鳴するものがあるのか重たい口調でそう言った。そして、諭すようにさらに言葉を続けた。

 

「それに、君が葬式に参列しなければいけない理由がもうひとつある。アイリーンの両親がの、つまり君の祖父母だが…君を引き取りたいと申し出ている。1度会ってみなさい」

 

ダンブルドアは優しくセブルスの肩に手を置くと、談話室を出ていった。

 

後には呆気に取られた顔で立ち尽くすセブルスが残された。

 

 




セブリリファンの皆様やめて!石を投げないで!作者をいじめないで!
この2人がくっついたらハリーが生まれないんです(´;ω;`)

ダンブルドアは自身の経験もあり、家族というものに対して少し敏感な気がします。

さてさて、アイリーンの死がセブルスにどのように関わっていくのでしょうか。

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