例えば、組み分け帽子が性急じゃなくて。   作:つぶあんちゃん

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束の間の平穏

ホグズミード村、ホッグスヘッド。

 

埃っぽく薄暗い店内で、セブルスはバーテンに一番高いワインを頼んだ。

 

成人した時に祖父からもらった腕時計を確認すると、約束の10分前。

 

セブルスの予想通り、約束の時間ぴったりに彼は着いた。

長い金髪を背中に流し、侮蔑的な瞳で店内を見回す。そして、セブルスを見つけると黙ったまま隣りに座った。

 

 

「呼び出してすまなかったな。」

 

 

セブルスの言葉に、ルシウス・マルフォイは素っ気なく頷く。

 

「・・・用件は?」

 

こんな汚らしい場所一秒でも居たくないとばかりに、ルシウスは言った。

そんなルシウスにセブルスは苦笑して、ワインが入ったグラスを傾けた。

 

「これでもこの店で一番いいワインを頼んだんだ。 貴方の口に合うかはわからないが」

 

ルシウスはほんの申し訳程度に口をつけた。

が、すぐに顔を顰めてグラスを置く。

 

「・・・首席卒業であったらしいな。一応、祝いの言葉くらいは言ってやろう」

 

「あぁ。 それで実は来週、結婚式を挙げるんだ。 私たちだけでなく友人夫妻との合同結婚式なんだが、参加してもらえるだろうか?」

 

「来週は全て予定が入ってる。 気持ちは嬉しいが、遠慮させていただこう」

 

ルシウスは考える素振りも見せず、にべもなく断った。

無論、断られるのはセブルスの想定内である。建前として誘っただけであり、グリフィンドールが多数を占める結婚式にルシウスが来るわけがない。

 

「そうか、残念だ」

 

「相手はフォウリー家の一人娘だろう? プリンス家も勿論だが、フォウリー家とも長い付き合いだ。 手紙くらいは送らせてもらおう。」

 

レイチェルはグリフィンドールであったが、彼女の父親はレイブンクロー、そして母親はスリザリンである。

マルフォイ家ともそれなりに付き合いはあるらしい。

 

「・・・それで? まさか、貴様の結婚式の誘いのために、私をここに呼び出したわけではあるまい?」

 

セブルスは軽く頷いて、赤ワインを口に含む。

1口で飲むのをやめたルシウスと違い、セブルスは美味いと感じた。

 

 

「ダンブルドアが明後日に動く」

 

 

これ以上なく簡潔に放たれた一言に、ルシウスの指がピクリと動く。

 

「・・・ほぅ?」

 

「直々にダンブルドアに捕らえられたら、いくら私でも貴方を庇えない。・・・注意することだな」

 

「・・・肝に銘じておこう。しかし、ダンブルドアが前線に出るとは、随分追い込まれているようだな」

 

ルシウスは、愉快そうに口角を吊り上げた。

だから闇の陣営に入っておけばよかったのに、とでも言いたげな表情である。

 

「ダンブルドアが追い込まれようと、私の知ったことではありませんな。あくまでプリンス家は中立(・・)という立場なので」

 

すっとぼけるセブルスに、ルシウスはとうとう声を出して笑った。

 

「くくっ・・・。っふははは・・・! 全く、何故君がスリザリンではなかったのか理解に苦しむな。 そうであったら私も後輩として可愛がっただろうに。組み分け帽子も耄碌したか」

 

--セブルスとレイチェルはプリンス家の考えに則って中立の立場を貫き、騎士団には関わっていない。

それは建前であり本当は極秘に騎士団に関わっているのであろうということは、死喰い人を含め、セブルスと学年が近かった者は皆想像がついていた。

 

良くも悪くも、悪戯仕掛け人は有名である。

その中で皆が騎士団に所属しているのに、セブルスだけ所属していないなど、あるわけがない。

そして、そんな状態でもプリンス家が目をつけられていないのは、ひとえにルシウスのおかげだった。

 

「それで?何が望みだ、セブルス。無償で私に情報を持ってきたわけではないだろう?」

 

「・・・話が早くて助かる。ポッター家が狙われそうになったらすぐ教えてくれ。あそこの両親は高齢だからな。騎士団が保護する必要がある」

 

「ほう?随分と友達思いじゃないか。」

 

ルシウスの皮肉にも、セブルスは顔色一つ変えないでグラスを傾けた。

 

ルシウスは時が経つにつれ、このプリンス家の長男を気に入り始めていた。

最初はグリフィンドール出身の穢らわしい混血だと思っていた。

だが、今となっては死喰い人である自分を前にしてのこの度胸、頭の回転の速さ。どうしてスリザリンに入ってくれなかったのかが悔やまれた。

 

「・・・いいだろう。また何か困ったことがあれば私を頼るといい」

 

ルシウスは機嫌良くそう言うと、グラスに残っていたワインを飲み干した。

そして、席を立つと、ふと思い出したように告げた。

 

「そうそう。これは忠告だがな、セブルス。親友の両親を心配するのは勝手だが、もっと他の友人も気にかけた方がいいと思うぞ」

 

それだけ言うと、ルシウスはマントを翻して姿くらましをした。

 

後に残されたセブルスは、ルシウスに言われた言葉を頭の中で反芻した。が、何のことをルシウスが言ったのか分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小気味よく晴れ上がった、とある秋の日。

 

