例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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友情の終着点

 

「馬鹿じゃねえの、あの女。 ホグワーツを独裁国家にでもするつもりか?」

 

ワハハとシリウスは豪快な笑い声を上げた。

 

「笑い事じゃない!」

 

セブルスはぴしゃりと言う。

 

「学生の組織を禁止する教育令だと…? そんな馬鹿げたことが許されてなるものか」

 

元・教育者として思うところがあるのか、その声には怒りが滲んでいる。

 

今日も今日とて、グリモールド・プレイス12番地。縦にも横にも広いリビングルーム。

 

ホッグズ・ヘッドでのマンダンガスからの報告を受け取ったセブルスは頭を抱えた。

 

「全く…私のクビと引き換えに退学を免れたのに、また退学の危機とはな」

 

「まー、これに関しては仕方ないな。 俺たちが学生だったら同じことしてるだろ」

 

まだ笑いが抜けきらない顔で、シリウスは言う。無駄に長い足をカウチソファーから放り投げ、くわっと欠伸をした。

そんな呑気な友人をセブルスは睨みつける。

 

「親としてどうなんだ? その考え方は」

 

シリウスは肩を竦める。

 

「褒められたものじゃないだろうな。 でも俺はいずれハリーは戦いの場に駆り出される… そんな気がするんだ」

 

「そうならないために我々大人がいる!」

 

「あと2年で成人だ。 子どもじゃなくなる時は近い。 俺はあのトレロー二ーが残した予言なんて信じちゃいないが、『例のあの人』と繋がっているのなら、ハリーは知らんぷりして安穏とは暮らせないさ」

 

シリウスの顔は険しい。

 

「今は嵐の前の静けさだ。 再び闇の時代が訪れるのはおまえらも分かってんだろ」

 

「それは……」

 

「だから、身を護ろうとガキたちが自分で考えてるのは、出来はどうであれ意識だけでも立派だと思う。俺は賛成」

 

セブルスはむっすりと腕を組み、口を真一文字に引き伸ばしてる。

 

「私は…そうは思わない。 卒業した後ならまだしも、子どもが戦争に積極的に関わるべきでない。 反抗は何も行動を起こすことが全てとは限らないだろう。 耐えて、機会が訪れるのを虎視眈々と待つのも反抗だ」

 

「かーっ! そんなスリザリンみてえな考え方は気持ち悪いからやめろ! 本当におまえとはこういう時に意見が合わない!」

 

シリウスが大仰に手で顔を覆ったので、セブルスは蛇の装飾が彫られたテーブルに肘をつきこれ見よがしにニヤリと笑った。

 

「ブラックくん、お忘れですかな? 私はもともとスリザリン志望でしてね」

 

「けっ! もしもてめーがスリザリンだったら、天地がひっくり返っても仲良くなれてねえな!」

 

シリウスは顔を顰めて舌打ちをした。

 

「まあ、ハリー1人が突っ走ってるならともかく…この報告見る感じ、発起人はハーマイオニーみたいだしね」

 

それまで黙ってお茶菓子をつまんでいたリーマスが口を挟んだ。

 

「どちらにせよ、もうすぐクリスマス休暇だ。 帰ってきたら詳しいことを聞けばいい」

 

「さあ楽しい休暇の前に、大人は会議の時間だ。 リーマス、片付けるぞ」

 

「え? …あぁ!!!」

 

セブルスが杖をひと振りし、お茶とお菓子を片付けるとリーマスは悲痛な声を上げた。

彼のふさふさした耳としっぽが、しょんぼりと垂れる幻覚を見た気がしてセブルスは少し笑った。

 

 

 

 

ダンブルドア軍団の最初の特訓に選ばれた呪文は、武装解除呪文だった。

 

会合の初回の出来としてはかなりイケていたとハリーは思う。

松明に照らされた広々とした部屋は、壁際に本棚が並び、椅子の代わりに大きな絹のクッションが床に置かれていた。そのクッションは呪文の練習を受けた生徒たちがバランスを崩すと、優しく体を守ってくれた。

 

教育令によるクィディッチの再申請も何故か中々通らず、授業中アンブリッジの査察も続く中(トレローニーはヒステリック状態になっており、この先生が好きではないハリーでさえ不憫に感じた)、ハリーは久しぶりに心から楽しい時間を過ごしていた。

 

2人1組で練習してもらった武装解除呪文は、基礎的な防衛術であるからか皆なかなかの出来だった。

その中で予想外の上達を見せたのはネビルだった。教師のプレッシャーがないこの環境で、彼は本来の実力を思う存分出すことが出来たようだ。

もしかしたら、1つ年下のジニーと組んでることも良い所を見せたい彼のやる気に火をつけたのかもしれない。

 

「僕、やって良かったと思う」

 

皆の練習を周りそれぞれ指導して、ようやくパートナーであるルーナの元に戻ってきたハリーは満足気にそう言った。

 

「あたしもそう思うよ」

 

ルーナも綻ぶような笑顔でそう返す。

ひと休憩とばかりに、ハリーはルーナの横へと腰を下ろした。先程まで体を守ってくれたクッションが椅子代わりになってくれた。

 

「ルーナ、辛い思いはしていない? 僕のせいでアンブリッジから目付けられてるだろ?」

 

「ンー、特に何も。 最初の頃はちょっかいかけてきたけど…あたしはこんな感じだし、パパも魔法省とはあまり関係ないモン」

 

ルーナの父は『クィブラー』という雑誌で生計を立てているらしい。 (ハリーも数回見せてもらったことがあるが、なかなかユニークな雑誌だ)

 

「そっか。 ならいいんだけど、気をつけてね」

 

「ハリーもね。 まだ変な夢は見てるの?」

 

「うん。 変な長い廊下を歩いてるんだ。その先の扉に向かって」

 

ハリーは思いっきり顔を顰めた。この夢を見ると、傷痕が痛む気がする。

 

「ふーん。もしかしたら、ラックスパートがハリーの夢を操って食べているのかもね。 でも廊下を歩いてるだけなんて、そんな夢って美味しいのかな?」

 

ハリーは盛大に吹き出して、クッションからずり落ちた。

 

 

 

 

大成功に終わった1回目のDAだったが、それから直ぐに何度も集まる訳にはいかなかった。

 

クィディッチのシーズン開幕が近付いていたからだ。

DAのメンバーにはクィディッチ選手も多く、まして寮もバラバラとなれば日時を合わせるのは一気に困難になった。

だが、開催日時が不定期になればアンブリッジにも勘づかれにくい。

ハーマイオニーが偽ガリオンコインを使った天才的な伝達方法を考え出し(コインの識別のための数字の代わりに日時を刻印するのだ!)、この会合の秘匿性はさらに強まったと言える。

 

しかし、初戦が近付くにつれガリオン硬貨が数字を変えることはめっきりと減った。

 

「ロン、これから始まる初試合と夏休みの最後にやった試合、どっちが緊張する?」

 

「どっちもどっち。 でも君のパパとトンクスの試合は二度とやりたくない」

 

ナーバスで今にも吐きそうなロンに、更衣室でハリーは声を上げて笑った。

周囲の選手にも笑いが伝染する。どんな強豪戦士でもプロでも、初試合なんてそんなもんだ。

 

ちなみにハリーの言う夏休みの試合というのは、トンクス、シリウス、ハリーでやったキーパー練習特訓である。手加減というものを知らない闇祓い2人(正確に言えばシリウスは元である)は、ロンをけちょんけちょんに甚振った。

 

「通過儀礼みたいなもんだよ。僕と…ドラコも何度も泣かされた」

 

青い顔のままちびちびと水を飲んでいたロンは、はっと顔を上げた。

ハリーの顔はロンと同じくらい痛々しいものだった。

 

「…みっともないだろ。 僕、手が震えてるんだ。 ドラコと試合するのが怖くてたまらない」

 

周囲にも聞こえない、蚊の鳴くような声だった。

 

「今学期に入って、一度も目を合わせてくれないんだ」

 

「ハリー、でもあいつは…」

 

「わかってる、わかってるよ。彼の父親は悪いやつだ。 でも、ドラコはそうじゃない」

 

ロンは口を噤んだ。ロンは言うまでもなくドラコが好きではない。金持ちなのをひけらかすし傲慢で典型的なスリザリンの嫌な奴だ。

それでも、ただの「嫌な奴」ではないことはもう知っている。

 

「初試合の君に、こんなこと頼むのはおかしいの分かってる。 でも、僕この試合は自信ないんだ。 頼むよ、何とかゴール守ってくれ」

 

泣きそうなハリーの声に、ロンは思わず立ち上がり強く頷いた。

 

「任せて」

 

声は掠れていた。

 

「さあ! みんな集まれ! 最後の作戦確認だ!」

 

アンジェリーナの声に、2人は同時に箒を手に取った。

 

 

試合は長期戦になった。

 