プリンス家の所有する別邸で、2組の夫婦の結婚式が挙げられた。

レンガで出来た西洋風のその別邸は、先代のプリンス家当主が酔狂で建てたものであり、小さいながらも小洒落ていた。

レイチェルとリリーら女性陣が率先して準備したため、至る所に花が咲き乱れ、柔らかなランプがキラキラと灯っていて何とも美しい。

 

 

セブルスが聖28一族であるフォウリー家の一人娘と結婚するせいか、エルヴィスとダリアの2人は大喜びだった。

また、マグル生まれであるリリーを敷地に入れることに最初は難色を示していた2人であったが、セブルスとレイチェルの説得により何とか折れてくれた。

 

それは厳かな結婚式というよりはむしろ、仲のいい友人を集めた温かなホームパーティのようだった。

 

プリンス家として壮大な結婚式を挙げたがっていたエルヴィスとダリアは少し不満げであった。が、最終的にはこれはこれで悪くないと思ってくれたようで、時折リリーにさえ笑顔を見せていた。

 

 

「馬子にも衣装とはよく言ったものだな」

 

セブルスが素直じゃない言葉を吐き出す。

レイチェルのいつも無造作な短い金髪はダリアによって細かく編み込まれ、彼女らしい丈の短いウェディングドレスを着ていた。

 

「セブにしては最上級の褒め言葉ね」

 

レイチェルは上機嫌でそう返す。最早、気難しいセブルスの扱いにも慣れたものだった。

 

「全く、シュリルに結婚を先越されるとは思わなかったな」

 

スーツに身を包んだシリウスはいつも以上にハンサムだった。もう既に随分酒を飲んだらしく、頬に赤味が指している。

 

「そろそろおまえも落ち着くことだな、パッドフッド。毎晩違う女をとっかえひっかえするのをやめたらどうだ?」

 

「おまえ・・・! 何でそれを!」

 

底意地悪げに笑うセブルスに、シリウスは赤い顔をさらに赤くして喰ってかかった。

レイチェルとリリーがまるで汚いものを見るかのように、シリウスに目を向けた。

 

「てめえ! それを見て見ぬふりをするのが男の友情ってもんだろうが!」

 

「そんな汚らしいものが友情なら私はいらん!」

 

良く言えば、プレイボーイ。悪く言えば、女ったらし。

自身のプライバシーを暴露され、言い合いになる2人を眺めてリーマスは愉快そうに笑い声を上げた。

 

「こんなめでたい席で喧嘩するの君たちくらいだよ。変わらないねぇ」

 

「当たり前だ。僕たちは今までも、これからも、何一つ変わらない。そうだろう、ワームテール?」

 

どれだけの時間を掛けたのか、くしゃくしゃした髪を珍しくきちっとセットしたジェームズが、ぼんやりと手に取ったグラスを眺めるピーターの肩に手をぽんっと置いた。

 

「ひっ・・・!?」

 

尋常でない悲鳴を上げたピーターに、周りの皆は面食らった。気まずい沈黙が訪れる。

 

「ねぇ、どうかしたの? ワーミー、最近何か変よ?」

 

美しい赤毛をシニョンにしたリリーがそっとピーターに訊いた。レイチェルとは対照的に、裾の長いウェディングドレスを着ている。

 

「な、なんでもないよ」

 

「本当に? なんか困ってることがあるなら私に--」

 

「ごめん、僕体調悪いみたいだ。先に帰るね」

 

リリーの言葉を遮りそれだけ言うと、ピーターは皆と目を合わせないようにあたふたと屋敷を出た。

心配したリリーはすぐ後を追いかけたが、既に彼は姿くらましをした後だった。

 

「一体なんだよ、あいつ。こんな祝いの場でさ」

 

シリウスが不満げに言う。

空気を取り繕うように、リーマスはパンパンッと手を叩いた。

 

「帰ってしまったのなら、仕方ない。私たちだけでパーティを楽しもう」

 

リーマスのその声をきっかけに、軽やかな曲調のワルツが流れる。

 

リリーとジェームズが手を取り合って踊り始めた。

初々しい新郎新婦に周りは目を細め、思い思いペアとステップを踏む。

リリーがくるりと回る度に、ウェディングドレスの裾が翻る。

 

 

「セブ、あたしたちも!」

 

 

レイチェルが華奢な手をセブルスへ伸ばす。

 

「お、おい。待て。 私はダンスなど踊れないぞ」

 

「大丈夫! あたしがリードしてあげる!」

 

戸惑ったような顔のセブルスの腕を、やや強引にレイチェルが引っ張った。

 

さすが名家の娘だけあって、レイチェルはダンスが上手だった。

見様見真似でステップを踏むうちに、セブルスの口角もだんだん上がってくる。

そんなセブルスを見て、レイチェルは満足そうに軽快な笑い声を上げた。

 

相変わらず、戦いは熾烈を極めている。

膨大な数の闇の勢力を前に、騎士団の抵抗は微々たるものだ。

 

それでも、今ここに幸せはある。

 

集まった人々は、その思いを噛み締めながら夜が更けるまで踊り続けた。

 

リリーとレイチェル、両者の女性の妊娠が分かったのは、それからすぐのことだった。

 




ハリーとセブレイの子どもが同学年になることが決定しましたとさ。

ルシウスは自分の得のため、セブルスと交換条件でやり取りをしているだけで、ヴォルに逆らうつもりは微塵もありません。
ただ、セブルスのことが気に入り始めています。

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