教師の中には一部を除いて、ダンブルドアの陣営の事情を知っている者が多い。

 

幼い学年から仲良しだったシーカー同士が、ギクシャクとお互いを居ないように扱い、試合をしているのを見るのは痛々しいものだった。

 

それでも、最後スニッチを手にしたのはハリーだった。

 

歓声の中、獅子のチームは凱旋さながらに着地する。

ロンはすぐ仲間にもみくちゃにされた。かなり点は取り逃したし、勝ったのはハリーが早めにスニッチを取ったおかげだ。それでも、彼は初試合をやり切った。

 

「箒から落ちなかっただけで偉いぞ、ロニー坊や」

「そうとも。 しかし次はぜひ、ウッドの魂が乗り移って欲しいものですな」

 

蛇のチームは少し離れたところで地に降りた。

幾人かの選手がこちらに悪態をつく。同意するかのように、ドラコは嘲った。

 

ハリーには全てが聞こえたわけじゃなかったが、彼らがロンの家の悪口を言っているのはわかった。

 

「ドラコ」

 

ハリーは気付けば、スリザリンの方に足を踏み出していた。

両方のチームから視線が集まる。

 

ドラコは僅かに目を見開いたが、冷たい声で「なんだ」と言った。久しぶりに彼の瞳を正面から見た。

 

「君が--そんな心にもない悪口に同調するところは見たくない。 考え直してくれ。 僕は…ドラコを助けたい」

 

あまりにもストレートな言葉だった。

闇の陣営から、彼を抜け出させたかった。ここまで来てしまったら、彼の親なんてどうでもいい。ハリーはドラコだけでいいから助けたかったのだ。

 

彼の仲間たちはけたたましく笑った。

 

「助ける? 何言ってんだおまえ。 ウィーズリーと仲良しこよしで頭の中も貧相になったのか?」

 

「言ってやるなよ。 こいつの父親は魔法省クビになって金に困ってんだろ。 お似合いだぜ、グリフィンドール」

 

ドラコは何も言わなかった。

 

「僕はドラコに言ってるんだ。 おまえらと話してない」

 

彼は無表情のまま応酬を聞いている。

その顔は気持ちがこそげ取られているようだった。

 

周囲の視線が自分に向いたことを悟ると、ドラコはようやく口を開いた。

 

「ブラック、君はいつまで僕の友達のつもりでいるんだ?」

 

聞いたこともない、氷のような冷たい声だった。

 

「わからないのか? 君と仲良くしていたのは、父親が闇祓いの局長だったからだ。 そうでなくなった君に、価値は無い。 二度と僕に話しかけるな」

 

気付いたら、ハリーはドラコを押し倒していた。

グラウンドの青々とした芝の匂いが鼻に刺さる。

 

「何でそんなこと言うんだよ!! 親なんて関係ないって…ずっと親友だってあの夜誓ったじゃないか!!」

 

溢れる涙をそのままに、ドラコの胸ぐらを掴むと強く揺さぶった。

それはまるで暴力を振るっているように見えたのだろう、周囲から悲鳴が上がる。

 

マクゴナガルが険しい声で何かを指示した。

ハリーはチームメンバーに押さえられ、ドラコから離される。

 

アンブリッジが勝ち誇った顔をしていたのも、今のハリーにはどうでもよかった。

 

こうして、ハリーは終身クィディッチ禁止という処分に遭った。

 

 

 

 

ドラコがようやく鉄仮面を脱ぎ捨てられたのは、恋人と2人になれた時だった。

 

静かな夜更けに邪魔する者は誰も居なかった。

ドラコは静かに泣き続けた。全てが悲しくて辛くて、自分が許せそうになかった。

 

どうしてハリーの隣りで笑うことが許されないのだろう。彼みたいに。

 

「僕はウィーズリーになりたい。 そんなこと言ったら笑うか?」

 

「んー、そうね。 私は赤毛よりあなたのブロンドが好きよ」

 

ドラコは顔をくしゃくしゃにして泣きながら笑った。

昔から声を出さず震えるように、彼は泣く。

夜は深まる。愛しい幼馴染をシャルロットはずっと抱きしめ続けた。





チョウが既にハリーと破局してるため、原作と違ってDAにチョウとマリエッタが未加入です。
またフレジョがクィディッチ処分に遭っていません。

次話は24日の夕方に投稿予定です。
感想、嬉しいです。創作意欲が上がるので、初期のものから1つずつ何度も読み直してます。本当にありがとうございます。
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